- 更新日 : 2025年2月3日
望まない異動はパワハラになる?判断基準や異動を快諾してもらうポイントを解説
パワハラへの意識が高まるにつれ、望まない異動をパワハラと認識されてしまうケースが出てきました。しかし本人にとって不本意な異動であっても、正当な理由があれば基本的にはパワハラには該当しません。この記事では、どのような異動がパワハラにあたるのか、また異動を快諾してもらえるためのコツも解説します。
目次
望まない異動はパワハラになる?
従業員が望んでいない異動が、必ずしもパワハラにはなるわけではありません。部署異動を含む配置転換は人事戦略のひとつといえます。そのため労働契約で労使の同意があり、かつ正当な理由があれば、従業員本人に不満があったとしても、パワハラとはみなされないでしょう。
逆に言えば、正当な理由がない異動はパワハラとなる可能性があります。以下のパワハラの6類型のいずれかに該当する場合、当該異動はパワハラとなる可能性が高いでしょう。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
上記のうち、異動に関連するパワハラとして該当するケースを4つ解説します。
参考:NOパワハラ なくそう、職場のパワーハラスメント|政府広報オンライン
精神的な攻撃にあたるケース
精神的な攻撃にあたるケースとして、厚生労働省の資料では「上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする」ことを例に挙げています。たとえば「足手まとい」「いなくなって助かる」など、人格を否定するような異動理由を提示したり、言葉をかけたりすることが、このケースに該当します。ほかにも、仲間外れや追い出すようなしぐさによる精神的な攻撃もパワハラです。
人間関係からの切り離しにあたるケース
職場の人間関係から意図的に切り離し、孤立させるような異動もパワハラに該当します。たとえばそれまで従事していた業務をすべて取り上げて別室に隔離したり、ほかの職員との接触を制限して長期の自宅研修を命じたりするような異動がこのケースです。
自主退職を促すことを目的とした、いわゆる「追い出し部屋」への勤務指示も人間関係からの切り離しにあたり、異動無効の訴訟や損害賠償請求につながっています。
参考: 配転命令無効確認請求事件|裁判所
過大な要求にあたるケース
過大な要求にあたるケースは、本人の能力を無視し、人材育成からも逸脱するような業務を命じる異動です。たとえば経験のない業務に指導を行わず就かせたり、とうてい無理な量の業務を押し付けたりする事例が該当します。単に従前の業務よりも少しレベルが高い業務を行う部署や、業務量の多い部署への異動というだけでは、過大な要求にはあたりません。
過小な要求にあたるケース
過小な要求にあたるケースは、過大な要求とは逆に、本人の能力や適性、キャリアパスから見て不当にレベルの低い業務への配置転換が該当します。管理職を退職させるために受付窓口業務に配置転換した事例では、裁判によって違法性が認められました。
一時的に単純作業に従事させたり、管理職を一斉に降格させたりした場合は、経営上の措置と考えられるため、過小な要求にはあたりません。
パワハラに該当する人事異動とは?
パワハラに該当する人事異動の判断基準として、以下のポイントが挙げられます。
- 業務上の必要性がない
- 動機や目的が不当
- 従業員の不利益が著しく大きい
これらの項目について、それぞれ具体的な例を紹介して解説します。
業務上の必要性がない
本人のキャリアアップや組織上の必要性がない人事異動は、パワハラに該当する可能性があります。業務上の必要性には、以下のような事由が該当します。
- 計画的なローテーションや人材育成
- 業務効率化や人員不足の解消
- 業績悪化時の雇用維持 など
業務上の必要性として認められる範囲は比較的広く、経験のない業務への異動であっても、管理職登用を視野に入れたローテーション人事や定期的な支店異動などは問題ありません。また余剰人員の解消や不足人員の補充など、円滑な業務運営を目的とした異動も業務上の必要性を認められています。
参考:川崎重工配転拒否|裁判所
動機や目的が不当
異動の動機や目的が不当である場合、業務上の必要性があったとしてもパワハラに該当する可能性があります。
- 内部告発や業務上の正当な抗議等に対する報復
- 退職勧奨を拒否したことによる嫌がらせ
- 自主退職への追い込み
- 育休、産休、有給休暇取得に対する嫌がらせ
- 上司の個人的な嫌悪感情、性格の不一致 など
これらは人事権の濫用とみなされ、異動無効となることもあります。また育休や産休取得に対する嫌がらせはマタニティ・ハラスメント(マタハラ)にも該当し、育児・介護休業法に抵触する恐れがあります。
従業員の不利益が著しく大きい
異動によって従業員が被る不利益が著しく大きく、本人が異動に同意しない状況で異動を強行すると、パワハラに該当する可能性があります。特に転勤を伴う異動や、家族を現住所に残す単身赴任などで注意が必要です。
過去の判例では、以下のような状況が従業員の不利益が著しく大きいと認められました。
- 異動によって家族を看護、介護できる人がいなくなる
- 異動によって子供を養育する家族の負担が大きくなる など
転勤では家族の生活にも影響が出ます。そのため従業員本人の不利益だけでなく、家族の負担も考慮することが必要です。
異動がパワハラだと認定された事例
異動がパワハラと認定された事例として、配転命令無効確認等請求控訴事件(通称 オリンパス配転)があります。
この事件は、内部通報を行った社員に対する異動命令に業務の必要性があるかどうかについて争ったものです。また異動後にも人格否定や社内の人間関係からの切り離しといったパワハラを受け、心身を害したことも内部通報者保護に反する措置として訴えられています。
本件では、内部通報に対する報復人事であるとして異動が無効とされました。また異動後のパワハラについても違法性が認められ、会社側が損害賠償金を支払っています。
参考: 配転命令無効確認等請求控訴事件(通称 オリンパス配転)|裁判所
配置転換・出向・転籍に従業員の同意は必要?
配置転換と出向および転籍は、勤務地の変更と使用者の変更の有無に違いがあります。
勤務地の変更 | 使用者の変更 | 従業員の同意 | |
---|---|---|---|
配置転換 | 場合による | なし | 条件付きで不要 |
出向 | 基本的にあり | あり | 条件付きで不要 |
転籍 | 基本的にあり | あり | 必要 |
配置転換は社内での異動で、使用者(会社)は変わりません。就業規則に規定があり、かつ雇用契約でも同意が取られていれば、配置転換を命令する際に個別に従業員の同意を取る必要はありません。
いっぽう出向や転籍では、使用者が変わります。出向には在籍出向と転籍出向の2種類があり、出向といえば在籍出向を指すことが一般的です。在籍出向では出向元との雇用契約を維持したまま出向先とも雇用契約を締結しますが、転籍出向では出向元との契約を終了し、出向先との契約のみが締結されます。
出向を命じる場合、就業規則に規定があり、かつ雇用契約でも同意が取られていれば、個別に従業員の同意を取る必要はありません。ただし出向期間や対象者の選定、出向中の処遇など詳細な規程を設けておくことが重要です。
転籍は転籍出向と同じく従来の使用者との雇用契約を終了し、転籍先と新しい雇用契約を締結する異動です。転籍では従業員としての地位を失わせるため、従業員との個別同意が必要であるとされています。
参考:2-2 「配置転換」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|厚生労働省
人事異動を従業員に快諾してもらえるポイント
パワハラに該当しなくても、本人が望まない異動はモチベーションダウンや退職につながりかねません。トラブルを防ぎ異動が良い効果を発揮するよう、いくつかのポイントを押さえて異動手続きを進めていきましょう。
理由を明確に伝える
異動をなんのために行うのか、またなぜその人を選んだのかを明確に伝えましょう。異動を打診された従業員のなかには「自分の力不足が原因で追い出されるのではないか」など、ネガティブなとらえ方をする人もいます。
不足人員の補充であっても、単なる数としてではなく「異動先でも成果を出せる人材である」「環境が変わっても柔軟に対応できる」など、好意的な評価を提示することで、前向きにとらえてもらいやすくなります。
異動先での業務内容やキャリアビジョンを共有する
異動先での業務内容やキャリアビジョンの共有は、従業員の不安を払拭することにつながります。業務内容については異動先の従業員から説明を受ける機会を設けたり、移行期間を設けて徐々に異動先の業務配分を増やしていったりすると良いでしょう。
また、異動を能力開発の一環として実施する場合は、長期的なキャリアプランや目標とともに共有しましょう。異動先での目標が定まり、モチベーションアップにもつながります。
異動に伴い発生する費用などの不利益をフォローする
異動では通勤に係る時間が延びたり、生活リズムが変わったりと様々な不利益が発生します。パワハラに該当するような著しい不利益にはあたらなくとも、そのような不利益に対してフォローする姿勢をみせることで、従業員の同意を得やすくなるでしょう。
特に転居を伴う異動の場合は、引っ越しのためのまとまった費用が必要になります。転居先の部屋探しなど手続きも多いため、金銭面、手続き面で可能な限りフォローができるようにしておくと、転居を伴う異動でも快諾してもらいやすくなるでしょう。
パワハラに該当しない異動でもフォローは重要
異動は人材戦略や組織運営の観点からごく一般的に行われており、本人が望まない異動が必ずしもパワハラに該当するわけではありません。しかし手続きに問題があったり、異動自体に正当性がなかったりすると、異動の本来の目的を果たせないばかりか訴訟のリスクもあります。
異動によって視野が広がるなどメリットもある一方、納得できない異動を期に転職を考える人も増えています。法的な観点だけでなく、本人の納得感や負担感にも目を向けて異動の手続きを進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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