• 更新日 : 2023年8月10日

ストライキとは?意味や仕組み、企業の賃金対応や防止策について簡単に解説

ストライキとは?意味や仕組み、企業の賃金対応や防止策について簡単に解説

本記事ではストライキの意味・仕組み・権利としての性格について紹介します。さらに過去の事例に簡単に触れ、企業の対応や防止策についてもわかりやすく解説していきます。

ストライキとは?

「ストライキ」は英語「Strike」に由来する外来語です。遡ること18世紀のイギリス、数千人の船員が帆を畳んでしまうことで商船の航行を妨げ、労働を拒否した事件がありました。帆を畳むことを意味する「Strike the sails」ということばと、この事件が起こったことから、Strikeが集団での労働拒否を意味する言葉になったのです。この「ストライキ」という表現は、産業革命の期間を経て今なお使われています。

参考:The History of Words Strike!|Tony Taylor|The National Centre for History Education|オーストラリア教育省

企業への要求のため、団体で仕事を放棄すること

ストライキとは、労働者が企業への要求を貫徹するために、集団的に労働を拒否することにより雇用主に対して経済的圧力をかけることです。要求自体は通常、団体交渉で表明されます。ストライキの目的は、団体交渉における労使対等の関係を確保して交渉の難航を打開することです。団体交渉を進めるための圧力手段として、労働の放棄をします。

参考:「同盟罷業開始決定権の委任」昭和38年12月20日広島県民生労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知

ストライキは法律上で保護される

ストライキを行う労働者の権利は、憲法28条で保障されている労働三権の一つです。さらに憲法上の権利を確認するかたちで労働組合法1条2項はストライキに対して刑事免責を与え、8条は民事免責を与えています。

正当なストライキを行っている限り、労働者が逮捕・刑事訴追されたり損害賠償義務を負ったりすることはありません。法律上強く保護されているのです。

参考:労働組合法|e-gov法令検索

ストライキの仕組み

まず、労働者の間に労働条件に対する不満が生じることがストライキの端緒といえます。そして、労働条件に対する不満を吸い上げ、交渉の代理人となるのが労働組合です。労働組合は企業に団体交渉を申し入れ、労働条件改善などの要求をします。団体交渉が不調に終わったときに、労働組合が検討するのがストライキの実施です。

ストライキ実施は組合員の投票で決定され、組合員が集団的に労働を停止することでストライキが始まります。労働組合は労働停止により企業の業績に打撃を与え、圧力をかけます。ストライキの結果、企業が労働者の要求を再考して再交渉に応じ合意に達すればストライキは終了です。

ストライキの主な種類

ストライキの種類は違法なものまで含めてたくさんあります。しかし、もっとも基本的な分類となるのが全面スト・部分スト・指名スト・一部ストの区別でしょう。

全面ストとは、すべての労働組合員が参加するストライキです。それに対し部分ストとは、労働組合内の一部の組合員だけが参加するストライキになります。指名ストとは部分ストの一種で、労働組合が特定の組合員を指定して行わせるストライキです。

一部ストは、従業員の一部のみを組織する労働組合が行うストライキを指します。

参考:労働争議の種類|国家公務員の労働基本権(争議権)に関する懇談会

公務員はストライキが認められていない

日本では公務員のストライキが認められていません。国家公務員法と地方公務員法が明文で禁止しています。

しかし、疑問となるのは公務員に憲法28条の保障が及ばないのかという問題です。その点、憲法は別の章で財政民主主義を定めています。それゆえ、国民が公務員の労働条件を決定する権利を持っているのです。したがって、公務員当事者がストライキをするのは妥当でないと考えられています。

代償措置となっているのが、第三者・中立機関として公務員の労働条件につき国会と内閣に勧告する人事院の制度です。

参考:労働基本権と人事院勧告の意義|人事院

日本でのストライキの事例

世界を見渡せば今もなおストライキが盛んな地域もあります。ところが、激減というべき経過を辿っているのが日本のストライキの状況です。次の2例から、戦後からピーク時までのストライキと最近のストライキの性格や雰囲気の違いが伝わってきます。

  • 三池争議

    日本最大の炭鉱であった三池炭鉱で、1959年から60年にかけて起きたストライキです。会社は職場活動家を含む1,200人以上を指名解雇し、炭鉱を閉鎖しました。これに抗議して、三池労組は無期限全面ストに突入します。

    組合の分裂・警官隊との衝突・殺人事件まで発生しました。指名解雇撤回の代わりに該当者は自主退職をするというあっせんに組合が応じて終結しました。

  • 正則学園高校教員スト

    2019年1月、私立正則学園高校で約20人の教員がストライキを行いました。ほぼ毎朝7時前からの慣行となっている「理事長へのあいさつ」を欠席するという早朝のみのストライキです。授業は平常通り行われました。始業は午前8時にもかかわらず、あいさつに行かないと不利益を被ることがあったようです。

    ストライキによる圧力の結果、あいさつの廃止だけでなく待遇に関するさまざまな要求を勝ち取りました。

日本でストライキが少ない理由

1974年の日本では、半日以上のストライキは5千件以上ありました。それに対して、2021年の件数は32件となっています。100分の1以上の激減です。現在の日本でストライキが少ないのには、次のような理由が挙げられます。

  • 労使協議の定着
    ストライキの武器を背景とした団体交渉よりも、相互理解に基づく合意形成の場が重視されています。
  • 従業員の高学歴化
    従業員と経営層とのコミュニケーション距離が縮まったといわれます。
  • 待遇への満足
    現状の待遇で満足する従業員も多く、賃上げの機運が必ずしも高まりません。
  • 景気停滞時のストライキは効果が乏しい
    不況時に生産ラインを止めても、会社にとって損害は少ないのです。
  • 迷惑意識や違和感
    ストライキが取引先や消費者から批判されがちです。過去の過激な左翼活動のイメージも、いまだつきまといます。
  • 公務員のストライキ禁止
    公務員のストライキ禁止を合憲とする司法決着があり、沈静化が民間にも影響しました。
  • 非正規雇用の増加
    労働組合に加入しない労働者が増えています。

参考:(時系列表)労働争議の種類、行為形態別労働争議件数、参加人員及び労働損失日数(Excel)|労働争議統計調査|厚生労働省

ストライキの流れや手続き

ストライキが行われるときの基本的な流れや手続きについて解説します。

参考:労働組合のストライキの行い方、注意すべき点 |かながわ労働センター

労働組合の結成

ストライキの権利は労働組合に認められるものであり、個人や任意の集団がストライキを行うことはできません。労働組合の結成に、届出などの手続きは必要ありません。

しかし、労働者が主体であること・経済的地位の向上を目的とすること・所定の規約を備えることなど、労働組合法2条・5条2項に定める要件を満たしておく必要があります。

参考:労働組合の資格審査について|中央労働委員会

団体交渉を尽くす

ストライキ権は、団体交渉における労使の対等性を確保して交渉の行詰まりを打開するための権利です。したがって、ストライキを行う前段階で、労働組合は企業と団体交渉を行って待遇改善などの要求をします。団体交渉が不調のときにはじめて、圧力としてのストライキ実施が検討されるのです。

ストライキの批准投票

労働組合がストライキを実施するためには、組合員や組合員代表の無記名投票による過半数の決定が必要です。

事前通告

原則論としては、批准投票を経ればストライキを実行できます。しかし、通常は企業に対して事前通告をします。不測の混乱を回避するためです。通告なしで著しい混乱を招けば違法と評価されることもあります。

実務上、労働協約であらかじめ事前通告義務を定めることが多いです。また一部の公益事業では、行政機関に対して予告通知を行う必要があります。

参考:争議行為の予告通知について|中央労働委員会

ストライキ実施と争議行為発生届

ストライキが開始されます。開始されたら、労働組合・企業双方の当事者はただちに労働委員会または都道府県知事に争議行為発生届を提出しなければなりません。

参考:争議行為発生届について|中央労働委員会

再度の団体交渉・あっせん申請

ストライキによって圧力をかけながら再び団体交渉をし、企業の譲歩を引き出しつつ要求の実現あるいは妥協による合意・解決を目指します。

その間、第三者の助言を求めて労働委員会に対しあっせんを申請することもできます。

参考:労働争議の調整の種類(あっせん・調停・仲裁)及び手続きの流れ|中央労働委員会

ストライキ終結

期限付きで開始されたストライキは、期限をもって終結です。無期限であっても労働組合の要求が妥協を含め解決に至れば、組合はストライキを終結させます。また交渉が不調のままであっても、長期間に及ぶストライキは組合員にとって酷です。したがって、いずれ労働組合はストライキを終結させることになります。

ストライキ終結後の団体交渉で、要求が解決に向かうこともあります。

ストライキ中は無給・賃金カットで良い?

ストライキ中の労働者に賃金を支払う必要があるのでしょうか。原則と例外について解説します。

ノーワーク・ノーペイの原則

ストライキ参加の従業員は労働をしていないため、原則としてストライキ期間中の賃金を請求できません。賃金は労働と対価関係にあり、労働者の意思で労働しない場合に賃金が支払われないのは当然です。これをノーワーク・ノーぺイの原則といいます。

参考:令和2年度労使関係セミナー 賃金に関する基本問題|中央労働委員会

部分スト・一部ストの場合

しかし、部分ストや一部ストでストライキに参加しない労働者の賃金をどう扱うべきでしょうか。

まず参加しなかった従業員が労働することを企業が受け入れた場合、従業員は企業の指揮命令下に置かれることになるため当然に賃金を請求できます。部分ストや一部ストの結果、ストライキに参加しない従業員の業務がなくなってしまい企業が労働の提供を拒否した場合が問題です。

この場合に企業に完全な責任を求めるのは酷といえます。そのため、企業は賃金を支払う必要はないのです。

ただし、一部ストの場合、ストライキに関係のない他の組合員や非組合員に賃金が支払われないのでは労働者の保護が不十分です。そのため、他の組合員や非組合員には労働基準法にもとづく賃金60%分の休業手当を企業は給付すべきとされています。

参考:(30)【賃金】休業手当|労働政策研究・研修機構

企業がストライキを防止するためにできること

企業がストライキの発生を未然に防ぐためにできることは何でしょうか。

適切な労務管理

ストライキは労働条件への不満から生じます。違法な労働条件を設定しないことがもっとも重要です。さらに同規模の同業他社と比較して妥当といえる賃金・労働条件を設定すれば、ストライキの発生につながるような強い不満は生じにくいでしょう。

適切な人事管理

不公平感のある人事評価や不合理な人事異動を行うことも、従業員の不満を生む一因です。適切な人事管理もまた、ストライキの予防策になります。

ストライキに関する注意事項

注意事項を押さえないでストライキを行うと、そもそも効果を望めなくなったり、場合によって労働者が損害を被ったりすることもあります。

ロックアウトで対抗される可能性がある

ストライキの際、労働組合は職場から離れない戦術を取ることがあります。労働者の団結を維持するためです。企業側の占有を排除したり業務を阻害したりしない限りは合法とされます。

しかし、そのように職場に滞留することで著しく企業側に不利な圧力がかかる事態になると労使関係の均衡を欠いてしまうのです。そのような場合、企業側は対抗措置として職場から労働者を排除できます。これがロックアウトです。

違法なストライキは損害賠償請求を受けるおそれがある

正当なストライキにより企業に損害が発生しても、民事免責により労働組合や労働者は損害賠償責任を負いません。しかし、違法なストライキを行えば当然損害賠償責任を負います。

企業施設を破壊するなど企業の財産権を侵害した場合・経営者や不参加の従業員に対し暴行や傷害を加えた場合・労働条件の改善などを目的とせず純粋な政治的意図で行った場合などが典型例です。

参考:組合づくりのハンドブック|東京都労働相談情報センター

違法なストライキは解雇(クビ)になる可能性も

労働者が正当なストライキに参加したことを理由に、解雇(クビ)や懲戒などの不利益取扱いをすることはできません。逆にいえば、違法なストライキに参加すれば、解雇される可能性もあるのです。ここでいう解雇とは、懲戒解雇や諭旨解雇になります。

ただし、こうした解雇はもっとも重い懲戒処分にあたるため、重大な違法行為をした場合にのみ適用されるでしょう。解雇されなくとも、もちろん他のより軽い懲戒処分を受ける可能性があります。

参考:「懲戒」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|確かめよう労働条件|厚生労働省

ストライキの類語・関連用語との違い

ストライキと類似・関連する用語との違いを確認します。

ボイコットとの違い

ボイコットとは、労働者が企業の製品やサービスの不買を顧客や一般消費者に訴えかけることです。労働を停止するストライキとは異なります。

ただし、労働組合が行うボイコットは妥当な範囲ならば憲法が認める争議行為の一つです。

参考:第8章 労働組合|働く人のハンドブック|福岡県

サボタージュとの違い

サボタージュとは、労働組合の主張を貫徹するために組合員が業務を継続しながら業務を量的質的に低下させることです。労働の100%停止ではなく、量・質を低下させる手法がストライキと異なります。

サボタージュも、妥当なものであれば憲法が認める争議行為です。

参考:令和3年労働争議統計調査の概況|厚生労働省

適切な人事・労務管理がストライキを防止します

ストライキが発生すれば、企業は多大な損害を被ります。そのため、企業側はストライキ発生を未然に防止することが重要になります。公正な人事や適正な労務管理など、企業側ができることはいくつかあります。また一方で、労働者側も真摯な態度で企業と向き合い、大事にならないように都度話し合うことが大切です。要求だけを徒に叫ぶのではなく、よく話し合ったうえで課題解決に臨みましょう。


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