• 更新日 : 2025年1月20日

労働契約法16条による解雇の制限とは?無効になる場合もわかりやすく解説

企業の経営上、社員の健康上の問題や勤務態度、事業縮小などの理由によって、ときには解雇したほうがよいのではないかと悩むことがあります。

解雇には労働契約法16条の厳しい制限があり、簡単ではありません。労働契約法16条の解雇の制限を中心に、解雇の種類や労働契約法以外の解雇に関する法律との違いについてわかりやすく解説します。

労働契約法16条による解雇の制限とは

解雇とは、使用者が労働者の意思にかかわらず一方的に労働契約の途中で契約を終了させることを指します。しかし、労働契約法16条では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には解雇が無効になることが定められています。これを「解雇権濫用法理」と呼びます。

(解雇)

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用:労働契約法 | e-Gov 法令検索

つまり、裁判など争いになったときには、何もきちんとした根拠や理由もなく、解雇せざるを得ないほどの程度のことがなければ、解雇をしても無効と判断されます。解雇には労働契約法16条の制限があり、簡単にできることではありません。

なお、労働基準法では、「退職に関する事項」は就業規則の絶対的必要記載事項とされており、その中には解雇の事由も含まれることから、解雇事由についても就業規則に必ず記載しなければなりません。

労働契約法15条による懲戒との違い

労働契約法15条では、労働者を懲戒処分にすることができる場合であっても、客観的合理性や社会通念上の相当性がなければ権利の濫用に該当し、無効になると規定しています。

懲戒処分とは企業秩序違反における制裁罰を指します。労働者は労働契約上企業秩序を維持する義務を負うとされており、企業は労働者の企業秩序を乱すような行為を行った場合には、制裁罰として懲戒処分ができるとされています。

労働契約法15条では懲戒について以下のように定めています。

(懲戒)

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

引用:労働契約法 | e-Gov 法令検索

懲戒は労働基準法の制裁と同じ意味合いがあり、懲戒処分の規定を定める場合には、就業規則にその種類や程度(けん責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇など)を定めておく必要があります。しかし、就業規則の懲戒事由に該当して懲戒処分ができるとしても、さらに懲戒処分としての客観的合理性や社会通念上の相当性について判断されることになります。そのため、懲戒解雇などは、労働契約法16条の普通解雇よりも一段ハードルが高いと考えたほうがよいでしょう。

労働契約法17条による契約期間中の解雇との違い

労働契約法17条では、有期労働契約の期間中は、使用者は「やむを得ない事由」がなければ解雇できないことが定められています。有期労働契約も契約であり、約束した以上はその期間内に解雇をすれば債務不履行の問題が生じます。労働契約法17条の「やむを得ない事由」に該当するかどうかは、裁判などでは厳格に判断されます。

また、契約期間を必要以上に短くして更新することは労働紛争につながるおそれもあり、紛争防止の必要性から、短い期間で反復して更新することがないように配慮しなければならないことも定められています。

労働契約法19条による雇止め法理との違い

有期労働契約の労働者の雇用を、期間満了後に更新することなく終了させることを「雇止め」と呼びます。有期労働契約は契約期間が満了した際に終了する契約であるため、企業が一方的に契約を終了させる解雇とはそもそも意味が異なります。

本来有期労働契約は、期間が満了すれば退職になるのが原則です。しかし、繰り返し何度も反復更新されていていたり、更新の手続きがきちんと行われていなかったりして、実質的に期間の定めがない無期の労働契約と変わらないようなケースがあります。また、上司から更新されるような言動があるなど、労働者が更新されることを期待させる事情や状況があるケースもあります。

以下の1.と2.に該当する場合、労働者が更新を希望すれば、「雇止め」をすることに客観的合理性や社会通念上の相当性がなければ無効となり、更新前と同じ労働条件で更新されたとみなされます。これを、いわゆる「雇止め法理」と呼びます。

  1. 反復更新された有期労働契約で「雇止め」が実質的に無期労働契約の解雇と変わらない(社会通念上同視できると認められる)
  2. 有期労働契約の期間の満了時しても更新されるものと期待できるだけの合理的な理由がある

労働契約法16条による解雇の種類と懲戒解雇

解雇には普通解雇と懲戒解雇の2種類があります。企業側の事情で解雇する整理解雇は一般的には普通解雇に含まれますが、ここでは3種類に分けて解説します。

普通解雇

労働者や使用者が労働契約上の債務を果たせない債務不履行、つまり、契約で約束した義務を果たすことができないという理由で解雇するのが普通解雇です。解雇は使用者が一方的に労働契約を解除することを意味しますが、解雇する理由が労働者側にある場合と、労働者には責任がなく企業側に理由がある場合の2種類があります。

解雇の合理的理由には、大きく分けて以下の4つに分類することができるとされています。1.~3.が解雇する理由が労働者側にある場合で、4.が企業側に理由がある場合です。

  1. 労働者が傷病等で労務提供できなくなった場合(病気やケガ、精神の障害で業務に耐えられないなど)
  2. 労働能力や適格性が欠如している場合(能力不足、勤務成績不良、協調性を欠き他の労働者に悪影響があるなど)
  3. 社内で定めた義務や規律に違反する場合(勤務態度不良、業務命令に従わないなど注意をしても改善しないなど)
  4. 経営上必要でやむを得ない理由がある場合(経営不振による事業の縮小、部署・店舗・事業所の閉鎖などによる人件費の削減、倒産、休廃業など)

解雇事由は具体的に就業規則に定め、適切に労働者に周知しなければなりません。必ずしも就業規則に解雇事由を定めなければ普通解雇ができないというわけではありませんが、客観的合理性を担保する上でも、定めておくべきでしょう。

また、たとえ労働者に非があるにしても、社会通念上の相当性の観点から、その程度が解雇をするほどの理由になるかをよく検討する必要があります。なにも注意や指導を行わず、改善の機会を与えないで解雇をした場合には、解雇権の濫用により無効になる可能性が高くなります。

整理解雇

整理解雇は、先に示した4つの分類の中の4.で示した経営不振による事業の縮小や部署・店舗・事業所の閉鎖、業績悪化に伴う人件費削減などを目的に、経営上の理由で解雇するケースが該当します。

企業側の都合で行う解雇であり、「整理解雇の4要素(4要件)」などと呼ばれて、以下のことが総合的に判断されます。

  • 人員削減の必要性
  • 解雇回避努力義務
  • 解雇対象者の人選の合理性
  • 説明・協議等解雇の手続きの適正性・妥当性

人件費抑制を重視して安易に整理解雇をするのは禁物です。整理解雇は労働者に非がないだけに、司法では厳格に判断されます。人件費以外のコストの削減の努力をすることなく解雇をしても、解雇権の濫用で無効となるリスクがありますので注意しましょう。

懲戒解雇

懲戒解雇は、労働者が重大な企業秩序違反を犯した際に行う制裁罰の中でも最も重い処分です。企業は就業規則に懲戒処分の種類や程度を定め、非違行為の程度応じて、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの処分を決定しますが、懲戒処分は刑罰の意味合いもあるため、処分を下す際には客観的な事実を必要とします。また、平等・公平性の観点からも検討する必要があるため、弁明の機会を設けることも重要です。

懲戒解雇は退職金が不支給になることや、再就職に不利になることもあるため、労働者に不利益が大きい処分です。そのため、裁判などの争いになった際には、労働契約法16条の普通解雇よりも解雇権濫用法理が厳格に判断されると考えたほうがよいでしょう。

労働契約法16条の「客観的に合理的な理由」とは

労働契約法16条の「客観的合理的な理由」とは、企業に解雇ができるほどの正当な理由や根拠があるかどうかがポイントになります。これは経営者が主観的に判断するのではなく、誰が見ても事実だと思えるに足る記録やデータ、基準に基づくもので、客観的な事実を証明できなければなりません。

企業の経営上の必要性や当該労働者の行動・状態に対する対応が妥当であるか、業務の遂行や企業秩序の維持に与える影響が大きいか、業務に支障が生じているかが不明確では、「客観的に合理的な理由がある」とは言えないでしょう。勤務態度不良や職務規律に違反する行為があったとしても、ただの一度で解雇が認められることは少なく、労働者の行為の程度、改善の余地、企業が被った損害の重大性、やむを得ない事情の有無など、さまざまな事情から解雇の正当性が総合的に判断されます。

参考:労働契約の終了に関するルール|厚生労働省

労働契約法16条により解雇が無効となった判例

解雇が無効となった判例には多くのものがあります。代表的なものを見ていきましょう。

セガ・エンタープライゼス事件(H11.10.15東京地決)

【労働者の主張の内容】

大学院卒業後、Y社に平成2年に採用されたXは、特定の業務分野のないパソナルーム勤務を命じられた後、「労働能率が劣る」「向上の見込みがない」「積極性がない」「自己中心的である」「協調性がない」などを理由に解雇されました。Xは企業側が主張する解雇理由に具体的な事実の裏付けがなく解雇無効を主張しました。

【結果】

裁判では、権利の濫用に該当し、解雇は無効と判断しました。

Y社の就業規則の解雇事由は、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」などと極めて限定的な定めとなっていました。

裁判では、XはYの従業員の中で考課の順位が下位10%未満で平均的な順位に達しているとは言えないものの、人事考課は絶対評価ではなく相対評価であって、それが直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまで言えないとしています。また、試験結果が平均点前後であった技術教育を除き、教育・指導が行われた形跡はなく、労働能率の向上を図る余地もあるべきとも指摘しています。

「積極性がない」「自己中心的である」「協調性がない」ことに対する具体的な裏付けはなく、これらの企業側の主張は採用されていません。著しく労働能率が劣り、向上の見込みがないとは言えないことから、雇用維持の努力をしたと評価することは困難であると判断しています。

トラストシステム事件(H19.06.22東京地判)

【労働者の主張の内容】

情報処理業界向けのサービスを行う企業に勤務するシステムエンジニアのXが、派遣先で長時間電子メールの私的使用を繰り返し行い、私的な要員派遣業務のあっせん行為をしていたこともあって、服務規律や職務専念義務に違反することから解雇されました。

【結果】

裁判では解雇権の濫用にあたり、解雇の効力は発生しないと判断しました。

Xの私用メールなどは服務規律や職務専念義務に違反すると言えますが、これを過大に評価することはできず、また、私的な要員派遣業務のあっせん行為も認めるに足りず、解雇を可能とするほど重大とまでいうことはできないと判断しています。

また、Xの能力不足も同様に解雇を理由づけるほど能力を欠くとは言えず、「Xの勤務態度や能力にまったく問題がないとはいえないが、Xを解雇する正当な理由がある」とまで言うことはできないと判断しています。

解雇における裁判例には、有効と判断された事例、無効と判断された事例はともに多くあります。以下のサイトには多くの裁判例が紹介されていますので、参考にするとよいでしょう。

参考:裁判例|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト|厚生労働省

労働契約法以外で解雇について定めた法律

労働契約法以外にも解雇について定めた法律について紹介します。解雇は多くの法律で制限されており、解雇が禁止されている場合には、そもそも解雇することができないため注意しましょう。

労働基準法

労働基準法19条では、労働者が業務上の負傷・疾病により療養をするために休業している期間と、休業後30日間は解雇をすることを禁止しています。また、産前産後の女性についても同様です。産前産後期間中と休業後30日間は、解雇することが禁止されています。

労働基準法20条では、解雇をする場合には30日前に予告をしなければならず、予告をしない場合には、30日分の解雇予告手当を支払うことが定められています。解雇予告の日数は、30日から平均賃金を支払った日数分を差し引いた日数とすることが可能です。したがって、15日前に解雇予告を労働者に通知し、15日分の解雇予告手当を支払うなどと組み合わせることもできます。

労働基準法のルールは解雇をする際の手続きや禁止事項を定めたものであり、労働契約法のように解雇が正当か不当かを判断するわけではありません。そのため、労働基準法19条の解雇制限に該当すれば、正当な理由があっても原則として解雇をすることはできず、また、解雇予告を30日前に行ったからといって解雇が有効になるわけではありません。普通解雇が認められるかどうかは、あくまでも労働契約法16条で判断されます。

労働組合法7条

労働組合法7条では、労働組合を結成・加入や正当な労働組合活動をすることを理由に解雇することを禁止しています。組合を結成することや加入すること、労働委員会への申し立てしたことを理由に労働者を解雇したり、不利益な取扱いをしたりすれば、不当労働行為に該当します。

参考:労働組合法 | e-Gov 法令検索

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法6条で労働者の性別を理由とする解雇を禁止するとともに、9条では、女性労働者が結婚したことを理由に解雇することを禁止しています。また、同条では、女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由に解雇をしたり、不利益な取扱いをしたりすることも禁止しています。

参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 | e-Gov 法令検索

育児・介護休業法

育児・介護休業法10条や16条では、労働者が育児休業(出生時育児休業を含む)や介護休業などを申し出たことや、取得したことを理由に解雇したり、不利益な取扱いをしたりすることを禁止しています。

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 | e-Gov 法令検索

不当解雇には大きなリスクが伴う

労働契約法は、労働契約の決定や変更に関する民事的なルールについて、労働契約の基本的な理念や共通する原則を裁判の判例法理に基づき定めた法律です。普通解雇は労働契約法16条の解雇権濫用法理により判断されます。

解雇は労働契約法をはじめとしたさまざまな法律で制限されており、労働者だけではなく企業にも大きな影響を与えます。解雇の要件を満たさずに解雇をしても、裁判で無効となれば、解決する日までの賃金の支払いや遅延損害金などの支払いを命じられることがあります。また、外部に知られれば社会的な信用を失うことにもなりかねず、大きなリスクが伴います。

一つ判断を間違えれば不当解雇になり、企業は訴訟問題を抱えることになりかねません。解雇をすべきか悩んだ際には、弁護士などの専門家に相談し、慎重に判断しましょう。


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