• 更新日 : 2024年12月13日

有給休暇の基準日を1月1日とする場合、付与時期や日数の決め方を解説

有給休暇は、心身をリフレッシュさせ、業務に臨むうえで重要な制度です。有給休暇には、権利発生日である基準日が存在します。しかし、基準日は固定ではなく、変更することも可能です。

当記事では、有給休暇の基準日の変更について、具体例を挙げながら解説します。複雑で理解の難しい部分ですが、当記事を通して理解を深めてください。

有給休暇の基準日とは?

「有給休暇の基準日」とは、企業が従業員に対して、有給休暇の権利を付与する権利発生日です。入社から6か月間継続勤務し、その期間内における全労働日(労働義務のある日)の8割以上出勤した場合に、10日の有給休暇が付与されることが原則です。そのため、通常であれば入社から6か月経過後が有給休暇の基準日となります。たとえば、4月1日に入社したのであれば、10月1日が基準日です。

有給休暇の基準日は変えられるか

有給休暇の基準日は、入社から6か月経過後が原則ですが、変更することも可能です。たとえば、4月1日に入社した従業員に対して、通常の権利発生日である10月1日ではなく、9月1日や8月1日に前倒しで付与することもできます。この場合には、通常よりも早く、9月1日や8月1日に10日の有給休暇が付与されることになります。

10日全てを前倒しで付与する方法だけでなく、入社時である4月1日に5日、通常の権利発生日である10月1日に5日と、分割して付与するような扱いも可能です。この場合には、4月1日が基準日となります。ただし、後ろに倒す形での付与は認められません。権利の発生が早くなることは、従業員にとって有利ですが、遅くなることは従業員の不利益となるからです。

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有給休暇の基準日を統一するパターン

有給休暇の基準日は、統一することも可能です。通常の基準日は、入社日から6か月経過後となるため、中途入社した従業員などがいる場合には、従業員ごとに基準日が異なってしまいます。これでは、有給休暇の付与や消化の管理が煩雑となってしまいます。基準日を統一することで、管理を容易にするわけです。

有給休暇の基準日を年1回とする(基準日の統一)

全従業員の有給休暇の基準日を、年に1回の特定の日として統一することも可能です。たとえば、6月1日入社のAと2月1日入社のBがいる場合に、ABいずれの基準日も4月1日に統一するような場合です。このようにすることで、有給休暇の付与日数や、消化義務の期限などを把握しやすくなります。

基準日を統一した場合、入社のタイミングによっては、入社から6か月以内に付与という要件を満たさない場合もあります。先ほどの例でいえば、6月入社であるAにとって、基準日である翌年4月1日における付与は、6か月を過ぎた後の付与となってしまいます。そのため、入社時に付与するなどの処理が必要です。付与しない場合には、労働基準法違反となるため注意しましょう。また、入社から付与までの期間が従業員によって異なるため、不公平感が生じやすいことにも注意が必要です。

有給休暇の基準日を年2回とする

有給休暇の基準日を年に2回に統一することも可能です。年2回にすることで、どの時期に入社したとしても6か月の期間が満たせるようになり、法違反を犯す危険もなくなります。また、付与までの期間の差による不公平感も減少します。

次のように年2回の基準日を定めた場合を考えてみましょう。

  • 10月1日から3月31日までの入社:4月1日
  • 4月1日から9月30日までの入社:10月1日

6月入社であるAは、入社から6か月以内である10月1日に有給休暇が付与されます。6か月経過後という本来の基準日(12月1日)よりも、早い付与であるため、問題はありません。2月入社であるBは、4月1日に有給休暇が付与されることになります。こちらも入社後6か月以内の付与であるため、A同様に問題のない扱いとなります。

基準日を年に2回で統一すれば、法違反を防ぎつつ、基準日を年に1回で統一するよりも不公平感を減らせます。しかし、その分管理の手間は増えてしまうため、バランスを考えて取り入れることが必要です。

有給休暇の基準日を統一する場合の手順

有給休暇の基準日の統一は、企業が独断で行えないため、所定の手続きを踏む必要があります。基準日を統一する場合の手順について解説します。

1.有給休暇を付与する基準日を定める

基準日を統一するためには、まず権利発生日である基準日を定めなくてはなりません。基準日はいつに設定しても問題ありませんが、なるべく従業員間で不公平感が生じにくい基準日を設けるとよいでしょう。また、年に1回であれ2回であれ、入社から6か月以内に付与できるような基準日とする制度にしなければなりません。

2.入社の従業員に有給の付与時期と日数を決める

基準日を統一する場合、どの時期に何日の有給休暇を付与するか決定する必要があります。入社の時期によっては、入社から6か月以内に基準日が到来しない従業員が発生するためです。このような場合の対処方法については後述します。

3.就業規則に記載し労働基準監督署へ届出を出す

基準日を統一する場合、就業規則の変更が必要です。就業規則の有給休暇規定や有給休暇規程などに、統一した基準日を設ける旨を記載し、所轄労働基準監督署長へ変更届とともに提出しましょう。なお、変更には過半数労組または過半数代表者の意見書の添付も必要です。

有給休暇の基準日を1月1日とする場合の課題点

有給休暇の基準日は、どの時期に設定しても構いません。年が変わる1月1日を基準日とすることももちろん差し支えありません。しかし、この場合には、いくつか注意すべき点があります。

1月2日~6月末入社の従業員に半年以内の有給付与ができない

1月1日を基準日にすると、入社時期によっては6か月以内の付与ができない場合があります。たとえば、1月2日から6月30日までに入社した従業員は、基準日までに6か月の期間がありません。このような場合には、入社時に有給休暇を付与するなどの対処が必要です。

入社時期による付与日数の差で不公平感が生じる

基準日の統一に伴い、入社時期から基準日までの期間に応じて、入社時の付与日数に差を設けている場合もあります。4月1日が基準日の場合であれば、4月1日から10月31日の入社であれば10日付与、11月1日から11月30日までの入社であれば5日付与といった具合です。

このように定めた場合には、10月1日入社の従業員は、入社後6か月経過後の時点で21日が付与されるのに対して、11月1日入社であれば16日しか付与されません。これでは、従業員の間で不公平感が生じてしまう場合もあるでしょう。

有給休暇の基準日を1月1日とする付与日数の決め方

すでに述べた通り、有給休暇の基準日を1月1日にすると、入社時期によっては6か月以内の付与が不可能となる場合があります。そのような場合の対処方法を紹介します。なお、正社員のであれば、付与日数は以下のようになります。

勤続年数0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

基本的な考え方

基準日を統一する場合における付与日数の基本的な考え方は、以下の通りです。

  • 法定の基準は最低基準であるため、全ての従業員が法律を下回ることがないように付与日や付与日数を決定する
  • 本来の基準日以前に有給休暇を付与する場合、8割の出勤率の算定においては、短縮された期間について全て出勤したものとして計算しなければならない
  • 翌年度以降における有給休暇の付与日は、初年度の付与日を本来の基準日から繰り上げた期間と同じ期間またはそれ以上となる期間、本来の基準日より繰り上げる必要がある

付与方法

基本的な考え方を踏まえたうえで、付与方法を見ていきましょう。

  • 方法1

入社して6か月以内に基準日が到来しない従業員に対しては、入社日に一律10日の有給休暇を付与する方法です。

対象者:1月2日から6月30日までに入社した従業員

付与日数:10日

付与月:入社月

  • 方法2

入社後6か月以内に基準日が到来しない従業員に対しては、初回の付与は通常通り6か月経過後を基準日とし、2回目以降は他の従業員と合わせる方法です。

対象者:1月2日から6月30日までに入社した従業員

付与日数:10日

付与月:入社から6か月後の月

  • 方法3

入社する全従業員を対象として、入社した時点で10日の有給休暇を付与する方法です。

対象者:入社する全ての従業員

付与日数:10日

付与月:入社月

上記のような方法を取ることで、入社後6か月以内に有給休暇を付与できないという問題は発生しません。しかし、別の問題が生じる場合もあります。

ダブルトラック

有給休暇が年に10日以上付与される従業員に対しては、年に5日以上の消化義務が存在します。消化しなければならない期間は、10日以上付与された日から1年以内です。入社後6か月経過後という本来の基準日であれば、通常問題はないでしょう。しかし、基準日を変更すると、消化すべき期間が重複する「ダブルトラック」と呼ばれる問題が生じる場合があります。

本来であれば、重複している期間内に10日の消化義務が発生することになります。しかし、ダブルトラックが生じた場合には、特例的な処理が認められています。最初の有給休暇付与日から、2回目の有給休暇付与日の1年後までの期間÷12×5で比例按分することで、半日単位で切り上げた日数を取得させればよいとするものです。

仮に10月1日に最初の有給休暇が付与され、統一された基準日である翌年4月1日に2回目の有給休暇が付与された場合を考えてみましょう。この場合、4月1日から9月30日の間でダブルトラックが生じています。今回のケースで、特例の対象となる期間は、18か月であるため、18か月÷12×5日=7.5日が、期間内に消化義務のある日数です。つまり、この場合、18か月の期間内に7.5日の有給休暇を取得させれば足りることになります。

参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省

有給休暇の基準日を1月1日とする付与日数の例

基本的な考え方と方法が分かったところで、具体的な付与日数を見てみましょう。いくつかの例を挙げて解説します。

方法1による例

この方法では、入社後6か月以内に基準日が到来しない場合、入社日に一律10日を付与します。たとえば、1月2日に入社した従業員は、入社後6か月以内に基準日(1月1日)が存在しません。そのため、1月2日に10日が付与され、統一された基準日である翌年1月1日に11日が付与されることになります。一方で、7月1日以降1月1日までの入社であれば、期間内に基準日が存在します。そのため、入社日における付与は不要です。

方法2による例

6か月の期間内に基準日が到来しないのであれば、6か月経過後に10日の有給休暇を付与し、2回目以降は統一された基準日を用いる方法です。この方法を採用した場合、1月2日に入社した従業員は、初回10日の付与日が6か月経過後の7月2日となり、翌年1月1日に2回目の11日が付与されることになります。なお、7月1日以降1月1日までの入社の場合には、1月1日に最初の10日が付与されます。

方法3による例

全従業員を対象として一律で入社日に10日付与する方法です。たとえば、これまでと同様に1月2日に入社した場合には、1月2日に10日が付与され、翌年の1月1日に11日が付与されることになります。全従業員を対象とするため、この方法では入社時期による違いはありません。

【パート・アルバイト】有給休暇の基準日を1月1日とする付与日数の例

パートやアルバイトに対しても、有給休暇は付与されます。しかし、付与日数は以下の表の

ようになります。なお、付与される日数は本来の勤続年数に応じたものと定められているとします。

所定労働日数勤続年数
1年間0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
4日169日~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121日~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73日~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48日~72日1日2日2日2日3日3日3日

このような付与方法を「比例付与」と呼びます。比例付与される従業員の付与日数を見ていきましょう。

方法1による例

例)

入社日:1月2日

週所定労働日数:4日

この場合には、入社日である1月2日にまず7日が付与されます。その後、翌年の1月1日に8日の有給休暇が付与されることになります。7月1日以降1月1日までの入社であれば、期間内に基準日が存在するため、入社日には付与されません。この場合には、基準日である1月1日に7日が付与されます。

方法2による例

例)

入社日:5月1日

週所定労働日数:3日

方法1とは入社日が異なりますが、入社から6か月以内に基準日が存在しないことに違いはありません。そのため、方法2では入社日から6か月経過後である11月2日に所定労働日数に応じた5日が付与され、翌年1月1日に6日が付与されることになります。7月1日以降1月1日までの入社であれば、1月1日に最初の5日が付与されます。

方法3による例

例)

入社日:6月15日

週所定労働日数:2日

方法3(全従業員を対象として一律で入社日に10日付与する方法)によるため、入社時期を問わず、入社日である6月15日に初回付与日数の3日が付与されます。その後、翌年1月1日まで勤務している場合には、1月1日に2回目の付与日数である4日が付与されます。

有給休暇を翌年に繰り越す際の注意点

有給休暇には2年の時効がありますが、期間内であれば繰り越すことが可能です。つまり、未消化の有給休暇があれば、翌年までは繰り越せます。また、繰り越し分と新規付与分のどちらから消化しても問題ありませんが、通常は繰り越し分から消化されます。

有給休暇の最大保有日数は、35日です。有給休暇の1年における最大付与日数は、正社員が6年半以上勤務した場合の20日ですが、年に5日の消化義務があるため、それを減じた日数しか繰り越せません。もし、それ以上の日数を繰り越した場合には、消化義務が果たされておらず、法違反の状態です。そのため、15日(繰り越し分)+20日(新規付与分)=35日が最大保有日数となります。

出勤率が8割に満たなかった年の有給休暇の付与

有給休暇は、勤続年数に応じて年間の付与日数が上昇する仕組みです。これは、正社員でもパートでも変わりません。しかし、出勤率が8割に満たず、有給休暇が付与されなかった年がある場合には注意が必要です。

たとえば、ある正社員が1年目は出勤率を満たしたものの、2年目は出勤率を満たさなかった場合、3年目に付与される日数は2年の11日ではなく、3年目の12日となります。出勤率を満たさず、有給休暇が付与されなかった年も継続勤務期間として数えるためです。誤って11日を付与しないようにしましょう。

有給休暇の基準日を変更する場合の計算方法

有給休暇の基準日を本来と異なったものに変更した場合には、短縮された期間は全て出勤したものとして扱われ、次回以降の有給休暇は前倒しで付与されます。たとえば、2024年4月1日に入社した従業員の本来の基準日は、6か月経過後である10月1日です。

しかし、基準日を本来よりも前に位置する9月1日や8月1日に統一する場合には、次回以降の有給休暇は変更された基準日に付与しなければなりません。8月1日に基準日が統一されたのであれば、本来の基準日である10月1日を待たずに、2年目の付与日数である11日が付与されることになります。

基準日の変更には注意が必要

有給休暇は、従業員がワークライフバランスを実現させるための大切な権利であり、付与日数や消化義務の基準となる基準日については、正確に把握しなければなりません。しかし、管理上の都合から基準日を変更しなければならない場合もあるでしょう。そのようなときには、当記事の解説を参考にして適切な基準日を設定してください。


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