1. 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
  2. 労務の基礎知識
  3. 従業員に年4回以上の賞与を支給する場合は?社会保険上の報酬との関係
  • 更新日 : 2021年12月13日

従業員に年4回以上の賞与を支給する場合は?社会保険上の報酬との関係

従業員に年4回以上の賞与を支給する場合は?

一般的に賞与、いわゆるボーナスは夏季・冬季など年2回支払われます。会社によって期末手当や決算手当が支給されるケースもあります。健康保険・厚生年金保険では、名称を問わず、労働の対償として受けるすべてのもののうち、年3回以下のものを賞与、年4回以上のものを報酬としています。支給回数によって、どのようなメリット・デメリットがあるのか解説していきます。

年4回以上の賞与が「報酬」になるとは?

健康保険や厚生年金保険など、毎月の給与を対象とする保険料は「標準報酬月額」に当てはめて計算します。標準報酬月額は、被保険者が事業主から受ける給与などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分し、等級を設定しています。

一方、賞与を対象とする保険料は、税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた「標準賞与額」を設定し、毎月の標準報酬月額からの保険料とは別に計算して納付することになっています。

しかし、 年4回以上の賞与が「報酬」になるということは、標準賞与額ではなく、標準報酬月額の対象とするとして保険料計算するということになります。

賞与による保険料削減の攻防

賞与の扱いをめぐっては、これまで事業所側による社会保険料の意図的な削減策と、政府の対策のイタチごっこが繰り返されています。

もともと賞与については、社会保険料の対象とされていませんでした。そのため、毎月の給与を賞与に入れ込み、社会保険料を減額する手法が横行していました。

2003年4月、総報酬制として賞与も社会保険料の対象とすることに法改正し、年4回以上の賞与は「報酬」として取り扱い、社会保険料の計算上は月例給与に分割した賞与が上乗せされた形で納付することになり、現在に至っています。

しかし、新手の手法で保険料の減額をするケースも増えてきました。

本来、1回の賞与として扱うべきものを分割し、月次インセンティブなどの名目で毎月あるいは一定期間、月例給与に上乗せして支払うことで、標準報酬月額の定時決定の際、算定基礎の対象期間(原則、4月・5月・6月)から外してしまうというものです。

近年になって政府は、その対策として法改正ではなく、通達によって賞与が分割して支払われた場合でも、まとめて1回として数えることとしました(2015年10月1日、2019年1月4日適用)

参考:「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」の一部改正について|日本年金機構

年4回以上の賞与のメリット・デメリット

2019年1月4日の通達は、「通常の報酬」「賞与に係る報酬」「賞与」の区分をさらに明確にし、2015年10月1日の通達事項を徹底するために出されています。こうした措置がとられるなか、賞与の支払い回数を4回以上とすることで、まだ保険料の削減などのメリットはあるのでしょうか。

メリット

結論からいえば、メリットはありますが、2つの視点で考えていく必要があります。

  • 保険料負担の減額
  • ひとつは保険料負担です。健康保険における標準報酬月額の等級は、1等級の5万8千円から50等級の139万円まであり、厚生年金保険の等級は1等級の8万8千円から32等級の65万円まで区分されています。

    標準賞与額の健康保険は年度の累計額573万円、厚生年金保険は1カ月あたり150万円が上限です。

    厚生年金保険を例にあげると、月例給与が63万5000円以上、年収にして762万円以上であれば、標準報酬月額が上限の65万円に該当します。また32等級の厚生年金保険料の労使の負担合計は118,950円(折半額:59,475円)です。この場合、賞与を年4回以上の支給とし、月例給与に加えても保険料は変わらないことになります。

    会社および本人は、年間の収入が増えても保険料負担を減額することができます。支給額が増えれば、それだけ減額効果は大きいということです。

    では、標準報酬月額が上限を超えていない場合、メリットがまったくないかといえば、そうではありません。

    例えば、年間に賞与を100万円支給する場合、これを年3回以内で支払った場合、保険料は次のようになります(令和3年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料:東京:介護保険第2号被保険者の場合)。

    健康保険料(介護保険料含む) 58,200円
    厚生年金保険料 91,500円
    合計 149,700円

    比較のため、賞与なしで標準報酬月額が上限を超えていない月額賃金が61万円(標準報酬月額62万円)の保険料を試算すると、次のようになります。

    健康保険料(介護保険料含む)36,084円 
    厚生年金保険料 56,730円
    合計 92,814円(年間1,113,768円)

    健康保険34等級(上限50等級)・厚生年金保険31等級(上限32等級)であり、いずれも上限には至っていません。

    このケースで賞与100万円を年4回以上支払った場合、12分割した8万3,000円を月例給与に加算した金額69万3,000円で標準報酬月額が決まります。

    健康保険は36等級ですが、厚生年金保険は32等級の上限を超える報酬月額となり、次のようになります。

    健康保険料(介護保険料含む)39,576円
    厚生年金保険料59,475円
    合計 99,051円(年間1,188,612円)

    賞与なしの場合との差額は、年間で74,844円(1,188,612円-1,113,768円)となり、これが年4回で賞与を支払った場合の保険料です。

    では、先ほどの年3回で賞与を支払い、すべて標準賞与額で捕捉された場合の149,700円との差額はいくらでしょうか。

    149,700円-74,844円=74,856円

    これが、年4回で賞与を支払った場合に減額された保険料ということになります。賞与の支給額100万円に対し、少なくない金額といえるでしょう。

  • 給付の増額
  • もうひとつのメリットは、給付の額です。

    標準報酬月額が上限を超えていない場合については、賞与を年4回以上の支給とすると、当然、標準報酬月額が増えることになります。将来の厚生年金保険の年金額は、現役時代に納付した保険料によって算定されます。つまり、標準報酬月額が増えることで保険料は上がりますが、将来の年金受給額も増えます。

    給付については、健康保険も関係してきます。

    例えば、業務外の疾病・負傷によって業務につくことができず、療養のために会社を休み、事業主から報酬が受けられない場合、健康保険から最長1年6カ月、傷病手当金を受けることができます。

    また、妊娠した女子社員が出産のために会社を休み、事業主から報酬が受けられない場合、出産予定日以前42日前(多胎妊娠の場合は98日前)から、出産日の翌日以後56日目までの範囲内で出産手当金が支給されます。

    いずれも、標準報酬月額が算出の基礎となりますので、被保険者の標準報酬月額が上限を超えていない場合、賞与を年4回以上の支給とすると標準報酬月額が増え、支給額も増えることになります。

    出産手当金を例にあげて、先ほどの賞与100万円のケースで試算してみましょう(令和3年3月分からの健康保険の保険料:東京:介護保険第2号被保険者の場合)。

    月例給与が30万円(標準報酬月額30万円)の女性社員が出産のため、出産予定日以前42日前から、出産日の翌日以後56日目までフルに会社を休んだとします。

    出産手当金 = 平均標準報酬日額(標準報酬月額 / 30) × 2/3 × 産休の日数(日額を2/3した金額は小数点1位を四捨五入)

    試算すると、653,366円となります。

    これに対し、年4回以上賞与100万円を支払った場合、12分割した8万3,000円を月例給与に加算した38万3,000円で標準報酬月額が決まり、26等級の38万円で計算することになります。

    試算すると、827,806円となり、その差は174,440円です。

    傷病手当金、出産手当金は、あくまでも標準報酬月額が算出の基礎であって、賞与は対象外です。したがって年3回以下の賞与の場合は、支給額に反映されません。

    デメリット

    メリットがある一方、その裏返しでデメリットもあります。

    厚生年金保険の月例給与が高額なケースで標準報酬月額が上限の65万円を超える場合、保険料を減額できるものの、将来の年金給付額に反映されません。

    健康保険の傷病手当金や出産手当金については、休業した場合の支給額が増えますが、当然、保険料も上がります。

    ただし、出産手当金の場合は、育児休業を開始した日が含まれる月から、終了した日の翌日が含まれる月の前月までの期間(子が3歳に達するまで)は、健康保険・厚生年金保険の保険料は免除されます。

    こうした保険料の問題だけでなく、定時決定や随時改定の際に賞与額を反映させた賃金で手続きをするという手間がかかります。

    そのほか、賞与の回数を増やすということは、それだけ査定の回数も増えるため、労務担当者だけでなく、現場の管理職の負荷も増えることがあげられます。

    年4回以上にした場合の手続きの注意点

    賞与の支払回数を年4回以上とした場合のメリット、デメリットについて説明してきました。実際に支払回数を変える場合、その手続きについて注意すべき点がいくつかあります。

    年4回以上の賞与の場合、「賞与支払届」の提出が不要に

    すでに述べたように、7月~翌年6月に支給された賞与の合計金額を12等分したものを報酬月額に加算して標準報酬月額を決定します。

    標準報酬月額は、毎年1回、7月に「定時決定」の際に見直しを行うことになっています。事業主は、4月、5月、6月に被保険者ごとに支払った報酬などを記載した「算定基礎届」を提出し、それをもとに算出されます。

    年4回以上、支給される賞与は、社会保険上の「報酬」となるため、「賞与支払届」を提出する必要はありません。

    また、賞与の支払い回数を年4回以上にするには、就業規則などで定める必要があります。その際、次の定時決定で「賞与に係る報酬」の額が標準報酬月額に加算され、適用されるまでの間は、「賞与」として扱われます。

    この場合は、賞与の支払額などを記載した「賞与支払届」の提出が必要になります。

    年3回以下の場合には、「賞与支払届」の提出が必要

    年3回以下の支給にする場合は、賃金、給料、俸給、手当、賞与、そのほかいかなる名称であるかを問わず、「賞与支払届」を提出しなければなりません。支給日から5日以内に年金事務所(日本年金機構)に提出します。

    これによって、賞与に対する保険料額が決定されるとともに、被保険者が将来受給する年金額の計算の基礎となります。

    随時改定があった場合にも、対応が必要

    賞与を年4回以上支払った場合、標準報酬月額は、定時決定の際に賞与の合計金額を12等分したものを報酬月額に加算して算定しますが、その後の随時改定(月変)でも加算することが必要となります。

    随時改定は、臨時の賃金ではなく、固定的賃金の支払額の変動に伴って大幅に変わったときに定時決定を待たずに実施されるものです。

    具体的には、昇給または降給などにより固定的賃金に変動があり、かつ連続3カ月間の平均賃金が標準報酬月額で2等級以上の変動を生じた場合、「月額変更届」を提出することで4カ月目から改定されます。

    賞与回数が変われば、行う手続きが異なる点を理解しておこう!

    年4回以上の賞与にすることにより、一定の年収のある場合は社会保険料の減額ができます。また、健康保険の傷病手当金や出産手当金などの給付が多くなるメリットがあります。

    一方、将来の年金額が少なくなるなどのデメリットもあります。

    もしも就業規則などを改定し賞与の支払い回数を変更する場合は、総合的に判断することが必要です。それに伴う手続きについても、しっかり理解しておきましょう。

    賞与に関するその他の疑問は、次の記事も参照してみてください。
    東京総合社会保険労務士法人|Q&A

    よくある質問

    年4回以上の賞与が「報酬」になるとはどういうことですか?

    賞与は「報酬」として取り扱い、社会保険料の計算上は月例給与に分割した賞与が上乗せされた形で納付するということです。詳しくはこちらをご覧ください。

    年4回以上の賞与があった場合、「賞与支払届」の提出は必要ですか?

    原則として提出の必要はありませんが、次の定時決定で「賞与に係る報酬」の額が標準報酬月額に加算され、適用されるまでの間は提出しなければなりません。詳しくはこちらをご覧ください。


    ※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

    執筆:坪 義生(社会保険労務士)

    じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)、労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、㈱矢野経済研究所、等を経て、91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。