- 更新日 : 2024年12月25日
標準報酬月額の2等級以上の差とは?等級の確認方法や随時改定の適用について解説
社会保険料の計算で必要になる標準報酬月額に2等級以上の差が出た場合、ほかの要件を満たしたら随時改定の手続きが必要です。改定した報酬月額は、変動した固定的賃金が支払われた月から4ヶ月後に適用されます。
本記事では、標準報酬月額に2等級以上の差が出たかどうかの確認方法や、判断する際の注意点などを紹介します。
目次
標準報酬月額とは
標準報酬月額の2等級以上の差について解説する前提として、標準報酬月額の概要をみていきましょう。
標準報酬月額は社会保険料算出の基礎
標準報酬月額とは、従業員の給料を一定の幅に区分した金額のことです。健康保険料や厚生年金保険料など社会保険料を計算する基礎になるもので、標準報酬月額に保険料率を乗じて毎月の保険料を算出します。
社会保険料は従業員の給与額に応じて決まりますが、給与の増減に合わせて毎月保険料を計算することは手間がかかります。標準報酬月額を算出しておけば、残業手当などで毎月の給与が多少変動しても保険料の算出は一定であり、業務を効率化できるのがメリットです。
健康保険の等級数
標準報酬月額は金額ごとに等級が分かれており、健康保険は50等級です。毎月の給与から天引きされる健康保険料はこの等級に応じて決まり、2024年の健康保険は1等級(58,000円)〜50等級(1,390,000円)です。
等級が改定されると保険料も変動します。健康保険の保険料率は毎年改定され、全国健康保険協会等から料率表が提供されます。
厚生年金保険の等級数
厚生年金保険の等級数は32等級で、2024年は1等級(88,000円)〜32等級(650,000円)です。報酬月額は通勤手当など各種手当のほか、会社が提供する宿舎費や食事代等の現物給与の額も含めて計算されます。
厚生年金保険の保険料率も毎年改定され、健康保険とともに保険料率表に掲載されます。
健康保険・厚生年金保険ともに、最高等級に達した場合は、給与が上がってもそれ以上保険料が増えることはありません。標準報酬月額に上限が設けられているのは、高額所得者や事業主の保険料負担を抑えるためです。年金給付額の格差が大きくなりすぎることを抑える意味合いもあります。
標準報酬月額の2等級以上の差とは
標準報酬月額の等級は、4月から6月までの平均給与を計算し、年に1回見直されます。この手続きを「定時決定」と呼びます。
一方、等級が2等級以上変動するような大幅な給与の増減があった場合は、定時改定を待たずに見直しを行わなければなりません。この手続きを「随時改定」と呼びます。
ここでは、随時改定について詳しくみていきましょう。
標準報酬月額2等級以上の差は、随時改定の要件の1つ
継続して3ヶ月間の報酬が大幅に変動した場合、標準報酬月額の改定が必要です。随時改定と呼ばれ、2等級以上の変動は随時改定を行う要件の1つとされています。
2等級以上の変動とは、報酬月額を保険料率表の等級区分にあてはめた際に、変動前と変動後に2等級以上の差が生じていることです。
たとえば、健康保険の標準報酬月額が20等級の従業員が昇給し、以降の継続した3ヶ月の報酬の平均が22等級以上になることを指します。
ほかの要件を満たした場合、随時改定の手続きを行わなければなりません。
随時改定を行うその他の2要件
随時改定を行うには、2等級以上の差のほかに、次の2つの要件が必要です。
- 固定的賃金が変動
- 変動月から3ヶ月間の報酬支払基礎日数がすべて17日以上
ひとつめの「固定的賃金」とは、毎月の金額が決められているもので、次のようなタイミングで変動します。
- 昇給または降給
- 給与体系の変動
- 新たな手当の支給
- 手当の支給額が変更
2つめの「支払基礎日数」とは、給与計算の対象となる日数を指します。日給・時給の場合は出勤した日数で、月給・週給の場合は休んだ日も含めた暦日数で計算します。賃金の変動があったあと、1ヶ月でも17日未満の月があれば、随時改定の対象にはなりません。
標準報酬月額が2等級以上変動したか確認する方法
標準報酬月額が2等級以上変動したかどうかは、固定的賃金の変動から3ヶ月後に、賃金が上がったあとの報酬平均額と現在の報酬平均額を比較して確認します。
比較する対象は、定時改定で求めた標準報酬月額です。
標準報酬月額の算出根拠は4月~6月の3ヶ月間の給料の月平均
標準報酬月額の算出は、7月1日現在で会社に在籍している従業員の4〜6月分の平均を算出して決定します。4月〜6月の報酬の支払基礎日数に17日未満の月がある場合には、その月を除きます。
4分の3要件を満たす短時間就労者(正社員より短い勤務時間の従業員)の算出方法は、次のいずれかです。
- 3ヶ月で支払基礎日数が17日以上の月について平均を出す
- 15日以上17日未満の月だけの場合はその平均を算出する
- 15日未満の月しかなければ、従前の標準報酬月額が引き続き適用される
なお、特定適用事業所に雇用され、特定の要件を満たす短時間労働者の場合は、報酬支払基礎日数が11日未満の月があれば、それを除き算出します。また、いずれの月も11日未満の場合であれば、保険者算定により標準報酬月額が決定されます。
算出例
標準報酬月額の算出例を、次の事例で計算してみましょう。
- 4月:33万円
- 5月:29万円
- 6月:35万円
3ヶ月の報酬合計額:33万円+31万円+35万円=99万円
報酬月額:99万円÷3ヶ月=33万円
2024年3月からの保険料額表で報酬月額の欄を見ると、33万円以上35万円未満の欄があり、標準報酬月額は「340,000円」です。
参考:令和6年3月(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
等級数の確認方法
標準報酬月額の等級数は、「保険料額表」の左側に記載されています。前の事例では、健康保険が24等級、厚生年金保険は21等級です。健康保険と厚生年金保険は等級が異なるケースも多いため、注意しましょう。保険料額表は毎年更新されるため、必ず最新の資料で確認するようにしてください。
算出された平均額を保険料率表にあてはめ、社会保険の等級を決定します。2等級以上の変動は、ここで決定した等級がもとになります。
2等級以上の差が発生したら、随時改定はいつから適用になる?
3つの要件を満たして随時改定をした場合、新しい標準報酬月額が適用されるのは、変動した固定的賃金が支払われた月から4ヶ月後からです。
たとえば、月末締めで翌月の10日払いの会社を例にみてみましょう。
9月に昇給があった場合は、10月に昇給分の給与の支払いがあるため、10月〜12月の平均報酬が随時改定に該当するかどうかを確認します。
10月〜12月の平均が8月以前の標準報酬月額と2等級以上の差がある場合、変動した給与が支払われた10月から4ヶ月経過した翌年の1月から新しい報酬月額をもとに保険料を計算することになります。
標準報酬月額2等級以上の差の発生を判断する際の注意点
2等級以上の差が生じたことの判断は、非固定的賃金も含めて計算をします。非固定的賃金とは毎月の金額が変動するもので、残業手当や休日出勤手当、皆勤手当などが該当します。
非固定的賃金だけが増減して2等級以上の変動があったとしても、「固定的賃金に変動があったこと」の要件を満たさないため、随時改定は行われないことに注意しましょう。
たとえば、繁忙期で残業が続き、残業代で3ヶ月間の給与が大幅に上がっても、固定給が変わらなければ随時改定の対象になりません。
非固定的賃金も加えて計算するとしても、あくまで随時改定が必要になるのは固定的賃金に変動があったケースであることに注意してください。
標準報酬月額に2等級以上の差があっても随時改定の対象外となるケース
標準報酬月額に2等級以上の差がある場合でも、以下に該当するときは随時改定の対象になりません。
- 休職による休職手当を受けた
- 基本給は増えたが、毎月変動する非固定的賃金が減ったため、結果として2等級以上ダウンした
- 基本給は減ったが、非固定的賃金が増えたため、結果として2等級以上アップした
これらの場合は、現在の報酬月額をそのまま適用します。
標準報酬月額に2等級以上の差が発生しない等級の特例対応
健康保険・厚生年金保険ともに、標準報酬等級の差が1等級の場合は原則として随時改定に該当しません。しかし、それぞれの標準報酬月額には上限と下限が設けられているため、最高の1等級下や最低等級の1等級上にあたる場合はどれだけ報酬が増減しても1等級以上の差が生じないことになります。
これらのケースでは、実質的に2等級以上の変動が生じたとみなされる場合、特例として随時改定を行います。
昇給の場合
昇給の場合の特例は、健康保険の49等級および厚生年金保険の31等級の被保険者の報酬が大幅に増額になった場合が該当します。
それぞれ、次のような特例措置がとられます。
- 健康保険が49等級:報酬月額が141万5,000円以上になったときは50等級になる
- 厚生年金が31等級:報酬月額が66万5,000円以上になったときは32等級になる
降給の場合
降給の場合の特例は、健康保険・厚生年金保険の2等級の被保険者、および健康保険の50等級、厚生年金保険の32等級の被保険者の報酬が大幅減額になったケースが該当します。
特例措置は、次のとおりです。
- 健康保険が2等級:報酬月額が5万3,000円未満になったときは1等級になる
- 厚生年金保険が2等級:報酬月額が8万3,000円未満になったときは1等級になる
- 健康保険が50等級:報酬月額が135万5,000円未満になったときは49等級になる
- 厚生年金が32等級:報酬月額が63万5,000円未満になったときは31等級になる
標準報酬月額に2等級以上差が出たら随時改定が必要
給与の増減で標準報酬月額に2等級以上の変動があったときは、随時改定が必要になる場合があります。改定が必要になるかは、基本給の変動や、支払基礎日数などの要件も満たすかどうかを確認しなければなりません。
給与に変動があっても改定の対象にならない場合もあるため、どのようなケースが該当するかよく確認しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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