• 更新日 : 2026年8月4日

随時改定に残業代は含む?固定的賃金・標準報酬月額への影響と月額変更届の対応を解説

Point随時改定に残業代は含む?

残業時間の増減だけでは随時改定の対象にはなりません。

  • 残業代は非固定的賃金で原則対象外
  • 固定残業代の金額変更は随時改定の対象
  • 割増賃金率の変更も固定的賃金の変動扱い

Q. 残業が増えた月に月額変更届は必要?

A. 残業時間の増減のみでは不要。固定残業代の額変更や割増率変更があれば届出が必要です。

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残業代が増減した月に、随時改定(月額変更届)の手続きが必要かどうか、判断に迷うバックオフィス担当者は少なくありません。結論として、残業時間の増減だけでは随時改定の対象にはなりません。ただし、割増賃金率や固定残業代の金額を変更した場合は対象となるケースがあります。本記事では、随時改定の要件と残業代の関係、標準報酬月額への影響、実務上の注意点をまとめて解説します。

随時改定(月額変更届)とは?

随時改定とは、従業員の給与が大きく変動した場合に行う社会保険手続きのひとつです。ここでは、随時改定の概要について詳しく解説します。

随時改定(月額変更届)の概要

随時改定とは、従業員の給与が大幅に変動した際に、標準報酬月額を見直すために行われる制度です。毎年行われる定時決定を待たずに、給与変動に応じて迅速に保険料負担を適正化することを目的としています。

通常は、毎年4〜6月の給与をもとに標準報酬月額が決定され、9月から適用されます。しかし年の途中で給与が大きく変わった場合、その都度対応するのが随時改定の役割です。

標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金の保険料を算出するための基準額で、実際の給与額を一定の等級に分類したものです。

随時改定の手続きを行う際には、月額変更届(健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届)を年金事務所へ提出する必要があります。

参考:日本年金機構|随時改定(月額変更届)

定時決定との違い

定時決定と随時改定は、どちらも標準報酬月額の確定を目的としています。ただし、手続きのタイミングや対象者に明確な違いがあります。

定時決定(算定基礎届)は、原則として毎年1回、すべての被保険者を対象に標準報酬月額を見直す制度です。4〜6月に支払われた給与をもとに7月に届出を行い、9月分の社会保険料から反映されます。以後、1年間(9月〜翌年8月)にわたり同じ保険料が適用されます。

一方、随時改定(月額変更届)は、給与に大きな変動があった場合に、対象者ごとにその都度行われます。変動があった報酬に対して速やかに社会保険料を見直すための手続きです。

手続き名 提出時期 適用開始月
定時決定 毎年7月1日〜10日 9月分の社会保険料から
随時改定 給与変動時に随時提出 変動月から4ヶ月目に適用

定時決定は全従業員を対象とする定期的な手続き、随時改定は個別の給与変動に対する柔軟な対応策といえます。

参考:日本年金機構|随時改定(月額変更届)

参考:日本年金機構|定時決定(算定基礎届)

随時改定はいつから反映されるか

随時改定が反映されるのは、固定的賃金が変更された月から数えて4ヶ月目の保険料からです。たとえば、4月に昇給があった場合は、4・5・6月の3ヶ月分の平均報酬をもとに、7月から保険料が改定されます。

なお、社会保険料は通常、翌月払いとなります。そのため、実際に従業員の給与から保険料が控除されるのは、変動月から5ヶ月目になる点に注意が必要です。

また、企業によっては給与が当月払いか翌月払いかで異なるため、反映のタイミングにも差が生じます。給与支払方法に応じて、適切な管理と従業員への通知が求められます。

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随時改定に残業代は含む?

残業代のみが増減しても、随時改定の対象にはなりません。ただし、残業代の支給割合(割増賃金率)や、固定残業代の金額を変更した場合は、随時改定の対象となるケースがあります。

ここでは、残業代と随時改定の関係について詳しく解説します。

残業代のみの変動は随時改定の対象にはならない

随時改定は、基本給や手当などの「固定的賃金」に変動があった場合に行われます。一方、残業代は実際の労働時間に応じて支給額が変動する「非固定的賃金」に該当します。

そのため、残業時間が増えた・減ったという理由だけでは、月額変更届の提出は不要です。時間外労働の増減は賃金体系の変更ではなく、あくまでも勤務実態の変化とみなされるためです。

随時改定の対象となる条件

随時改定は、すべての給与変動が対象になるわけではありません。以下の条件をすべて満たした場合に手続きが必要となります。

固定的賃金に大きな変動がある場合

固定的賃金に変動があることが、随時改定の起点となる条件です。固定的賃金とは、支給額や支給率があらかじめ決められた賃金のことで、勤務実績によらず毎月一定額が支払われるものを指します。

固定的賃金の例としては、基本給、役職手当、家族手当、通勤手当、住宅手当などが挙げられます。

昇給・降給のほか、新しい手当の支給開始や廃止も対象です。また、日給・時間給の単価変更や割増賃金率の変更によって実質的に固定的賃金が変わる場合も、随時改定の対象に含まれます。たとえば、結婚による家族手当の新規支給、引っ越しに伴う通勤手当の変更なども該当します。

標準報酬月額で2等級以上の差がある場合

固定的賃金の変動によって、改定前後の標準報酬月額に2等級以上の差が生じた場合、随時改定の対象となります。

標準報酬月額は、健康保険では50等級、厚生年金では32等級に区分されています。賃金の変動によってこれらの等級が2段階以上変わる場合に手続きが必要です。

ただし、次のようなケースは該当しません。

  • 固定賃金は増えたが、残業代が減ったため等級が下がった
  • 固定賃金は減ったが、非固定的賃金(残業代など)が増えて等級が上がった

つまり、固定的賃金の変動方向と等級変動の方向が一致している場合のみ随時改定の対象です。なお、上限または下限等級に該当する従業員については、1等級の変動でも随時改定の対象となるため注意が必要です。

3ヶ月間の支払基礎日数が17日以上の場合

固定的賃金が変動した月から3ヶ月連続で、支払基礎日数が17日以上あることが必要です。

支払基礎日数とは、給与計算の対象となる日数のことで、給与形態によってカウント方法が異なります。

  • 月給制・週給制:暦日数(休んだ日も含む)
  • 日給制・時間給制:実際の出勤日数

なお、完全月給制ではなく日給月給制の場合、所定労働日数から欠勤日数が控除されるため、欠勤が多い月は17日未満になる可能性があります。3ヶ月のうち1ヶ月でも17日未満になると、随時改定の対象外となるため、適切な勤怠管理が求められます。

随時改定の対象・対象外を一覧で確認

実務では、どの変動が随時改定に該当するかを素早く判断することが重要です。以下の表で、対象となるケースと対象外のケースを整理しました。

賃金の変動内容 随時改定の対象
基本給の昇給・降給 対象
役職手当・住宅手当などの新設・廃止 対象
固定残業代(みなし残業代)の金額変更 対象
割増賃金率(割増率)の変更 対象
通勤手当の変更(引っ越し・交通機関変更など) 対象
残業時間の増減による残業代の変動 対象外
ボーナス・賞与(年3回以下)の増減 対象外
皆勤手当・夜勤手当などの変動 対象外

随時改定の対象にならないケース

随時改定は、非固定的賃金のみが変動した場合には適用されません。非固定的賃金とは、勤務状況や業務成果に応じて支給額が変わる賃金のことです。

具体的には、残業時間の増減による残業代の変動、成果報酬やボーナスの支給額変更、皆勤手当や夜勤手当の増減などが該当します。給与総額が大きく変わっても、それが非固定的賃金の変動によるものであれば随時改定の対象にはなりません。実務では、どの賃金が固定的かを賃金台帳就業規則で事前に整理しておくことが大切です。

残業代の支給割合を変更する場合は随時改定の対象になる?

残業代の金額は通常、実際の労働時間に応じて毎月変動します。そのため非固定的賃金に該当し、残業時間の増減のみでは随時改定の対象にはなりません。

しかし、企業が残業代の「支給割合(割増賃金率)」を変更した場合は異なります。割増率の変更は賃金体系そのものの見直しに該当するため、固定的賃金の変更とみなされ、随時改定の対象になる可能性があります。

たとえば、法定の25%割増率から企業独自に30%へ引き上げた場合、毎月の給与計算方法自体が変わるため、固定的賃金が変更されたと判断されます。このような割増率変更時には、月額変更届の提出を検討する必要があります。

参考:標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集|日本年金機構

固定残業代の支給額を変更した場合も随時改定の対象になる

固定残業代(みなし残業代)は、あらかじめ決められた時間分の残業代を毎月一定額支給する制度です。「月30時間分の残業代を定額で支払う」といった形が代表例です。

固定残業代は、勤務実績に関係なく毎月支給されるため固定的賃金に分類されます。したがって、固定残業代の金額を変更した場合は随時改定の対象です。

一方、通常の残業代は実際の労働時間に応じて支給されるため、非固定的賃金として扱われ、随時改定の対象にはなりません。

注意すべきなのは、固定的賃金の変更がない場合です。残業代などの非固定的賃金が増減した結果、標準報酬月額が2等級以上変わったとしても、それだけでは随時改定には該当しません。

標準報酬月額と残業代の関係は?

随時改定は、固定的賃金に変動があった場合に適用される制度です。しかし標準報酬月額の算定には、固定的賃金だけでなく残業代などの非固定的賃金も含まれます。そのため全体の給与額に変動があれば、結果として社会保険料が増減する可能性があります。

随時改定の対象とならない変動でも、保険料に影響を与える場合がある点には注意が必要です。

標準報酬月額の対象となるもの

標準報酬月額は、労働の対価として安定的に支払われる給与・手当を基本に算定されます。固定的賃金だけでなく、残業代などの非固定的賃金も算定基礎に含まれます。

【標準報酬月額の対象となる報酬】

金銭(通貨)で支給されるもの 現物で支給されるもの
・基本給(月給・週給・日給等)
・能率給
・奨励給
・役付手当
・職階手当
・特別勤務手当
・勤務地手当
・物価手当
・日直手当
・宿直手当
・家族手当
・扶養手当
・休職手当
・通勤手当
・住宅手当
・別居手当
・早出残業手当
・継続支給する見舞金
・年4回以上の賞与
・通勤定期券
・回数券
・食事
・食券
・社宅
・寮
・被服(勤務服でないもの)
・自社製品

出典:算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和8年度|日本年金機構

標準報酬月額の対象とならないもの

すべての給与や支給額が標準報酬月額の算定に含まれるわけではありません。一時的に支給されるものや、労務の対価ではない支給物は算定対象外です。

金銭(通貨)で支給されるもの 現物で支給されるもの
・大入袋
・見舞金
・解雇予告手当
・退職手当
・出張旅費
交際費
・慶弔費
傷病手当
・労災保険の休業補償給付
・年3回以下の賞与
・制服
・作業着(業務に要するもの)
・見舞品
・食事(本人の負担額が、厚生労働大臣が定める額により算定した額の2/3以上の場合)

出典:算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和8年度|日本年金機構

これらの支給は、標準報酬月額に含めずに報告・計算を行う必要があるため、実務上は注意が求められます。

残業代が標準報酬月額・社会保険料に与える影響

残業代は非固定的賃金にあたるため、原則として随時改定の対象にはなりません。随時改定では固定的賃金の変動があってはじめて見直しの対象となるため、残業時間の増減だけでは適用されないのです。

しかし、残業代は標準報酬月額の算定には含まれるため、給与総額の変動を通じて保険料に影響を与えます。特に注意が必要なのは定時決定です。定時決定では4月〜6月に実際に支給された給与総額をもとに標準報酬月額が決定されるため、この時期の残業が多い場合、保険料が増額される場合があります。

健康保険料が上がっても、出産手当金や傷病手当金を除き保障内容は変わらず、負担だけが増える可能性があるため、企業・従業員ともに4〜6月の残業動向を意識しておくことが望ましいといえます。一方、厚生年金保険料が上がれば、将来的な年金受給額が増える可能性があります。

随時改定に関する注意点は?

随時改定は、固定的賃金の変動があった場合に適切な手続きを行うことが義務付けられています。届出の遅れや見落とし、手続き後の対応が不十分な場合には、企業にも従業員にも不利益が生じる恐れがあります。

ここでは、月額変更届にまつわる実務上の注意点を3つ解説します。

随時改定の届出を怠ると法的・実務的なリスクが生じる

随時改定が必要な従業員に対して届出を行わなかった場合、企業には法的・実務的なリスクが生じます。

事業主には「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」の提出義務があります。提出を怠ると、健康保険法にもとづき「6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。

実際に罰則が適用されるケースは稀ですが、年金事務所からの指摘により、遡って手続きや計算のやり直しが必要になる場合もあります。また、厚生年金保険料は将来の年金額に影響するため、適切な届出をしなければ従業員が不利益を被る可能性もある点に注意が必要です。

固定的賃金が変動しても欠勤がある場合は注意する

随時改定の適用には、「給与が変動した月以降の3ヶ月間すべてで支払基礎日数が17日以上あること」という条件があります。

固定的賃金が昇給や手当の変更で変動したとしても、欠勤が多く支払基礎日数が17日未満の月があれば、随時改定の対象外となります。

手続きを行う前に、対象3ヶ月の支払基礎日数を確認することが重要です。特に傷病や育児・介護による休業が多い従業員については、見落としが生じやすいため注意が必要です。

社会保険料が改定された際は速やかに従業員に周知する

随時改定によって標準報酬月額が変更になると社会保険料の額も変更されるため、企業はその内容を従業員に速やかに通知する義務があります。

保険料が変わると給与の手取り額が増減するため、あらかじめ説明しておくことでトラブル回避につながります。従業員への通知方法としては、給与明細への記載、社内メールや通知書の発行、社内掲示板や人事システムの活用などが挙げられます。

参考:被保険者への通知|日本年金機構

万が一、正当な理由なく通知を怠った場合には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。労使間の信頼関係維持のためにも、保険料変更の情報共有は確実に行いましょう。

随時改定や社会保険手続きが担当者に与える実務への影響

随時改定や定時決定といった社会保険の手続きは、残業代の変動や基本給の改定に伴い、突発的かつ定期的に発生します。これらの手続きは、人事労務担当者にとって大きな実務負担となっています。

多くの担当者が苦慮する社会保険手続きの現状

マネーフォワードが実施した調査では、入社手続きにおいて最もトラブルや苦労が発生しやすい項目は社会保険(健康保険・厚生年金)や住民税の手続きで、39.0%でした。また、こうした手続き上のトラブルや不備が実務に与える影響を分析したところ、最も大きな影響は担当者の残業時間が大幅に増加したことで、37.5%を占めています。

残業時間の増減によって発生する随時改定の手続きは、対象者の確認や支払基礎日数の計算など、細かな作業を伴います。正確な処理が求められる社会保険の手続きは、担当者の実務負担を増やす要因となっています。

出典:マネーフォワード クラウド、入社手続きにおいて特にトラブルや苦労が発生しやすい項目・トラブルによって生じた業務への影響【入退社に関する調査データ】(回答者:入退社に伴う書類手続きの実務または管理・承認の経験がある628名、集計期間:2026年2月実施)

随時改定と残業代の関係を正しく理解し、適切に対応しよう

随時改定は、固定的賃金の変動に応じて標準報酬月額を見直し、社会保険料を適正化する制度です。通常の残業代は非固定的賃金であるため随時改定の対象外ですが、固定残業代の金額変更や割増賃金率の引き上げがある際は、月額変更届の手続きが必要となる場合があります。また、残業代は標準報酬月額の算定に含まれるため、4〜6月の残業増加が定時決定時の保険料に影響する点にも注意が必要です。それぞれの制度の関係を正確に把握し、適切な手続きを行いましょう。

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