• 作成日 : 2022年1月14日

事業主代理人とは?社会保険との関わりから解説

事業主代理人とは?社会保険との関わりから解説

労働社会保険に関わる労災保険法、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法等の各法律には、「事業主代理人」という概念があります。開業社会保険労務士のように多くの企業の手続業務をしている場合は別として、一企業の人事労務担当者は、あまり馴染みがないかもしれません。今回は、事業主代理人とはどのようなものなのか、事業主と何が違うのか、また、各保険制度における選任のための手続等について解説していきます。

事業主代理人とは?

「事業主代理人」とは、その言葉の通り、事業主の代理人として労働社会保険の事務処理をすることができる者です。名称については、厳密には、保険制度によって必ずしも同じではありません。また、各保険制度でも、代理の対象となる業務によって申請書類が異なり、別の名称が用いられることがあります。

事業主代理人と取締役代表・社長との違い

そもそも代理人とは、契約の一般法である民法上の概念です。法律上、当然、代理権を付与されている親権者等は「法定代理人」であり、それ以外の委任等によって代理権を与えられる場合は「任意代理人」と呼ばれています。

任意代理人は、本人に知識がない場合や、多忙あるいは遠方に住んでいるため、契約ができない場合等を想定した制度と言えるでしょう。労働社会保険の事務処理は、私法上の代理とは同一ではありませんが、代理人の意思表示の効果が本人に直接帰属する点においては同一であると考えることができます。

そこで、代理権を授与するのが事業主、つまり法人の代表者である代表取締役や社長ということになります。そして、事業主から代理権を授与され、労働社会保険の事務処理をするのが、事業主代理人です。

事業主代理人になれるのはどんな人?

では、事業主代理人になれるのはどのような人たちなのでしょうか。

一般的に本店しかない小規模な企業でも、実際の労働社会保険の事務処理は事業主ではなく、担当の社員が行うことが多いと思われます。しかし、特に事業主代理人を選任することなく、事業主の名前で事務処理をするのが一般的です。何らかの問題があった場合には、事業主が責任者となって担当者とともに行政に対応することになります。

一方、国内に支店、工場等が多い規模の大きい企業の場合、事業主がそれぞれの担当者と連絡を取りにくい事態が想定できます。このような場合に、支店等の責任者を事業主代理人にすれば、問題が生じたときに各事業場で速やかに対応することが可能です。

具体的には、次のような人たちが各事業場の責任者であり、事業主代理人となることができます。

  • 支店長
  • 支社長
  • 工場長
  • 所長

この場合も、責任者である支店長や工場長が必ずしも実際の事務処理をするわけではありませんが、実務に精通した担当部長クラスが事業主代理人となるケースもあります。

健康保険・雇用保険・厚生年金における事業主代理人

労働社会保険では、事業主代理人が事業主の代理で事務処理をするということですが、その選任に関する手続について説明する前に、労働社会保険について、各制度の位置づけと所管の役所を簡単に整理しておきたいと思います。

一般的に社会保険という言葉を使いますが、広義には「社会保険(狭義)」と「労働保険」の2つを指して社会保険と言います。そして、狭義の社会保険は、健康保険と厚生年金保険、国民年金等が該当します。所管は日本年金機構(年金事務所)と全国健康保険協会(組合健保の場合は健康保険組合)です。

一方、労働保険も厳密には「労災保険」と「雇用保険」の2つに分けられ、所管はそれぞれ労働基準監督署と公共職業安定所(ハローワーク)になります。各保険の位置づけと所管がわかったところで、事業主代理人に関わる手続について、それぞれ説明していきましょう。

健康保険・厚生年金における代理人の申請方法

健康保険と厚生年金保険では、事業を立ち上げ、強制適用事業所(法人等)に該当すれば、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を年金事務所に提出しなければなりません。提出は、事業所の所在地を管轄する年金事務所への郵送、窓口持参のほか、電子申請でもできます。
新規適用届
新規適用届2

引用:新規適用届|日本年金機構

その際、すでに事業主代理人を選任している場合は、所定の記入欄に事業主代理人の氏名と住所を記入することになります。

新規の適用(新適)の時点で選任していなければ空欄で構いませんが、その後、事業主代理人を選任した場合は、「事業所関係変更(訂正)届」を提出する必要があります。新適で記入した事業主代理人を変更した場合も届出を行います。この書類も電子申請が可能です。
年金の制度・手続き
引用:事業所関係変更(訂正)届|日本年金機構

労働保険・雇用保険における代理人の申請方法

労働保険については、事業主代理人として事務処理できる手続がいくつかに分けられており、一部または全部を代理することができます。

前述したように労働保険は、労災保険と雇用保険ですが、健康保険と厚生年金と異なり、労働保険料(労災保険料と雇用保険料)の納付については別の法律である「徴収法」(労働保険料の徴収等に関する法律)に規定されています。

事業主代理人としての事務は、この労働保険料の納付手続(石綿健康被害者の救済のための一般拠出金も含む)もあり、これだけの事業主代理人も認められます。

また、労災保険の主たる内容は、労災事故が発生したときの保険給付ですが、その申請手続も事業主代理人の事務処理の対象となっています。

そして、雇用保険については、従業員が入社したとき被保険者の資格取得、被扶養者の異動等、被保険者関係の届出事務があり、これも事業主代理人の業務の対象です。

こうしたことから、労働保険では、次の3つの事業主代理人が存在します。

  1. 労働保険・一般拠出金代理人
  2. 労働者災害補償保険代理人
  3. 雇用保険被保険者関係届出事務等代理人

届出書類の様式(5枚綴り:1枚目=事業主控、2・3枚目=労働保険料・労災補償関係、4・5枚目=雇用保険被保険者関係)は、これらを一括して記載できるようになっているため、その事業主代理人がどの事務処理の代理権を与えられているかによって、届出の不要な表題は横線で抹消し、必要事項を記載することになります。

手続は、上記の1及び2については、まず、様式の2・3枚目を事業所の所在地を管轄労働基準監督署に提出し、その後、3については、様式の1・4・5枚目を事業所の所在地を管轄するハローワークに提出します。なお、こちらも電子申請も可能です。
届出書類の様式
引用:建設工事現場安全関係参考書式集|北海道建設業協会

事業主代理人に関して悩みやすいポイント

もともと労働保険と社会保険の監督官庁が、旧労働省、旧厚生省ということもあり、同じ保険制度とは言え、制度の建付けは複雑です。その点は、これまでの説明でもおわかりいただけたのではないでしょうか。

そのほか、事業主代理人の選任等に関して間違いやすい、あるいは悩みやすいポイントについて取り上げていきたいと思います。

事業主代理人の住所はどうしたらよい?

労働社会保険の事業主代理人の届出の様式については、すでにご覧いただきました。記載欄に、事業主代理人の住所を記入することになっていますが、あくまでも代理人本人が居住する住所であり、支店等、所属組織の所在地ではありません。

事業主代理人が複数いる場合は?

規模の大きい企業の場合、複数の事業主代理人が必要な場合もあるでしょう。また、労働保険の場合は、事務処理の分野がひとつだけではありません。こうしたことから、複数の事業主代理人を選任することは可能です。

ただし、一枚の様式での提出ではなく、事業主代理人ごとに選任届が必要になります。

事業主代理人について改めて確認しておこう

一般にあまり認知度の高くない事業主代理人について、詳しく解説してきました。事業主代理人について、選任が認められる労働社会保険の種類、選任の手続等について、理解していただけたのではないでしょうか。あわせて、複雑な労働社会保険の各制度の位置づけと所管の役所についても整理しました。制度の建付けの違いを知っておくことも大切です。

よくある質問

事業主代理人とは何ですか?

事業主から代理権を授与され、労働社会保険の事務処理をする者です。詳しくはこちらをご覧ください。

事業主代理人の住所には、どの住所を記入すればよいですか?

事業主代理人本人が居住する住所です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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