• 更新日 : 2024年8月21日

労働契約とは?雇用契約との違いや締結ルール、契約書の書き方まで解説!

労働契約は労働者と会社との間で交わす、労働や賃金についての契約です。雇用契約と同じとして取り扱われ、労働契約書と雇用契約書のどちらかの名称で契約書が作成・交付されます。労働基準法と労働契約法に則って、変更や更新、終了についてルールが定められています。特に解雇厳しく制限され、実施には解雇予告や解雇予告手当が必要です。

労働契約とは?

労働契約は労働者と使用者(会社)の間で締結する契約です。会社に労働力を提供して報酬を受け取る者を労働者、労働者に対して賃金を支払う者を使用者(会社)として、2者間で交わす契約を指します。労働者と使用者(会社)、双方の合意によって成立します。労働契約法第2条・第6条で以下のように定められています。

労働契約法 第2条

1.この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

2.この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

労働契約法 第6条

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

雇用契約との違いは?

雇用契約は労働者が会社に労働力を提供すること、会社は報酬を与えることについて交わした契約です。労働契約は労働契約法に規定されているのに対して、雇用契約は民法に規定されています。規定されている法律は異なるものの、実質的には同じものであり、実務ではほとんどの場合で区別なく、同じものとして取り扱われています。労働契約書を雇用契約書として交わしたり、労働者とはいえない親族に対して雇用契約書の代わりに労働契約書を用いたりすることがよくあります。

民法 第623条

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

業務委託契約との違いは?

業務委託契約は特定の仕事を他者に委ねる場合に取り交わす契約です。やって欲しい仕事がある一方は発注し、仕事がしたい一方が受注します。仕事を完了させて納品した受注者に対して発注者は報酬を支払い、この一連の契約が業務委託契約になります。業務委託契約と労働契約とでは報酬の支払い対象が異なります。労働契約では労働に対して報酬が支払われるのに対し、業務委託契約では成果物に対して報酬が支払われます。

労働契約に関連する制度は?

労働契約は労働についての契約であり、各労働法を遵守したものでなければなりません。主たる労働法である労働基準法、そして労働契約法における労働契約の関係について説明します。

労働基準法

労働基準法は労働者保護の観点から、会社が守るべき最低基準を定めた法律です。労働基準法を下回る条件で労働者を働かせることはできず、就業規則も個々の労働契約も労働基準法に抵触しない労働条件としなければなりません。

違反すると罰則が科せられたり、処罰されなくても労働基準法違反として企業名が公表されたりする恐れがあります。監督・指導を受けなければならなくなることも想定されます。

労働契約法

労働基準法が労働契約の内容について定めているのに対し、労働契約法は手続き方法について定めている法律です。労使間トラブルの発生防止を目的に、労働契約の内容の決め方、締結方法について規定しています。

労働契約の基本原則​とは?

労働契約には、基本として遵守しなければならない原則があります。この原則に反する労働契約は無効とされることがあります。

労使対等の原則

労使対等の原則は労働者と使用者の関係についてのルールです。対等でなければならず、どちらかが上の立場として、一方を支配してはならないことを示しています。

均衡考慮の原則

均衡考慮の原則は、他の労働契約との関係についてのルールです。労働者の身分によって、他の労働者と著しく差をつけてはならないことを示しています。非正規社員だからといって条件面で正社員との差を設けたり、年齢や性別によって待遇を変えたりすることを禁止し、就業実態に即した契約内容とすることを求める原則です。

ワークライフバランス配慮の原則

ワークライフバランス配慮の原則は、各労働者の望む働き方ができるような配慮を必要とすることを示しています。

信義誠実の原則

信義誠実の原則は、労使双方に求められる姿勢についての原則です。労働者及び使用者は、互いに相手を尊重し、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならないというものです。

権利濫用の禁止の原則

労働者・使用者ともに権利の濫用をしてはいけないという原則です。契約の範囲内であっても権利を振りかざし、みだりに行使してはならないことを示しています。例えば客観的合理性がなく社会通念上相当だと認められない解雇は、権利の濫用とされて行えません。

労働契約の締結に関するルールは?

労働契約の締結にはルールが定められています。改正があり、2024年4月より使用者が労働者に対して明らかにしなければならない内容が増えました。

労働条件の明示

使用者が2024年4月から労働契約締結時に新しく明示しなければならなくなった事項は、以下の通りです。

  • すべての労働者に対して 就業場所・業務の変更の範囲
  • 有期契約労働者に対して 更新上限の有無と内容

契約期間の明示

有期契約労働者に対してはトラブル防止の観点から、契約期間を明示するよう定められています。

労働契約の変更に関するルールは?

労働契約の変更は労働者・使用者の双方が合意すれば可能です。ただし労使の合意があっても、労働基準法などの法令に定められた最低基準を下回るような変更できません。

労働契約の更新に関するルールは?

有期労働契約の更新には雇い止めによるトラブル回避を目的としたルールが定められています。対象となるのは以下の有期労働契約です。

  1. 3回以上更新されている
  2. 1年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され、最初に労働契約を締結してから継続して通算1年を超えている
  3. 1年を超える契約期間の労働契約を締結している

雇い止めの予告

有期労働契約を更新しない場合は契約期間満了日の少なくとも30日前までに予告しなければなりません。

雇い止め理由の明示

雇い止めの予告を受けた有期労働契約の労働者が請求した場合は、雇い止め理由について証明書を発行しなければなりません。

​労働契約の終了に関するルールは?

労働契約の終了は労働者の生活に甚大な影響を及ぼします。権利の濫用となる解雇は、特に厳しく制限されています。

解雇の有効性

客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合、解雇は使用者による権利の濫用と解され、認められません。契約期間に定めのある労働者について、契約期間の満了前に労働者を解雇できるのは、やむを得ない事情がある場合に限られます。また有期労働契約であっても反復して更新されているか、合理的な理由により更新が期待されるものについての雇い止めは認められず、同一の条件で契約更新される必要があります。

解雇予告手当

やむを得ずに解雇が行われる場合でも、会社は30日前までに予告するか、解雇予告手当の支払いを行わなくてはなりません。解雇予告・解雇予告手当の支払いは労働基準法の定めによるもので、行わなければ罰則が科せられます。

労働契約書の作成は必要?

労働契約は口頭でも成立しますが、トラブル回避のため、書面で締結することが推奨されています。労働契約締結の際には労働条件通知書の交付が義務づけられているため、「労働条件通知書兼労働契約書」として作成される場合もあります。

労働契約書の書き方は?

労働契約書には労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条第1項に基づいて、以下の事項を記載する必要があります。

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  3. 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  4. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  5. 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  7. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
  8. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  9. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  10. 安全及び衛生に関する事項
  11. 職業訓練に関する事項
  12. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  13. 表彰及び制裁に関する事項
  14. 休職に関する事項

2.は期間の定めのある労働契約で、労働契約の期間の満了後に更新する場合がある者の締結に限られます。

7.から14.は定めをしない場合は明示も不要です。

労働契約書と就業規則の関係性は?

就業規則の基準に満たない労働契約は労働基準法第93条・労働契約法第12条の規定により、その部分が無効になります。無効になる部分は就業規則の内容が適用されます。

労働基準法 第93条

労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第12条の定めるところによる。

労働契約法 第12条

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

労働契約書の正しい作成により労働者と会社双方の権利をしっかり守ろう

労働契約は従業員と会社との間で締結される契約です。従業員は労働力を提供し会社は報酬を支払うことについての条件を定めたもので、締結・変更・更新・終了はルールに則って行わなければなりません。解雇ルールは特に厳しく、合理的理由や社会通念上相当であると認められなければ、無効とされます。また30日前の予告、あるいは解雇予告手当の支払いも必要です。

労働契約は、書面にする場合は労働条件通知書を踏まえ記載しなければならない事項があります。正しく労働契約書を作成し交付することは、労働者だけでなく会社にとっても大切です。お互いのため、労働契約者の正しい作成・交付を行いましょう。


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