• 更新日 : 2023年2月3日

労災保険とは?補償の種類や加入条件、労災保険料の計算方法、申請手続きまで解説

労災保険とは?補償の種類や加入条件、労災保険料の計算方法、申請手続きまで解説

労災保険とは、労災事故にあった労働者に国が治療に必要な費用を補助し、休業した際の生活費を補償するなど、被災した労働者に必要な給付を行う社会保険制度です。業務上の事故、通勤中の事故のほか、仕事が原因で発症する病気も適用されます。給付を受けるには申請手続きが必要であり、会社が請求することも、自分で請求することもできます。

労災保険とは?

労災保険は労働者を対象に、労災事故発生時などに必要な給付を行う社会保険制度です。労働者の仕事中や通勤中にした怪我、仕事によって発症する病気(白血病や肺がん、皮膚がん、甲状腺がん、腰痛、難聴、潜水病、高山病、伝染性疾患など)、長時間労働によって発症する病気(脳出血やくも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症など)、仕事による精神的な負担から発症する精神疾患(うつ病など)に対して、保険給付を行います。労災保険から保険給付を受けられるのは労働者に限られ、事業主や役員は原則として労災保険の対象外とされます。

労災保険が適用される労働者は、労働基準法の定義に基づく労働者です。労災保険は労働者災害補償保険法に基づく保険制度ですが、労働基準法にも使用者に災害補償を義務付ける規定があり、労働者災害補償保険法と労働基準法には密接な関係があります。このため労災保険の対象となる労働者は、労働基準法の定義による労働者とされています。

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労災保険の適用範囲

労働者の怪我や病気に労災保険が適用されるかどうかは、次の2つの条件で判定されます。

  • 業務遂行性
  • 業務起因性

業務遂行性とは、労働者の怪我や病気が業務を行う上で発生したものであるのかを問うものです。雇い主や上司の支配下にあって、業務上の指示を受けて業務を遂行している状態であれば、業務遂行性があると判断されます。

業務起因性とは、労働者の怪我や病気の原因と業務に関連性があるかを問うものです。例えば仕事中の怪我でも、同僚との個人間の揉めごとで殴られたり、犯罪者の侵入で切りつけられたりした場合には、個人間の問題であり、業務起因性はないと判断されます。

労働者の怪我や病気が労災であると認められるためには、業務遂行性が前提としてあり、さらに業務起因性が認められる必要があります。例えば、事業主の支配下にあり、事業場の施設内で業務遂行中に起きた事故は業務遂行性と業務起因性の2つがあり、労災であると認められます。

通勤災害については、職場と住居の移動が「合理的な経路や方法」によって行われたものであるかがポイントです。したがって、営業先から次の営業先に移動するなど、業務に関連した性質を持つ移動は通勤災害ではなく、業務災害に該当します。

合理的な経路から逸脱することや、通勤とは関係のない行為により中断した場合には、原則として逸脱や中断をしている間とその後の移動は通勤とは認められず、通勤災害の適用の対象外となります。ただし、ジュースの購入やトイレに行くなどのささいな行為は、逸脱や中断したものとはみなされません。また、日常生活上必要な買い物や、病院に通院するなど、やむを得ない理由による日常生活上必要な最小限の行為をする際には、逸脱・中断の間を除き、通勤経路に戻れば、その後の移動は通勤と認められます。

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労災保険の補償・給付の種類

業務や通勤による病気や怪我に対して、次の給付が労災保険から行われます。
なお、業務災害と通勤災害では各給付の呼び方に違いがあることも覚えておきましょう。例えば、業務災害の場合には「療養補償給付」、通勤災害の場合には「療養給付」と同じ補償内容でも異なる呼び方をします。業務災害、通勤災害とを区別なく呼ぶ場合には、ここでは「療養(補償)給付」とカッコ書きで表記しています。

療養(補償)給付

療養(補償)給付とは、労働者が業務災害や通勤災害による怪我や病気で治療が必要になった際に受けられる給付をいいます。治療費のほか、入院にかかる費用や薬代、また病院に通う交通費なども対象となります。

療養(補償)給付には、「療養の給付」「療養の費用の支給」の2種類があります。労働者が、労災保険の指定医療機関や薬局を受診する場合には、現物給付として労災保険から医療機関に直接治療費が支払われるため、無料で診察を受けることが可能です。これを「療養の給付」といいます。

なお、労災として療養(補償)給付の対象となる怪我や病気で医療機関を受診する際は、健康保険証を使用しないように注意しなければなりません。誤って健康保険証を使用して受診した場合には、診療報酬の返還と労災の療養の費用の請求の手続きが別途必要となります。

参考:健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか。|厚生労働省

休業(補償)給付

休業(補償)給付とは、業務災害や通勤災害による怪我や病気で仕事ができないときに受けられる給付をいいます。休業(補償)給付では、仕事に行けない日の4日目から労働基準法における平均賃金に相当する給付基礎日額の8割(保険給付6割と特別支給金2割の合計)が支払われます。休業(補償)給付が受けられる条件は以下の通りです。

  • 業務上の事由又は通勤による怪我や病気で、療養しており仕事ができないこと
  • 休業中は会社から賃金の支払いを受けていないこと
  • 休業を開始して4日目以降であること

なお、業務災害の場合には、休業3日目までは労働基準法における休業補償として平均賃金の6割を企業は支払う必要があります。

傷病(補償)年金

傷病(補償)年金は、業務災害や通勤災害による怪我や病気が治療を開始してから1年半以上たっても治ゆせず、重い症状があり、治療を続ける必要があるときに支給されるものです。

傷病(補償)年金を受けるには、怪我や病気によって残った症状が法律で定められた傷病等級表で定める等級に該当することが条件となります。

なお、支給・不支給の決定は労働基準監督署長の職権によって決まるため、労働者が請求手続きを行う必要はありません。ただし、労災による怪我や病気の治療を開始してから1年6カ月以上経過しても治ゆしていない場合には、「傷病の状態に関する届」を労働基準監督署長に提出する必要があります。

なお、「治ゆ」とは、症状が固定し、これ以上治療しても効果が望めない状態をいいます。傷病の症状が安定して治療の必要がない状態のことであり、完全に回復した場合だけとは限りません。

参考:傷病等級表(PDF、P12 )|厚生労働省

障害(補償)給付

障害(補償)給付は、業務災害や通勤災害による怪我や病気が治ったあとも一定以上の障害が残っている場合に受けられる給付をいいます。障害(補償)給付の対象になるのは、これ以上治療を続けても、症状が改善されない状態(治ゆ)です。障害(補償)給付は、障害等級によって、年金として毎年支給されるものと、1回限り支給される一時金とに分けられます。

参考:障害等級表|厚生労働省

介護(補償)給付

介護(補償)給付とは、障害(補償)年金もしくは傷病(補償)年金の給付を受けている人で、一定以上の等級に該当する場合に支給されるものです。介護(補償)給付は、受給者が実際に介護を受けているときに支給されます。

給付の内容は、介護が必要な程度と介護の家族や親族等から介護を受けているかどうかによって異なります。介護の必要な程度には「常時介護」「随時介護」があり、障害・傷病の等級などから具体的な障害の状態が判断されます。

遺族(補償)給付

遺族(補償)給付とは、労災が元で死亡した労働者の、遺族に対して支給されるものです。遺族(補償)給付には、「遺族(補償)年金」「遺族(補償)一時金」の2種類があります。

遺族(補償)年金を受け取る対象者は、死亡した労働者の収入によって生計を維持していた配偶者や子、父母や孫、等です。共働きの場合も対象になりますが、妻以外の遺族の場合には、年齢や障害があることなど他の条件が付与されます。

遺族(補償)年金は、対象範囲の家族がすべて受け取れるのではなく、定められた優先順位の最上位に該当する遺族が受給します。同順位に二人以上の遺族がいる場合には、支給額が等分されます。なお、遺族(補償)年金を受給していた人が亡くなるなどして受給権を失った場合には、その人の次順位の人が受給権者となる「転給」と呼ばれる制度があるのも、遺族(補償)年金の大きな特徴です。

遺族(補償)年金を受給する遺族がいない場合で、以下に該当するときは遺族(補償)一時金が支払われます。

  • 当該労働者の死亡時に、遺族(補償)年金の受給資格者がいない
  • 遺族(補償)年金の受給者が全員失権したとき、それまでに支払われた年金の合計額が給付基礎日額の1,000日に満たない

二次健康診断等給付

二次健康診断等給付とは、職場の定期健康診断において、脳・心臓疾患に関するなんらかの異常の所見があると診断された場合に、二次健康診断と特定保健指導を、年に1回無料で受診することができる制度をいいます。

二次健康診断等給付を受けるには、それまでに脳や心臓疾患の症状を有していないことや、特定の検査項目において「異常の所見」があると診断されることが条件となります。

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労災保険の加入条件

労災保険の給付が利用できる労働者は、パート・アルバイト、正社員などの雇用形態を問わないすべての労働者です。つまり、労働者を雇用する事業主は、個人経営の農林水産業などを除き、原則として1人でも労働者を雇えば労災保険に加入する義務があります。

なお、労災保険は雇用保険とあわせて、労働保険と呼ばれます。給付は各保険制度から行われますが、保険料の徴収については原則として労災保険と雇用保険を一緒に、「年度更新」と呼ばれる労働保険の申告と納付の方法によって行います。

労災保険は労働条件に特段の条件はなくすべての労働者に適用されますが、雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用される見込みのあるなどといった、被保険者となる条件に該当する労働者が対象となります。

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労災保険料の計算方法

労災保険料は、従業員全員の給与総額に、労災保険料率を掛けて算出します。労災保険料率は、事業の種類によって、業種ごとに厚生労働省が定められており、事故が発生しやすい業種の保険料率が高いのが特徴です。たとえば、林業や漁業、鉱業など仕事での危険が伴う職種では保険料率が高めに設定されています。保険料の労働者負担分はなく、全額事業主の負担となります。

参考:令和4年度の労災保険率について ~令和3年度から変更ありません~|厚生労働省

労災保険の申請手続き

労災保険の申請手続きは以下の方法で行いますが、被災労働者本人は療養中で手続きをすることが難しいため、事業主が被災した労働者に配慮・協力して手続きをするのが一般的です。

  1. 請求書を入手する
    労災保険の請求書は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
    労災保険給付関係請求書等ダウンロード|厚生労働省
    印刷して使用しますが、直接入力できるファイルもダウンロードできるようになっています。申請する労災保険の種類によって請求書が違うため、間違わないように注意が必要です。
  2. 必要事項を記入する
    記入する必要事項は正確に、かつ、わかるように記述することが求められます。請求書のダウンロード先には記載例もあるため、確認しながら記入できます。
  3. 事業主証明欄に記入してもらう
    労災保険の請求書には事業主証明欄があり、記入は事業主が行います。断られた場合には「証明拒否理由書」など、事業主が証明をしてくれない理由を説明した書類を添付して提出します。したがって、事業主が労災保険の給付の申請を拒んだとしても、労働者自身で書類を作成すれば、労災は手続きをすることが可能です。
  4. 労働基準監督署に提出する
    労災保険の請求書の提出先は、労働基準監督署です。療養(補償)給付や二次健康診断等給付に関する請求書類は病院経由、それ以外は直接労働基準監督署に提出します。労働者自身の住所を管轄する労働基準監督署ではなく、勤め先を管轄する労働基準監督署が提出先となりますので、注意しましょう。

労災保険の特別加入制度

労災保険の特別加入制度とは、労災保険制度の主旨を損なわない範囲で、本来労災保険の対象ではない事業主や自営業者とその家族従事者などを、特別に任意加入することを認める制度をいいます。

特別加入制度の対象となるのは、以下の4種類です。

  • 中小事業主
  • 一人親方(自営業者)
  • 特定作業従事者
  • 海外派遣者

また、加入できる対象は年々追加され、2023年1月現在では以下の職種も特別加入制度の対象となっています。

  • 芸能関係作業従事者
  • アニメーション制作作業従事者
  • 柔道整復師
  • 創業支援等措置に基づき事業を行う者
  • 自転車を使用して貨物運送事業を行う者
  • ITフリーランス
  • あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
  • 歯科技工士

仕事が原因で病気や怪我をした場合は労災保険の給付を受けよう

労働者が仕事中や通勤中の事故で怪我をしたり、仕事によって病気になったりした場合には、治療などの医療費や仕事ができずに休む場合の休業補償など、労災保険から必要な給付が行われます。怪我が治って障害が残った場合にも、障害の程度に応じた給付が行われます。そのほかにも不幸にして死亡してしまった場合の給付、介護が必要になった場合の給付などもあります。

労災保険の給付は、申請手続きをしなければ受けられません。通常は会社が手続きをするのが一般的ですが、労災保険の給付は労働者が自ら申請手続きしても受けることができます。「面倒くさい」、あるいは「労災事故を知られたくない」といった理由から、労災保険申請手続きをやりたがらない会社も残念ながらありますが、労災隠しは違法行為です。

業務や通勤を理由とするケガや病気には健康保険は利用できないのが原則。労災保険の給付や申請方法を理解し、適切に手続きをしましょう。

よくある質問

労災保険とはなんですか?

労働者が業務災害や通勤災害にあった場合に、必要な給付を行うための社会保険制度の1つです。詳しくはこちらをご覧ください。

労災保険の適用範囲について教えてください。

仕事中や通勤中の怪我、仕事に起因して発症する病気、これらの怪我・病気による障害や介護や死亡に対して、労災保険から給付が行われます。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:加治 直樹(経営労務コンサルタント)

銀行に20年以上勤務し、融資融資から資産運用、年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタント。退職後、かじ社会保険労務士事務所として独立。現在は行政で企業及び労働者の労働相談業務を行いながら、セミナー講師など幅広く活動中。

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