- 更新日 : 2024年6月21日
アウティングの意味は?具体例や違法性、企業の対応・防止策を解説
アウティングとは、性のあり方について本人の同意を得ずに第三者が暴露することを意味する言葉です。性のあり方について自分自身で他者に伝える「カミングアウト」と対になる言葉としても使われています。事例や問題点、アウティングされたら、あるいは、してしまったらどう対応すべきかについて解説します。
目次
アウティングの意味は?
アウティングとは、本人の同意を得ずに性のあり方について第三者が暴露することです。本人が自分の性のあり方について自分で他者に伝える「カミングアウト」の対になる言葉とされています。
すべての人が尊重される社会を実現するためにも、アウティングについて正確に知り、アウティングをしないことが大切です。なお、アウティングには別の意味もあります。英語での意味について見ていきましょう。
アウティングの英語の意味
アウティングは、日本語では同意を得ない第三者への性的自認の暴露という意味で使うことが一般的です。
しかし、英語のアウティング(outing)には遠出や遠足、ピクニックなどの意味もあり、性のあり方についての暴露の意味以外でも使われます。また、競技会への出場や投手の登板といった意味で使われることもあります。
職場でのアウティングの具体例
職場では上司や人事課職員などが、従業員の個人情報を知り得る立場に立つことがあります。そのため、人によっては個人情報を勝手に第三者に開示し、アウティングにつながることもあるようです。
例えば、緊急連絡先として同性パートナーの名前を上司に伝えたところ、勝手に別の従業員に情報を暴露されたというケースがあります。上司は「自分で伝えるのは恥ずかしいだろうから言っておいた」「1人くらい伝えても別にいいでしょう」と、後で本人に説明したそうです。
また、次のようなケースもあります。
- 飲み会の席で、性的指向を侮辱的に暴露された
- 本人が不在のときに、本人の同意を得ず、性的指向を社員全員に伝えた
アウティングの問題点
アウティングには、次の問題点があります。
- プライバシーの侵害
- 差別やハラスメント
- 精神的な苦痛
- 生活や人生が脅かされる
それぞれの問題とアウティングがどのように関わるのか、詳しく解説します。
プライバシーの侵害
個人情報を同意なく暴露するアウティングは、プライバシーを侵害する行為です。他人の個人情報を知ったときは、「これくらいならいいだろう」と自己判断をせずに、第三者に漏えいしないことが大切です。
「これくらい……」と思えるようなことでも、個人情報を漏えいされた側にとっては、大きな意味を持つことが多々あります。どうしても第三者に伝える必要が生じたときは、本人の了承を得るのはもちろんのこと、伝え方や伝える内容についても確認を取るようにしましょう。
差別やハラスメント
性的マイノリティに対して、差別意識を持っている人もいると考えられます。差別意識を持っていなくても、「あの人はわたしとは違う」「変わっている」と認識することで、無意識のうちに差別する気持ちが生まれるかもしれません。
性的自認について伝えることが、相手にどのような意識の変化をもたらすかは予測しにくいため、本人の同意を得ずに暴露するのは危険な行為といえます。
また、上司や指導教授などの支配的立場にある人が、部下や学生の性的指向を第三者に伝えるのは、パワーハラスメント(パワハラ)に該当する可能性があります。部下や学生の個人情報を知る立場にいること、さらに部下や学生が容易には言い返せない立場であることを悪用したとも考えられるため、悪質な行為であることは疑いありません。
精神的な苦痛
自分の性のあり方を他人に伝えることは、人によっては勇気を必要とします。特に性的マイノリティと考えられる人にとっては、「受け入れられるだろうか」「異端者扱いされないだろうか」といった不安を伴うため、さらに大きな勇気を必要とするかもしれません。
プライベートかつセンシティブな話題である性的自認について他人が勝手に言いふらす行為は、本人に大きな精神的な苦痛を伴う行為であることは想像に難くありません。つまり、アウティングは精神的な暴力行為ともいえるのです。
生活や人生が脅かされる
アウティングにより、生活や人生が脅かされることもあります。例えば、性的マイノリティに対して差別意識を持つ人が本人の性的指向を知り、嫌がらせ行為をしたり、無視をしたりするかもしれません。また、さらに話題を広め、多くの人が本人の性的指向について知るように仕向ける可能性もあります。
アウティングをされた人によっては、常に「誰かが自分の噂をしているのかもしれない」と疑心暗鬼になり、人前に出ることを避けるようになるかもしれません。場合によっては、引きこもるようになったり、うつ症状を発したりすることもあるでしょう。
アウティングは違法?
アウティングは場所や立場によっては違法行為になる可能性があります。アウティングを禁じる条例や法律について見ていきましょう。
アウティング禁止条例
2018年に東京都国立市が全国初となるアウティング禁止条例を施行して以来、同様の条例を施行する自治体も増えてきました。2020年には5つの自治体、2023年10月時点では26の自治体がアウティングを禁止する条例が施行されています。
アウティング禁止条例がきっかけとなり、アウティングの予防策を自治体が主体となって講じることが可能になり、また、被害者救済にもつながると期待されています。
パワハラ防止法
労働施策総合推進法が改正され、2020年6月1日より大企業で、2022年4月1日より中小企業で、職場でパワハラ対策を実施することが義務化されました。指針に掲げられている次の点は、アウティングが起こらないための対策を講じることの必要性を指摘しています。
(イ)該当すると考えられる例
① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。ヘ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
(イ)該当すると考えられる例
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
参考:労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について|厚生労働省
アウティングが起きた場合の企業の法的責任は?
労働施策総合推進法の改正により、大企業だけでなく中小企業でも職場におけるパワハラ対策の実施が義務化されました。各企業では、次の施策の実施が必要です。
- 職場においてパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者と労働者に周知・啓発する
- 就業規則やその他の服務規律でパワハラを行ってはならない旨の方針を規定する
- 職場においてパワハラにかかる言動を行った者に対して、厳正に対処する方針を就業規則やその他の服務規律で規定し、管理監督者と労働者に周知・啓発する
- アウティングを含むパワハラの相談窓口を設ける
なお、上記の施策は実施が義務化されていますが、罰則が規定されているわけではないため、義務を怠ったことが原因となりアウティングが起こったとしても企業に処罰が科せられるわけではありません。
しかし、いくつかの観点から民事上の損害賠償責任が問われる可能性があります。
安全配慮義務違反
企業には、従業員が安全を確保しつつ労働に従事するために必要な措置を取る義務が課せられています。アウティングが起こったという事実は、従業員が安全に働く環境が整えられていなかった可能性を示唆するため、企業側が安全配慮義務違反を犯している可能性が想定されます。
使用者責任
アウティングをした従業員が責任を問われるのは当然のことですが、その従業員を雇用していた企業も、使用者としての法的責任(使用者責任)が問われることがあります。
不法行為責任
故意もしくは過失により、企業が他人の権利や法律上保護される利益を違法に侵害した場合は、不法行為責任として損害賠償責任を負うことがあります。
なお、上記の例はいずれも民事上の損害賠償の例ですが、アウティングの内容が名誉棄損や脅迫罪、侮辱罪に相当すると判断される場合には刑法上の処罰が科せられる可能性があります。
アウティングが起きた場合の企業の対応
企業内でアウティングが起こったときは、次の対応が必要です。
- ヒアリングの実施
- 判明した事実に基づく処置
それぞれの対応について解説します。
ヒアリングの実施
事実関係を正確に把握するために、まずはヒアリングを実施します。偏りなく情報を整理するためにも、被害者に最初にヒアリングを行い、次に加害者に尋ねてください。また、加害者がアウティングした第三者にもヒアリングを実施し、客観的な事実を調べます。
ヒアリングの内容は、すべて議事録として残しておきましょう。また、第三者に対するヒアリングは、最低限の範囲にとどめてください。二次的なアウティングが発生しないように、ヒアリングの対象を厳選することが必要です。
判明した事実に基づく処置
アウティングの事実が特定できた場合は、被害者の配置転換を検討します。あくまでも被害者の意向に沿うように、適切な処置を行いましょう。また、両者が希望する場合は謝罪の場を設け、ヒアリングを実施した第三者には知り得た情報を広めないように指示します。
アウティングが悪質と判断されるときは、加害者の配置転換や懲戒処分などが必要です。始末書を書かせる、一定期間出勤を停止する、懲戒解雇をするなど、悪質性と照らし合わせて適切な処分を選択します。
アウティングを防止するために
アウティングが起こらないためにも、企業は以下の施策を実施することが必要です。
- 就業規則の規定の見直し
- 教育や研修・周知の徹底
- 相談窓口の設置
それぞれの施策について解説します。
就業規則の規程の見直し
就業規則内に、アウティングを禁じる規定を設けます。なお、新しく項目を立てて、アウティングを禁じる必要はありません。2007年4月1日の改正男女雇用機会均等法の施行により、企業はセクハラ防止対策の措置を講じることが義務付けられましたが、その際に設けた規定に含める形でアウティングの防止措置を講じることも可能です。
就業規則内にアウティングを防止する一文を含めることで、万が一、アウティングが起こっても、ヒアリングや懲戒処分を実施する根拠とできます。また、アウティングが禁じられていることを従業員に周知する効果も期待できます。
教育や研修・周知の徹底
どのような行為がアウティングやハラスメントにあたるのか、正確に理解できていない従業員もいるかもしれません。また、本人にとっては悪意のない行為や言葉であっても、相手を傷つけることがあるという事実を理解できていない従業員もいるでしょう。
アウティングやハラスメントに対する教育や研修を実施し、従業員各自が自分の行為を見直し、適切な言動を心がけられるようにします。また、ポスターやパンフレットなどを作成し、アウティングやハラスメントが間違った行為であること、企業で厳正な対処を実施することを従業員に周知します。
相談窓口の設置
被害に遭った従業員や被害を見聞きした従業員が気軽に相談できる窓口を設置します。
窓口には適切な人材を配置し、個人情報の保守を徹底してください。窓口の人材に対して何度も教育を実施し、相談時に不適切な言動(被害者に対して、「あなたも悪かったのではないの?」「少し我慢したら?」など)をしないように指導することも必要です。
なお、相談窓口は対面以外にも、電話やメールなどでも設けられます。また、社内の人には話しにくい場合も想定し、外部窓口も検討してみましょう。
アウティングやハラスメントのない職場づくりを目指そう
すべての人が働きやすい職場を実現するためにも、アウティングやハラスメントのない職場、他人を傷つける行為が許されない環境を作ることが大切です。まずは従業員に対してアウティングやハラスメントの研修を実施し、どのような行為が不適切なのか、そして、企業ではどのような対応を取るのかについて周知してください。
また、就業規則やパンフレットなどでもアウティングやハラスメントを禁じることを明記し、企業側の姿勢を明らかにすることも重要です。個人情報が適切に守られ、すべての従業員が安心して働けるように、職場環境の改善を進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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