- 更新日 : 2024年8月29日
入社誓約書とは?テンプレートを基に必要項目や書き方、法的効力を解説
入社誓約書は、内定者が企業の規則や方針を理解し、遵守することを約束する重要な文書です。人事担当者は、入社誓約書の意義や必要性を深く理解し、適切な内容で作成することが求められます。
この記事では、入社誓約書の基本的な概念から、テンプレートを活用した作成方法、法的効力、トラブル対応まで、実務に役立つ情報をわかりやすく解説します。
目次
入社誓約書とは?
入社誓約書は、内定者が企業の定めるルールや条件を遵守することを誓約する文書です。文書には、入社後に従うべき服務規程や秘密保持、人事異動への同意などが含まれることが一般的です。内定者はこの書類に署名・押印することで、企業の規定に従うことを約束します。
入社誓約書の役割
入社誓約書の主な役割は、入社前に内定者と企業間での期待を明確にし、双方の認識を一致させることです。また、企業にとっては、従業員が業務上知り得た情報の秘密保持や、就業規則の遵守を保証する手段として機能します。これによって、人事部門も新入社員の入社後のトラブルを防ぎ、スムーズに業務を進めることができます。
入社誓約書に法的効力はある?
入社誓約書には、一定の法的効力があります。ただし、誓約書は、企業が作成した一方的な約束事を記載したものであり、違反した場合には一定の法的措置を取ることが可能ですが、内容が公序良俗に反するものであればその効力を失います。また、誓約書の内容が就業規則と矛盾する場合、就業規則が優先されるため、誓約書の内容は慎重に検討する必要があります。
内定承諾書との違い
内定承諾書と入社誓約書はしばしば混同されがちですが、その目的と内容には明確な違いがあります。内定承諾書は、内定者が内定を受け入れ、入社する意志があることを示す文書です。これに対して、入社誓約書は、入社後に従業員が守るべき具体的な規則や条件を定めたものです。内定承諾書は主に入社の意思表示に関するものであり、入社誓約書はその後の職務遂行に関連する約束を含んでいます。
入社誓約書のテンプレート、ひな形
入社誓約書が重要な役割を担うことはご理解いただけたのではないでしょうか。入社誓約書のテンプレート、ひな形をワードとエクセルの2種類のフォーマットでご用意しました。必要に応じてダウンロードすることができます。
入社誓約書の必要項目と書き方
入社誓約書では、どのような項目を設け、どのような記載をすべきなのでしょうか。ここでは必須の6項目を挙げ、例文を示します。
就業規則の遵守
入社誓約書には、従業員が企業の就業規則を遵守することを明示する項目が含まれます。具体的には、「会社の就業規則に準拠し、その内容を遵守する」といった文言が使用されます。
例文:私は、会社の就業規則に準拠し、その内容を遵守することを誓約します。
人事方針、業務命令の遵守
この項目では従業員は、会社の人事方針や業務命令に従うことを約束します。これには、業務の遂行方法や職務の変更に関する命令への従順が含まれます。
例文:私は、会社の人事方針及び業務命令に従い、所属長・上司の指示に誠実に従います。
秘密保持義務
秘密保持義務従業員は、会社の機密情報や顧客情報などの秘密を厳守する義務を負い、情報の漏えいや悪用を防ぐための措置を講じることについても誓約します。
例文:私は、会社の秘密情報および顧客情報を厳守し、第三者に漏らさないことを誓約します。
競業避止義務
在職中および退職後において、従業員は会社の競合他社との競業行為を禁止されることがあります。かつては在職中の競業禁止を就業規則に規定するのが一般的でしたが、近年は働き方改革の中で変化しつつあります。会社の許可があれば競業・兼業が可能になってきています。ただし、一般的に退職後の競業禁止のルールは変わっていません。
例文:私は、退職後一定期間内、貴社の業務と競合する事業に従事しないことを誓約します。
企業秩序を乱す行為の禁止
従業員は、会社の秩序や風紀を乱す行為を行わないことを誓います。これには、パフォーマンスや品位に関する規定が含まれます。
例文:私は、会社の名誉や信用を損なう行為を行わないことを誓約します。
損害賠償・懲戒処分
入社誓約書には、従業員が違反行為を行った場合には損害賠償や懲戒処分を受ける可能性があることを明示します。
例文:私は、故意または重大な過失により会社に損害を与えた場合、その賠償責任を負うことを誓約します。
入社誓約書を作成する際の注意点
ここでは、企業が入社誓約書を作成する際にどのような点に注意すべきか、五つのポイントを挙げて解説します。
事業内容に合わせた記載項目を作成する
入社誓約書を作成する際は、企業の事業内容や職種に応じた記載項目を設定することが重要です。例えば、経理職であれば「防犯カメラの設置への事前了承」や「会計情報の取り扱いに関する誓約」など、職種特有のリスクに対応した項目を盛り込む必要があります。
誓約事項は必要な範囲内で設定する
誓約事項は、法律で認められている範囲内で、かつ必要最小限に留めるべきです。不当に労働者の権利を制限する内容や、公序良俗に反する内容は無効となる可能性があるため、法的に許容される範囲内で誓約を求めることが肝要です。
誓約に違反した時の対応方針を明示する
誓約書には、誓約に違反した場合の対応方針を明示することが望ましいでしょう。これには、違反行為に対する懲戒処分の可能性や、損害賠償の請求についての記載が含まれます。ただし、過失による損害賠償や残業代請求権の放棄を求める内容は法律で禁止されています。
社員の自由な意思に基づいて同意を得る
入社誓約書の同意は、社員の自由な意思に基づいて得るべきです。強制や不当な圧力による同意は、誓約書の効力を損なう原因となります。社員が内容を十分に理解し、納得の上で署名・押印することが重要です。
入社誓約書とともに労働条件を通知する
労働契約を締結する際、労働条件を明示する労働条件通知書を交付することが法律で義務付けられています。これにより、労働者は自身の労働条件を正確に把握し、企業との契約内容を明確にすることができます。入社誓約書を労働契約締結の際に提出させるのであれば、労働条件通知書の交付も必要になります。
入社誓約書の提出を拒否されたら?
入社誓約書の提出を拒否された場合、企業はいくつかの対応策を取ることが考えられます。まず、入社誓約書の提出は法的に義務付けられていないため、提出を強制することはできません。しかし、企業は就業規則などで提出を義務付けることが可能です。この場合、入社誓約書の重要性や提出の理由を明確に説明し、内定者が納得するよう努めることが重要です。
説明と説得
企業は入社誓約書の目的と重要性を丁寧に説明することが求められます。その際、会社の就業規則上のルールの遵守、秘密保持義務の確認などについても説明する必要があります。内定者に対して、これらの点を理解してもらい、誓約書の提出の意義を認識してもらうことが大切だといえるでしょう。
代替案の提供
提出を拒否する内定者に対して、書面ではなく口頭での確認や、内容を簡略化した文書の提出を求めるなど、柔軟な措置をとることも考えられます。代替案を提供することによって内定者が感じるプレッシャーを軽減しつつ、適切な方向性に導いていくことができます。
内定取り消しの検討
最終手段として、内定者が誓約書の提出を拒否し続ける場合、企業は内定の取り消しを検討することがあります。ただし、この措置は内定者にとって重大な影響を及ぼすため、非常に慎重に行う必要があります。内定取り消しを行う前には、その理由が「客観的かつ合理的であり、社会通念上相当である」と判断できるかどうかを検討し、必要であれば弁護士などに法的な助言を求めることが推奨されます。
以上の対応策を通じて、企業は入社誓約書の提出を拒否された場合の対応を適切に行うことができます。どの対応を選択するにせよ、内定者とのコミュニケーションを重視し、双方にとって納得のいく解決を目指すことが重要です。
入社誓約書のサイン後に辞退されたら?
入社誓約書にサインをした後に内定者から辞退されるケースはまれですが、生じる可能性は否定できません。この場合、企業としては以下のような対応が考えられます。
内定辞退の理由を確認
まずは内定者から辞退の理由をしっかりと聞き取ることが重要です。やむを得ない事情があるのか、それとも単に他社への就職を選んだだけなのかを見極める必要があります。
誠意ある対応を求める
内定辞退の連絡が遅れたり、説明が不十分だったりした場合は、内定者に誠意ある対応を求めるべきでしょう。入社に向けて準備を進めていた企業側の立場を理解してもらい、十分な説明を求めます。
損害賠償請求の検討
内定辞退が著しく信義則に反するような悪質なケースでは、例外的に損害賠償請求を検討することもあり得ます。ただし、そのハードルは高く、訴訟に発展するケースはまれです。
再募集の実施
内定辞退によって欠員が生じた場合は、速やかに再募集を行う必要があります。内定辞退の時期が遅いほど、採用活動の負担は大きくなります。できるだけ早期に次の候補者を見つけられるよう、採用計画を見直すことが求められます。
いずれにせよ、内定辞退は企業にとって大きな損失となります。内定者との良好なコミュニケーションを通じて、辞退を未然に防ぐことが何より重要です。万が一辞退されてしまった場合も、冷静かつ誠実に対応することが求められるでしょう。
入社誓約書の受け取り後に内定取り消しはできる?
企業が内定を出し、入社誓約書の提出を受けた後、内定の取り消しはできるのでしょうか。
内定でも労働契約の締結
そもそも入社誓約書(内定承諾書)の提出を問わず、内定は当事者双方が合意し、労働契約は成立しているというのが法的な解釈です。ただし、学生は在学中であることから、現実には就労できないため、最高裁判所は、「内定は解約権留保付きの労働契約」としています。
しかしながら、契約の解約権の行使である内定取り消しは、解雇と変わらず、「解約権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合は権利の濫用として無効」であると判示しています。
内定取り消しが認められる例外的なケース
以下のような例外的な場合には、内定取り消しが認められる可能性があります。
- 内定者の経歴詐称や虚偽申告が発覚した場合
- 内定者が重大な犯罪行為を行った場合
- 会社の経営状態が著しく悪化した場合
このような事情がない限り、企業は内定者から入社誓約書を受け取った後に、一方的に内定を取り消すことはできません。
内定取り消しを行う際の注意点
やむを得ず内定取り消しを行う場合、企業は以下の点に注意する必要があります。
- 内定取り消しの理由を明確に説明する
- 内定者に弁明の機会を与える
- 代替案(他の職種への変更など)を検討する
- 内定取り消しまでの期間を十分に確保する
これらの手続きを踏まえず、安易に内定取り消しを行った場合、企業は損害賠償責任を負うリスクがあります。
以上のように、入社誓約書受け取り後の内定取り消しは、原則として認められません。例外的なケースであっても、慎重な手続きが求められるため、安易な判断は避けるべきでしょう。
適切な入社誓約書で、内定者との信頼関係を築こう!
入社誓約書は、企業と内定者の権利義務関係を明確にし、トラブルを未然に防ぐ重要な役割を果たします。人事担当者は、自社の事業内容や職種に合わせた必要項目を盛り込み、適切な書式で作成することが求められます。
また、内定者とのコミュニケーションを重視し、誓約書の趣旨を丁寧に説明することも大切です。万が一のトラブル発生時には、法的知識に基づいて冷静に対応することを心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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