• 作成日 : 2021年12月1日

休業手当の計算方法をケースごとに紹介!

休業手当の計算方法をケースごとに紹介!

会社都合での休業は、平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払わなければいけません。しかし休業には自然災害や経営悪化など様々な事情があります。雇用形態により計算方法は異なり、細かい判断も必要です。
今回は、休業手当の定義から休業補償との違い、計算方法について紹介。コロナ禍など具体例での対応についても解説します。

休業手当とは?

休業手当とは、会社の都合で従業員を休ませた場合に支給する手当のことをいいます。労働基準法によって定められている保障であり、どのような場合に休業手当の対象となるのか正しく理解することが重要です。以下に、休業手当の定義と休業補償との違いについて解説します。

休業の定義について

まずは「休業」の定義について整理しましょう。「休業」に法的な規定はありませんが、一般的には、働く意思と能力があるにもかかわらず、会社側の責任や不可抗力のために労働契約を維持したまま従業員が業務を行うことができない状態をいいます。会社からの命令、もしくは従業員からの申請で休業に至るケースがあります。

「休業」と混同しやすいのが、「休暇」です。「休業」と「休暇」との名称の違いについても法的に明確な規定はありません。「休業」は比較的長期間の休み、「休暇」は比較的短期間の休みとして使われることが一般的ですが、法定休暇と法定外休暇を区分するために、育児休業や介護休業を法定休暇とするケースがあります。

休業のなかでも、産前産後休業は健康保険法の出産手当金、育児休業や介護休業は雇用保険法の育児休業給付金、介護休業給付金など、公的な給付を受けることができます。

「休日」とは、就業規則などにもともと労働の義務がないとされている日のことを指します。対して「休暇」とは、「休業」と同様に労働義務があったもののその義務が免除された日のことをいいます。

「休日」の例として、週休二日制の土日や祝日、振替休日が挙げられます。これらの休日は労働義務がないため、同じ休みでもその日は休業手当を支払う必要はありません。

また、「休暇」の場合も、年次休暇以外は原則として会社側に給与支払いの義務はありません。ただし、就業規則などで有給とすることは可能です。

種類
労働義務
休みの例
給与支払い義務
休業
会社都合・本人申請により労働の義務を免除自然災害、経営悪化、施設メンテナンス、産前産後休業、育児休業、介護休業条件によって生じる
休日
労働の義務がそもそもない土日・祝日・振替休日発生しない
休暇
労働義務があったものの免除法定休暇:年次有給休暇、子の看護休暇、介護休暇、裁判員休暇等
法定外休暇:慶弔休暇、夏季休暇、バースデー休暇等
年次有給休暇を除き原則として発生しないが、就業規則などで有給とすることは可

参考:労働時間・休日|厚生労働省
   労働条件・職場環境に関するルール|厚生労働省

休業手当の定義について

労働基準法では、休業手当について以下のように定義しています。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」 

引用:労働基準法第26条

会社の都合により従業員を休業させた場合、休業にあたる所定労働日に対して平均賃金の6割以上の手当を支払わなければいけません。このとき、「使用者の責に帰すべき事由」とされる「会社都合」には、具体的に以下のケースが該当します。

【休業手当の支給が必要なケース】

  • 機器の故障や点検で休業する
  • 顧客からの発注減少にともなう生産調整で一時休業する
  • 監査官庁の勧告を受けて操業停止する
  • 業績悪化を受けて営業日を減少または営業時間を短縮する

このように、経営者として不可抗力を主張できないすべての場合が、該当するとされています。会社にとって不可抗力となる地震や台風など自然災害による休業や、労働者のストライキによる休業、業務上の負傷等による休業の場合などは、原則として休業手当の対象外となります。

【休業手当の支給対象とならないケース】

  • 労働者のストライキ
  • 業務上のケガや疾病による休業
  • 地震や台風など天災による休業

休業補償との違い

休業手当と似た性質のものに「休業補償」があります。休業補償とは、労働基準法76条に定められた制度で、業務上の負傷や疾病による療養のために労働者が仕事に行けない期間、支払う補償のことをいいます。

「労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。」

引用:労働基準法第76条

休業補償は業務災害を被った労働者に対する使用者の補償責任であり、会社側に過失がなかったとしても支払いの義務が生じます。したがって、原則社会保険の適用はありません。ただし、休業補償に該当する期間については、その第4日目からは労災保険の「休業補償給付」の支給対象となります。

休業手当は会社が休日の日に支払う義務はありませんが、休業補償は会社が休日の日でも支払いの義務があることに注意しましょう。

参考:休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続|厚生労働省

【休業手当と休業補償の違い】

休業手当
休業補償
条件
会社都合での休み業務上のケガや病気による休み
支払元
会社(使用者)会社(使用者)
該当期間4日目からは労災保険が適用される
金額
平均賃金の60%以上平均賃金の60%
労災保険が適用される4日目以降は、平均賃金の80%(特別支給金を含む)以上である休業補償給付が支給される
労働者の申請の有無
必要なし必要あり

休業手当を計算する方法

休業手当の計算方法は、「平均賃金×60%」以上です。この平均賃金とは、労働基準法で定められている手当や災害補償などの額を算出する際の基準のことをいい、従業員に合わせて計算する必要があります。

以下に、休業手当の具体的な計算方法を解説します。

ステップ① 平均賃金を計算する

まずはじめに、休業手当の計算の元となる平均賃金を計算します。計算には、以のAまたはBの式を用います。

A 直前3か月間の賃金の合計÷直前3か月間の暦日数
    B 直前3か月間の賃金の合計÷直前3か月間の労働日数×0.6

Aは原則として適用される式です。「事由の発生した日」の前日から直前の3か月間に支払われた「賃金の総額」を、その期間の総日数(暦日数)で割ります。

ただし、賃金が日給、時給、出来高払いなどで労働日数が少ない場合は、総日数ではなく労働日数で割る計算式Bを使用する場合があります。AよりもBで算出された金額が高い場合は、最低保証額としてBで計算した金額を適用します。

賃金の一部が月給制である場合には、月給制の部分は原則のAの計算方法、日給、時給、出来高払いの部分はBの計算方法で分けて計算することになります。欠勤日数に応じて賃金が減額される日給月給制の場合には、欠勤控除が行われた場合と行われなかった場合とでも計算方法が異なります。計算方法がわからない場合には、最寄りの労働基準監督署で確認するようにしましょう。

【直前3か月間とは】

「直前3か月」とは、休業直前の賃金締切日から遡った3か月を指します。もし賃金締切日に休業した場合は、その前の賃金締切日から遡ります。入社から間もないなど、賃金締切日から3か月遡れないケースもあるでしょう。その場合には、直前の賃金締切日から遡って1か月以上ある場合は賃金締切日から遡った期間、 1か月に満たない場合は「事由の発生した日」の前日から遡った期間で計算します。

なお、以下の期間が直前3か月に含まれる場合は、該当する日数・賃金額を賃金総額から控除します。

  • 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 産前産後の休業した期間
  • 使用者の責任によって休業した期間
  • 育児・介護休業期間
  • 試みの使用期間(試用期間

参考:休業手当の計算方法|厚生労働省

【「賃金」に含まれるもの】

計算で用いる「賃金」には、基本給だけでなく期間中に支払われた賃金の全てが含まれます。例としては、通勤手当や残業手当など諸手当を合算した額を用います。ただし、以下のものは賃金には含みません。

  • 臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金等)
  • 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(四半期ごとに支払われる賞 与など、 賞与であっても3か月ごとに支払われる場合は算入されます)
  • 労働協約で定められていない現物給与

参考:休業手当の計算方法|厚生労働省

ステップ➁ 1日あたりの休業手当を計算する

ステップ①で算出した平均賃金をもとに、1日あたりの休業手当を計算します。休業手当の計算式は「平均賃金×60%」以上です。

ステップ③ 休業している間の休業手当の総額を計算する

1日あたりの休業手当を計算したら、休業日数をかけ休業手当の総額を計算します。

休業手当の計算例

具体的なケースをもとに、休業手当を計算してみましょう。以下の例では、Aさんは基本給25万円にあわせ、通勤手当1万円と残業手当が支給されています。賃金締切日は毎月20日で、休業日は7月10日~18日で所定労働日数は6日間です。

直前3か月暦日数基本給通勤手当残業手当
6月分(5/21~6/20)31日25万円1万円2万円
5月分(4/21~5/20)30日25万円1万円3.3万円
4月分(3/21~4/20)31日25万円1万円5.6万円
合計92日75万円3万円10.9万円
  • 直前3か月の賃金合計=88万9千円
  • 暦日数=92日

ステップ①:平均賃金=88万9千円÷92日=9,663円4銭(※銭未満の端数は切り捨てます)
ステップ②:1日辺りの休業手当=9,663円4銭×60%=5,797円82銭
ステップ③:休業手当の総額=5,797円82銭×6日=34,787円(※1円未満の端数は四捨五入します)

Aさんに支払うべき休業手当は、少なくとも34,787円ということになります。

こんな時、休業手当は出る?ケースごとに紹介

会社の都合で従業員を休ませた場合に、支払い義務が発生するのが休業手当です。そこで、アルバイトや派遣社員、または日雇い労働というような雇用形態が違っても休業手当が支払われるのか、疑問に思う人もいるでしょう。また、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響から、休業させざるを得ないケースも発生しました。こんな時に休業手当は支払うべきなのか? 以下、具体的なケース別に説明します。

アルバイトでも休業手当は出る?

休業手当は、雇用契約を結ぶすべての労働者が対象となります。そのため、パートやアルバイトであっても休業手当の支給条件に合致すれば、会社に支払い義務が発生します。

たとえば、「忙しくないので早めに帰ってください」と会社の都合で終日休業または早退のようにシフトカットが発生した場合は、以下のように休日手当を計算します。

  • 終日休業の場合
    平均賃金の60%を支給します
  • 早退などで一日の一部を休業とした場合
    該当日の実労働分の賃金が平均賃金の60%に満たない場合は、その差額を休業手当として支払う必要があります。もし、実労働分の賃金が平均賃金の60%以上であれば、休日手当の支給対象にはなりません。

なお、アルバイトなど月の労働日数が限られている従業員の場合、上述した「直前3か月の賃金を暦日数で割る」計算式Aを用いると、平均賃金が低くなりすぎてしまいます。「労働日数で割る」計算式Bで算出した金額のほうが高い場合は、最低保証額としてそちらを平均賃金に適用する必要があります。

派遣社員でも休業手当は出る?

派遣社員の休業手当については、その社員が働いている派遣先企業ではなく、原則として派遣元企業が責任を負います。派遣先企業の都合による休業、派遣先企業の都合による契約解除、派遣社員の理由による契約解除の3つのパターンで見てみましょう。

  • 派遣先の都合で休業した場合
    派遣元が、該当する派遣社員に休業手当を支払います。ただし、派遣先と派遣元が締結している派遣契約の内容によっては、派遣元は発生した休業手当相当額以上の損害賠償を派遣先に請求できる場合があります。
  • 派遣先の都合で派遣契約が中途解除され休業した場合
    派遣元が、該当する派遣社員に休業手当を支払います。ただし、完全に派遣先の責任が免除されるとは限りません。労働者派遣法第29条の2においては、派遣先側からの契約解除の場合、その派遣社員に対する休業手当など、派遣元に生じた費用負担を派遣元企業は派遣先企業に求めることができます。
  • 契約解除の理由が派遣社員にある場合
    派遣先から、遅刻や無断欠勤、能力不足といった派遣社員の就業状況に対してクレームを受け、それを理由に契約解除された場合、派遣元は休業手当を支払う必要があります。この場合、調査の結果、解雇理由が派遣社員にあるとわかり、派遣元が該当派遣社員を解雇した場合は休業手当の支払い義務は生じません。しかし、30日以上前の解雇予告または平均賃金の30日分以上の解雇予告手当の支払いなど、労働基準法20条に規定する適切な手続が必要になります。

派遣元は、派遣労働者の新たな就業機会を確保する必要があります。「契約解除」のみを理由として派遣元企業が派遣社員を解雇できるわけではありませんので注意しましょう。

参考:派遣先の事業主の皆さまへ|厚生労働省

日雇い労働でも休業手当は出る?

日雇い労働者も、休業手当の支払いは必要です。ここでいう日雇い労働とは、以下のいずれかに該当する場合をいいます。

  • 労働基準法における日々雇入れられる者(1日の契約期間で雇い入れられ、その日限りで契約終了する者であって、日々更新されたとしてもその性格を変えるものではない)
  • 日々または30日以内の期間を定めて雇用される日雇い派遣者(日雇派遣指針)

両者とも定義が必ずしも一致するとは限りませんが、日雇い労働者の場合、勤務日数にむらがあり、また日によって勤務先が異なることも多いため、休業手当の計算に必要な平均賃金は以下のように定められています。

本人に同一事業場で1か月間に支払われた賃金総額÷その間の総労働日数×73/100

終業の初日に休業するなど、上記方法で算定することが難しい場合には、最寄りの労働基準監督署で確認するようにしましょう。

参考:平均賃金について【賃金室】|厚生労働省神奈川労働局

新型コロナ感染により、休業した時も休業手当は出る?

新型コロナウイルス感染症の影響による事業縮小、雇用調整、または緊急事態宣言による時短要請に基づく休業については、政府は「雇用調整助成金」の活用、もしくは「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」を案内しています。
「雇用調整助成金」とは、景気変動や産業構造の変化など「経済上の理由」により事業活動を縮小せざるを得ず、休業等を実施した上で休業手当を支払う事業者に対して、政府が休業手当の一部を助成するものです。
たとえば、地震や台風などの自然災害で負った被害は「経済上の理由」には該当しませんが、その影響で施設復旧に時間を要したり、交通手段の途絶により原材料の入手が困難になったりと、事業縮小が余儀なくされるケースは雇用調整助成金の対象となるとされています。新型コロナウイルス感染症の影響下では、政府は企業に対して「雇用調整助成金」を休業手当に活用し、雇用維持をお願いしています。

一方、天災による休業は「使用者の責に帰すべき事由」には当てはまらず、休業手当は支払われません。この天災による不可抗力とは、以下の要件をすべて満たすものでなければならないとされています。

  • その原因が事業の外部より発生した事故であること
  • 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできな い事故であること

参考:Q1-4 平成 30 年北海道胆振東部地震による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A|厚生労働省

この「不可抗力」の部分について、新型コロナウイルス感染症への明確な政府見解は出ておらず、現実として休業手当が支給されないケースが発生しています。
また、アルバイトや日雇い労働者など「シフト制」で働く従業員の休業手当について、たとえシフトを削減したりシフトから外した場合でも、会社都合の休業であれば、雇用主は休業手当を支払う義務が発生すると考えられています。しかし、こうしたシフト制の休業手当の支払い義務は明確にルール化がされていないため、新型コロナウイルス感染症の影響による休業では、学生アルバイトなど非正規雇用の従業員のみが休業手当の対象から外されるという事態が発生しています。
いずれの場合でも、コロナ禍の休業では従業員個人は「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」を申請し補償を受けることが可能です。

参考:雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)|厚生労働省
   新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金|厚生労働省

休業手当の範囲を明確にして、正しく計算しよう!

会社の都合で発生する休業は、従業員の雇用形態に関わらず休業手当の支払い対象となります。ただし、対象となる従業員の働き方によって、休業手当を算出する計算方法が異なるため正しく理解しておきましょう。また、派遣社員への休業手当は原則として派遣元企業が義務を負いますが、契約内容や状況によっては派遣先企業にも費用の責任負担が発生するため注意が必要です。

また、天災による不可抗力は原則として休業手当の対象にはなりませんが、個別のケース後とに判断する必要があります。休業手当の定義、対象を抑えたうえで、適切に対応しましょう。

よくある質問

休業手当とは?

事業縮小など会社の都合で従業員を休ませた場合に支払うべき手当のことで、労働基準法において会社は平均賃金の60%以上を支給しなければいけないとされています。アルバイトや派遣社員も対象となります。詳しくはこちらをご覧ください。

休業手当と休業補償の違いは?

休業補償とは、業務上の負傷や疾病により労働者が仕事に行けない期間、支払われる補償のことをいいます。労災保険が適用され、平均賃金の80%以上(特別支給金を含む)が補償されます。詳しくはこちらをご覧ください。


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