• 更新日 : 2023年11月2日

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?特徴や関連する法律

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?特徴や関連する法律

カスタマーハラスメントはカスハラとも呼ばれ、企業に対する理不尽な内容のクレームや不当要求などの迷惑行為を指します。企業や事例によって基準は異なり、法律による定義もありません。一方、消費者庁と厚生労働省はそれぞれ対応マニュアルを作成することで指針を示しました。当記事では、社会的な問題でもあるカスハラについて解説します。

目次

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?

カスタマーハラスメントとはカスハラなどとも呼ばれ、顧客の企業に対する理不尽なクレームや根拠のない不当な要求、暴力的で侮辱的な言動などの迷惑行為を指します。法的な定義はまだありませんが、カスハラはセクシャル・ハラスメント(セクハラ)やパワー・ハラスメント(パワハラ)などと同様に労働環境の健全性を脅かす深刻な問題です。ここでは、カスハラの概要について解説します。

不当要求との違い

カスハラと同じような意味で使われることの多い不当要求ですが、カスハラと不当要求は厳密には異なります。まず、不当要求の根底にあるのは、文字通り「要求」です。例えば、商品に不具合があったりサービスに不手際があったりした場合に、社会通念上の妥当性を逸脱した過度な対応を要求する行為などは不当要求に該当します。

一方、カスハラの根底にあるのは、ハラスメントという言葉が示す通り「嫌がらせ」です。不具合や不手際に対し、罵詈雑言を浴びせたり暴力的・侮辱的な行為をしたりすることはカスハラに該当します。不当要求はあくまで妥当性を欠いた対応を求める行為であるのに対し、カスハラは嫌がらせを目的とした妥当性のない迷惑行為と区別することが可能です。

なお、広義のカスハラでは、嫌がらせの一環として相手が到底承服できないような不当な要求を行うケースもあります。しかし、カスハラの目的は嫌がらせで、必ずしも要求を伴うわけではないということを覚えておきましょう。

カスタマーハラスメントが注目される背景

カスハラが注目を集めるに至った背景として挙げられるのが、インターネットやSNS(Social Networking Service:ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの普及に伴う顧客の発信力増大です。顧客対応を重んじる日本では、以前からカスハラに類する事例は多数報告されてきました。しかし、インターネットやSNSの普及で顧客が自由に企業を批評できるようになったことで、企業と顧客とのパワーバランスが崩れ、カスハラが問題視されるようになったのです。

また、パワハラやセクハラが社会的な問題として捉えられるようになった結果、ハラスメントの類型として労働環境の健全性を阻害するカスハラにも注目が集まっています。企業は労働者に対し安全配慮義務を負っているため、労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働できるよう配慮しなければなりません。

安全を脅かす迷惑行為から労働者を守るためには、カスハラ対策を強化して顧客の不当な要求には毅然とした対応を取ることが重要です。

カスタマーハラスメントの特徴

パワハラ・セクハラなどのハラスメントが問題視されるなか、顧客の理不尽な振る舞いはカスハラと捉えられるようになりました。労働者の安全を確保する観点でも、カスハラ対策の強化は喫緊の課題です。ここでは、カスタマーハラスメントの特徴を解説します。

カスタマーハラスメントと正当なクレームとの違い

混同されがちなカスハラとクレームですが、その本質は大きく異なります。クレームとは、商品の不具合やサービスの不手際などに対し、良品への交換や対応の改善などさまざまな要求を行うことです。

例えば、購入した商品に不具合があった場合、返品や交換を要求することは正当なクレームに該当します。

一方、商品の不具合に対して購入価格以上の金銭を要求したり、従業員に暴力的・侮辱的な対応を取ったり、度を越えた謝罪を要求したりする行為はカスハラです。

常識の範囲内で妥当な対応を求めるクレームに対し、カスハラは社会通念上の妥当性を著しく欠いた迷惑行為と区別できます。

要求内容が過剰・対応不可能な要求を伝えてくる

要求内容が過剰であったり、対応不可能な要求を伝えたりしてくることもカスハラの特徴です。

例えば、商品の不具合に対し、購入価格を上回る高価な商品への交換を要求したり、別の商品を無償で提供するよう求めたり、高額な慰謝料を要求したり、そもそも不具合がないのに好みに合わないからと一方的に返品を要求したりするようなケースなどが考えられます。また、従業員に土下座を強要したり、営業時間外の深夜や早朝に居宅への訪問を求めたりする行為もカスハラです。

暴言や脅しなどの行為

立場上の優位性を利用し、暴言を吐いたり従業員を脅したりする行為も代表的なカスハラです。

例えば、サービスの不手際を理由に暴力的な行動を取ったり、謝罪や賠償を求めて脅迫したり、罵詈雑言を浴びせたりするようなケースなどが考えられます。これらの迷惑行為は従業員の心身に深刻なダメージを与えるだけでなく、場合によっては威力業務妨害や脅迫などの罪に該当する可能性もある犯罪行為です。このような犯罪行為から従業員を守るためには、理不尽な言動に屈することなく毅然とした態度を取ることが求められます。

【企業側】カスタマーハラスメントは違法?事業主が気を付ける法律

前章でも解説したとおり、過度なカスハラは犯罪の可能性もある違法行為です。企業は、このような違法行為から従業員を守らなければなりません。ここでは、企業が気をつけなければならない法律について解説します。

従業員への安全配慮義務 – 労働契約法

企業と従業員の労働契約を定めた労働契約法では、使用者は労働契約に伴い、労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をしなければならないと定めています。

安全確保に必要な配慮を「安全配慮義務」といい、企業は労働者の心身の安全を守らなければなりません。

安全配慮義務を果たし労働者の福祉を守るためには、カスハラ対策の強化が喫緊の課題です。企業がカスハラ対策を怠った結果、労働者が心身にダメージを負ってしまった場合、損害賠償を請求される恐れもあるため気をつけましょう。

参考:労働契約法(第五条) | e-Gov法令検索

労働施策総合推進法・厚生労働省指針

2020年の男女雇用機会均等法・労働施策総合推進法の改正に伴い、セクハラ対策とパワハラ対策は企業が講ずべき措置となりました。これを踏まえて、厚生労働省が策定した指針が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」です。この指針では、顧客等からのカスハラに関して事業主は適切に対応するための体制を整備し、被害者である労働者に対し適切に配慮することが望ましい旨を定めています。

事業主はセクハラ対策やパワハラ対策だけでなく、カスハラ対策にも適切に配慮することが求められているのです。

参考:パワハラ防止指針|厚生労働省
参考:職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!|厚生労働省

【顧客側】カスタマーハラスメントは違法?顧客が注意すべき法律

カスハラは従業員の心身にダメージを与えるため、企業にとって深刻な問題です。一方、顧客にとっても、正当なクレームのつもりが意図せずカスハラになってしまう恐れもあるため、気をつけなければなりません。ここでは、顧客が注意すべき法律を解説します。

損害賠償責任 – 民法

暴力的・侮辱的な言動によって従業員が心身にダメージを受けた場合、顧客は当該従業員に対し不法行為による損害賠償責任を負う可能性があります。

不法行為による損害賠償責任とは、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者が負う損害賠償責任です。

過度なカスハラによって心身不調などの損害が生じた場合、当該顧客は損害を受けた従業員に対し賠償しなければなりません。また、企業がカスハラへの対応で損害を被った場合や名誉を毀損された場合は、企業に対する損害賠償責任を負うため注意が必要です。

参考:民法(第七百九条) | e-Gov法令検索

刑事上の責任 – 刑法・軽犯罪法

過度なカスハラは、刑法や軽犯罪法における犯罪に該当する恐れもあります。具体的には、下記のような犯罪には注意が必要です。

  • 名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)
    会社や従業員の名誉を傷つける侮辱的な発言をした。
  • 威力業務妨害罪(刑法234条)
    カスハラによって会社の業務を妨げた。
  • 脅迫罪(刑法222条)、強要罪(刑法223条)
    会社や従業員を脅迫して対応不可能な行為を強要した。
  • 暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)
    従業員に暴行を加えて怪我をさせた。
  • 軽犯罪法違反(軽犯罪法1条5号)
    暴力的で侮辱的な言動によって周囲に迷惑をかけた。

カスタマーハラスメントの具体例・内容

近年カスハラは深刻な社会問題となっており、厚生労働省の実態調査ではおよそ92.7%の企業が過去3年間に何らかのカスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)に該当する事案があったと回答しています。過去3年間の該当件数の推移を見ると、「増加している」と回答した企業が19.4%で、「減少している」と回答した企業の12.1%を上回る結果となりました。

さらに、労働者調査では過去3年間に勤務先でカスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)を一度以上経験した者の割合は15.0%という結果となっています。顧客等から受けた迷惑行為の内容としては、下記の通りです。

カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)を一度以上経験した者の割合

参考:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル|厚生労働省

カスタマーハラスメント対策のために企業はなにができる?

前述の調査では、カスハラを受けた労働者の割合(15.0%)はパワハラの31.3%よりは下回るものの、セクハラの10.2%を上回る結果となっています。労働者の福祉を守るためには、カスハラ防止対策は企業が取り組まなければならない喫緊の課題です。ここでは、カスハラ対策として企業が取るべき対応を解説します。

カスタマーハラスメントの対応マニュアルを準備

カスハラ被害を深刻化させないためには、事前に対応マニュアルを準備し社内で共有しておくことが重要です。

対応マニュアルには、基本方針、基本姿勢、対応体制、対応方法、相談窓口などを具体的に規定してください。直接顧客と接する担当者が個人でカスハラに対応すると、当該従業員に過大な負担を与えることになるため、悪質な場合は人事労務部門や法務部門、カスタマーサポート部門など本社組織も一体となってカスハラに対応しましょう。

また、カスハラに該当するケースを明確化し、対処フローを策定しておくことで、悪質なカスハラに毅然とした対応を取ることが可能です。

カスタマーハラスメントの従業員研修を行う

直接顧客と接する担当者はいつカスハラに遭遇するかわからないため、定期的に従業員研修を実施しカスハラへの対処法などを共有しておきましょう。

従業員研修では、カスハラの定義、判断基準、具体例、クレームとの違い、対処法、顧客対応の注意点、管理監督者や本社組織との連携などについて教育を行うのが一般的です。

悪質なカスハラには組織として対処することも重要ですが、直接顧客と接する担当者のスキルにも大きく依存します。カスハラとクレームを切り分け、悪質なカスハラには毅然とした対応を取ることが重要です。

カスタマーハラスメントの相談窓口を設置

悪質なカスハラは、対応した従業員の心身に多大なダメージを与えます。従業員が深刻なトラウマを抱えないよう、社内外に相談窓口を設置することも重要な取り組みです。

また、ハラスメントによる辛い出来事をフラッシュバックのように思い出し、日常生活に支障をきたすPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)にも十分留意しましょう。

必要に応じて臨床心理士や公認心理師、産業医などの専門家と連携し、トラウマが残らないよう事例に応じたケアの方法を検討することも重要です。

カスタマーハラスメントが起こった場合のその後の対応・流れ

カスハラはいつ起こるかわかりません。ここでは、カスハラが起こってしまった場合の対処法や、対応の流れを解説します。

① 顧客からの問い合わせ情報を社内共有

繰り返しになりますが、悪質なカスハラには直接顧客に接する担当者が個人で対応するのではなく、管理監督者や本社組織も一体となって対処することが重要です。

カスハラに遭遇したときは、対応マニュアルに規定された対処フローに従い責任者に応援を求めましょう。裁量権のある責任者が悪質なカスハラであると判断した場合は、情報を社内共有して人事労務部門や法務部門、カスタマーサポート部門などの本社組織へ対応を引き継いでください。

担当者個人や、現場のみでカスハラへの対応を抱え込まないことが重要です。

② 顧客からヒアリング・記録化

不当なカスハラに対し会社として一貫した対応を取るためには、顧客の主張をヒアリングし、記録を取ることが重要です。

特に、カスハラをする顧客は自分に都合がよい主張を繰り返したり、事実を湾曲して主張したりするケースもあります。発言の翻意や不規則発言などもカスハラの特徴であるため、「言った・言わない」のトラブルにならないよう、事実を客観的に記録しましょう。カスハラとクレームの切り分け、社内組織との情報連携のためにも、情報の記録化は大切です。

③ 現場で対応可能か・不可能かを判断する

カスハラが現場で対応可能か、不可能かを早期に判断することも重要です。特に、犯罪に該当するような悪質なカスハラの場合は、現場だけで対処するのは避けましょう。

現場の裁量だけで対処できないカスハラは持ち帰り、法務部などしかるべき部署・部門と連携のもと対処してください。なお、現場で対応可能か不可能かの判断は、対応マニュアルに従って行います。

担当者の独断で対処するのではなく、まずは裁量権のある管理監督者に応援を要請し、必要に応じて本社組織に対応を引き継ぐことが大切です。

④ 会社として対応が必要な場合、会社の対応方針を顧客に通達

現場での対処が困難で、対応を持ち帰った場合は、人事労務部門や法務部門、カスタマーサポート部門など関係する部署・部門が連携して会社としての対応方針を決定します。

対応方針を顧客に通達する際は、揚げ足取りや付け入る隙を与えないよう、慎重に推敲することが重要です。必要に応じて顧問弁護士などの専門家と連携して十分検討し、会社としての公式見解を示しましょう。

⑤ カスタマーハラスメントを受けた従業員のケア・保護

カスハラの対応に当たった担当者は、顧客の暴力的・侮辱的な言動によって精神的なダメージを受けている可能性があります。

カスハラのダメージによって休職や退職に追い込まれないよう、当該従業員に対して適切なケアやアフターフォローをすることが重要です。トラウマやPTSDなど深刻なダメージを負ってしまった場合は、臨床心理士や公認心理師、産業医などの専門家と連携し、事例に応じた適切なケアを行う必要があります。精神症状の病態を示していない場合でも、従業員のモチベーションは大きく下がっている可能性も高いため注意が必要です。

カスタマーハラスメントは顧客による理不尽なクレームや不当な要求

今回はカスタマーハラスメントについて解説しました。カスタマーハラスメントはカスハラと呼ばれ、顧客による企業に対する理不尽なクレームや不当な要求です。例えば、暴力的・侮辱的な言動や長時間に及ぶ過度なクレーム、慰謝料を始めとした金品の要求、土下座の強要などはカスハラに該当します。

度を越えた悪質なカスハラは、暴行罪や傷害罪、脅迫罪などの犯罪にも該当する違法行為です。カスハラは従業員の福祉を著しく害するため、企業はカスハラ対策を強化し、従業員をカスハラの被害から守らなければなりません。

直接顧客と接する担当者は、いつカスハラに遭遇してしてしまうかわかりません。社内体制の構築や従業員研修の実施などを通し、カスハラ対策を徹底することが重要です。


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