- 更新日 : 2024年11月1日
労働保険とは?加入条件や料率の計算、手続き方法、未加入の場合を解説
労働保険は、労災保険と雇用保険を総称するもので、事業主が加入手続きを行います。この保険には、両保険を一括管理する一元適用と、別々に扱う二元適用があり、農林水産業や建設業は二元適用事業に分類されます。この記事では、労働保険の加入方法やその概要、関連する保険について詳しく解説していきます。
目次
労働保険とは?
労働保険は、労災保険と雇用保険の総称なので、法律的な上位概念があるわけではありません。一方、労災保険は、労働者が業務によってこうむった病気やけがに対し療養費や生活費を給付するとともに、回復後の社会復帰を支援することを目的としています。
そして、雇用保険とは、失業や雇用継続の困難、育児のための休業により賃金の支給がなくなった場合の生活の支援、労働者の職業能力の開発、失業の予防を目的としています。
労災保険・雇用保険の目的・構成
- 労災保険
【目的】
労働基準法上、労働者の業務災害に対する補償責任を負っている事業主から、国が保険料を強制的に徴収し、労働者に対する災害補償を確実に実行すること。
業務上の災害や通勤時の災害などにより療養や介護が必要となった労働者を支援するために給付を行うこと。
定期健康診断で血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMIの4項目に異常が認められた場合に二次健康診断および保健指導を提供すること。
労働災害にあった労働者の社会復帰の促進や労働環境における安全衛生の促進などを行うこと。
【事業の構成】
- 雇用保険
【目的】
失業、雇用継続困難、育児休業の取得などにより原因で賃金の支給がなくなったり減額されたりした場合に、生活の維持に必要な給付を行うことで労働者の生活や雇用の安定を図ること。
失業の予防・雇用状態の是正・雇用機会の拡大、労働者の職業能力の開発・向上により雇用の安定に資すること。
【事業の構成】
労働保険(労災保険、雇用保険)の加入手続き
労災保険、雇用保険の加入手続きに提出する書類は下の表の通りです。
加入手続きに当たっては、労災保険と雇用保険は原則的には一括して取り扱われ、保険料の申告・納付も一元化されています。こうした事業を一元適用事業といいます。
しかし、農林水産業・建設業などでは、事業の実態に基づき労災保険料と雇用保険料の申告・納付が二元的(別々)に行われる場合もあります。例えば、建設業では、労災保険料については元請事業者が下請事業者の分も含めて納付することとなっています。こうした事業を二元適用事業といいます。
一元適用事業 | 二元適用事業 | ||||
---|---|---|---|---|---|
労災保険+雇用保険 | ①保険関係成立届 | 労働基準監督署 | 労災保険 | ①保険関係成立届 | 労働基準監督署 |
②概算保険料申告書 | 労働基準監督署 都道府県労働局 金融機関 | ②概算保険料申告書 | 労働基準監督署 都道府県労働局 金融機関 | ||
③雇用保険適用事業所 設置届 | ハローワーク | 雇用保険 | ①保険関係成立届 | ハローワーク | |
②概算保険料申告書 | 都道府県労働局 金融機関 | ||||
④雇用保険被保険者 資格取得届 | ③雇用保険適用事業所 設置届 | ハローワーク | |||
④雇用保険被保険者 資格取得届 |
※提出期限
- 保険関係成立日の翌日から起算して10日以内
- 保険関係成立日の翌日から起算して50日以内
- 設置の翌日から起算して 10日以内
- 資格取得の事実があった日の翌月の10日以内
※いずれの手続きにおいても、最初に①保険関係成立届を提出する。
労働保険のうち労災保険とは?
労災保険料は、[賃金額 × 労災保険料率]で計算しますが、給与の中には保険料の算定基礎にならないものがあります。以下のURLにより確認し保険料の計算時には除外してください。
労働保険は、前年度の賃金総額に基づき保険料を概算払いしておき、実際の賃金総額に基づき翌年度に精算します。精算による過不足は、次の概算払いのときに調整されます。
厚生労働省「労働保険対象賃金の範囲」
労災保険の適用事業
労災保険は、組織としての独立性を持った事業所(本社、支社、工場、店舗など)を一つの単位として適用されます。
原則として、1人でも労働者を使用していれば労災保険が強制的に適用されます。
しかし、以下の個人経営の農林水産業については、当分の間、適用の有無を事業主の任意とすることが暫定的に認められています。(暫定任意適用事業)
*農業・畜産業・養蚕業:常時使用する労働者数が5人未満
*林業:常時使用する労働者がなく、年間の延べ使用労働者数が300人未満
*水産業:常時使用する労働者数が5人未満
なお、国立印刷局や造幣局などの行政執行法人の職員は国家公務員の身分を持つので労災保険の適用除外となります。
行政執行法人以外の独立行政法人の職員、現業部門に従事する非常勤の地方公務員は労災保険の適用対象です。
労災保険の適用労働者の範囲
適用事業に使用される労働者で、労働基準法上の労働者(または船員法上の船員)であれば、すべて労災保険が適用されます。
パートタイマーやアルバイトだけでなく不法就労の外国人も適用労働者です。ただし、同居の親族や家事使用人は労基法上の労働者には該当しません。
2つ以上の労災保険適用事業で働いている場合は、労働時間数に関係なく、いずれの事業所において発生した事故でも労災保険の適用があります。
労災保険の特別加入制度
労災保険が適用されない人にも任意での加入を認めるのが特別加入制度です。特別加入の対象になるのは、次の方たちです。
①第1種特別加入者
*中小企業主
次のいずれかの事業において、労働保険事務組合に労働保険事務を委託する事業主およびその事業に従事する者(家族従事者や役員)
業種 | 常時使用する労働者数 |
---|---|
金融業・保険業・不動産業・小売業 | 50人以下 |
卸売業・サービス業 | 100人以下 |
上記以外の業種 | 300人以下 |
②第2種特別加入者
*一人親方
建設業、旅客・貨物運送業、林業などの自営業者および家族従事者など
*特定作業従事者
特定農作業従事者、介護作業従事者、家事支援従事者など
③第3種特別加入者
*海外派遣者
労災保険料の料率・計算方法
労災保険料は、[前年度の従業員の賃金総額 × 労災保険料率]で計算します。
労災保険料率は事業の種類ごとに決定され、厚生労働省の公式ホームページなどで確認することができます。
厚生労働省「令和6年度の労災保険料率について」
【労災保険料の計算例】
例:事業所の事業種類:食料品製造業 ⇒ 労災保険料率 = 5.5 / 1000 = 0.55%
従業員5人の賃金の総額:22,000,000円
労災事故報告書のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
労働保険のうち雇用保険とは?
雇用保険の保険料率は、労働者負担分と事業主負担分に分かれています。事業主は、個々の労働者について毎月の雇用保険料を計算し、支給する賃金から控除します。
労働者の雇用保険料は、[賃金 × 雇用保険料率(労働者負担分)]で計算します。
なお、保険料算定時の基礎に含まれない賃金があること、保険料を概算払いし、翌年度精算することは労災保険と同様です。
厚生労働省「労働保険対象賃金の範囲」
雇用保険の適用事業
雇用保険は、組織としての独立性を持つ事業所(本社・支社・工場・店舗など)ごとに適用されます。原則として、1人でも労働者を雇用していれば強制適用事業になります。
しかし、常時雇用する労働者が5人未満で個人経営の農林水産業は、当分の間、適用の有無は事業主の任意とされています。(暫定任意適用事業)
雇用保険の被保険者
雇用保険の場合は、適用が除外される労働者があります。この適用除外の対象とならない労働者は雇用保険の被保険者となります。
①1週間の所定労働時間が20時間未満の労働者
②同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用される見込みのない労働者
③季節的に雇用され、以下のどちらかに該当する労働者
- 雇用期間が4カ月以内
- 1週間の所定労働時間が30時間未満
④昼間の学生または生徒
特に①、②については、下記のURLを参考にしてください。
厚生労働省「被保険者について」
厚生労働省「雇用保険の被保険者について」
雇用保険の料率・計算方法
雇用保険料は、[賃金額 × 保険料率]で計算し、労働者負担の保険料は毎月の給与から控除しておきます。
保険料率は年度ごとに決定され、厚生労働省のウェブサイトなどで確認できます。
厚生労働省「令和6年度の雇用保険料率について」
例:事業所の事業種類:建設業
⇒ 雇用保険料率 労働者:7 / 1000 = 0.7% 事業主:11.5 / 1000 = 1.15%
労働者の賃金月額:400,000円
労働保険に未加入の場合はどうなる?
労働保険の成立手続きの実行について指導を受けたにもかかわらず、手続きを行わない事業主に対しては、行政庁の職権によって成立手続きおよび労働保険料の認定決定が行われます。この場合事業主は、過去にさかのぼって労働保険料を徴収されるだけでなく、追徴金も徴収されます。
事業主が故意または重大な過失によって労災保険の保険関係成立届を提出していない期間中に、労働災害が発生し、労災保険の給付があった場合、事業主は過去にさかのぼって労働保険料を徴収されるとともに追徴金も徴収されるほかに、労災保険給付に要した費用の全部または一部を徴収されます。
雇用保険の手続きが遅れ、労働者の被保険者期間が確認できないと、失業等給付の内容が実際よりも少なくなってしまう恐れがあります。
労働者を1人でも雇用したら労働保険の加入義務あり!
労災保険も雇用保険も、労働者の健康や生活の安定を図ることを目的とした制度です。いずれも事業主の負担があり、加入手続きをためらう事例が見られますが、労働者が安心・安全に働くことは安定した事業経営につながるものです。制度の趣旨を踏まえ、適用事業である場合には速やかに加入手続きを行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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