- 更新日 : 2025年2月28日
労働保険とは?加入条件や料率の計算、手続き方法、未加入の場合を解説
労働保険は、労災保険と雇用保険を総称するもので、事業主が加入手続きを行います。この保険には、両保険を一括管理する一元適用と、別々に扱う二元適用があり、農林水産業や建設業は二元適用事業に分類されます。この記事では、労働保険の加入方法やその概要、関連する保険について詳しく解説していきます。
目次
労働保険とは?労災保険と雇用保険の総称
労働保険は、労災保険と雇用保険の総称なので、法律的な上位概念があるわけではありません。一方、労災保険は、労働者が業務によってこうむった病気やケガに対し療養費や生活費を給付するとともに、回復後の社会復帰を支援することを目的としています。
そして、雇用保険とは、失業や雇用継続の困難、育児のための休業により賃金の支給がなくなった場合の生活の支援、労働者の職業能力の開発、失業の予防を目的としています。
労災保険を利用するケース
労災保険は、労働者が業務中や通勤中に負ったケガや病気に対して補償を行う制度です。以下は代表的な適用ケースです。
- 【業務災害】
倉庫作業中に熱中症で倒れた場合
工場内でプレス機械の操作ミスにより指を切断した場合
清掃作業中に滑って転倒し腰を痛めた場合 など - 【通勤災害】
自転車通勤中に交通事故に遭い骨折
通勤途中の駅の階段で転倒し捻挫
通勤のために乗っていたバスが交通事故を起こして負傷 など
また、テレワーク中の事故も状況によっては労災認定される可能性があります。例えば、業務関連の書類を裁断する際に手を切ってしまったなどが挙げられるでしょう。ただし、同じ「手を切る」という負傷であっても昼食を作ろうとした、などの私的な行為中の事故は対象外とみなされる可能性が高いといえます。
雇用保険を利用するケース
雇用保険は、失業や育児休業などで収入が減少した際に生活を支えるための制度です。以下のようなケースで利用されます。
- 【失業時の支援】
倒産や解雇による失業:基本手当(失業手当)が支給される
自己都合退職:2025年4月以降、給付制限期間が2ヶ月から1ヶ月に短縮される - 【育児休業時の支援】
育児休業給付金:休業開始時賃金日額の67%(180日目まで)~50%(181日目以降)が支給 - 【リ・スキリング支援】
教育訓練給付金:厚生労働大臣の指定する教育訓練講座の受講費用の一部が補助される - 【高齢者や介護者への支援】
高年齢雇用継続給付金や介護休業給付金が支給される
労働保険の加入は義務?
労働保険(労災保険と雇用保険)は、法律に基づき、労働者を1人でも雇用する事業所には加入義務があります。これは、事業主が任意で選択できるものではなく、労働者の安全と生活の安定を守るために強制的に適用される制度です。
労災保険の加入義務
労災保険は、すべての事業所で原則として加入が義務付けられています。たとえパートタイマーやアルバイトなど非正規雇用の労働者であっても、業務中や通勤中に事故やケガが発生する可能性がある限り、事業主は加入しなければなりません。一部例外として、個人経営の農林水産業などでは一定条件下で適用が任意となる場合があります。
雇用保険の加入義務
雇用保険は、週20時間以上働く労働者を雇用する事業所に対して加入義務があります。また、その労働者が31日以上継続して雇用される見込みであることも条件です。
ただし、法改正によって2028年10月以降は週所定労働時間が20時間以上から10時間以上に変更されます。そのため学生や短期雇用者など一部例外を除き、ほとんどの労働者が対象になります。
参考:雇用保険制度の概要|厚生労働省
参考:雇用保険制度 令和6年雇用保険制度の改正内容について(雇用保険法等の一部を改正する法律)|厚生労働省
労働保険のうち雇用保険の加入条件と保険料率
雇用保険の保険料率は、労働者負担分と事業主負担分に分かれています。事業主は、個々の労働者について毎月の雇用保険料を計算し、支給する賃金から控除します。
労働者の雇用保険料は、
[賃金 × 雇用保険料率(労働者負担分)]
で計算します。
なお、保険料算定時の基礎に含まれない賃金があること、保険料を概算払いし、翌年度精算することは労災保険と同様です。
厚生労働省「労働保険対象賃金の範囲」
雇用保険の加入条件
雇用保険は、労働者を雇用する事業所に対して加入が義務付けられており、以下の条件を満たす労働者が対象となります。
適用事業所に雇用されていること
雇用保険は、原則としてすべての事業所が適用事業所です。労働者を1人でも雇用している場合、その事業所は強制的に適用事業所とみなされます。
ただし、農林水産業の個人事業で常時5人未満の労働者を雇用している場合(暫定任意適用事業)は例外です。
31日以上の雇用見込みがあること
以下の場合、31日以上の雇用見込みがあるとみなされます。
- 雇用期間の定めがない場合
- 雇用契約に更新規定があり、31日以上継続する可能性がある場合
- 過去に同様の契約で31日以上雇用された実績がある場合
一方、雇止めが明記されている場合や、31日未満で雇用が終了することが確実な場合は適用対象外です。
週20時間以上の所定労働時間
週20時間以上働く労働者は雇用形態に関係なく(日雇い労働者を除く)対象になります。なお、2024年5月に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律」によって雇用保険の適用範囲が拡大され、10時間以上に変更されます。施行されるのは2028年10月1日からです。
学生ではないこと
原則として学生は雇用保険の適用除外ですが、以下の場合は例外的に被保険者になります。
- 卒業後も同一企業で勤務予定の場合
- 休学中の場合
- 大学や高等学校の夜間部、または定時制課程の場合
- 通信制学校などに在学し、ほかの労働者同様の勤務が可能である場合
参考:雇用保険制度の概要|厚生労働省
参考:雇用保険制度Q&A~事業主の皆様へ~|厚生労働省
参考:雇用保険制度 令和6年雇用保険制度の改正内容について(雇用保険法等の一部を改正する法律)|厚生労働省
雇用保険の料率・計算方法
雇用保険料は、[賃金額 × 保険料率]で計算し、労働者負担の保険料は毎月の給与から控除しておきます。
保険料率は年度ごとに決定され、厚生労働省のウェブサイトなどで確認できます。2025年度(令和7年度)の雇用保険料率で月額賃金400,000円(建設業)のケースを例に、計算方法を紹介します。
例:事業所の事業種類:建設業
⇒ 雇用保険料率 労働者:6.5 / 1000 = 0.65% 事業主:11 / 1000 = 1.1%
労働者の賃金月額:400,000円
労働者負担:400,000円 × 0.7% = 2,600円 ⇒ 給与から控除
事業主負担:400,000円 × 1.15% = 4,400円
労働保険のうち労災保険の加入条件と保険料率
労災保険料は、[賃金額 × 労災保険料率]で計算しますが、給与の中には保険料の算定基礎にならないものがあります。以下のURLにより確認し保険料の計算時には除外してください。
労働保険は、前年度の賃金総額に基づき保険料を概算払いしておき、実際の賃金総額に基づき翌年度に精算します。精算による過不足は、次の概算払いのときに調整されます。
厚生労働省「労働保険対象賃金の範囲」
労災保険の加入条件
労災保険は、労働者を1人でも雇用している事業所は、法人・個人を問わず加入義務があります。事業規模や業種に関係なく、労働者の安全を守るため、すべての事業主が対象です。これには、正社員だけでなくアルバイトやパート労働者などの非正規雇用者も含まれます。ただし、以下の例外があります。
- 経営者や役員(特別加入制度で保障可能)
- 家事使用人や同居親族(労基法上「労働者」に該当しないため)
なお、在留資格がない外国人労働者についても労災保険が適用される場合があります。これは、被災者救済を優先するためです。
また、農林水産業など一部の個人経営事業では、以下の場合に限り任意での加入が認められています。
- 農業:常時5人未満の労働者を使用する個人経営事業
- 林業:常時労働者を使用せず、年間延べ300人未満の労働者を使用する個人経営事業
- 水産業:常時5人未満の労働者を使用する個人経営事業で、小型漁船(5トン未満)による操業など
そのほか、国の直営事業や非現業の官公署など、一部の公的機関は他の法律(公務員災害補償法等)が適用されるため、労災保険の対象外です。
労災保険の特別加入制度
労災保険が適用されない人にも任意での加入を認めるのが特別加入制度です。特別加入の対象になるのは、次の方たちです。
①第1種特別加入者
*中小企業主
次のいずれかの事業において、労働保険事務組合に労働保険事務を委託する事業主およびその事業に従事する者(家族従事者や役員)
業種 | 常時使用する労働者数 |
---|---|
金融業・保険業・不動産業・小売業 | 50人以下 |
卸売業・サービス業 | 100人以下 |
上記以外の業種 | 300人以下 |
スクロールできます
②第2種特別加入者
*一人親方
建設業、旅客・貨物運送業、林業などの自営業者および家族従事者など
*特定作業従事者
特定農作業従事者、介護作業従事者、家事支援従事者など
③第3種特別加入者
*海外派遣者
労災保険料の料率・計算方法
労災保険料は、[前年度の従業員の賃金総額 × 労災保険料率]で計算します。
労災保険料率は事業の種類ごとに決定され、厚生労働省の公式ホームページなどで確認することができます。
厚生労働省「令和6年度の労災保険料率について」
【労災保険料の計算例】
例:事業所の事業種類:食料品製造業 ⇒ 労災保険料率 = 5.5 / 1000 = 0.55%
従業員5人の賃金の総額:22,000,000円
22,000,000円 × 0.55% = 121,000円 ⇒ 労災保険料は121,000円
労働保険(労災保険、雇用保険)の加入手続きの流れ
労働保険の加入手続きは所轄の労働基準監督署と公共職業安定所(ハローワーク)で行いますが、先述した一元適用事業では労災保険と雇用保険を一括して労働基準監督署に届け出ます。
「労働保険関係成立届」と「労働保険料 概算・確定保険料申告書」を労働基準監督署に提出し、労働保険番号が交付されます。
その後、公共職業安定所で雇用保険の手続きを行いますが、その際には交付された、労働保険番号が必要です。
農林水産業、建設業などの二元適用事業では労災保険と雇用保険を別別に手続きしなければなりません。この場合、労働基準監督署、公共職業安定所のどちらかを先に届出しても問題ありません。
なお、それぞれの必要書類と提出期限については次項で詳しく説明します。
労働保険(労災保険、雇用保険)の加入手続きに必要な書類と提出先・期限
以下は、労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きに必要な書類と、その提出先および提出期限を、一元適用事業と二元適用事業ごとにまとめた表です。
【一元適用事業の場合】
書類 | 提出先 | 提出期限 |
---|---|---|
保険関係成立届 | ・労働基準監督署(労災保険) ・公共職業安定所(雇用保険) | 保険関係成立日の翌日から起算して10日以内 |
概算保険料申告書 | ・労働基準監督署 ・都道府県労働局 ・指定金融機関 (いずれかに提出) | 保険関係成立日の翌日から起算して50日以内 |
雇用保険適用事業所設置届 | 公共職業安定所 | 設置日の翌日から起算して10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 公共職業安定所 | 資格取得の事実があった日の翌月10日まで |
一元適用事業においては、はじめに保険関係成立届の手続きを行います。なお、概算保険料申告書は保険関係成立届と同時に手続きできますが、そのほかの手続きは保険関係成立届の手続きの後に実施します。
【二元適用事業の場合】
書類 | 提出先 | 提出期限 |
---|---|---|
保険関係成立届 | ・労働基準監督署(労災保険) ・公共職業安定所(雇用保険) | 保険関係成立日の翌日から起算して10日以内 |
概算保険料申告書 | ・労働基準監督署 ・都道府県労働局 ・指定金融機関(各保険の応じた窓口】 | 保険関係成立日の翌日から起算して50日以内 |
雇用保険適用事業所設置届 | 公共職業安定所 | 設置日の翌日から起算して10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 公共職業安定所 | 資格取得の事実があった日の翌月10日まで |
二元適用事業の場合、保険関係成立届の手続きを行った後、または同時にそのほかの手続きが可能です。
労災事故報告書のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
労働保険に未加入の場合はどうなる?
労働保険の成立手続きの実行について指導を受けたにもかかわらず、手続きを行わない事業主に対しては、行政庁の職権によって成立手続きおよび労働保険料の認定決定が行われます。この場合事業主は、過去にさかのぼって労働保険料を徴収されるだけでなく、追徴金も徴収されます。
事業主が故意または重大な過失によって労災保険の保険関係成立届を提出していない期間中に、労働災害が発生し、労災保険の給付があった場合、事業主は過去にさかのぼって労働保険料を徴収されるとともに追徴金も徴収されるほかに、労災保険給付に要した費用の全部または一部を徴収されます。
雇用保険の手続きが遅れ、労働者の被保険者期間が確認できないと、失業等給付の内容が実際よりも少なくなってしまう恐れがあります。
労働保険の加入手続きは電子申請でも可能?
労働保険の加入手続きは、政府が運営する電子申請システム「e-Gov」を通じてオンラインで行えます。
電子申請を利用すれば、オフィスや自宅から24時間365日申請が可能で、窓口での待ち時間が不要です。また、申請書類の入手や移動にかかる時間とコストを削減できるメリットもあります。
電子申請を始めるにあたっては、e-Govや行政サービスへのログインに使用する「GビズID」への登録、それに伴う電子証明書の取得など、一定の初期準備が必要です。特に法人で取得が推奨されるアカウント「GビズIDプライム」を利用する場合、本人確認のための認証が強化され、各種手続きがスムーズに行える反面、管理体制の整備や操作方法の習得が欠かせません。
また、申請内容によってはオンラインの対象外とされるものもあるため、手続きごとの対応状況をあらかじめ確認しておく必要があります。
参考:GビズID|デジタル庁
労働者を1人でも雇用したら労働保険の加入義務あり!
労災保険も雇用保険も、労働者の健康や生活の安定を図ることを目的とした制度です。いずれも事業主の負担があり、加入手続きをためらう事例が見られますが、労働者が安心・安全に働くことは安定した事業経営につながるものです。制度の趣旨を踏まえ、適用事業である場合には速やかに加入手続きを行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
介護保険法とは?わかりやすく解説!保険料や介護サービスを受けるまでの流れ
介護保険法とは、介護を必要とする人への保険給付について定めた法律です。介護保険の対象者には第1号被保険者と第2号被保険者があり、保険料の計算方法や納付方法、利用できるサービスが異なっています。 本記事では、介護保険法の目的や対象者、介護保険…
詳しくみるテレワークでも労災は認められる?10の事例、判断基準を解説
テレワークでも労災は認められます。しかし、労災と認められるのは業務が原因のケガや病気などで、私的な行為による災害は労災として認められません。そのため、作業中に負傷した場合でも家事や育児などは私的行為となり、労災の対象外です。 テレワークでは…
詳しくみる失業給付金・失業手当の条件は?金額や期間、再就職手当を解説
失業給付金の受給条件は、雇用保険加入、失業状態、被保険者期間が12ヶ月以上の3点です。受給額や期間は退職理由で異なり、再就職手当もあります。受給中のアルバイトは申告必須で、年齢や再就職によって受給条件が変わることに注意が必要です。本記事では…
詳しくみる厚生年金保険料が引かれすぎ?計算方法を解説!
会社員に支払われる給与と賞与からは、所得税(源泉徴収税)などが差し引かれています。厚生年金保険料も控除されているものの1つで、給与からは標準報酬月額に厚生年金保険料率をかけた金額、賞与からは標準賞与額に厚生年金保険料をかけた金額が天引きされ…
詳しくみる厚生年金の受給前に対象者が死亡した場合 – 手続きや金額
厚生年金に加入している方が亡くなった場合、本人の受給資格はなくなります。遺族は、亡くなった方が受給前だった場合には遺族年金を、受給中だった場合には遺族年金や未支給年金を受け取れる場合があります。ただし、そのためには請求手続きが必要です。本記…
詳しくみる厚生年金の報酬比例部分とは?定額部分との違いや計算方法、支給開始年齢を解説
公的年金制度には厚生年金と国民年金がありますが、その仕組みは複雑です。 支給開始年齢が65歳であることは知っていても、年金を構成する報酬比例部分や定額部分がどのようなものなのか、理解している人は少ないのではないでしょうか。 本稿では年金制度…
詳しくみる