• 更新日 : 2023年11月10日

暗黙知とは?形式知との違い – 意味や使い方を例を用いて解説

暗黙知とは?形式知との違い - 意味や使い方を例を用いて解説

暗黙知とは、他人に説明するのが難しい属人的なスキルや知識を指します。組織では、この暗黙知を客観的でわかりやすい形式知に変えることで、知識として蓄積でき、他者とノウハウを共有することが可能になります。

ここでは、暗黙知の意味・具体例をわかりやすく解説するとともに、暗黙知を形式知に変換する方法についても紹介します。

暗黙知とは?

暗黙知とは、個人の経験や勘などに基づく知識のことをいいます。他人に説明するのに時間がかかる、説明するのが難しいといった特徴があり、職人の永年の経験による技術や勘、営業職の交渉手法、デザイナーのセンスなどは、暗黙知に該当するといえるでしょう。職種に関係なく、優秀な社員は何かしらの暗黙知を持っているともいわれます。

暗黙知の理論的背景

暗黙知の語源は、ハンガリーの物理化学者であり社会科学者でもあるマイケル・ポラニーが発表した『暗黙知の次元』にあるといわれています。そして、暗黙知を社会に広めたのは、日本の経済学者である野中郁次郎という人物です。野中氏は、後述するSECI(セキ)モデルにおいて、暗黙知と形式知が相互に作用し合って生まれる相互変換について論じています。

暗黙知には、以下の特徴があります。

  • 言語化、図形化しづらい
    →感覚的に習得する部分が大きい
  • 経験から獲得される
    →個人の経験や主観的なものに基づく知識
  • データとして集約が難しい
    →属人化している知識やスキルである

形式知との違い

暗黙知と対照的なものに、形式知があります。形式知とは、主観的な知識を文章や図解、数値などによって、わかりやすく言語化して表現した知識をいいます。マニュアルなども形式知に当てはまります。誰が見ても理解できるよう、客観的にまとまっている点が特徴です。

暗黙知と形式知の具体例

暗黙知と形式知の具体例についてみてみましょう。

商談のトークスクリプトを作成する

優秀な営業成績を誇る社員がいます。その社員は、乗り気でない顧客も商談で納得させ成約にいたることで有名でした。社員がどのような商談をしていたのか、同席していた他の社員は「すごかった」と誉めるものの、肝心の商談は当該社員にしか再現できないものでした。この時点では、社員の商談スキルは暗黙知に該当します。

そこで、マーケティング部がロールプレイングを通じて当該社員の商談の聞き取りを行い、ポイントをまとめました。ポイントは複数あり、当該社員は顧客の商談ステージを大きく3つにわけ、反応によって6つのトークを使い分けていました。大まかなポイントがトークスクリプトとなったことで、他の営業社員の成績も向上しました。

システムの使い方についてマニュアルを作る

経理で長年担当していたAさんが退職することになりました。経理システムはAさんしか扱っておらず、部長も社長も、月次決算や年次決算の具体的な作成方法を知りません。

後任社員を探しているあいだ、部長はAさんにシステムの業務マニュアルの作成を依頼しました。Aさんの退職後、経理経験の浅いBさんが担当することになったものの、経験が豊富なAさんの残したマニュアルのおかげで、ミスなく月次決算を行うことができました。

顧客とのトラブル事例をデータ化する

C社では、顧客のクレームについてデジタル化し、社内のプラットフォームにまとめています。「アポイントミス」「発注エラー」といったラベルに分け、社員は自由に過去のトラブル事例を閲覧することが可能です。というのも、今までは社内の情報共有がうまくできておらず、複数のトラブルが続いたこともあり、再発防止の意味で事例をデータ化することにしました。担当者が切り替わるタイミングなど、折にふれてトラブル事例を共有しており、最近ではクレームの発生件数が減少しています。

ビジネスにおいて重要な「暗黙知」の「形式知」への変換

このように、属人的な暗黙知が形式知になることで組織はナレッジを蓄積できます。ナレッジが蓄積されれば、それらを共有化することで社員が知識やスキルを習得し、スキルアップや生産性向上につなげることが可能です。

また、社員が退職したり、担当者が変わったりしても、蓄積された形式知は引き継ぐことができます。チームで仕事する場合や、リモートワークなど離れた場所で業務を行う場合などでは、特に属人的な暗黙知を形式知に変換することは重要です。さらに、マニュアルが整備されていれば、教育コストを抑えることができ、引継ぎなどもスムーズに進むでしょう。

「暗黙知」を「形式知」に変換する方法 – ナレッジマネジメント

こうした暗黙知を形式知に変換する方法をナレッジマネジメントといいます。ナレッジマネジメントについて下記に解説します。

SECIモデルのサイクルを回す

ナレッジマネジメントは、先述の「SECI(セキ)モデル」と呼ばれるフレームワークに沿って実践されます。SECIモデルは、以下の4つのプロセスに分けられています。

ステップ1:共同化

個人同士が共通の経験をすることによって、個人の暗黙知を共有するプロセスです。たとえば、若手営業社員が熟練した営業社員の商談に同席するケースが該当します。

ステップ2:表出化

共同化で暗黙知を他者と共有した後、言葉や図などを用いてアウトプットするプロセスです。営業のトークスクリプトを作成する、商談を録画するといったケースが該当します。

ステップ3:結合化

結合化では、個々の形式知を組み合わせ、体系的な形式知を組織レベルで構築するプロセスです。たとえば、個人の営業社員が創っていたトークスクリプトをまとめ、組織として最適な商談マニュアルを作成することによって、形式知を組織財産として蓄積できます。

ステップ4:内面化

個人が体系的な形式知を学習・行動に移すことによって、実用的な暗黙知が獲得されるプロセスです。最初の暗黙知とは異なり、一つレベルが上がった暗黙知として、個人が獲得します。

場の醸成

「場」とは、会社などの組織において暗黙知や形式知が形成・醸造されるところを指します。ナレッジマネジメントの場としては、「休憩室」「喫煙所」「業務後の宴席」「社内SNS」などがあげられます。重要なポイントは、業務やオフィスに限らず、雑談を通じて自由に意見が発言できる場をデザインすることです。コミュニケーションと交流が生まれることで、暗黙知が表出します。

知識を資産として捉え蓄積する

ナレッジマネジメントの重要なポイントは、蓄積したナレッジを資産としてとらえることです。知的資産を社内で蓄積し、次世代に継承することで、業務の効率化だけではなく、ナレッジマネジメント自体の効率化が進みます。

ナレッジマネジメントを推進するリーダーシップ

ナレッジリーダーシップとは、ナレッジリーダーに求められるリーダーシップのことを指します。ナレッジリーダーは社内のナレッジマネジメントの成果を左右する存在です。暗黙知を形式知にすることは時間も手間もかかり、なかには、「めんどくさい」と思う社員もいるでしょう。そこで、ナレッジマネジメントを推進するリーダー的存在が必要になります。

ナレッジマネジメントのメリットをわかりやすく伝え、SECIモデルのフェーズに沿ったプロセスで形式知が蓄積されるようリードします。

ナレッジマネジメントに使えるツール

ナレッジマネジメントを推進するには、ツールを活用することが重要です。昨今では、さまざまなツールを暗黙知を形式知に変える方法として活用できます。たとえば、インターネット上で文書ファイルを手軽に共有できるようになったことも、ナレッジマネジメントに使えるツールの一つです。

日頃から活用できるツールは、以下の4種類に分けられます。自社の状況に応じて、活用を検討してみるとよいでしょう。

ナレッジの蓄積や共有に特化しているタイプ

ナレッジを蓄積・共有して経営戦略などに役立てたい場合に活用できるツールです。資料作成に適したナレッジを自動的に表示するなど、簡単にナレッジを共有できます。

FAQや社内Wikiを作成できる「業務プロセス型」

社内の問い合わせを削減したいという場合に適しています。社内でのよくある質問を集約することで社員が自己解決できます。また、業務マニュアルとしても活用できるため社員教育にも役立ちます。

ヘルプデスクをサポートする「ヘルプデスク型」

問い合わせ対応の効率を上げたい場合に適しています。昨今では、AIチャットボット型が多く、顧客や社内からの問い合わせに自動で対応できるものが登場しています。また、オペレーターがFAQを検索しやすいツールも人気です。

情報検索の効率を上げる

全文検索・ファイル内検索といった検索機能に優れたエンタープライズサーチ型が該当します。曖昧なキーワードで検索しても、目的の情報が掲示されるというように、検索性に優れています。

暗黙知をナレッジマネジメントで組織に蓄積しよう

暗黙知は、形式知に変えることで他者と共有することが可能です。さまざまな人が働く組織では、ナレッジマネジメントは組織を成長させるための鍵といえるでしょう。日頃から、ナレッジマネジメントを徹底している組織では、テレワークといった柔軟な働き方にも素早く対応できます。

昨今では、ナレッジマネジメントに活用できるツールが数多く登場しています。自社の課題に合わせて導入を検討してみるとよいでしょう。


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