- 更新日 : 2026年6月22日
福利厚生は法的に義務付けられている?最低ラインや全くない場合の影響を解説
健康保険や労災保険などの法定福利厚生は、全企業に導入が義務付けられています。
法定外福利厚生の充実は採用力や定着率の向上につながります。
優秀な人材の確保や従業員の満足度向上などを目指すうえで、企業の福利厚生は欠かせません。一方で、予算の関係から最低限しか福利厚生を整備できないという企業もあるでしょう。
本記事では、法律で定められている福利厚生の最低ラインや福利厚生が全くない場合のペナルティ、福利厚生を充実させるメリットなどを紹介します。
目次
福利厚生の最低ラインとは?
企業には福利厚生を整備する義務がありますが、すべての福利厚生が義務付けられているわけではありません。ここでは、法律上企業に義務付けられている福利厚生の最低ラインについてわかりやすく解説します。
健康保険・厚生年金保険
会社は条件を満たした従業員を雇用する場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられています。
原則として、正社員に限らず、一定条件を満たすパートやアルバイトでも加入対象となります。
これにより、病院での診療費負担の軽減や将来の年金保障など、従業員の生活や老後のサポートが可能です。
労災保険
会社は従業員を1人でも雇用している場合、労災保険への加入が義務付けられています。
労災保険とは、従業員が仕事中や通勤途中でケガや病気をした場合に、治療費や休業中の給料の一部を補償する制度です。
この制度は企業の規模や業種にかかわらず必ず適用されるため、すべての会社が加入している必要があります。
雇用保険
会社は一定の勤務時間や期間の条件を満たす従業員に対して、雇用保険への加入が義務付けられています。
雇用保険は、失業時の給付金や育児休業給付、介護休業給付など、働く人が一時的に働けなくなった際の生活を支えるための制度です。
企業側にはこの保険への加入が法律で義務付けられており、従業員の雇用を守る重要な制度となっています。
年次有給休暇
労働基準法では、一定期間勤務した従業員に対して、年次有給休暇を付与することが義務付けられています。
正社員だけでなく、パートやアルバイトでも勤務日数や時間に応じて有給休暇を取得する権利があります。
会社側が有給休暇の取得を妨げることは認められておらず、従業員は法律で保障された休暇を利用可能です。
子ども・子育て拠出金
対象となる従業員(厚生年金保険の加入者)がいる場合、企業側に「子ども・子育て拠出金」の導入と費用負担が義務付けられています。
社会保険料と合わせて拠出金を政府に支払い、徴収された拠出金は国や地方自治体の子育て支援事業の財源として活用される制度です。
このとき、被保険者である従業員側の負担はなく、企業側が費用を全額負担するのが特徴です。
また、企業が行うのは拠出金の納付のみであり、従業員に対して現金支給や支援を提供する必要はありません。
会社がこの拠出金を支払う社会全体のインフラが整い、従業員が仕事と育児を両立しやすい環境が作られていきます。
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福利厚生が全くないとどうなる?
企業には法律で定められた最低限の福利厚生を従業員に提供する義務があります。
しかし、中にはこれらの義務を守らず、「福利厚生が全くない」状態で従業員を働かせている会社も存在します。
この章では、福利厚生が全くない会社で働くとどのような問題が起きるのかをみていきましょう。
法律違反で企業が行政指導や罰則を受ける
福利厚生が全くない状態というのは、法律で義務付けられている社会保険(健康保険・厚生年金)、労災保険、雇用保険、有給休暇などを提供していない状態を指します。
これらの法定福利厚生は企業にとって絶対的な義務であり、違反すれば以下のような行政指導や罰則を受ける可能性があります。
- 労働基準監督署からの是正勧告・指導
- 保険料の遡及徴収
- 悪質な場合は刑事罰や企業名の公表といった社会的制裁
従業員としても、会社が法律違反をしている状況では安心して働くことができず、会社の経営自体も不安定になりがちです。
労災保険未加入で費用徴収される
福利厚生が全くないということは、労災保険にも加入していない状態です。労災保険に未加入であっても、保険給付は受けられます。
一方で、故意や重大な過失による未加入の場合には、給付に要した費用が事業主から徴収されます。
保険給付は大きな額となることもあるため、会社にとって大きな負担となるでしょう。
社会保険未加入で収入が大幅に減少する
会社が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していない場合、個人で国民健康保険や国民年金に加入し、保険料を全額自己負担しなければなりません。
健康保険や厚生年金の場合は保険料を会社が半分負担しますが、国民健康保険や国民年金では全額個人負担になるため、収入が大きく減少します。
たとえば月収が20万円程度の場合でも、国民年金と国民健康保険の合計で毎月数万円を自己負担することになり、経済的負担が大きくなります。
福利厚生が必要ない労働形態とは?
法定福利厚生は法律によって、企業側に導入が義務付けられています。しかし、一部の労働形態で働く方には、法定福利厚生を提供する必要がありません。
福利厚生費を抑えたいと考えている方は、労働形態についても把握しておきましょう。
業務委託先の個人事業主
業務委託で契約している個人事業主は法律上の「労働者」に該当しないため、福利厚生を提供する義務はありません。
福利厚生は本来、企業が従業員の生活を支えるために提供するものであり、雇用関係にない外部のビジネスパートナーに対しては、法律上の提供義務は生じないのです。
ただし、2024年11月に施行されたフリーランス法により、契約している個人事業主に対してハラスメント対策や育児・介護との両立などの配慮が求められます。
社会保険や雇用保険の加入要件を満たさない短時間労働者
健康保険や厚生年金保険といった社会保険、雇用保険の加入要件を満たしていない短時間労働者に対しては、各福利厚生を提供する必要はありません。
たとえば、社会保険の加入基準として4分の3ルールが挙げられます。
正社員と比べた週の所定労働時間と月の所定労働日数が4分の3に満たない短時間労働者は社会保険に加入させる義務がありません。
一方で、労災保険については労働時間の長さを問わず提供義務があるため、短時間労働者に対しても適用するようにしましょう。
派遣社員
派遣社員にとっての雇用主は派遣元企業であるため、派遣社員には派遣元の福利厚生が適用されます。
派遣先企業には直接の雇用関係がないため、自社の福利厚生を提供する義務はありません。
ただし、食堂や休憩室、更衣室については、派遣先も利用機会を与える義務が設けられています。
また、物品販売所・保育所・浴場・娯楽室なども、派遣社員が利用できるよう配慮する必要があります。
給与が発生しない無償ボランティア、無給インターン
賃金が発生しない無償の活動は、法律上の「労働」には該当しません。労働基準法の対象外となり、法定福利厚生を提供する義務もありません。
ただし、企業側は無給で活動する人に対しても安全配慮義務があるため、事故の防止やハラスメント防止に努める必要があります。
福利厚生を提供する必要がないからといって、配慮が不要であるというわけではない点に留意しましょう。
同じ労働内容なら、パートや契約社員にも福利厚生は必要
「同一労働同一賃金」により従業員と同じ労働を行っているパートタイム労働者や契約社員に対しては、従業員と同等の福利厚生を提供する必要があります。
同一労働同一賃金の原則とは、職務内容や配置の変更の範囲が同じであれば、雇用形態の違いを理由に待遇を差別してはならないという考え方です。
福利厚生もこの「待遇」に含まれるため、正社員のみを対象とするような制度設計は法的なリスクを伴います。
社会保険や雇用保険といった法定福利厚生はもちろん、社食や休憩室といった福利厚生施設、給与などについても従業員と同様に提供しましょう。
法定外福利厚生を充実させるメリット
社会保険や労災保険といった福利厚生は、導入が義務付けられており、法定福利厚生と呼ばれます。
一方で、社宅や社員食堂などの福利厚生は、法定外福利厚生と呼ばれ、どの程度充実させるかは企業側に委ねられています。
法定外福利厚生を充実させるうえでの企業側のメリットをみていきましょう。
採用力が強化され優秀な人材を確保できるようになる
法定外福利厚生を充実させることで、競合他社との差別化ができます。
現代の求職者は企業選びにおいて給与額だけでなく、福利厚生の充実度や働きやすさも重視する傾向にあります。
従業員の生活を支援する制度を導入することで、他社にはない魅力をアピールでき、多くの応募者の中から自社にマッチした優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
人手不足に悩んでいたり、優秀な人材を採用したいと考えている場合には、とくに有効です。
定着率が向上する
従業員のニーズに応じた法定外福利厚生を提供することで、従業員の離職を防止し、優秀な人材を社内に定着させられます。
また、法定外福利厚生によって職場環境が改善されると、従業員の企業に対する信頼感や愛着が高まり、「この会社で長く働きたい」という意欲も醸成されます。
実際「厚生労働省 令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、約10%の人が前職を辞めたい理由に「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」と回答しており、これは給与面を理由にしている人と同程度の割合です。
労働条件を理由に離職する人を減らしたい場合には、とくに効果的でしょう。
介護や出産と仕事を両立できる
介護や出産などを支援する制度を提供することで、従業員のライフステージの変化による離職を防ぐことが可能です。
育児・介護休業法によって、企業側も一定の支援を提供する義務が設けられています。
それに加えて、法定を超える育児・介護休業の拡充や時短勤務制度、在宅勤務制度などを整備しておければ従業員の負担が抑えられ、家庭と仕事を両立させやすくなります。
家族の介護に直面するベテラン層や結婚した女性従業員が多く、彼らに離職してほしくないと考えているならば、両立を支援する法定外福利厚生を検討しましょう。
節税効果がある
福利厚生費として支出した費用は、全額を経費として計上できるため、法人税の節税につながります。
たとえば、従業員が家賃や通勤に必要な費用を給与として支給するよりも、社宅や通勤手当といった福利厚生で支給することで、福利厚生費分が非課税となります。
また、従業員側にとっても受け取った法定外福利厚生は非課税となるため、所得税や住民税の負担を抑えつつ、実質的な手取り額を増やすことが可能です。
ただし、法定外福利厚生の支出を非課税として計上するには、「全従業員が対象であること」「機会が平等であること」などの要件を満たさなければなりません。
制度ごとに要件を満たす運用ができているのか、専門家に相談しましょう。
従業員の健康を維持できる
健康診断やスポーツジムといった法定外福利厚生を提供することで、従業員の健康を確保し、高いパフォーマンスを維持できます。
これらの法定外福利厚生を通じて、従業員に対して病気の早期発見やメンタル不調の改善が可能です。
従業員が心身ともに健康な状態で働けるようになり、欠勤の減少や業務効率の改善、組織全体の生産性向上を実現できるでしょう。
メンタル不調や生活習慣病による長期休職、離職を防ぎたい企業にもおすすめです。
法定外福利厚生を充実させるために必要な取り組み
企業が法定外福利厚生を充実させることは、従業員のモチベーション向上や定着率アップにつながり、結果的に企業自体の成長にもつながります。
この章では、企業が法定外福利厚生を充実させるために具体的にどのような取り組みをすべきか、わかりやすく解説します。
従業員のニーズを把握するための定期的なヒアリングを行う
法定外福利厚生を充実させるためには、まず従業員が実際に求めているものを明確に把握する必要があります。
経営陣が一方的に制度を整えるのではなく、定期的にアンケートや面談などを通じて、従業員がどのような法定外福利厚生を必要としているのかを具体的にヒアリングしましょう。
従業員のニーズに応じた制度を設計することで、満足度の高い法定外福利厚生が提供できるようになります。
法定外福利厚生を企業の魅力として積極的に発信する
法定外福利厚生をただ整備するだけでなく、それを企業の強みとして積極的に社外にアピールすることで、採用活動にも役立ちます。
自社の福利厚生が充実していることを求人情報やホームページなどで明確に伝えることで、優秀な人材を惹きつける効果も期待できます。福利厚生を通じた企業ブランドの向上にもつながるでしょう。
法定外福利厚生を定期的に見直して改善を行う
一度整備した福利厚生制度を放置するのではなく、定期的に見直しを行い、改善や修正を加えることが重要です。
定期的に従業員の利用状況や満足度を分析し、制度が現状に合っているかを評価します。その結果を踏まえ、改善すべき点を明確化し、随時アップデートしていくことで、常に従業員が満足できる制度を維持することができます。
企業が法定外福利厚生を充実させることは、長期的にみれば企業の成長に直結する重要な経営課題です。
従業員のニーズをしっかりと把握し、計画的かつ継続的に取り組んでいくことが求められます。
従業員に人気のある法定外福利厚生
導入した福利厚生が形骸化しないためには、従業員にニーズのある制度の導入が大切です。ここでは、従業員に人気の法定外福利厚生を紹介します。
以下の記事では、人気の福利厚生をランキング形式で紹介しています。従業員にニーズがある福利厚生を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
慶弔休暇制度
結婚、出産、親族の死去といった特別なライフイベントに対して、企業が独自に付与する特別休暇です。
従業員は大切なイベントの際に休暇を取れるようになり、ワークライフバランスの維持に寄与します。
ただし、法律で定められた休暇ではないため、付与日数や給与の扱いなどを就業規則で明記しておく必要があります。
また、従業員間で不公平感が生じたり、特定の従業員ばかりに負荷が集中したりしないよう、部署内の業務量を調整する工夫や体制を整備しておきましょう。
特別休暇(リフレッシュ休暇・アニバーサリー休暇など)
仕事から離れて心身をリセットする休暇や誕生日・結婚記念日といった従業員の特別な記念日に休暇を取得できる制度です。
まとまった休みを定期的に取得できたり、自分や家族にとって大切な日に休暇を取得できたりするため、従業員は会社から大切にされていると実感できます。
また、私生活を充実させるための手助けとなり、仕事へのモチベーションを維持・向上させることにもつながります。
慶弔休暇制度と同じく、法定の年次有給休暇とは異なるため、付与日数や取得条件、休暇中の給与の扱いなどを事前に定めておきましょう。
家賃補助、住宅手当
従業員の住居費負担を軽減するために支給される金銭的な補助制度です。毎月一定額を支給する形態や、家賃の一定割合を負担する形態などがあります。
固定費の中で大きな割合を占める住居費の負担が軽くなるため、従業員にとっても金銭的な恩恵を得られるのが利点です。
とくに、家賃の高い都市部で働く従業員や若手社員、家族を持つ層からのニーズが高い傾向にあります。
ただし、現金を支給するため、税務上は給与所得とみなされ課税対象となってしまいます。
従業員側や所得税や社会保険料の負担が大きくなり、企業側も福利厚生費として計上できない点は留意しておきましょう。
社宅
企業が所有する住宅や、企業が賃貸契約した物件を従業員に提供する制度です。
従業員は相場よりも大幅に安い賃料で住むことができ、実質的な手取り収入の向上につながります。
社宅という形で提供することで、非課税対象となり、従業員と企業双方にとって節税効果があるのが利点です。
一方で、従業員側から一定基準以上の賃貸料相当額を徴収しなければ非課税対象と認められないため、社宅を福利厚生に盛り込む際には専門家と相談しておくのも大切です。
人間ドック
法定の定期健康診断よりも検査項目が詳細な「人間ドック」の受診費用を補助する制度です。
人間ドックの実施によって、病気の早期発見・早期治療につながり、従業員の健康維持をサポートできます。
人間ドックの費用負担が福利厚生費として認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 「すべての従業員に平等な機会がある」
- 「会社が医療機関へ直接支払う」
- 「金額が常識の範囲内である」
一定の役職以上の人間のみ対象といった場合は、福利厚生費として計上できなくなってしまうため、必ずすべての従業員が対象となる制度にしておきましょう。
なお、以下の記事で健康経営について詳しく解説しています。従業員の健康を意識するメリットや重要性が気になる方は、ぜひご覧ください。
昼食補助
社員食堂の運営や仕出し弁当の提供、ランチ代の補助、オフィス内での軽食販売など、従業員の食事を支援する制度です。
毎日の食費負担が軽減されるだけでなく、栄養バランスの取れた食事を摂ることで従業員の健康維持にも寄与します。
また、社内で食事が完結することで時間の節約になり、従業員同士のコミュニケーション活性化も期待できるでしょう。
税務上の福利厚生費として認められるためには、以下のような要件を満たす必要があります。
- 「従業員が費用の50%以上を負担している」
- 「企業の負担額が月額7,500円(税抜)以下である」
参考:食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて|国税庁
スポーツジム
提携するスポーツジムの割引利用や社内にトレーニングスペースを設置する制度です。従業員の運動不足の解消やリフレッシュ、ストレス緩和に役立ちます。
ただし、運動習慣のない従業員は利用しにくいため、特定層のみに利益が偏り、不公平感を生むリスクがあります。
全従業員が平等に利用できる工夫や、他の健康施策との組み合わせなどの公平な設計が求められるでしょう。
福利厚生の導入を検討している方には、社宅関連の制度を導入するのがおすすめです。手続きや運用に不安がある方は、マネーフォワードクラウドのサービスをぜひご検討ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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