- 更新日 : 2025年1月20日
パワハラで懲戒処分にできる?処分の基準や就業規則の規定例を解説
パワハラが発生した場合は、パワハラ行為を起こした加害者の懲戒処分ができます。ただし、懲戒処分は法的な要件や量的な基準などで判断しなければなりません。
本記事では、パワハラ行為者の懲戒処分について、必要な対応などを解説します。懲戒処分に必要な要件や基準の説明や就業規則の規定例なども紹介するので、ぜひ役立ててください。
目次
パワハラの行為者を懲戒処分にできる?
職場でパワハラ行為を起こした場合、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。パワハラの認定基準は、厚生労働省が示す以下の3つの要素を全てに該当した場合に認定されます。
優越的な関係を背景とした言動(上司や先輩社員など)
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
労働者の就業環境が害される
引用元:あかるい職場応援団「ハラスメントの定義」 をもとに作成
これら全ての要件に該当し、犯罪や民事上の不法行為に該当する場合、または懲戒事由に該当する場合に応じて刑罰や懲戒処分の対象が決まります。
パワハラで懲戒処分を行うための法的要件
パワハラで懲戒処分を行うには、法的な要件を満たす必要があります。
就業規則に懲戒規定が明記されている
パワハラ行為をした社員を懲戒処分にする場合は、就業規則に懲戒規定が明記されていることが必要です。また、就業規則に懲戒規定の項目を明記した際は、全従業員へその旨を伝えましょう。
就業規則に懲戒規定を明記していない企業は、パワハラ行為が発生した後に就業規則を追記するだけでは不十分です。就業規則の内容は、労働基準法第106条第1項にのっとり、従業員に周知させることが義務付けられています。そのため、パワハラ行為の有無に関係なく就業規則に懲戒規定を明記しておく必要があります。
懲戒事由に該当する事実が認定される
懲戒処分は、パワハラ行為者による行動内容が懲戒事由に該当する事実と認定されなければなりません。企業が懲戒処分の解雇を行う場合は、労働契約法第15条(懲戒)と第16条(解雇)で定められた事実であれば認められます。
- 使用者が労働者を就業規則で定める懲戒事由によって懲戒できること
- 懲戒処分が客観的に合理的な理由であること
パワハラ行為者の懲戒事由がこれらの法的要件を満たしていることが必要です。
懲戒処分の種類や量刑が社会通念上相当である
懲戒処分に関しては、行為者の処分が懲戒処分の種類や量刑として、社会常識的にふさわしいかどうかという点も法的な要素となります。前述の労働契約法15条では、懲戒処分の有効性の判断において客観的合理性および社会通念上相当であることを要件としています。
懲戒処分の手続きが適正に行われている
企業が懲戒処分を行う場合の手続的な適正さとは、懲戒処分を受ける労働者に対して、弁明の機会を付与させます。具体的には、懲戒委員会の開催や労働者の事情聴取による弁明などの機会です。これらの手続きを適正に行ったうえで懲戒処分となります。
弁明の機会を与えずに懲戒処分の手続きを進めた場合は、不当な処分として無効になる場合もあります。
パワハラに対する懲戒処分の量定を決める基準
パワハラに対する懲戒処分は、量定の基準を理解したうえで決める必要があります。懲戒処分の量定は、3つの基準で判断します。ここでは、具体例をふまえて適正な処分について解説しましょう。
犯罪行為レベル(刑法)
犯罪行為レベルのパワハラは、刑事事件として扱われる重大な事件になる可能性があります。ここでは、以下のパワハラの種類・具体例に対して、企業の懲戒処分と刑法上の犯罪の該当性についてまとめました。
パワハラの種類 | 犯罪行為レベルの具体例 | 懲戒処分の種類 ※処分が軽い順 | 刑法上の罪 |
---|---|---|---|
身体的な攻撃 |
|
|
|
精神的な攻撃 |
|
|
|
参考:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
パワハラ行為は、刑法で裁く犯罪行為レベルの場合、懲戒処分も重くなる可能性があります。
不法行為レベル(民法)
パワハラ行為は、民法上の不法行為に該当する可能性があり、会社は従業員から損害賠償請求される場合があります。以下、どのような行為が不法行為レベルに該当するのか、パワハラの種類ごとに、言動の具体例とあわせて一般的に考えられる懲戒処分を示します。
パワハラの種類 | 不当行為レベルの具体例 | 懲戒処分の種類 |
---|---|---|
過大な要求 |
|
|
過小な要求 |
| |
人間関係からの切り離し |
| |
個の侵害 |
|
これらの行為は、厚生労働省が定めるパワハラ行為と疑われる可能性を持っています。ただし、被害者が訴えた場合は、民法による判断となるでしょう。
職場環境を害するレベル
パワハラ行為による懲戒処分は、個人的な被害だけではなく、職場環境への影響により判断することもあります。
職場環境を害するレベルのパワハラ行為 | 懲戒処分の種類 ※処分が軽い順 |
---|---|
|
|
職場環境を害するレベルのパワハラは、個の社員だけではなく職場全体の聞き取り調査などで発覚する場合があります。また、パワハラに当たる言動や行為が継続的に行われていたり、慢性化していたりする点も判断要素になるでしょう。
職場環境の悪化は、社員の精神障害による被害まで至らなければ、注意や指導レベルの処分が考えられます。状況によっては、配置転換などの処分が必要な場合もあるでしょう。
パワハラで懲戒処分を行う流れ
パワハラ行為による懲戒処分は、次の対応の流れで進められます。
①パワハラに該当する事案が発生
パワハラに該当する事案が発生した場合は、間接的な報告ではなく直接的に関係している当事者の報告を受けてから行動しましょう。中には、パワハラが疑われる状況に偶然出くわしたことで間接的に報告してくるケースもあります。
企業は、報告者の立場や状況をふまえて冷静な判断が求められるでしょう。
②事実確認を進める
パワハラの発生報告があった場合は、1件の報告内容のみで判断を下すのではなく、当事者や関係者などのヒアリングを行いながら事実確認を進める必要があります。
事実確認を進めるうえで重要なポイントは、次の通りです。
- 厚生労働省が示すパワハラの定義に該当する行為か
- 事実を裏付ける証拠があるか
- 行為による被害はどのような内容か(重大・軽度など)
企業は、これらの事実確認を進めるうえで、被害者の意向やプライバシーなどの配慮が必要です。
③懲戒処分の決定判断
企業は、事実確認のうえで加害者の懲戒処分の決定を判断します。懲戒処分の判断については、以下の通りです。
- パワハラ行為は重大な事案か→退職勧奨に応じる場合は合意退職・退職勧奨に応じない場合は懲戒処分
- パワハラ行為が刑事事件や民事訴訟に発展する可能性があるか→被害による怪我や病気の程度、補償の有無など
- パワハラ行為は軽度な事案か→厳重注意や戒告、譴責、減給などの処分で対応
これらの判断を被害者の意向に配慮しながら決定することが重要です。
④懲戒手続きを開始
パワハラ行為が重大な事案と判断した場合は、被害者の意向を汲み取ったうえで行為者の退職勧奨を行います。行為者が退職勧奨に応じなかった場合は、懲戒処分の対象として手続きを進めます。
懲戒処分の手続きでは、懲戒委員会(懲罰委員会:会社の従業員に対して懲罰の可否や内容を審議・決定する委員会)を開催し、行為者に弁明の機会を与える必要があります。行為者に弁明の機会を与える理由は、公正な手続きを確保し、後の訴訟リスクを軽減するためです。
⑤懲戒処分の通告と社内外への公表
懲戒委員会を経て懲戒処分が決定した場合は、懲戒処分の通告と社内外への公表を行います。決定した懲戒処分の内容は、当事者に文書または口頭で通告します。懲戒処分の通告は、法律により形式が定められていません。ただし、就業規則で「文書により通告」と定めている場合は、規則にのっとって進める必要があります。
また、懲戒処分は処分を受ける行為者にとって不名誉な処分です。そのため、口頭で通告した場合は「言った言わない」の争いになることも考えられます。そのような争いを防ぐためにも、懲戒処分の通告は文書で伝えることが大事です。
さらに、懲戒処分を受けた当事者が企業における重要なポストにいた場合や、取引先の企業を巻き込んだ事案の場合は、状況によっては、社内外への公表が適切である場合もあります。
⑥再発防止に向けた施策の立案
企業は、パワハラ行為者の懲戒処分の決定後、再発防止の施策を考えなければなりません。厚生労働省によるパワハラ防止法の内容では、事業者にハラスメントの再発防止措置の実施が義務付けられています。
再発防止の措置は、パワハラ行為の認定にかかわらず、全ての事業者を対象とした取り組みです。そのため、パワハラまで至らない迷惑行為が発生した事業者でも再発防止に向けた施策を講じることが事業者の責務となります。
以下のリンクに詳細が掲載されていますので、ご参考までにご覧ください。
厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
パワハラの懲戒処分について規定する就業規則の文例
パワハラ行為が発生し、懲戒処分にする際は、就業規則として定められていることが必要です。ここでは、就業規則で定める規定の文例を項目ごとに解説します。
懲戒の種類
就業規則の規定には、次の「懲戒の種類」を定める文例があります。
第○条【懲戒の種類】懲戒の種類および程度は、事案ごとの情状により次の処分とする。 1.戒告・・・(中略)始末書の提出により書面上で警告を行う。以後の勤務態度を戒める。 2.減給・・・(中略)始末書の提出により減給の措置を行う。ただし、減給の範囲は1回の額が1日あたりの平均賃金の半額を超えないこと、および総額が賃金の10分の1を超えない範囲で行う。 3.降格・・・(中略)始末書の提出により社内規則違反においての降格処分を行う。人事権行使としての降格には該当しない。 4.諭旨解雇・・・(中略)本件事案が懲戒解雇に相当する場合は、本人に一連の行為に対しての反省が認められた場合は、退職届の提出を許可する。 5.懲戒解雇・・・(中略)予告期間を設けず即日の解雇を行う。この場合において、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、労働基準法第20条に規定する解雇予告手当を支給しない。 |
懲戒事由
就業規則には懲戒事由を定めることが必要です。ハラスメントに関する懲戒事由は、他の懲戒対象となる行為の規定に含めて記載します。
第○条【懲戒事由】 1.従業員が本規則に定める各服務規定および、規則、その他規程に違反した場合は第○条に定める懲戒処分を行う。 2.前項で定めるところのほか、次の各号に該当した場合は懲戒解雇を行う。 ・・・(各号中略) (1)第○条で定めるハラスメント行為を発生させた当事者は、行為の情状や悪質性により判断する。 |
懲戒手続
懲戒手続では、懲戒処分の対象となる当事者の弁明について記載します。
第○条【懲戒手続】 1.諭旨解雇や懲戒解雇の手続きを行う従業員は、原則として決定前に弁明の機会を与える。 2.会社は、懲戒処分を行う従業員に対して、処分の内容、懲戒事由、非違行為などを懲戒処分通知書に記し通知する。 3.懲戒処分の対象となる従業員が行方不明の場合など、本人に通知ができない場合は、雇用契約時の届出住所または連帯保証人住所への郵送により、懲戒処分の通知を通達したものとする。 |
パワハラで懲戒処分にする場合は適切な手順で進めよう
パワハラが発生した職場では、パワハラ行為を起こした当事者に対して懲戒処分を判断しなければなりません。懲戒処分の判断では、事実確認を進め、適切な処分を決める必要があります。
一方でパワハラ行為者に弁明の機会を与えない場合は、懲戒処分の決定後に会社側が訴えられることも考えられます。そのため、パワハラで懲戒処分にする場合は、行為者の弁明の機会などを設け適切な手順で進めることが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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