- 更新日 : 2024年11月15日
退職後の年末調整のやり方は?年の途中で無職なら確定申告が必要?
退職後、12月時点で離職中である場合、年末調整を行う必要はありません。しかし、所得税を払いすぎている可能性があるため、退職した会社から発行された源泉徴収票をもとに、退職した翌年に確定申告をするとよいでしょう。今回は、退職後の年末調整の必要性について、ケース別に解説します。
目次
退職後、無職でも年末調整できる?
通常、年末調整は12月の給与を支払う勤務先が行うことになっています。そのため、年の途中で退職後、しばらく無職の場合には年末調整を受けることができません。しかし、所得税が還付される可能性があるため、翌年に自分で確定申告をする必要があります。
ここでは、自分で行う確定申告と、そもそもどんな時に年末調整を受けられるのかに関して説明します。
どの時期に退職しても年末調整は受けられない?
退職後、年内に再就職をしないのであれば、原則として退職時期を問わず年末調整は受けられません。このような場合には、自身で確定申告を行う必要があります。3月や10月など、退職者の増えるシーズンの退職では気を付ける必要があるでしょう。なお、年内の間に再就職をした場合には、再就職先の会社に源泉徴収票を提出することによって、年末調整を行ってもらうことが可能です。
12月も退職者が増えるシーズンですが、12月退職者も原則として年末調整の対象とならないことに変わりはありません。年末調整の対象者は、12月31日時点における在籍者だからです。ただし、12月中の退職者であっても、12月分の給与を受け取った後に退職した場合であれば、年末調整を受けられます。これは、退職した年内の間において、新たな給与を受け取れる可能性がなく、年間給与所得額が決定しているためです。当月払いの会社などでは、注意しなければなりません。
代わりに確定申告を行う必要がある
その年の途中に退職し12月時点で離職中の場合には、自分で退職した翌年に実施される確定申告をしましょう。確定申告の期限は、原則として2月16日より3月15日までとなりますが、還付申告については、1月1日からの申請が可能です。なお、確定申告と還付申告双方とも、退職した会社が発行する給与所得の源泉徴収票が必要となります。
確定申告とは、年間の所得額に対する所得税を納め、払いすぎていた税金を還付してもらうために必要な手続きです。会社員に関しては、勤務先の会社が毎月の給与から所得税を源泉徴収し、年末調整で精算する手続きを取ってくれるため、原則として確定申告の必要はありません。
しかし、その年の途中において退職した場合には、原則として年末調整が行われません。そのような場合には源泉徴収された概算額と、実際に収めるべき所得税額の精算が行われていないことになります。源泉徴収税額は、概算の額であるため、実際に納付すべき額よりも多くなることが一般的です。そのため、退職後に再就職をしていないのであれば、自ら確定申告を行うことによって、納め過ぎている所得税の還付を受けることが可能となります。
なお、退職金を受け取っていたような場合であっても、その退職金は年末調整の対象とはならないことに注意してください。退職金は、支給される際、すでに税金が差し引かれています。そのため、すでに納税が完了しており、確定申告を行う必要性はありません。
そもそも年末調整を受けられる条件とは?
年の途中で退職し、無職である場合には年末調整を受けられないことを説明してきましたが、そもそもどんな時にどんな方が年末調整を受けられるのかを確認しましょう。
年末調整を受けるためには次の条件を満たしている必要があります。
- 1年間を通じて勤務した方
- 年度途中で退職したが転職し、年末まで継続して勤務した方
- 死亡によって退職した方
- 心身の障害により年の途中で退職し、その年中の再就職が見込めない方
- 12月中に給与が支払われ、その後退職した方
- パートタイムで勤務していた方が退職し、その年の給与の総額が103万円を超えないケース(退職後その年中に新たな勤務先から給与を受け取る場合を除く)
- 年の途中で海外の支社や子会社に転勤し、非居住者となったケース(非居住者とは、国内に住所を持たず、または1年以上居所を有しない方のこと)
これらの条件に該当しない退職者は年末調整の対象者になりません。そのため、自分で確定申告をしましょう。
また、退職後に給与支払いがない場合でも、株式売買による譲渡所得や不動産所得など、給与収入以外の合計の所得が20万円以上ある場合は、年末調整済の源泉徴収票とあわせて確定申告が必要です。
(例外)退職後に年末調整が受けられるケース
年末調整は、12月31日時点で在職している従業員を対象とした制度であるため、原則として退職者は受けられません。しかし、年内の間に再就職をした場合であれば、再就職先で年末調整を受けることが可能です。また、すでに述べた通り、12月分の給与支払いを受けた後の12月退職者も例外として対象となります。そのほかにも、以下のような場合には、退職後であっても年末調整を受けることが可能です。
- 死亡によって退職をした従業員
- 著しい程度の心身の障害によって退職をした従業員(年内において、再就職の見込みがある場合を除く)
- パートとして勤務し、年内の間に支払われるべき給与総額が103万円以下となる従業員(退職後、新たな勤務先から給与が支給される場合を除く)
- 年の途中において、海外に設置された支社や子会社に転勤することで非居住者※となった従業員
※国内に住所を有さない、または1年以上において、国内に居所を有しない者
退職後の再就職状況で年末調整を受けられるかどうか決まる
上記の表のように、退職後の年末調整は、再就職の見込みの有無などで対応が異なります。ここでは、このうちの次の3つのケースについて確認していきましょう。
- 退職後に再就職・転職した場合
- 退職後、アルバイトをした場合
- 退職後にフリーランスになった場合
退職後に再就職・転職した場合
退職後に再就職し、年内に再就職先の会社から給与を受ける場合、再就職先の会社で年末調整を受けます。その際、前述のとおり退職した会社から交付される源泉徴収票が必要になります。
しかし、たとえば11月に退職し12月に再就職するような場合、年末調整時期に、まだ前の会社から源泉徴収票が交付されていない可能性もあります。
特に月末締めで翌月支払いの会社の場合、11月末退社であっても11月の給与の支払いは12月であり、そこから源泉徴収票の作成が始まるため、12月の年末調整には間に合わないことがほとんどです。そのような場合は、自分で翌年の確定申告を行うようにしましょう。
退職後、アルバイトをした場合
それまで正社員などで勤務していた方が退職し、その後アルバイトをした場合、アルバイト先が1社であれば、基本的に前職の時の収入と合算し年末調整をしてくれます。
退職後にアルバイトをしていて、アルバイト先で年末調整をしてもらえる場合は、自分で確定申告をする必要はありません。
年末調整を受けるためには、アルバイト先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している必要があります。アルバイト先は、この申告書をもとに毎月差し引く源泉徴収額を決めています。
また、退職後に2社以上の会社でアルバイトをする場合は、前職の給与所得に2社以上のアルバイトの給与所得を合計して確定申告をする必要があることを覚えておきましょう。
退職後にフリーランスになった場合
退職後に再就職せず、フリーランスになった場合には、翌年に自分で確定申告の手続きをしましょう。年末調整は、12月の給与を支払う勤務先が行うことになっているため、退職後にフリーランスになった場合は年末調整を受けられません。
確定申告においては、会社員であった時の「給与所得」および、フリーランスになって以降の「事業所得」の2つを合算した合計額を基準として、課税されることになります。
給与所得欄には、退職前の会社より交付された源泉徴収票記載の「給与所得控除後の金額」を、給与所得欄へ記入します。そして、事業所得欄に、フリーランスとなって以降、得た収入から必要経費を控除した所得を記入しましょう。
退職後の定額減税はどうなるか
所得税と住民税から一定額が控除される「定額減税」が、2024年6月より実施されています。定額減税には、毎月源泉徴収税額から定額減税分の控除が行われる「月次減税」だけでなく、年末調整時に控除が行われる「年調減税」の2種類が存在します。
月次減税の対象となる従業員は、基準日となる6月1日現在における在籍者です。そのため、5月31日以前に退職した場合には、制度が適用されません。6月以降に給与や賞与等が支払われる場合でも同様です。
6月1日以降に退職した従業員が、他企業へ再就職した場合、月次減税は行いません。この場合には、年末調整時に年調減税が行われます。また、退職した従業員が再就職をしなかった場合には、確定申告時に最終的な定額減税額との清算を行います。
退職後の源泉徴収票はいつもらえるか
退職後、他企業に再就職した場合には、再就職先において年末調整を受けることが可能です。しかし、そのためには再就職先の企業に対して、源泉徴収票を提出しなければなりません。
源泉徴収票は、1年間における収入と、納付した所得税額が記載された書類です。12月31日時点において、会社に在籍している場合には、年末調整後に12月の給与明細とともに源泉徴収票を受け取ることが一般的です。
年末調整の対象とならない年の途中における退職者の場合には、退職日から1か月以内に源泉徴収票が発行され、退職者に交付されることになります。たとえば、3月1日付けで退職した場合には、4月1日までに源泉徴収票が発行されることになります。退職から1か月を経過しても、源泉徴収票が届かない場合には、退職した会社の人事や、総務など担当部署に問い合わせてみるとよいでしょう。
退職金の源泉徴収票は年末調整に必要?
退職所得の源泉徴収票は、年末調整には必要ありません。
年末調整は給与所得に対する所得税課税の精算を行うものです。退職金のような退職所得は会社を辞めることを理由に支払われるため、給与とは別に課税の処理が行われます。
退職所得に対して行われる課税処理には、以下の2パターンがあります。必要以上に税金を負担していることがあるので、その場合は確定申告が必要です。
前職で「退職所得の受給に関する申告書」を提出している
「退職所得の受給に関する申告書」は退職金の所得税計算に必要な書類で、退職金を受け取る者が会社に対して提出します。
退職金は長年の勤務に対する報酬としての性質があることから、税負担が軽くなっています。「退職所得の受給に関する申告書」は税負担軽減措置を受けるために必要な書類で、提出した場合は退職金の所得税が以下のように計算されます。
・退職所得控除額
退職所得控除額は、勤続年数によって以下のように定められています。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 勤続年数×40万円 |
20年超 | 800万円+70万円(勤続年数-20年) |
・所得税率と控除額
所得税率と控除額は、課税退職所得金額((退職金-退職所得控除額)×1/2)によって以下のように定められています。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | - |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
「退職所得の受給に関する申告書」を提出すると、退職手当の支給時に退職所得控除が適用されて源泉徴収され、確定申告が不要になります。
前職で「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しない場合は、退職金の20.42%が所得税として源泉徴収されます。精算して還付を受けるには、確定申告が必要です。
退職後の確定申告のやり方
退職者は原則として年末調整の対象とならないため、退職後に再就職をせずに無職の状態であれば、所得税を払い過ぎていることが多くなっています。そのような場合には、確定申告を行うことで、払い過ぎた所得税の還付を受けることが可能です。確定申告の義務はありませんが、確定申告書を作成し、還付申告を行うことが推奨されます。確定申告書は、退職した会社から交付された源泉徴収票を基に作成しましょう。
退職後に、起業をしたり、フリーランスの個人事業主となったりしたような場合には、確定申告が必要となります。給与所得に関する所得税は、会社員時代の給与から源泉徴収済みですが、事業所得については未申告であるためです。この場合にも、交付された源泉徴収票を基にして、退職後の収入と併せて申告しましょう。また、すでに述べた通り、退職後に再就職しなかった場合には、確定申告時において、最終的な定額減税額との清算が行われます。
退職後の年末調整はケースに応じて適切に対応しよう
退職後、12月時点で無職である場合は年末調整を受けられないため、自分で確定申告を行う必要がある点に注意しましょう。一方で、退職後に転職する場合は、基本的に再就職先で年末調整を受けられます。
また、退職後にアルバイトをする場合は、アルバイト先が1社であればアルバイト先で年末調整を受けられます。フリーランスになった場合は、自分で確定申告をしなければなりません。
年末調整の対応は、退職後の状況によって異なります。自分が当てはまるケースに応じて適切に対処するようにしましょう。
よくある質問
退職後に無職になったら年末調整できますか?
退職後に12月時点で無職の場合、年末調整の対象とはなりません。詳しくはこちらをご覧ください。
そもそもどんな時に年末調整を受けられますか?
1年間を通じて勤務した方や、年度途中で退職したが転職し、年末まで継続して勤務した方などです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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