- 作成日 : 2023年1月27日
社会保険の任意加入とは?メリットや任意適用事業所の申請手続きを解説!
厚生年金と健康保険からなる社会保険は、適用事業所に所属し、条件を満たした全従業員が加入しなければならない強制保険制度です。適用事業所には、強制適用事業所と任意適用事業所があります。適用されない事業所であっても、任意適用を受けることで社会保険に加入することが可能です。当記事では、社会保険における任意加入について解説します。
目次
社会保険の任意加入とは?
社会保険は厚生年金保険と健康保険(40歳以上は介護保険にも加入)からなり、社会保険適用事業所に所属し一定の条件を満たした全従業員が加入しなければならない強制保険制度です。
原則的に社会保険には、会社員や公務員など企業や組織に所属している被用者が加入します。
一方、個人事業主や自営業者などは、社会保険ではなく国民年金と国民健康保険に加入するのが一般的です。しかし、厚生年金加入者は国民年金加入者に比べて、老後の年金受給額が多いなどの利点があるため、社会保険に加入したい個人事業主も多いことでしょう。そこで、社会保険の強制適用を受けない個人事業主や自営業者が任意で適用を受け、社会保険に加入できる制度が用意されています。この制度が、社会保険の「任意加入」です。
社会保険の任意適用事業所とは?
社会保険適用事業所には、強制的に社会保険に加入しなければならない「強制適用事業所」と、任意で社会保険に加入する「任意適用事業所」があります。まず、下記の要件を満たす事業所は強制適用事業所として必ず社会保険に加入しなければなりません。
- 従業員が事業主のみの場合も含む、株式会社などの法人事業所
- 農林水産業や一部のサービス業を除いた、常時5名以上の従業員がいる個人事業主
1の要件から、たとえ従業員が事業主1名の場合であっても、法人成りしている場合は社会保険に加入しなければなりません。さらに、強制適用事業所に所属して下記の要件を満たす従業員は、その意思に関わらず必ず社会保険に加入しなければならないため注意が必要です。
- フルタイムで働く方
- 週所定労働時間および月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の方
有期契約社員やパート・アルバイトなどの短時間労働者については、下記の要件が適用されます。
- 従業員数101人以上の企業で働いている
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヵ月を超える雇用の見込みがある
- 学生でない
上記要件を満たしているにもかかわらず社会保険に加入させないと、事業所は6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されてしまいます。
一方、強制適用を受けない事業所は社会保険に加入する必要がありません。しかし、従業員の半数以上の同意と厚生労働大臣の認可を受けることにより、任意適用事業所として社会保険に加入することが可能です。加入要件は強制適用事業所と同様で、任意適用事業所に所属し、要件を満たした従業員は全員社会保険に加入しなければならないため気をつけましょう。
加入できる社会保険の種類は?
強制適用事業所は、厚生年金保険と健康保険の両方に必ず加入しなければなりません。一方、任意適用事業所はどちらか一方を選択して加入することが可能です。ここでは、社会保険における健康保険と厚生年金保険について紹介します。
健康保険
日本国民は国民皆保険制度に基づき、何らかの公的医療保険に加入しなければなりません。個人事業主や自営業者は「国民健康保険」に加入するのが一般的ですが、任意適用を受けることで「健康保険」に加入することもできます。
国民健康保険の運営主体は各都道府県です。一方、健康保険の運営主体は、各健康保険組合と全国健康保険協会、いわゆる協会けんぽに分けられます。大企業はそれぞれ独自の健康保険組合を設立し、自社の従業員を加入させるのが一般的です。中小企業に所属する従業員は、一般的に協会けんぽの健康保険に加入します。
なお、社会保険には扶養制度があり、被保険者に扶養されている親族は扶養加入することが可能です。保険料は被保険者が加入する保険と一体で運用されるため、被扶養者は別途負担する必要がありません。
しかし、国民健康保険には扶養という考え方はなく、被保険者はそれぞれ保険料を負担しなければならないため留意しましょう。
なお、健康保険は企業や組織に所属している従業員が加入する被用者保険なので、退職と同時に資格を失います。日本は国民皆保険制度を敷いているため、前職の退職日の翌日に就職して社会保険に加入する場合を除いて、資格喪失後は速やかに国民健康保険に切り替えなければなりません。ただし、退職後2年間に限り、健康保険を「任意継続」することが可能です。
参考:国民健康保険制度 |厚生労働省
参考:全国健康保険協会の概要 | 全国健康保険協会とは | 全国健康保険協会
厚生年金保険
厚生年金保険は、国民年金と並ぶ公的年金制度です。健康保険と同様、日本は国民皆年金制度を敷いているため、何らかの年金制度に加入しなければなりません。
20歳以上60歳未満の全国民は国民年金の加入者となるため、厚生年金の加入者は同時に国民年金の加入者です。厚生年金は企業や組織に所属している従業員が加入する被用者年金なので、就職と同時に加入し、退職もしくは70歳に到達した時点で資格喪失となります。
日本の公的年金は2階建て構造で、国民年金加入者は老後に1階部分に該当する老齢基礎年金のみ受給可能です。厚生年金加入者は、2階部分に該当する老齢厚生年金も上乗せして受給することができます。老齢基礎年金は被保険者期間の月数に応じて決まり、老齢厚生年金は保険料納付時の報酬と加入期間によって決まる年金給付です。
さらに、厚生年金には扶養制度があり、被保険者の扶養配偶者は保険料の負担なく国民年金に加入できます。健康保険は要件を満たした親族も扶養として加入できますが、厚生年金の被扶養者は配偶者に限られるため気をつけましょう。また、国民年金には扶養という考え方はなく、被保険者がそれぞれ保険料を納付しなければなりません。
参考:公的年金制度の種類と加入する制度|日本年金機構
参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構
社会保険に任意加入するメリットは?
社会保険には国民年金・国民健康保険にはない様々なメリットがあります。老後の年金受給額が増える点、扶養制度がある点などは代表的なメリットでしょう。企業側にとっても「社会保険完備」をうたうことで求人しやすくなるなどのメリットがあります。
ここでは労働者と事業所に分けて、社会保険に任意加入するメリットを紹介しましょう。
労働者のメリット
社会保険の保険料は、事業所と労働者が半額ずつ負担する労使折半です。一方、国民年金と国民健康保険の保険料は、全額被保険者が負担しなければなりません。社会保険に任意加入することで、多くの場合労働者の保険料負担は減るでしょう。
また、扶養している親族を追加の保険料負担なく年金制度や健康保険に加入させることができる点も大きなメリットです。個別に国民年金や国民健康保険に加入し、それぞれ保険料を負担している場合、社会保険に任意加入すれば大幅な保険料の負担減が期待できます。
さらに、老後の年金受給額が増える点も大きなメリットです。老齢基礎年金だけで生計を立てることは実質的に難しいため、現役時代の報酬に比例した老齢厚生年金を受給できることは老後の人生設計に大きな影響を及ぼします。
事業所のメリット
社会保険に任意加入すると労使折半の保険料負担が増えてしまうため、マイナスに捉える事業主もいるかもしれません。しかし、従業員の社会保険料は経費算入できるため、法人税の節税にもつながります。
社会保険は国民年金・国民健康保険と比べて保障が手厚く、従業員にとってメリットとなるため、任意適用を受けることで福利厚生の向上に大きく寄与することでしょう。求人する際も「社会保険完備」を明示できることはメリットです。
なお、求人票などに社会保険完備と記載されている場合は、一般的に厚生年金保険・健康保険・雇用保険・労働者災害補償保険の4つの保険に加入できることを意味します。雇用保険と労働者災害補償保険、いわゆる労災保険からなる労働保険の適用要件は、厚生年金保険・健康保険とは異なるため注意しましょう。
社会保険の任意適用申請手続きは?
ここまで説明した通り、法律で社会保険への加入が義務付けられている強制適用事業所以外であっても、従業員の半数以上の同意と厚生労働大臣の認可を受けることにより、任意適用事業所として社会保険に加入することが可能です。任意適用を受けるには、事業所を管轄している年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書」を提出しましょう。
加えて、下記の書類も必ず添付してください。
提出方法は窓口持参の他、郵送や電子申請も可能です。電子政府の総合窓口「e-Gov」もしくは日本年金機構が無償で提供している「届書作成プログラム」を利用すれば24時間365日どこからでも電子申請できるため、積極的に活用すると良いでしょう。
任意適用を受けて保障の手厚い社会保険に加入しよう
社会保険の任意加入について解説しました。社会保険は、企業や組織に所属する被用者が加入する強制保険制度です。一方、個人事業主や自営業者は、原則国民年金や国民健康保険に加入します。しかし、社会保険の強制適用を受けない事業所であっても、従業員の半数以上の同意と厚生労働大臣の認可を受けることで、社会保険に任意加入することが可能です。
一般的に、社会保険は国民年金ならびに国民健康保険より手厚い保障を受けることができます。当記事を参考に、任意適用事業所として保障の手厚い社会保険に任意加入するのも良いでしょう。
よくある質問
社会保険の任意加入とは?
法律で社会保険への加入が義務付けられていない事業所が、任意で適用を受けて社会保険に加入することを「任意加入」といいます。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険の任意適用事業所とは?
任意で社会保険の適用を受けた事業所を「任意適用事業所」といいます。任意適用を受けるには、従業員の半数以上の同意と厚生労働大臣の認可が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
2022年4月に年金手帳が廃止 – 厚生年金と国民年金で変わること
2022年3月まで、厚生年金や国民年金に加入すると「年金手帳」が交付されていました。 厚生年金手帳・国民年金手帳のような区別はなく、どちらも共通の手帳です。年金関連情報の管理に必ず用いられていましたが、4月に廃止されて新規交付をされなくなり…
詳しくみる時間外労働の上限規制とは?働き方改革法施行後の変化を読み解く
そもそも時間外労働とは?残業時間との違い 時間外労働の上限規制について解説するうえで、ここではまず時間外労働がどういったものなのか考えていきましょう。 そもそも労働基準法第32条において、「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)」が定めら…
詳しくみる社会保険の厚生年金とは
社会保険に含まれる厚生年金保険はその名のとおり「保険」の意味をもちます。社会保険は主に会社員が保険の加入者(被保険者)となり、万が一の場合には被保険者やその家族を対象に年金の給付が行われます。 注意していただきたい点ですが、「社会保険」とい…
詳しくみる転職する従業員の社会保険手続き
従業員が転職をするときの社会保険手続きは、現在勤めている会社での社会保険喪失手続き後、転職先の会社での取得手続きの順で行われます。 転職者から回収する書類 転職のために現在の会社を退職することになった場合は、社会保険の資格喪失手続きを行いま…
詳しくみる労働災害(労災)とは?種類や対策について解説!
企業の人事担当者にとって、労働災害の発生は避けられない課題の一つです。予期せぬ事故はいつでも発生する可能性があり、その際には迅速かつ適切な対応が求められます。本記事では、労働災害に関する基本知識から、発生時の法的責任、対応手順に至るまでを詳…
詳しくみる特別支給の老齢厚生年金とは?65歳より前にもらえる?受給要件や手続きを解説!
特別支給の老齢厚生年金は厚生年金加入歴が1年以上あり、昭和36年4月1日(女性は昭和41年4月1年)以前に生まれた人に支給される年金です。受給開始年齢は生年月日や性別によって定められており、60~64歳から受け取れます。金額は被保険者であっ…
詳しくみる