- 更新日 : 2025年3月4日
退職の引き止めで部署異動を提案されたらどうする?企業側の注意点も解説
退職を引き止めるために部署異動を提案されたことのある方も多いのではないでしょうか。部署異動の提案に応じることでさまざまなメリットが得られる一方、注意すべきデメリットもあります。この記事では、退職の引き止めで部署異動を提案された場合に検討すべきポイントや断り方について解説します。
目次
退職を引き止められる理由は?
退職を申し出たときに上司や人事担当者から引き止められる背景には、企業側が抱えるさまざまな事情があります。ここでは、代表的な理由をいくつか見ていきましょう。
企業の損失を最小限に抑えたい
企業にとって人材が退職することは、業務効率や生産性の低下につながります。特に、下記のようなポイントで大きなダメージを受ける可能性があります。
- ノウハウが流出する
企業独自の情報や業界知識が他社へ流出するリスクが高くなります。退職者が同業他社へ移る場合、企業の競争力が下がるかもしれません。 - メンバーの負担が増加する
退職した人の仕事をほかの社員がカバーしなければならず、過度な負担がかかることがあります。 - 顧客との信頼関係に影響が出る
顧客対応を任されていた社員が抜けることで、取引先との連絡や契約更新などに支障が出るケースがあります。
離職率の上昇を避けたい
企業の離職率が高いと「人材を大切にしていない会社」というイメージを与えるリスクがあります。これは企業ブランドや採用活動にも悪影響を及ぼします。そこで、少しでも離職率を抑えたい企業は、退職希望者を引き止めることで社内外へのイメージダウンを防ごうとするのです。
採用コストを削減したい
新たに人材を採用し、教育するためには時間と費用がかかります。退職者が増えるほど、求人広告や紹介料などの人件費がかさんでしまうのです。そのため、企業は退職を引き止めることで採用コストを最小限に抑えようとします。
社員のスキルや適性を活かしたい
部署異動を提案してまで退職を阻止しようとするのは、企業が「本人の能力をほかの部署でも発揮してほしい」と強く望んでいる場合が多いです。例えば、営業で培った対人スキルをマーケティングや人事に活かすなど、今までとは違う視点で組織に貢献してもらえるかもしれないと考えられています。
退職の引き止めで部署異動を提案されたらどうする?
退職を決意して上司に意思を伝えたものの、部署異動で引き止められると迷う方も多いのではないでしょうか。ここでは、そんな迷いを解消するための判断ポイントをいくつか紹介します。
自分のキャリアビジョンを確認する
まずは、部署異動が自分の中長期的なキャリアビジョンに合っているかを振り返ることが重要です。新しい部署での業務内容が、今後の目標達成につながるかを検討してみましょう。また、異動先で新たに身につくスキルや経験が、将来的に役立つものであれば選択肢として前向きに考えられます。
企業のサポート体制をチェックする
企業のサポート体制が整っているかどうかも大きなポイントです。新しい部署での仕事にスムーズになじめるよう、研修や引き継ぎがあるか確認しましょう。また、異動先ではどのように評価されるのか、給与や昇進に不利にならないかといった点も見逃せません。
新しい部署の人間関係を考慮する
人間関係が原因で退職を考えている場合、新しい部署での上司や同僚との相性も気になるところです。可能であれば、新しい部署の雰囲気や上司・同僚の評判を事前に確認しておくと安心です。また、相談できる先輩や同僚がいるかどうかで、仕事のやりやすさは大きく異なります。
自分のモチベーションを見直す
異動の提案を受けることで仕事に対する意欲が高まるかどうかも判断材料になります。今とは異なる業務や責任を楽しめそうか、前向きに取り組めるかをイメージしてみましょう。根本的な不安や不満が解消されないようなら、結局は同じ悩みを抱える可能性もあります。
家族や周囲への配慮を忘れない
部署異動による勤務地の変更や、勤務時間帯の違いなどが生じる場合は、家族やパートナーの理解が欠かせません。通勤距離が増えたり、早朝や深夜勤務の可能性がある場合は慎重に検討しましょう。また、ライフステージや家族構成によっては、支えが必要になるケースもあります。
退職の引き止めで部署異動に応じるメリット
退職を考えているタイミングで部署異動という選択肢を提示されると、前向きに検討するべきか悩まれる方も多いでしょう。ここでは、部署異動に応じる代表的なメリットについて紹介します。
キャリアの幅を広げられる
部署異動によって、今までとは違う業務内容や役割を担当する機会が生まれます。新しい分野の知識や経験を積むことで、自身のスキルセットを拡大しやすくなるのが大きな魅力です。また、キャリアアップに不可欠なマネジメント能力や交渉力などを磨くチャンスにもつながります。
人間関係をリセットできる
退職を考える一因として、人間関係の悩みを挙げる方は少なくありません。部署異動に応じると、上司や同僚などの人間関係ががらりと変わる場合があります。部署特有の文化や風土も変わるため、気持ちを切り替えて新しい環境で働くことでストレスを軽減できる可能性があります。
モチベーションが向上する
企業としては、優秀な人材を手放したくないために部署異動という提案を行うケースも多いです。これに応じることで、「自分が会社にとって必要とされている」という実感が得られるかもしれません。結果的に、モチベーション向上や社内評価の向上にもつながる場合があります。
退職の引き止めで部署異動に応じるデメリット
退職の引き止めとして部署異動を提案された場合、メリットだけではなく注意すべき点もあります。ここでは、部署異動に伴って起こりうるデメリットについて確認していきましょう。
根本的な問題が解決しない可能性がある
部署異動しても、もともと退職を考えるに至った原因が改善されなければ、状況は好転しません。例えば、長時間労働や業務量などが会社全体で是正されていない場合や、社内の評価制度そのものに不満があるケースなどでは、部署を変えても同じ悩みが続く可能性があります。
モチベーションが向上するとは限らない
部署異動が自分の希望するキャリアやポジションに合わない場合、結果的にスキルアップやモチベーションに結びつかないでしょう。たとえ企業側が必要とする部署でも、自分の得意分野や将来ビジョンに合わない仕事を任されると、ストレスを感じたり、キャリア形成の遠回りとなったりするリスクがあります。
新しい環境に慣れるまでストレスになる
部署異動は環境や人間関係が大きく変わるため、新しい仕事に慣れるまでの負担が少なくありません。新しい上司や同僚と信頼関係を築くには時間がかかりますし、業務内容や目標設定なども一から把握する必要があるため、思った以上に精神的・身体的な疲労を伴うことがあります。周囲の理解やサポートを十分に受けられない環境に身を置くと、業務上のトラブルが発生したときに対処しづらくなるリスクもあります。
退職の引き止めで部署異動を断るポイント
部署異動の提案を受けたものの、さまざまな理由から受け入れられない場合もあるでしょう。ここでは、上司や会社に対して失礼にならず、円満に断るための具体的なポイントをご紹介します。
円満なコミュニケーションを心がける
部署異動を断るときに重要なのは、コミュニケーションの取り方です。感情的にならず、相手への配慮を忘れないようにしましょう。
まずは、自分のために部署異動という選択肢を提案してもらったことへの感謝を述べます。企業側の誠意に敬意を表すことで、話し合いをスムーズに進めやすくなります。また、断る理由はシンプルに相手が理解しやすい表現で伝えましょう。長々と言い訳を並べるのは逆効果です。
キャリアプランを明確に示す
部署異動を断ることに対して企業が納得しやすいよう、自分が考えているキャリアプランや人生設計を伝えるとよいでしょう。「将来的にはこういうキャリアを築きたい」「次の職場でこういう経験を積みたい」という具体例を挙げると、相手も受け止めやすくなります。また、今置かれている環境や仕事内容が合わない、もしくは家族の都合など、部署を移動しても解決しない問題があるなら、そこをはっきりと説明しましょう。
会社や現部署への配慮を忘れない
たとえ退職を選択する場合でも、会社や現部署が抱える業務への影響を最小限に抑えようという姿勢を示しましょう。自分が担当してきた業務や顧客との関係がスムーズに引き継がれるよう、具体的なサポート方法を提案するのも円満退職のポイントです。退職前にマニュアルを整備し、後任者が困らないように準備を進めておくと、会社側への印象も良くなります。
労働環境を客観的に見直す
部署異動を断った場合、上司や人事担当者から再度説得を受ける可能性もあります。その際は、労働環境や待遇面について客観的に再度評価し、自分の意思を確認しましょう。会社の制度や評価基準に納得できていないのであれば、その点を明確に伝えることで折衝の余地があるかどうかを判断できます。また、家族や友人、転職エージェントなど、信頼できる相手に状況を話すことで冷静なアドバイスを得やすくなります。
退職を引き止める場合の企業側の注意点
優秀な社員に退職の意思を伝えられたとき、企業としては何とか引き止めたいと思うものです。しかし、やみくもに説得を行うだけでは逆効果になる場合もあります。ここでは、企業側が退職を引き止める際に押さえておきたいポイントをご紹介します。
社員の悩みや要望を真摯にヒアリングする
退職を検討している社員には、何らかの深刻な悩みや要望があるはずです。それを理解しようとせず、ただ部署異動や待遇改善といった条件面だけを提示しても、根本的な問題が解決しない可能性があります。個別の面談のほか、退職意向のある社員にアンケートを実施し、自由記述欄を設けるなどして、社員の声を幅広く収集しましょう。また、意見を聞くフリをするのではなく、実際に改善できる部分を具体的に検討・実行することで、本音を話してもらいやすくなります。
本人に合った異動先や選択肢を提案する
退職を考えている社員が異動を希望した場合は、その人の能力や将来のキャリアビジョンを踏まえた提案を行うことが大切です。社員の適性や強みを正しく把握し、希望に沿った部署やプロジェクトを提案すると、本人のモチベーションが高まりやすくなります。フレックス勤務やリモートワークの導入など、条件面だけでなく働きやすさにも配慮することも大切です。
企業文化や職場環境の改善を優先する
社員が退職を決意する理由は多岐にわたりますが、企業文化や職場環境が合わないと感じる場合は根本的な見直しが不可欠です。上下関係や部署間のコミュニケーションが円滑だと、社員が抱える悩みを早期に把握でき、対策を講じやすくなります。管理職の対応や指導方法が原因で退職者が増えるケースもあるため、管理職向けの研修やメンタリング制度の導入を検討しましょう。
その場しのぎの特別対応で終わらせない
退職を引き止めたいがために、給与アップや役職昇格など、その場しのぎの特別対応を行うケースがあります。しかし、根本的な課題を解消できないままでは、同じような不満が再燃し、社員の離職意識が後々高まるリスクがあります。社員個人にフォーカスしすぎると、ほかの社員との不公平感や社内不満を招く可能性があるため、組織全体の体制を見直すことが必要です。
退職を引き止めに応じるか慎重に検討しましょう
この記事では、退職の引き止めで部署異動を提案された場合の対応方法について、さまざまな角度から解説してきました。退職を検討する段階では、企業側からの部署異動の提案が大きな決断となりますが、キャリアビジョンとの整合性や社内環境の改善可能性を総合的に見極めることが大切です。一方、企業側も給与や役職などの条件面だけに注力するのではなく、組織文化や評価制度を根本から見直す努力が求められます。お互いの立場を理解し合い、丁寧なコミュニケーションを積み重ねることで、どのような選択をしてもより納得感のある結論にたどり着けるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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