- 更新日 : 2023年9月6日
給与所得と給与収入の違いとは?年末調整に関わる知識も解説!
所得税法の用語に「収入」と「所得」がありますが、この違いは何でしょうか。毎月給料を受け取る会社員の場合、年収総額が税法上での収入にあたります。所得は、収入金額から会社員の必要経費とみなされる「給与所得控除額」を差し引いた金額で給与所得とよばれ、年末調整で必要な項目になります。収入と所得はこの部分が異なります。
給与所得とは
ここからは給与所得の計算方法を説明します。給与所得とは、源泉徴収する前の給与・賞与などの収入金額から給与所得控除額を差し引いた金額です。給与所得の額に所得税率をかけると支払うべき所得税額となります。
収入金額
収入金額には金銭で受け取るもののほか、以下の現物支給や経済的利益も含まれる場合があります。
- 会社の商品などを無償で、または低価格で受け取った場合
- 会社の土地や建物を無償、もしくは低価格で借りた場合
- 会社から金銭を無利息、または低い金利で借りた場合
給与所得控除とは
給与所得控除額は会社員の必要経費とみなされるもので、所得金額の計算において給与収入から差し引くことができます。給与所得控除額は給与等の収入の金額に応じてその控除額が決められており、以下のとおりです。
(平成29年分~令和元年分)
- 給与年収が162.5万円まで:65万円
- 給与年収が162.5万円超~180万円以下:給与年収×40%
- 給与年収が180万円超~360万円以下:給与年収×30%+18万円
- 給与年収が360万円超~660万円以下:給与年収×20%+54万円
- 給与年収が660万円超~1,000万円以下:給与年収×10%+120万円
- 給与年収が1,000万円超:220万円(上限)
(令和2年分以降)
- 給与年収が162.5万円まで:55万円
- 給与年収が162.5万円超~180万円以下:給与年収×40%-10万円
- 給与年収が180万円超~360万円以下:給与年収×30%+8万円
- 給与年収が360万円超~660万円以下:給与年収×20%+44万円
- 給与年収が660万円超~850万円以下:給与年収×10%+110万円
- 給与年収が850万円超:195万円(上限)
給与所得者の特定支出控除
給与所得控除額は経費として使ったかどうかにかかわらず控除されるものですが、給与所得者に以下のような費用の支出があり、その年中の給与所得控除額の半額を超える費用を支出した場合、その超える部分も確定申告により差し引くことができます。
- 通勤費:一般的に必要と認められる通勤のための支出
- 職務上の旅費:離れた勤務場所で職務遂行する際に直接必要な支出
- 転居費:転勤等で転居が必要な際に一般的に必要と認められる支出
- 研修費:職務に直接必要な技術や知識を得る目的で研修等を受けるための支出
- 資格取得費:職務に直接必要である資格を取得するための支出
- 帰宅旅費:単身赴任などしている社員が、単身赴任先から自宅までの間を往復するために通常必要である支出
- 勤務必要経費:職務に直接必要と認められた交際費、図書費、衣服費など(65万円が上限)
令和2年分以降の控除額について、具体的な計算例を見ていきましょう。
給与年収500万円の人が、会社からの命令で転勤になったとします。仮に、今回の引越し費用等の合計額が170万円だったとしましょう。
年収500万円から144万円(年収500万円の給与所得控除額)を差し引いた356万円が給与所得となります。
実際に支払った経費170万円から144万円(年収500万円の給与所得控除額)の半分、つまり72万円を差し引くと98万円となり、これが特定支出控除額となります。確定申告では給与所得の356万円からこの98万円もさらに控除することができます。
パート年収のボーダーライン103万円とは
「主婦のパート収入が103万円以下だと税金がかからない」という話をよく耳にしますが、これはどのように計算されているのでしょうか。「非課税の年収」である103万円の構造を例にして、所得と収入の違いについて説明していきます。
前項「給与所得控除とは」の「給与年収が162.5万円以下」を見てみましょう。その場合の給与所得控除は55万円となっています。したがって、年収162万5,000円までの給与所得控除額は一律55万円となります。
そうなると年収55万円までが非課税となりそうですが、基礎控除48万円があります。基礎控除は令和元年までは、所得にかかわらず一律38万円でしたが、令和2年分以降は次のとおりとなりました。
納税者本人の合計所得金額 | 基礎控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
この基礎控除48万円と給与所得控除額55万円を足した金額が103万円となるため、パート収入が103万円の場合、給与所得控除と基礎控除を差し引くと所得金額が0円となり、税金はかからないということになるのです。
年末調整での給与所得の申請方法
給与所得は、源泉徴収する前の給与や賞与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いた金額でした。
また、給与所得控除額は、給与や賞与等の収入金額の範囲に応じて下記の表から求める金額です。
※令和2年分以降
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
162.5万円 以下 | 55万円 |
162.5万円超 ~ 180万円 以下 | 給与年収×40%-10万円 |
180万円超 ~ 360万円 以下 | 給与年収×30%+8万円 |
360万円超 ~ 660万円 以下 | 給与年収×20%+44万円 |
660万円超 ~ 850万円以下 | 給与年収×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
参考:No.1410 給与所得控除|国税庁
年末調整で所得税額を算出する際に使用する給与所得の金額は、給与年収の金額から給与所得控除額を差し引きした後の金額を「給与所得控除後の給与等の金額」にあてはめて求めます。
給与所得と給与収入の違いを確認しましょう
この記事では、皆さんがよく勘違いをされることが多い給与所得と給与収入の違いについて解説しました。
また、給与所得控除や特定支出控除など、所得税を計算する際に給与所得者として所得控除が受けられる内容についても見てきました。
年末調整の際には、所得税を計算するための元になる給与所得控除後の金額の計算と確認が正確にできるように理解しておきましょう。
よくある質問
給与収入と給与所得の違いは?
給与収入は給与・賞与などの収入の総額のことで、給与所得は給与収入から給与所得控除額を差し引いた金額のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
給与所得者の特定支出控除の種類は?
通勤関係、職務上の旅費関係、転居関係、研修関係、資格取得関係、帰宅旅費関係、勤務必要経費関係の費用で給与等の支払者の証明がされたものが該当します。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
年末調整の関連記事
新着記事
スキルセットとは?意味や例文、職種別の例、高める方法、企業事例を解説
業務に応じて、リーダーシップや語学力など様々なスキルが必要とされます。これらのスキルを適切に組み合わせれば、より業務を効率的に進めることが可能となるでしょう。 当記事では、スキルセットの意味や職種ごとの例、習得方法など、幅広く解説します。当…
詳しくみるパートで社会保険に加入したくない方必見!調整方法や2024年法改正を解説
社会保険の適用拡大により、2024年10月からパート・アルバイトの従業員でも社会保険に加入する企業の範囲がさらに広がります。しかし、なかには労働時間を調整して社会保険に入らないことを希望する従業員もいるでしょう。 社会保険に加入したくない場…
詳しくみるホラクラシーとは?フラットな組織のメリット・デメリット、向いている企業
ホラクラシーとは組織管理の型の一つです。上下関係のないフラットな組織で、各メンバーが裁量権を持ち自律的に行動するため、従来型の上下関係を前提にしたヒエラルキー組織とは大きく異なります。この記事ではホラクラシーの特徴やメリット、デメリット、導…
詳しくみる学習する組織とは?5つのディシプリンなど、ピーターセンゲが提唱する意味を解説
学習する組織とはピーター・センゲが提唱した概念で、持続的な成長と変革を目指す組織のことです。ディシプリンと呼ばれる5つの柱を中心に据え、これらを実践することで変化を阻害する要因を排除し、柔軟に対応する力を養います。本記事では学習する組織づく…
詳しくみる評価基準とは?適切な作り方や具体例、数値化の方法、ポイントを解説
評価基準とは、主に人事評価に用いられるもので、どのくらい目標を達成できたかなどを評価する基準のことです。人事評価を適切に運用するには欠かせないものであり、従業員の意欲を向上させることができます。本記事では、評価基準とはどのようなものか、適切…
詳しくみる追い出し部屋とは?実態や過去の訴訟事例、他の退職勧奨の方法を紹介!
追い出し部屋とは、企業が不必要と考える従業員を退職に追い込むための特別な部署等の呼び名です。実際にはもっともらしい部署名が付けられています。追い出し部屋に従業員を配置転換する形での退職勧奨を行うと、違法と判断される可能性があるため注意が必要…
詳しくみる