- 更新日 : 2023年5月11日
社会保険における扶養・被扶養者とは?異動時の手続きや加入条件について

従業員の結婚や出産、従業員の被扶養者となっている配偶者や子どもの就職や退職、昇給など、さまざまなライフイベントが発生すると、従業員の社会保険の扶養手続きが生じることがあります。
ここでは、社会保険における扶養とはなにかを解説するとともに、新たに扶養に入るタイミング、扶養を外れるタイミングについて説明します。
目次
社会保険における扶養とは
社会保険における扶養とは、なんらかの理由により一人では生計を維持するのが難しい家族や親族を経済的に援助することをいいます。未成年である子を親が扶養するのが代表的な例といえるでしょう。
社会保険の扶養に入るには、被扶養者となる要件を満たし、扶養認定を受ける必要があります。扶養認定の条件は「被扶養者の範囲」と「収入要件」の2種類です。それぞれについて解説します。
社会保険の扶養条件1「被扶養者の範囲」
社会保険の扶養条件の一つは、「被扶養者の範囲」です。
被扶養者の範囲には「被保険者との同居が必要ない者」と「被保険者との同居が必要ある者」の2種類があります。
被保険者との同居が必要ない者
被保険者と同居する必要がない者は、その被保険者の「配偶者」「子」、「孫」及び「兄弟姉妹」ならびに「直系尊属」です。
「配偶者」には、民法上の「婚姻関係」はないけれども生活を共にしている夫婦同様のいわゆる「事実婚」である場合も含まれます。
「直系尊属」とは、父母や祖父母など自分よりも上の世代の中で、被保険者本人と直接つながっている親族のことです。養父、養母は直接の血のつながりがありませんが「養子縁組」を行った時点で、血族間にあるのと同じ親族関係として「直系尊属」となります(民法第727条)。
また、自分より上の世代でも、叔父や叔母といったように、兄弟姉妹の関係でつながった親族は「傍系尊属」となりますので注意が必要です。
被保険者との同居が必要ある者
「配偶者」「子、孫及び兄弟姉妹」「直系尊属」以外にも、同居を条件に社会保険上の扶養にできる者がいます。
例えば「甥っ子・姪っ子」や「ひ孫」「伯父母」など「3親等以内の親族」に当てはまる場合には、同居していれば扶養と認められます。
また「内縁関係の配偶者の父母及び子」も同居であることを条件に扶養にすることができます。内縁関係の配偶者の父母及び子は、その内縁関係の配偶者が死亡したあとも引き続いて同居する場合、被扶養者として認定されることになっています。
「3親等以内の親族」の「親等」とは親族関係の世代を表す単位で、次の図のように数えます。
引用:被扶養者とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
0親等は本人と配偶者です。1親等には本人の父母と配偶者の父母、そして本人の子どもが入ります。2親等は本人と配偶者の祖父母、そしてそれぞれの兄弟姉妹も含まれます。自分たちの孫も2親等です。
兄弟姉妹は一見すると1親等のように思えるかもしれませんが、本人から直接つなげるのではなく、父母にさかのぼって1親等、そこから兄弟姉妹への横のつながりが1親等になるので2親等となります。3親等は本人と配偶者の曾祖父母、ひ孫とその配偶者が含まれます。
さらに、本人、配偶者の父母の叔伯父母、それぞれの兄弟姉妹の子どもである甥姪・その配偶者も3親等内の親族です。
社会保険の扶養条件2「収入要件」
社会保険の扶養条件には、親族関係のほかに、扶養となる方自身の収入要件もあります。
収入要件は「年間収入130万円未満」
被扶養者の収入に関する要件は「年間収入が130万円未満であること」と定められています。ただし、60歳以上である、または障害者の場合は「年間収入180万円未満」まで認められます。しかし収入要件はこれだけではありません。
被扶養者の定義は、「主として被保険者の収入によって生計を維持されており、後期高齢者医療制度などの対象とならない75歳未満の人」となります。
つまり、130万円または180万円未満の年間収入だとしても、その収入によって生計を維持しており、被保険者の収入により生計が維持されているとはいえない場合は、被扶養者とは認められません。誰の収入で生計を維持しているかどうかは、次の基準で判断されます。
- 同居の場合:収入要件を満たし、かつ、被保険者(扶養者)の収入の1/2未満であること
- 同居でない場合:収入要件を満たし、かつ、収入が被保険者からの仕送りより少ないこと
ただし同居している場合には例外があります。それは、収入が被保険者本人の収入の2分の1以上だとしても、被保険者の収入を上回らず、被保険者の収入が生計維持の主となりが当該世帯の生計を維持していると認められる場合です。
このような場合には、扶養条件を満たしていると判断されるケースがあります。
「年間収入」とは?
ここで注意しなければならないのが、「年間収入」は認定日以降の年間収入の見込額であるという点です。「将来的に一定以上の収入の見込みがないので扶養に入りたい」ということになりますので、認定に際しては認定日までの年間収入が問われることはありません。
目安としては、収入が給与所得のみであれば「総支給額が月給108,333円以下」で「年間収入130万円未満」をクリアすることになります。
したがって、例えばアルバイトをしている子どもが6ヶ月で72万円稼いでいたとすると、72万円÷6ヶ月=12万円ですので扶養にすることはできません。
雇用保険の失業給付を受給している場合は、失業給付を含んだ収入により各保険者が判断します。収入には健康保険の傷病手当金や公的年金なども含まれますので、被扶養者となる従業員の親族の収入状況を確認する際には注意しましょう。なお、事業収入や不動産収入がある場合は、収入から必要経費を差し引いた残額で「年間収入130万円未満」を判定してよいとされています。
従業員の親族がパートやアルバイトで働いている場合には、年間収入が130万円未満だったとしても被扶養者になれない場合があります。厚生年金保険の被保険者数が100人を超える特定適用事象所で働いている場合には、以下の要件をすべて満たすと働いている本人が健康保険・厚生年金保険の被保険者となるため、社会保険における被扶養者となることはできません。
- 所定労働時間が週20時間以上
- 月額賃金8.8万円以上(賞与、割増賃金、通勤手当、家族手当など最低賃金法で算入しないような一定の賃金は除く)
- 雇用期間が2ヶ月を超えて見込まれる
- 学生以外(夜間学生などは除く)
配偶者特別控除の計算方法 – 収入と控除額
配偶者特別控除とは、配偶者の合計所得金額が48万円以上のため、納税者本人(この場合従業員本人)が配偶者控除を受けることができない場合に受けることのできる税法上の所得控除をいいます。配偶者特別控除の金額の計算方法は、配偶者の所得だけではなく、従業員本人の所得の金額によっても控除額が変わります。
以下の表で、縦軸の「配偶者の合計所得金額」と横軸の「控除を受ける納税者本人の合計所得金額」の交差するところが、配偶者特別控除の金額になります。
【配偶者特別控除の金額(令和2年分以降)】
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | ||||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 | 950万円超 1,000万円以下 |
||
配 偶 者 の 合 計 所 得 金 額 | 48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
引用:配偶者特別控除|国税庁
例えば、配偶者の合計所得金額が102万円(給与所得だけの場合の収入金額は157万円)で納税者本人の合計所得金額が930万円(給与所得だけの場合の収入金額は1,125万円)であれば21万円になります。
社会保険における扶養の要件では「収入金額」がポイントになりますが、配偶者特別控除は税法上の従業員本人が受ける所得控除であり、「所得金額」がポイントになります。したがって、給与収入だけであれば、給与所得控除を差し引いたあとの給与所得を表に当てはめて算出します。「収入金額」と間違えやすいので注意しましょう。
社会保険の扶養における注意点
社会保険では、従業員に新たに扶養にしたい家族などが増えた場合には、会社で必要な手続きを行います。ここでは、社会保険の扶養においての注意点について見ていきます。
扶養対象が増えた・生じた場合、いつまでに手続きをすればよい?
従業員に「子どもが産まれた」「結婚した」など、新たに家族を扶養に入れたい場合には、必要な手続きは会社で行います。
従業員が協会けんぽ(全国健康保険協会)の被保険者の場合、「事実発生の日から5日以内」に「健康保険被扶養者(異動)届」を日本年金機構に提出しなければなりません。
なお、従業員の配偶者が20歳以上60歳未満で厚生年金保険の被保険者ではない場合には、国民年金の第3号被保険者となります。健康保険組合に加入する企業の場合、従業員の配偶者を扶養に入れる際には、健康保険の被扶養者の手続きと国民年金の第3号被保険者の手続きの2つが必要となるため注意が必要です。
日本年金機構に提出する「健康保険被扶養者(異動)届」は被扶養者となる配偶者の「国民年金第3号被保険者関係届」を兼ねる様式となっています。しかし、健康保険組合に加入する企業の場合、健康保険組合で健康保険の被扶養者の手続きを行いますので、従業員の配偶者を国民年金の第3号被保険者とするために「国民年金第3号関係者届」を日本年金機構に提出しなければなりません。
なお、健康保険組合の被扶養者の手続きは組合ごとに書式が異なりますので、加入している健康保険組合で入手してください。
参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構
一時的な収入も配偶者控除の対象になる?
配偶者に所得があったとしても、従業員本人の合計所得金額が1,000万円以下で配偶者の合計所得金額が年間48万円以下の場合は配偶者控除が受けられます。
ただし、一時的な収入が税法上の一時所得や事業所得などに該当する場合には、合計所得の金額が配偶者控除や配偶者特別控除の要件となる金額を超えると、これらの控除が受けられなくなりますのでご注意ください。一時的な収入が税法上のどの所得に該当するかわからない場合には、税務署などに問い合わせるのがよいでしょう。
社会保険の扶養・被扶養者の変更が必要なタイミング – 異動など
従業員の結婚や出産、退職などさまざまなタイミングで社会保険の扶養・被扶養者の変更が必要になります。
社会保険の被扶養者となる(扶養に入る)タイミング
前述のとおり、被保険者の収入によって生活している家族や親族は、被扶養者として社会保険に加入することができます。新たに被扶養者となるタイミングには、以下のものがあります。
- 従業員の子どもの出生
- 従業員の結婚
- 従業員の家族・親族の退職(または収入の減少)
- 雇用保険の受給終了
- 入社(扶養親族がいる従業員の健康保険の加入)
これらの被扶養者となる条件に合致するタイミングから、原則5日以内に届出を行う必要があります。
社会保険の扶養を外れるタイミング
一方、扶養に入っていた人が外れるタイミングには、以下のようなものがあります。
- 被扶養者の就職
- 被扶養者の雇用保険の受給開始
- 従業員の離婚
- 被扶養者の死亡
- 被扶養者が後期高齢者医療制度の対象
- 被扶養者の収入超過
このときも、新たに扶養するタイミングと同様に、原則5日以内に届出を行う必要があります。
なお、収入超過とは、いわゆる「給与収入130万円の壁」を指し、同居の場合で収入が従業員の収入の半分以上となったり、別居の場合で収入が従業員からの仕送り額を超えたりしたときも該当します。
社会保険の扶養では、年収ではなく、現在の収入を12ヶ月でかけて、今後の1年見込みの収入が扶養の収入用件に当てはまるかどうかが判断基準となります。
月収が108,333円を超えて、継続して超えると予想されるときには、年の途中であっても、社会保険の扶養から外れる手続きが原則として必要です。
被扶養者がいる従業員には、被扶養者が扶養から外れる手続きが必要かどうかを定期的に確認するようにしましょう。
社会保険の扶養の条件を確認しよう
社会保険の扶養とは、一般的に言われる扶養とは異なり、扶養の範囲や年収の要件が決まっています。新たに扶養に入る場合はもちろん、どのようなケースで扶養から外れるのか、要件をきちんと確認しておき、従業員に該当する事象が発生した場合には、速やかに必要な手続きを行いましょう。
よくある質問
社会保険における扶養とは何ですか?
社会保険における扶養とは、未成年や高齢であるなどの理由で、一人では生計をたてるのが難しい人を家族や親族が援助することをいいます。扶養に入るには、あらかじめ決められた扶養条件を満たす必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険の扶養における収入要件について教えてください。
原則の収入要件は「年間収入130万円未満」(60歳以上または障害者は「年間収入180万円未満」)です。全国健康保険協会では上記に加えて「主として被保険者に生計を維持されている人」などを挙げています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。