- 作成日 : 2022年4月15日
年末調整の還付金が想定よりも少ないときは?理由を解説!
年末調整では、1年間の源泉徴収所得税と本来の税額を清算する手続ですが、一連の控除によって所得税額が減額されて過払い分が生じれば、還付金として返ってきます。ところが、例年に比べて還付金が少ないケースがあります。今回は、年末調整の還付金が想定よりも少ない場合の理由について解説していきます。
目次
年末調整の還付金とは?
所得税法では、会社は、従業員に支払う毎月の給与や賞与の支払いの際に所得税等を源泉徴収し、国に納税することを義務付けられています。
しかし、源泉徴収で納付された1年間の合計額は本来、従業員が納付しなければならない税額と比べると一致しないのが一般的です。
納税者である会社が年末調整によって清算し、所得税の不足額があれば、従業員から差額徴収する必要があります。反対に、所得税を過払いしている場合は、払い過ぎた税金を会社から従業員に返さなければなりません。
年末調整の還付金とは、後者の場合の従業員に返還される金額分のことを意味します。
なお、税金の払いすぎ、もしくは不足金額は過不足税額と言います。詳細については以下の記事も参考にしてください。
年末調整の還付金が想定よりも少ない理由
年末調整は、会社員にとっては恒例行事でもあるため、年末調整で前年と同様の還付金を期待する人も少なくないと思います。
しかし、想定に反して少なくてショックを受ける人もいるでしょう。とはいえ、例年よりも少なくなるだけで、反対に不足額を徴収されないだけまだ救いがあります。“とりあえず”所得税の払い過ぎの状態になっているからです。この前提を踏まえたうえで還付金が少なくなるケースについて考えていきます。
給与やボーナスの金額に変更があった
典型的なケースは、給与や賞与が前年と比べて変動した場合が挙げられます。
会社が、給与から源泉徴収する税額は、国税庁から公表されている「源泉徴収税額表」によって決まります。税額表自体は年間を通して給与の額に変動がないことを前提としてつくられているため、年の途中で変動があれば不一致が生じるわけです。
また、前年の還付金を念頭に置くのであれば、さらにその前年はどうだったのかも関係するでしょう。
一般的に給与が減れば、当初の源泉徴収税額よりも減額された源泉徴収税額になるため、清算によって差額が発生し、これが還付金となります。
日本の税制は累進課税となっており、給料が高いほど税率が上がり、反対に給料が下がればより税率も下がるため、源泉徴収によって納付済みの所得税は少なくなります。
したがって、給与が減ったぶん、年末調整で前年よりも還付金が増えると期待しても、実際には思ったほどではないわけです。給与の減額率が大きいほど還付金は少なくなる仕組みになっています。
配偶者と離婚をした、もしくは配偶者がパートを始めた
還付金が少なくなるもうひとつの典型的な要因として、親族を対象とした控除がなくなった場合があります。
例えば、配偶者だけに適用される配偶者控除は、配偶者がその年の12月31日の時点で、次の4つの要件を満たした場合に認められます。
- 民法の規定による配偶者であること(内縁関係は除く)。
- 納税者と生計を一にしていること。
- 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること(給与だけの場合は給与収入が103万円以下)。
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと。
控除額は、従業員の合計所得金額により、900万円以下の場合は38万円、900万円超950万円以下の場合は26万円、950万円超1,000万円以下の場合は13万円となっています。
離婚したり、パートをしている配偶者の年収が増えて103万円を超えたりした場合には、配偶者控除が適用されなくなり、還付金も少なくなります。
しかし、配偶者控除が適用されなくなる103万円を超える収入の配偶者であっても、201万円以下であれば、段階的に所得控除する配偶者特別控除があるため、還付金の減額はさほど大きくはならないと思われます。
扶養親族に関する変更があった
ほかの扶養親族についても、その年の12月31日時点で次の要件すべてに該当する場合は、所得控除の仕組みがあります。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
- 納税者と生計を一にしていること。
- 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)。
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
控除額は、扶養親族の年齢等によっても異なりますが、一般の控除対象扶養親族の場合、38万円です。扶養していた子どもが就職したり、アルバイトをしていた子どもの年収が103万円を超えたりしたような場合は扶養控除から外れるため、還付金にも影響することになります。
控除金額に関する変更があった
所得控除には、保険料控除というものもあります。
保険料控除は、従業員や親族が個人で加入している各種保険に支払った保険料を控除するもので次の種類があります。
いずれも、勤め先から配布された「給与所得者の保険料控除申告書」に従業員が記載するものです。これらの保険料の支払額が少なくなれば、還付金も減額されることになります。
住宅ローンに関する変更があった
これまで取り上げた各種控除は、課税所得から控除する所得控除ですが、これとは別に所得税額自体を控除する税額控除というものがあります。
住宅を購入したり、新築したりした場合の住宅ローンに適用する住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)です。すでに住宅ローン控除が適用されている場合に何らかの変動があれば、還付金が減額となることもあります。
特に注意してほしいのは、2022年度以降は、住宅ローンの総額(年末残高)に対する比率が1%から0.7%に変更となっていることです。単純計算すると、借入残高が2,000万円の場合、還付金の上限は1%で20万円、0.7%では14万円となります。
変更前は、源泉徴収税額の20万円が還付金の上限だったものが、14万円に減額されたことになります。
また、ローンの繰上げ返済をした場合には、年末残高が大きく減るため、還付金の減額は覚悟する必要があります。
そもそも年末調整では還付を受け取れない控除
所得控除や税額控除は、すべて年末調整で還付されると誤解している人が少なくありません。ふるさと納税、初年度の住宅ローン、医療費控除など、年末調整では還付されない控除もあります。
ふるさと納税
ふるさと納税は年末調整ではなく、次の2つのいずれかの手続をして還付を受けることになります。
- 確定申告
- ワンストップ特例申請
確定申告は、1年間(1月1日~12月31日)の所得を確定させ、年1回、税金を申告する制度です。ワンストップ特例申請は、年1回だけの確定申告によらず、ふるさと納税の寄付金控除が受けられる便利な仕組みとして2015年度から実施されました。
確定申告では、所得税の還付と住民税の控除の組み合わせになり、ワンストップ特例申請では住民税のみの控除という違いがあります。しかしながら、基本的には最終的な控除額は同額となります。
初年度の住宅ローン控除
住宅ローン控除は、年末調整で還付されると説明しましたが、実は2年目以降の話です。あらためて住宅ローンについて説明しておきましょう。
住宅ローン控除は、正式には「住宅借入金等特別控除」になりますが、「住宅減税」ともいわれています。
金融機関などから住宅ローンを借り入れて住宅を取得した場合だけでなく、増改築などした場合、一定の要件を満たせば、金利負担が軽減される制度です。その仕組みは、年末の借入残高に応じ、税額控除をするというものです。
2022年度以降、住宅ローン控除を受けることができる主な要件は次のようになっています。
- 住宅ローンの借入期間が10年以上であること
- 控除を受ける年の合計所得が2,000万円以下であること
- 対象の住宅の床面積は登記簿面積50㎡以上(2023年までに建築確認を受けた新築住宅は、合計所得金額1000万円以下の人に限り、40㎡以上)で半分以上を居住用にしていること
- 中古住宅の場合は1982年以降に建築された住宅であること
- 購入の場合は自己居住であること
- 取得後6カ月以内に入居し、引き続き住んでいること
2022年度以降、控除率が変更されましたが、控除期間も従来の10年から13年に変更されています。いずれにしても、1年目は年末調整では控除できないため、自分で確定申告する必要があります。
医療費控除
医療費控除も一般的によく知られた所得控除です。1年間に自己または自己と生計を一にする配偶者やそのほかの親族のために医療費を支払った場合、支払った医療費が一定額を超えるときは医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができます。
次のような要件を満たした場合に最高200万円が控除されることになります。
- 納税者が、自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること
- その年の1月1日から12月31日までの間に実際に支払った医療費であること
医療費控除の額は、「実際に支払った医療費の合計額」から「保険金等で補てんされる金額」と、10万円を合算した金額を差し引いて算出します。年末調整では控除できないため、確定申告が必要になります。
年末調整の控除についての上限
年末調整で行われる控除には、所得控除や税額控除に様々な種類がありますが、それぞれ控除の上限が異なります。ここでは、主な控除の上限について説明します。
扶養控除の上限
扶養控除は、年間の合計所得金額が48万円以下(2019年分以前は38万円)の扶養親族がいる場合に受けることができる控除です。控除額の上限は1人あたり38万円ですが、一定の要件に該当すれば上限額が上がります。
基礎控除の上限
基礎控除は誰でも受けることのできる控除であり、納税者本人の合計所得金額に応じて上限が異なります。
2,400万円以下の場合は48万円(2019年分以前は一律38万円)、2,400万円超2,450万円以下の場合は32万円、2,450万円超2,500万円以下の場合は16万円、2,500万円超では0円です。
配偶者控除の上限
納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に、一定の金額の所得控除が受けられます。
一般の控除対象配偶者については、納税者本人の合計所得金額が900万円以下の場合は38万円、900万円超950万円以下の場合は26万円、950万円超1,000万円以下の場合は13万円が控除の上限額です。
配偶者特別控除の上限
配偶者に48万円(令和元年分以前は38万円)を超える所得があるため、配偶者控除の適用が受けられない場合にも、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられるというものです。
配偶者の所得と控除を受ける納税者本人の所得金額の組み合わせによって控除の上限額が異なります。
詳細は以下の国税庁のページを参考にしてください。
参考:配偶者特別控除|国税庁
生命保険料控除の上限
従業員が個人で支払った生命保険料に基づいて適用される控除です。一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料があります。
保険契約の区分ごとに上限控除額が設定されていますが、平成24年以降に締結した保険契約については、すべての保険料を合わせて控除の上限は12万円となります。
地震保険料控除の上限
従業員個人が支払った地震保険料、経過措置対象となる長期損害保険料が控除対象であり、控除の上限は5万円です。
社会保険料控除の上限
会社が毎月の給与から差し引いてきた健康保険料や厚生年金保険料のほか、本人が親族の代わりに支払い、会社に申告する国民年金保険料等が該当しますが、控除の上限額はありません。
還付金の処理について会社が間違っていた場合はどうする?
還付金が想定していたよりも少ない原因には、会社が行った年末調整に誤りがあった場合も考えられます。扶養親族の人数や配偶者控除における年収等が違っていたため、還付金の金額が少ないということもありえます。
年末調整の訂正は、年末調整の期限である翌年1月31日までであれば社内で行うことができますが、それ以後の場合は社内での訂正はできません。従業員が自分で確定申告することが必要になります。
年末調整の還付金が少ない場合の原因を知っておこう!
年末調整の還付金は、ささやかな楽しみでもあります。想定したよりも少なければ、誰しもショックを受けるに違いありません。本稿では、年末調整の還付金が想定よりも少ない理由について、給与の金額や扶養親族の人数の変動など様々な原因があることを説明してきました。
原因とともに対応策も知っておけば、焦らずにすみます。年末調整における各種控除と還付の仕組みを理解しておくことが大切です。
よくある質問
年末調整の還付金とは何ですか?
1年間、会社から支払われる給与から源泉徴収で納付していた所得税が過納であった場合に返してもらえるお金です。詳しくはこちらをご覧ください。
年末調整の還付金が想定よりも少ない理由には、どういったものがありますか?
給与の金額や扶養親族の人数の変動など、様々な原因が考えられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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