- 更新日 : 2024年10月17日
賃金規程とは?作成の流れやポイント、開示義務について解説
賃金規程は就業規則の項目の1つで、働くうえで賃金に関する決まりごとを記載した書類です。10人以上雇用する場合は、就業規則の作成や届け出が義務付けられています。必ず記載する事項と、企業独自での規程について記載が必要です。作成する際には、最低賃金を下回らないように注意しましょう。
賃金規程とは
賃金規程とは、賃金に関するルールのことです。賃金の計算や支払い期日など記載した書類で、就業規則の1つであり、給与規程の部分を抜き出したものです。企業によっては、就業規則とは別に賃金規程の書類を作成し定める場合があります。
下記では賃金規程の概要などを3つ紹介します。
- 賃金規程は就業規則のうちの1つ
- 常に10人以上の労働者がいる企業は就業規則の作成が義務
- 賃金規程を定めないと起こるリスクについて
賃金規程を定めることで、労働者が安心して働けたり、賃金に関する取り決めが明確になったりします。
賃金規程は就業規則のうちの1つ
賃金規程は就業規則のうちの1つであり、各企業が定めています。内容は、賃金の締め日や支払日、計算方法などが細かく記載されています。
例えば、月給制であるか、年俸制か、月給制であれば基本給と諸手当とすることなどを決めます。締め日に関しては、1日から末日までの分を翌月5日に支払いとするといったことを検討します。
このように、賃金に関する決めごとは、就業規則に必ず記載しなければなりません。退職金や賞与に関しては必ず記載する必要はありませんが、記載しないと効力が生じないとされています。
常に10人以上の労働者がいる企業は就業規則の作成が義務
賃金に関する規程では、常に10人以上の労働者がいる企業は就業規則の作成が義務とされています。
規程を決めて就業規則に記載し、労働基準監督署に届け出なければなりません。就業規則または賃金規程を定めていなければ、労働者と企業にトラブルが発生してしまう可能性があります。
例えば、欠勤、早退に関する賃金の控除が定められておらず、企業の独断で賃金を減らしてしまい問題となるなどが挙げられます。
あらかじめ会社設立の際に、10人以上雇用する見込みがあれば就業規則と賃金規程を決めておくとよいでしょう。
賃金規程を定めないと起こるリスクについて
労働者が10人以上の場合は、就業規則の作成義務がありますが、10人以下の場合は作成義務がありません。
10人以下だからと賃金規程を定めないと起こるリスクがあります。
- 残業代の未払い
- 賃金支払いの遅延によるトラブル
10人未満の場合でも就業規則を作成し、労働者に共有していれば、就業規則として効力が発生します。このように、労務トラブルを回避するためにも、賃金規程を決めておくと安心です。
賃金規程に記載する事項
賃金規程を定める際には、必ず記載しなければ事項と、企業でルールを決めた場合に記載するべき事項の記載が求められます。記載事項は労働基準法によって定められており、記載がない場合は就業規則として効力が発生しない場合があるため、確認しましょう。
- 絶対的必要記載事項
- 相対的必要記載事項
絶対的と相対的で何が違うのかについて以下で解説します。
絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項とは、労働基準法によって記載が決まっている記載事項です。
- 始業時間
- 就業時間
- 賃金の決定
- 計算および支払いの方法
- 賃金の締切日と支払い時期
- 昇給に関すること
- 退職に関すること
特に、賃金規程に以下の事項が書かれているのかを確認しましょう。
- 締め日
- 労働時間
- 遅刻、欠勤の場合の賃金控除
- 割増賃金(残業代)
- 諸手当
- 最低賃金に関すること
- 支払期日
これらは賃金に関する重要な項目です。労務トラブルにならないためにも、記載を確認しましょう。
相対的必要記載事項
相対的必要記載事項は、上記の絶対的事項とは異なり、必ずしも記載する必要はありません。企業で決めたルールがある場合に、記載しなければならないと決められています。
- 退職金に関すること
- 賞与や最低賃金に関すること
- 食費や作業服などの負担に関すること
- 災害補償や業務外のケガに関すること
この他にも、企業独自の決まりなどがある場合は、記載する必要があります。
賃金規程作成の流れ
賃金規程作成の流れについて解説します。
- 雇用形態の確認をする
- 賃金の締め日と支払日を決める
- 各種手当を決める
- 遅刻や欠勤、早退など計算方法を決める
- 決めた事項を労働者へ見せて意見を聞く
- 賃金規程を完成させて労働基準監督署へ届け出る
- 労働者へ周知させる
就業規則の中の項目として賃金規程を作成する場合と、賃金規程を別途1つの書類として作る場合に届け出が必要です。
雇用形態の確認をする
雇用形態によって賃金の決まりが異なる場合は、それぞれ規程を記します。
例えば、正社員や非正規労働者、アルバイトなど各雇用形態を確認しましょう。労働時間や賃金の体系が異なる場合、混在して分かりにくくなってしまうため、別々に作成するとよいでしょう。
また、正社員と非正規労働者が同一の待遇であると労働者が勘違いしないためにも項目を分けて明記すると労働トラブルを防げます。
賃金の締め日と支払日を決める
賃金を支払うため「いつからいつまでの賃金をいつまでに支払う」という取り決めをします。
例えば、1日から末日まで働いた分を翌月25日に支払うなどと決めます。企業によっては、25日締め翌月5日支払いなどと締め日や支払い日が異なることもありますが、特に労働基準法の問題はありません。
企業が締め日や支払日を決めて賃金規程に記載をします。
各種手当を決める
業務手当や役職手当、年齢による手当などを細かく決めます。誰が該当するのか、金額はいくらなのかなども決めて記載をします。
例えば、月に23日出勤の場合、20日以上出勤した場合は満額支給、20日未満の場合は企業の規程により定めた金額より控除する場合がある、など決めておくとよいでしょう。
遅刻や欠勤、早退など計算方法を決める
遅刻や欠勤、早退などした場合には、どのように計算をして控除するのかを明確にします。賃金規程で決めず、給与計算担当が決めてしまった場合、労働トラブルになりかねません。
書面でしっかり決めておくことで、支払者も受け取る労働者も相違なく賃金の支払いができるようになります。
決めた事項を労働者へ見せて意見を聞く
上記のように、支払い日や各種手当、控除などの草案を決めたら、労働者へ確認して意見を聞きましょう。労働組合がある企業では、意見書を作成してもらうなどしましょう。
企業の独断で賃金を減らしていないか、労働者の不利とならないのかなど確認して、相互理解を深めておくと、賃金関係のトラブルを未然に防ぐことにつながります。
労働者へ確認して、問題があれば修正し賃金規程を完成させます。
賃金規程を完成させて労働基準監督署へ届け出る
記入漏れがないか確認して、賃金規程を完成させたら、所定の労働基準監督署へ届け出ます。規程を作っても届け出なければ罰則を受ける可能性があるため、注意しましょう。
届け出をして認められることで賃金規程が企業で認められる形となります。万が一賃金でトラブルとなった場合は、届け出をしている賃金規程に明記してある旨を伝えられます。
もし、届け出をしていない場合は、賃金規程が認められず、さらなる労務トラブルへと発展する可能性があります。
作成をしたら必ず届け出をして認めてもらいましょう。
労働者へ周知させる
届け出をして、正式に規程として認められた場合に労働者へ周知しましょう。労働者がいつでも見られる場所へ置いておくなどして、すぐに確認できるようにしましょう。社長が預かって労働者に見せない場合や、周知がなされていない場合の賃金規程には、効力が認められません。
賃金規程を作成するポイント
賃金規程を作成するポイントとして4つ挙げます。
- 賃金支払いの5原則を満たす
- 最低賃金を下回らないように賃金を設定する
- 雇用形態ごとに条件を明示する
- 賃金から天引きする項目を定める
労働基準法に基づいて作成をします。法律に違反するものを記載することはできません。労働者とのトラブルを防ぐためにも、賃金規程を作成するポイントを確認しましょう。
賃金支払いの5原則を満たす
賃金支払いの5原則は以下の通りです。
- 通貨支払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上の支払いの原則
- 定期日支払いの原則
賃金は通貨で直接払いをする必要があり、毎月1回以上決められた日に支払う必要があります。
この5つを満たさなければならないと労働基準法で定められているため、賃金規程を作成する際は注意が必要です。ただし、労働者の合意のもとで例外も認められています。
例えば、労働者が指定する銀行口座への振込へ変更する、賃金の支払日が休日にあたり、翌営業日に変更するなどがあります。
例外もありますが、基本的には5原則を満たす必要があるため、作成をする際には注意しましょう。
最低賃金を下回らないように賃金を設定する
最低賃金は毎年10月に改定されています。最低賃金を下回ってしまうと、労働基準法違反となります。企業は必ず最低賃金を上回る金額を支給しなければなりません。
改定された際には最低賃金の確認を忘れないようにしましょう。
雇用形態ごとに条件を明示する
企業には、正社員や非正規労働者(パートタイマー)、アルバイトなど雇用形態が違う人たちが働いていることが多いでしょう。
その場合は、雇用形態ごとに条件を明示する必要があります。
例えば、正社員は月給、パートタイマーやアルバイトは時給など、雇用形態ごとに賃金体系が異なる場合があります。
諸手当などは正社員に支払われるが、アルバイトには支払われません。間違ってアルバイトに支払ってしまわないためにも、雇用形態ごとに条件を明示して分かりやすくしておくとよいでしょう。
賃金から天引きする項目を定める
賃金から何を天引きするのか、項目を定めましょう。
法令の定めによって、企業が賃金から天引きしても良いとされているのは、以下の通りです。
また、企業によっては、社労使協定で定めた項目がある場合は、天引きしてもよいと認められています。例えば、社宅料や労働組合費などがあります。
賃金から天引きをするときは、労働者の合意と賃金規程に明記することが必要です。合意せずに天引きすることはできないため注意しましょう。
賃金規程を変更する際の注意点
賃金規程は変更できますが、以下の条件を満たしていなければなりません。
- 変更すべき合理的な理由がある
- 変更内容が最新の法律を遵守している
- 変更後は労働基準監督署へ届けを出す
法律の改定についての賃金規程の変更が可能です。労働者が変更に反対しても変更できます。変更する際はミスのないようによく確認してから届け出を行いましょう。
変更すべき合理的な理由がある
合理的な理由は、以下のものがあります。
- 労働者の働く環境をよくするための変更
- 労働者の大部分の合意がある場合
- 変更の必要性の有無
- 代償措置、経過措置の有無
合理的な理由があれば労働者の不利益となる変更となる場合でも認められる場合があります。
変更内容が最新の法律を遵守している
変更内容が最新の法律を遵守しているかについて確認が必要です。現在、働き方改革や雇用保険法など労働に関する法律が頻繁に改正されています。賃金規程を変更する際には、最新の法律を遵守しているかを確認しましょう。
変更内容が最新の法律を遵守しているのか分からない場合には、社会保険労務士や労働基準監督署へ問い合わせしましょう。
変更後は労働基準監督署へ届けを出す
賃金規程の変更後は、作成時と同じように労働基準監督署へ届けを出すことが義務づけられています。
労働組合がある場合は、労働組合の意見書を提出します。ない場合は、労働者の代表の意見書が必要です。もし、労働者が変更に反対した場合でも変更は可能です。必ず合意してもらう必要はありません。
このように変更の注意点を確認し、届出を行いましょう。
賃金規程の開示義務
賃金規程を含む就業規則を作成、変更した場合は、労働者に周知することが義務づけられています。
また、賃金規程が定められていたとしても、労働者が認知していなければ、就業規則または賃金規程の効力が認められない場合があります。
労働者が見やすい場所へ置くか、パソコンでいつでも閲覧できるようにしましょう。
もし、社長がずっと持っている、あるいは労働者へ見せないようにしているなど周知がされていない場合は労働基準監督署から指導があったり、罰則の対象になったりする可能性があります。
賃金規程や就業規則が気になった場合はいつでも見られるように企業側は準備して置いておきましょう。
賃金規程を定めて安心して働ける環境を作ろう
賃金規程について解説しました。賃金規程は労働者と企業にとって大切な決めごとです。
10名以下の労働者の場合は、作成しなくても問題はありません。10名以上の場合は作成をして労働基準監督署へ届け出を行いましょう。
作成する際には、賃金支払いの5原則を満たす、最低賃金を下回らないようにするなど注意が必要です。
働き方改革によって、労働に関する法律が随時改正されています。それに伴い、賃金規程の改正が必要になる場合もあります。変更した場合も必ず届け出をしましょう。
労働者と企業がトラブルにならないためにも、賃金規程を定めることが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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