• 更新日 : 2022年11月15日

年末調整で必要な控除証明書とは?発行方法も解説

年末調整で必要な控除証明書とは?発行方法も解説

年末調整は、会社が従業員に毎月支払う給与から源泉徴収してきた所得などを、年末に精算して過不足を調整する手続です。手続をするのは給与所得を支払った会社ですが、従業員自身が記載して会社(勤務先)に提出しなければならない書類もあります。今回は、年末調整で必要な控除証明書の種類、交付方法について解説していきます。

年末調整で必要な控除証明書とは

年末調整では、会社が従業員に支払う毎月の給与から天引きした1年間の所得税などの徴収額と、実際に納付すべき額(年調年税額)の過不足を年末に清算します。従業員が所得税控除の対象となっている保険料を支払っていた場合、年末調整することで過納となる税額は還付されます。その際、保険料の支払いを証明するのが、「控除証明書」です。

ひとことで控除証明書と呼んでいますが、種類はいくつもあります。まずは、どのような控除証明書があるのか、把握しておくことが大切です。

控除証明書には、勤務先に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」を記入する際に必要な情報源が記載されています。つまり、控除証明書がなければ申告書は作成できません。具体的な控除証明書の種類と内容についてみていきましょう。

控除証明書の種類

まず、勤務先に提出する書類の本体「給与所得者の保険料控除申告書」は、10月から12月までの間に勤務先から配布され、記入のうえ、提出を求められます。申告書の4つの記載欄に、対応する控除証明書があります。
給与所得者の保険料控除申告書
参照:[手続名]給与所得者の保険料控除の申告|国税庁

  1. 生命保険料控除:生命保険料控除証明書
  2. 地震保険料控除:地震保険控除控除証明書
  3. 社会保険料控除:社会保険料控除証明書
  4. 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済等掛金控除証明書

次にそれぞれの控除証明書について解説していきましょう。

生命保険控除証明書

生命保険料控除欄には、「一般の生命保険料」欄、「介護医療保険料」欄、「個人年金保険料」欄があり、生命保険料には3つの控除があることがわかります。なお、県民共済などは、一般の生命保険料に該当します。

申告書の控除欄との関係では、保険会社等の名称、保険等の種類(養老・確定)、保険期間または年金支払期間(〇〇年・終身)、保険等の契約者の氏名、保険均等の受取人の氏名と続柄、制度の新・旧の別、本年中に支払った保険料等の金額などがポイントになります。

本年中に支払った保険料等の金額では、証明年の証明日までに実際に支払済みのものを「証明額」とし、証明年の12月末までに払込む予定の金額(1年間の払込予定額)を「申告額」とするケースが少なくありません。この場合、証明日以降、年末まで12月分までの保険料を支払うときには、「申告額」を記入します。

地震保険料控除証明書

地震保険料控除証明書は、損害保険契約で地震等損害部分の保険料を支払っていることを証明するものです。地震保険料控除として、一定の金額の所得控除を受けることができます。

申告書の控除欄との関係でポイントになるのは、保険会社等の名称、保険等の種類(目的)、保険期間、保険等の契約者の氏名、保険均等の受取人の氏名と続柄、地震保険料または損害保険料の区分(地震・旧長期)等です。

地震保険料と旧長期損害保険料の両方を支払っている場合には、控除されるのは本人が選択する地震保険料または旧長期損害保険料のいずれか一方となります。

社会保険料控除証明書

社会保険料控除証明書は、納税者本人や生計を同一にする親族の加入する保険料を支払った場合の証明書です。

ただし、会社員は自分自身の健康保険・介護保険料厚生年金保険料、雇用保険料は勤務先ですでに控除済みです。ここで対象となるのは、勤務先が把握できない社会保険料ということになります。具体的には、特に国民年金保険料のケースが想定され、次のような場合が該当します。

  • 個人事業主の方が、年の途中で企業へ就職した場合の支払済みの国民年金保険料
  • 配偶者もしくは扶養親族の加入する国民年金の支払済みの国民年金保険料
  • 滞納や免除になっていたが、企業に勤めてから支払った国民年金保険料
  • 学生や無職の方が年の途中で企業に就職した場合の支払済みの国民年金保険料

申告書の控除欄との関係では、社会保険の種類、保険料支払先の名称、保険料を負担することになっている人の氏名と続柄、本年中に支払済みの金額などがポイントになります。

小規模企業共済等掛金払込証明書

小規模企業共済等掛金控除は、勤務先からの給与から源泉徴収されていない掛金が対象となります。

申告書には、「独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金」「確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金」「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」「心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金」の4つの記載欄があります。

最近、大手企業を中心に導入が増えている企業型確定拠出年金(企業型DC)で、従業員個人もマッチング拠出で上乗せて拠出している場合や、従業員個人が個人型確定拠出年金(個人型DC)に加入している場合は、本人の掛金は勤務先が把握できません。そのため、小規模企業共済等掛金払込証明書をもとに申告書の控除欄に記載する必要があります。

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控除証明書の発行方法

「給与所得者の保険料控除申告書」の4つの記載欄に対応する控除証明書について説明してきました。控除証明書は、申告書を作成する際に手元に準備する必要があります。どこが発行し、どのような方法で入手するのか、みていきましょう。

控除証明書の郵送による発行

基本的に、いずれの控除証明書も従業員本人にハガキの形で郵送で送付されてきます。発行については、本人の方から請求するなどの手続は必要ありません。

発行元は、生命保険料控除証明書は生命保険会社、地震保険控除証明書は損害保険会社、社会保険料控除証明書は日本年金機構、小規模企業共済等掛金控除証明書は独立行政法人 中小企業基盤整備機構や国民年金基金連合会などのそれぞれ加入する保険事業の運営主体(保険者)です。いずれの場合も年末調整に間に合うように10月頃が送付時期となります。

一般的には、契約内容により、保険料の払込期月(月払・半年払・年払)や払込期月の時期によって発送時期を分けていることが多いようです。

控除証明書等の電子的交付

控除証明書の交付は、上記のように基本的には郵送で行われます。しかし、2019年1月からは、保険会社などが書面により交付していた控除証明書を、電子データで交付することができるようになりました。これを「電子的控除証明書等」と呼んでいます。電子的控除証明書等の交付を受けた場合は、申告書に添付し、勤務先や税務署に電子的に提出・送信ができるようになりました。
電子的交付
引用:控除証明書等の電子的交付について|国税庁

電子的控除証明書等の交付は、次のような流れとなります。

  1. 保険会社や自治体等の保険者が、電子的控除証明書等作成ソフトや控除証明書に対応したソフトを使用した控除証明書の電子データ(XML形式)を作成後、電子署名して保険等の契約者に提供します。保険等の契約者は、オンラインサービス「マイナポータル」(国税庁が提供・運営)または保険会社等のマイページで電子データで所得します。
  2. 保険等の契約者は年末調整控除申告書作成ソフト(国税庁が提供・運営)や勤務先指定のソフトを使用し、取得した電子データ(XML形式)を申告書に添付して送信します。

勤務先には、社内メール等で提出することになります。

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控除証明書を発行する際の注意点

控除証明書の発行は、郵送または電子的交付で行われますが、郵送の場合には紛失するケースも少なくないでしょう。また、発行の時期自体が年末調整に間に合わないということも考えられます。このような場合は、どう対処すればよいのでしょうか。

紛失した場合はどうする?

郵送された控除証明書は、しっかりと保管することが基本ですが、紛失してしまったり保管場所を失念してしまったりすることもあります。

しかし、慌てる必要はありません。控除証明書は再発行してもらえます。いずれも加入している保険会社等の保険者の担当窓口で対応してします。ただし、再発行には再発行申請書の提出が必要になるなど、時間がかかります。3週間程度は覚悟する必要があります。

この場合の解決策として、前述した「電子的控除証明書等」が有効です。国税庁のホームページにある「QRコード付証明書等作成システム」を利用することが可能だからです。

QRコード付証明書等作成システムでは、保険会社や金融機関等から交付を受けた電子的控除証明書等から年末調整で提出する「QRコード付控除証明書等」を印刷することができます。

「QRコード付証明書等作成システム」についてはこちらを確認してください。

参考: QRコード付証明書等作成システムについて|「e-Tax」国税電子申告・納税システム、国税庁

証明書の発行が年末調整に間に合わない場合は?

控除証明書を紛失しても再発行が難しくないことは、とても心強いのではないでしょうか。しかしながら、業務多忙なときには、そもそも勤務先から配布された「給与所得者の保険料控除申告書」を失念しているような場合もありえます。控除証明書が必要なことは思いもよらないでしょう。

控除証明書の発行そのものは、QRコード付証明書等作成システムから自分で印刷できますので、気づいた時点で入手することは可能です。それをもとに「給与所得者の保険料控除申告書」を作成すればよいわけです。

会社が税務署へ年末調整の法定調書を提出する期限は1月31日とされています。しかし、通常、勤務先は、11月には申告書を回収して12月給与に年末調整結果を反映するというスケジュールを組んでいます。1月の給与で年末調整するケースもありますが、スケジュール的にはかなり厳しいといえます。

相談次第で勤務先の担当者によっては対応してくれる場合もあるでしょう。では、ダメだった場合は?そもそも無理なお願いであるため、年末調整による所得税控除は諦めましょう。とはいっても、還付金を諦める必要はありません。自分自身で確定申告をすればよいだけです。

確定申告は、本来、個人事業主等が1年間の売上から経費を差し引いた所得をとりまとめ、所得にかかる税金を計算して税務署に納めるべき税額を報告する手続です。会社員には、あまり馴染みがないかもしれませんが、年末調整と同様に所得控除による還付を受けることができます。

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控除証明書は大切に保管しましょう

年末調整によって所得控除されれば、結果的に税金が安くなります。そのためにも控除証明書は不可欠なものです。まずは、控除証明書が大切な書類であることをしっかりと認識し、郵送で入手したら、勤務先から配布されている「給与所得者の保険料控除申告書」等の年末調整関係の書類とともに保管しましょう。

よくある質問

控除証明書にはどういった種類のものがありますか?

生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書、社会保険料控除証明書、小規模企業共済等掛金控除証明書等があります。詳しくはこちらをご覧ください。

控除証明書の発行方法について教えてください。

保険会社等による郵送が基本ですが、電子的控除証明書等による発行もあります。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:坪 義生(社会保険労務士)

じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)、労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、㈱矢野経済研究所、等を経て、91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。

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