• 更新日 : 2025年1月20日

労働契約法19条の「雇止め法理」の法定化とは?ポイントをわかりやすく解説

非正規社員を期間の定めがある契約(有期労働契約)で雇用している企業は多いでしょう。非正規社員は人手不足に悩む企業にとって貴重な戦力と言えます。しかし、有期契約の社員だからといって、簡単に雇止めで退職させることができるわけではありません。

ここでは、労働契約法19条の「雇止め法理」の法定化を中心にわかりやすく解説します。

労働契約法19条の「雇止め法理」の法定化とは

「雇止め」は、過去の最高裁判例による考え方で無効になる判例上のルールが労働契約法が制定される以前から確立しています。雇止めに関する判例上のルールが労働契約法19条に内容や範囲を変更することなく条文として定められたことから、「雇止め法理」の法定化と呼ばれています。

最初に労働契約法の条文を確認しておきましょう。

(有期労働契約の更新等)

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

引用:労働契約法 | e-Gov 法令検索

有期労働契約の労働者の契約期間が満了する際、企業側が契約更新をせずに契約を終了することを「雇止め」と呼びます。有期労働契約は契約期間が満了した際に終了する契約であるため、契約期間中に一方的に契約を終了させる解雇とは区別されています。

本来有期労働契約は、期間が満了すれば契約が終了します。しかし、繰り返し何度も反復して契約を更新していたり、形式的に更新の手続きをしたりするだけでいつも更新されていれば、労働者は次回も契約が更新されるものと思うことでしょう。また、上司から更新されるような言動がある、契約が更新されずに退職する人が職場に誰もいないなど、労働者が更新されることを期待しても無理がないケースも多くあります。

有期労働契約の労働者が更新の希望をしても雇止めとなった場合、客観的合理性や社会通念上の相当性がなければその雇止めは無効とされ、更新する前の労働契約と同じ条件で更新されたとみなされます。

参考:労働契約法のあらまし|厚生労働省

「雇止め法理」の対象となる有期労働契約の労働者

対象となる労働者は、有期労働契約を締結している労働者です。 しかし、雇止め法理の対象になるためには、労働者から更新の申込みをしなければなりません。更新の申込みは契約期間が満了するまでに行うだけではなく、正当な理由や合理的な理由があれば、期間満了後であっても遅滞なく申込みをしていれば対象になります。

更新の申込みは、企業側から雇止めをされた際に口頭で断るなどでも、何らかの意思表示が伝わるものであれば問題ないとされています。

「雇止め法理」が適用される条件

雇止め法理が適用されるためには、以下の1と2の条件に該当する必要があります。

  1. 反復更新された有期労働契約で「雇止め」が実質的に無期労働契約の解雇と変わらない(社会通念上同視できると認められる)
  2. 有期労働契約の期間の満了時しても更新されるものと期待できるだけの合理的な理由がある

1.については、有期労働契約が期間の満了の度に当然に更新されていて、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態であった場合には、解雇に関する法理を類推すべきとした東芝柳町工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決)がもとになっています。また、2.については、有期労働契約の期間満了後しても、有期労働契約の労働者に雇用関係の継続が期待できるだけの合理性理由がある場合には、解雇に関する法理が類推されるとした日立メディコ事件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決)がもとになっています。

これらの条件に該当するかどうかは、以下の事情を総合的に考慮して、個々に判断されます。

  • 雇用の臨時性・常用性
  • 更新の回数
  • 雇用の通算期間
  • 契約期間管理の状況
  • 雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無

参考:労働契約法のあらまし|厚生労働省

労働契約法19条の「雇止め法理」による企業への影響

非正規社員を期間の定めがある有期労働契約で雇用している企業は多く、雇止め法理が企業に与える影響は大きいと考えられます。人手不足の昨今、非正規社員は企業の貴重な戦力となっており、業種によっては非正規社員を雇わずに経営をすることは困難です。

そもそも有期労働契約の内容が最初から更新しない旨の契約であれば、反復更新することはないため問題ありません。しかし、ただでさえ人手不足に悩む企業が多い昨今、更新されないことが分かっている企業の採用における募集条件では、人を集めるのは難しいでしょう。そのため、有期労働契約の労働者を最初から更新しない条件で採用するケースは限定されると考えられます。

労働契約法18条では、5年を超えて契約を更新した労働者が希望をすれば無期労働契約に転換できる無期転換ルールが定められており、何度も反復更新を繰り返していれば労働者の希望により有期労働契約ではなくなります。非正規社員であっても、企業に必要な人員で長く働いてほしい場合には、最初から期間の定めのない契約で雇用することを検討したほうがよいかもしれません。

労働契約法19条の「雇止め法理」が適用されないケース

ここでは、労働契約法19条の「雇止め法理」が適用されないケースについて解説します。

正社員と同じように解雇事由に該当するような理由がある場合

有期労働契約の社員であっても、正社員と同じように解雇事由に該当するような合理的な理由があれば、雇止めが正当なものとして認められるでしょう。

  • ケガや病気により労務提供できない
    疾病で長期間療養のために休業している場合など
  • 能力不足や適格性が欠如している
    能力不足、協調性の欠如、勤務怠慢などが見られる場合
  • 社内規則や規律に違反する場合
    勤務態度不良、業務命令に従わない、ハラスメント行為を行う、業務に関する犯罪行為など

注意や指導を行わずに雇止めをした場合には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」と判断され、雇止め法理により雇止めが無効になる可能性があるため注意が必要です。経営者の主観で判断するのではなく、記録やデータなどで客観的な事実を証明できるようにしておく必要があります。有期労働契約の締結時にも労働条件通知書(雇用契約書や労働契約書も含む)に更新の有無や判断の基準を明示することが義務付けられていますので、基準を明確にしておくのがよいでしょう。

会社の事情で有期労働契約者の雇用が難しくなった場合

経営不振による事業の縮小や事業所の閉鎖など、経営上必要で有期労働契約者の雇用が難しくなった場合にも、雇止めが認められる可能性があります。ただし、会社の事情で雇止めを行うことになるため、整理解雇に準じて「人員削減の必要性」「解雇回避努力義務」「解雇対象者の人選の合理性」「説明・協議等解雇の手続きの適正性・妥当性」などをよく検討する必要があります。

労働契約法19条の「雇止め法理」に関する裁判例

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めが無効になるというのが、「雇止め法理」の考え方の基本です。そのため、裁判などになった際には、正当な理由やきちんとした根拠もなく、雇止めをせざるを得ないほどの程度でなければ、雇止めは無効と判断されます。

雇止めに関する判例としては東芝柳町工場事件や日立メディコ事件が有名ですが、他の裁判例についても紹介します。

学校法人立教女学院事件(東京地判H20.12.25)

派遣労働者として3年間勤務後、有期嘱託職員となって従前と同様の業務に従事していましたが、嘱託職員の雇用継続期間の上限を3年とするという方針から、2回更新後に雇止めされました。

担当業務の恒常性や契約更新時の合意内容と事務局長等による説明などから、継続されることに合理的な期待利益があるとされました。嘱託職員の雇用継続期間の上限(3年)の方針を理由に雇止めをするめには、方針を出した時点でこれを超えて継続雇用している嘱託職員に納得を得る必要があるところ、この方針を形式的に適用しただけの一方的なものであり、継続利用に対する合理的な期待利益を侵害するもので、客観的に合理的な理由がないなどと判断され無効とされました。

龍神タクシー事件(大阪高判H3.1.16)

臨時雇のタクシー運転手を1年間の雇用契約期間満了時の雇止めをした事件で、臨時雇用運転手が例外なく再雇用されているなど雇用契約の諸般の事情に照らせば、実質は期間の定めのない雇用契約に類似しているものであることから、雇用の継続を期待することに合理性があるとされました。本事件では、更新拒絶が相当と認められるような特段の事情がないかぎり、期間満了のみを理由に雇止めをすることは、信義則に照らせば許されないと判断されています。

ただし、その効果により雇用契約の更新がなされ、従前と同一の条件により1年間、臨時運転手の地位にあることを認められましたが、更新により雇用契約が無期契約に転化するものではなく、1年間経過後に当然に再更新がされるものでもないとされています。

参考:主な裁判例|厚生労働省

労働契約法19条の「雇止め法理」に違反しないためのポイント

労務管理をする上で「雇止め法理」に違反しないためにはどのようにすればよいのか、その対策について解説します。

契約書に次回更新を行わない旨を記載する

有期労働契約を更新する際に、契約書に次回更新を行わない旨を記載するのも方法の1つです。契約書に次回更新を行わない旨を記載する場合には、有期労働契約を締結する労働者とよく話し合って、理解を得ておくのがよいでしょう。次回更新を行わないことについて労働者の承諾が得られなければ、そもそも契約自体が成立せず、トラブルになる可能性があります。

なお、2025年4月1日からは労働条件の明示事項についての改正が行われ、最初の労働契約の締結より後に契約更新の上限を新たに設けたり、すでにある契約更新の上限を短縮したりする場合には、その理由をあらかじめ労働者に説明することが義務付けられていることにも留意が必要です。

また、形式的に「更新をしない」としているだけで実際に更新したことがある場合や、「更新をしない」とした労働条件でも、同じ企業の事業所で更新されている有期労働契約の非正規社員がいる場合は、裁判などでは実態で判断されることになるため、雇止め法理が適用される可能性があります。

参考:2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?|厚生労働省

更新期間の1ヵ月以上前に契約満了の通達をする

厚生労働省告示による「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」では、雇止めをする際、契約期間が満了する日の30日前までに雇止めの予告をすることを義務付けています。以下のいずれかに該当する場合には、雇止めの予告をしなければなりません。少なくとも30日前までには、通達や通知を文書で出すようにしましょう。

  • 3回以上更新している
  • 有期労働契約(1年以内)が反復更新され、通算1年を超えて雇用している
  • 1年を超える期間で労働契約を締結している

ただし、雇止めの予告は条件に該当すれば必ず通知をすることを義務付けているだけであり、雇止めが有効性の判断は、あくまでも労働契約法19条で判断されます。通知を出せば雇止めが有効になるというわけではありません。

参考:有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準について|厚生労働省

自社に合った雇用形態を検討してトラブルをなくすことが大切

雇止めは非正規で働く労働者にとって不利益が大きく、客観的に合理的な理由を欠いて、社会通念上相当であると認められないときは、雇止め法理により雇止めが無効となることが労働契約法19条に定められています。この客観的合理性や社会通念上の相当性の考え方は、懲戒処分、解雇、雇止めなどによって求められるレベルが異なり、難しい判断となります。

また、労働契約法18条では無期転換ルールが定められており、企業にとって有期労働契約を結ぶ必要性がなくなってきています。雇止め法理や無期転換に関するトラブルは多くあることからも、企業にとって必要な人員を雇うのであれば、自社に合った雇用形態を検討し、最初から無期雇用で雇うなどトラブルをなくすことが重要です。


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