- 更新日 : 2024年8月9日
事前確定届出給与とは?役員賞与を損金算入して節税できる?期限や記載方法は?
経営者など役員に対する報酬や賞与は、一般社員の給与とは異なり、税務上の規定に従って支給されなければ損金算入できません。役員報酬は金額が大きくなりがちなため、損金算入として扱わなかった場合、納税負担額や資金繰りにも悪影響を及ぼします。
このような事態を避けるために、役員賞与を損金算入できる「事前確定届出給与」の制度を把握しておくことが重要です。節税効果につながる事前確定届出給与は、どのように利用すればよいのでしょうか。本記事では、事前確定届出給与の概要や手続き方法などを解説します。
目次
事前確定届出給与とは
事前確定届出給与とは、経営者や監査役といった役員に対して所定の時期に確定額を支給する旨を定め、事前に税務署に届出をした給与のことです。役員報酬や役員賞与に利用する目的を確認するため、まずは事前確定届出給与の概要について解説します。
また、定期同額給与や利益連動給与との違いも、あわせて押さえておきましょう。
そもそも役員報酬・賞与とは
役員に支払う報酬には「役員報酬」と「役員賞与」があります。言葉は似ていますが、それぞれの特徴は以下の通りです。
- 役員報酬:給与として毎月支払われる報酬
- 役員賞与:退職給与以外の臨時的な報酬
会社が従業員に支払う給与や賞与はすべて損金に算入できますが、役員への報酬は税務上の規定に基づいて支給されていなければ損金に算入できません。損金扱いにならない報酬支給は、当然ながら課税対象となります。
つまり、役員報酬や賞与額が多くなると法人税の負担額が大きくなり、節税効果が得られにくくなるわけです。よって、損金として認められるように「事前確定届出給与」または「定期同額給与」といった方法をうまく活用することが重要になるでしょう。
事前確定届出給与なら損金算入が可能
役員賞与はそのままでは損金として計上されませんが、事前確定届出給与の届出を行うことによって、損金算入することが可能です。また、非常勤の役員に対して、年に数回報酬を支払うケースも、届け出をすることで損金対象となります。
損金算入するためには、株主総会で決議して議事録を作成し、期限までに一定事項を記載した届出書を税務署へ提出しなくてはいけません。届出書に明記した時期と金額が完全に一致した形で役員に報酬支給が行われた場合に限り、損金として認められます。
ただし、一度でも届出内容と異なる条件で支給した場合、不一致箇所のみならず、その年度の事前確定届出給与分すべてが損金不算入と見なされるため注意が必要です。なお、届出は事業年度ごとに提出する必要があり、赤字の場合でも規定した時期に確定額を支払わなければなりません。
定期同額給与との違い
定期同額給与とは、1ヶ月以内の一定期間ごとに議事録で決めた金額を、事業年度期間内に毎月支払う役員給与のことです。事前確定届出給与は事前の届出が義務付けられているのに対し、定期同額給与はその必要がなく役員報酬を損金にすることができます。
ただし、支給時期が一定かつ同額であることが条件であり、不定期の支給や金額が変動していると、税務署から条件から外れたと見なされ損金扱いになりません。また、役員報酬は原則として年に1度しか変更できず、変更可能時期も決算後3ヶ月間と決まっています。
そのため、役員報酬は事業年度ごとに利益額を予測して、計画的に設定しましょう。ちなみに、定期同額給与と事前確定届出給与は重複して利用可能です。
業績連動給与との違い
業績連動給与とは、会社の業績に連動して役員報酬を支払い、その報酬額を損金計上できる給与のことです。前述した2つの制度とは異なり、金額が確定していないことが特徴に挙げられます。
会社の業績や株式の市場価格といった客観的な指標が、算定の基礎になります。手続きが複雑で厳しい条件をクリアする必要はありますが、成果主義を採用している企業に多く見られる制度です。要件をクリアすることで損金算入が可能なため、経営層へのインセンティブとしても採用できます。
事前確定届出給与の要件
役員賞与を損金算入するには、事前確定届出給与の届出が必要です。ただし、要件を満たさなければ損金とは認められないため、正確に把握しておくことが重要でしょう。ここでは、事前確定届出給与の記載方法や提出期限、提出先について紹介します。
申請書の様式と記載方法
事前確定届出給与の手続きは、国税庁のホームページや税務署から届出書と付表を入手し、議事録とあわせて提出する必要があります。
届出書には決議を行った日や機関等の名称、執行開始日、届出期限などを細かく記載することが求められます。付表には対象者氏名と役職名、職務執行期間、支給時期と支給金額などを明記します。
支給時期は明確な日付を記入し、支給金額も1円単位で設定しなければなりません。つまり、大まかな内容では受理されない可能性が高いため注意が必要です。なお、事前確定届出給与の届出書は、株主総会等で役員賞与の支給を決議するごとに作成します。
提出期限
事前確定届出給与の届出は、一定の期限内に必ず提出しましょう。1日でも期限に遅れると、全額が損金不算入となるため注意が必要です。なお、提出期限は下記の表で確認しておきましょう。
【初めて届出をする場合】
[table “1121” not found /]提出先
事前確定届出給与に関する届出書は、納税地の所轄税務署長宛に持参、または送付する必要があります。税務署の所在地については、国税庁のホームページをご確認ください。
事前確定届出給与に関する定めを変更する方法
期限内に提出している法人は、その届出をした事前確定届出給与に関する内容が変更可能です。ただし、変更事由が臨時改定事由である場合、その事由が発生した日から1ヶ月を経過する日までに、所定の届出が必要となります。
「臨時改定事由」とは「役員の職制上の地位の変更」や「役員の職務の重大な変更」など、役員給与を変更する必要があるような事情を指します。
【既に事前確定届出給与を届出ている法人が、賞与の内容変更する場合】
[table “1122” not found /]事前確定届出給与を正しく理解して節税しよう
ここまで事前確定届出給与の概要や、手続き方法などを解説しました。役員に対する報酬や賞与は、規定を知らずにいると損金不算入となり、納税面や資金繰りで想定外の事態が起こりうる可能性があります。
そのため、役員報酬や役員賞与に関する税務上の取り扱いは、正確に把握することが重要です。複雑に感じるかもしれませんが、今回紹介した事前確定届出給与の手続き方法にならい、期限を守って届出書を提出すれば問題ないでしょう。
事前確定届出給与を正しく理解し、従業員だけでなく役員の賞与も損金算入して、節税対策を行うことが大切です。
【参考】
国税庁|[手続名]事前確定届出給与に関する変更届出
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
給与明細の控除項目とは?計算から記載方法まで解説
給与明細にはさまざまな支給項目や控除項目があります。支給項目は、雇用契約書や労働条件通知書に記載の賃金や手当ですので分かりやすいと思います。しかし、控除項目は、「どうしてこの金額が控除されるのか?」と疑問を持つことがあるのではないでしょうか…
詳しくみる確定拠出年金の節税効果
確定拠出年金の節税効果 確定拠出年金の加入メリットについては、「確定拠出年金の10のメリット」の項で税制上の優遇があることを紹介しました。では、確定拠出年金には実際にどのような節税効果があるのでしょうか? 今回は具体例とともに…
詳しくみる源泉徴収税額表の見方を会社員と個人事業主の場合別に解説!
会社員の給与から毎月一定の所得税額が天引きされる源泉徴収制度。この源泉徴収額はどのように決められているのでしょうか? 今回は、源泉徴収制度の基本と徴収額を算出する際に必要な源泉徴収税額表の見方について、会社員と個人事業主、それぞれの場合を解…
詳しくみる社員紹介で「報酬金50万円」ゲット 税金は引かれる?
近年、にわかに注目を浴びている「リファラル採用」。社員が自社に適任だと思う知人に声を掛け、人事に紹介し、選考へつなげる採用活動です。「採用氷河期」の今、採用コストを抑え、定着率の高い人材が採用できるなどの理由から導入を検討している企業も少な…
詳しくみる定額減税における新入社員の扱い- 扶養の対象かどうかなど解説!
新入社員が親の扶養控除対象になるかどうかは、企業の人事担当者にとって重要な問題です。特に、定額減税の適用に関しては、扶養控除の適用範囲を正確に把握することが求められます。 本記事では、定額減税における新入社員の扶養控除の扱いについて、親が勤…
詳しくみる源泉徴収税額表の見方を解説!会社員と個人事業主の場合別
会社員の給与から毎月一定の所得税額が天引きされる源泉徴収制度。この源泉徴収額はどのように決められているのでしょうか? 今回は、源泉徴収制度の基本と徴収額を算出する際に必要な源泉徴収税額表の見方について、会社員と個人事業主、それぞれの場合を解…
詳しくみる