- 更新日 : 2025年3月19日
社宅と寮の違いとは?メリットやデメリット、選ぶ際のポイントを解説
企業の福利厚生として、社宅や寮の導入を検討する際「どちらがより自社に適しているのか?」と悩む人事・総務担当者は少なくありません。
本記事では、社宅と寮の基本的な違いやメリット・デメリット、選ぶ際の重要なポイントを解説します。
社宅と寮の違いが理解できると、自社に最適な福利厚生を設計し、社員の満足度向上につなげられるでしょう。
目次
社宅と寮の違いとは?
社宅と寮に明確な法律上の定義は存在しません。一般的なイメージとして、寮は単身者向けに企業が所有する住居であり「社有住宅」とも呼ばれます。
社宅は世帯向けに企業が借り上げた住居を指し、従業員の生活環境を支援する目的で提供される場合が多いです。
実際の運用状況では、借り上げ社宅が主流になっています。
内閣管轄の人事院が実施した「令和4年民間企業の勤務条件制度等調査」によると、社宅を保有する企業のうち80.7%が借り上げ社宅を採用しており、自社保有の社宅(寮)は36.3%にとどまっています。
企業の負担軽減や物件の柔軟性を考慮し、多くの企業が借り上げ社宅を選択しているのがわかるでしょう。
社宅と住宅手当の違い
社宅と住宅手当には違いがあります。
社宅は企業が従業員に住居提供し、家賃の一部を負担するとともに、従業員の給与から従業員負担分を控除するのが一般的です。
一方、住宅手当は従業員自身が選んだ物件の賃料に対し、企業が一定額を補助する制度です。
社宅は企業が契約主体となるため、家賃を経費として計上でき、節税効果が期待できます。経済的メリットがあるため、多くの企業で活用されています。
住宅手当は社員が自由に住む場所を選べるのが利点です。しかし、給与と同じ扱いになるため課税対象となり、社会保険料の負担軽減にはつながりません。
どちらの制度を導入するかは、企業のコスト管理や社員の住環境に対する方針によって異なります。
社宅のメリット3つ
社宅は寮に比べて自由度が高く、多くのメリットが期待できます。
以降では、社宅のメリットを3つ紹介します。
社員の満足度が向上する
社宅は寮と比べてプライベート空間を確保しやすいため、社員の住環境に対する満足度が向上しやすいです。
寮では共同生活が前提となるため、プライバシーの確保が難しい傾向にあります。
一方、社宅では通常のマンションやアパートを利用します。キッチンや浴室などが個室に備えられ、共用スペースが少ないため、プライベート空間の確保が可能です。
また、家賃の一部を企業が負担すると、住居費の負担軽減につながるのもメリットです。快適な住環境を確保しつつ、経済的な負担も軽減できるため、社員の満足度向上につながるでしょう。
寮に比べて物件の自由度が高い
社宅は寮に比べて物件の自由度が高いです。マンションやアパートを借り上げる方式であれば、社員の希望をある程度尊重したうえで物件選定できます。
たとえば、通勤の利便性や生活環境を考慮したエリアでの物件確保が可能です。
企業が多様な社宅を用意すると、社員一人ひとりの状況に配慮している姿勢がアピールできるでしょう。また、企業の規模拡大や移設に伴い、社宅の立地や物件数を柔軟に調整できるのも強みです。
社員数の増減やニーズの変化に応じて、社宅を増減しやすいため、長期的に見て適しています。
社員の家族構成やライフスタイルに対応できる
社宅は社員の家族構成やライフスタイルに合わせた対応が可能です。
マンションやアパートを借り上げる方式であるため、2LDKや3LDKなど広い間取りの物件も利用できるのが魅力的です。
結婚や子育てを考える社員にとって、生活の安定性が増すため、長く働き続ける意欲につながります。
企業が多様な社宅を用意していると、社員一人ひとりの状況に寄り添う姿勢が示せるため、企業イメージの向上にも寄与します。
家族の生活を考慮した福利厚生の整備は、社員の定着率を高めるだけでなく、企業の採用活動においても強みとなるでしょう。
寮のメリット2つ
寮は自由度がないイメージを持たれがちであるものの、メリットも存在します。
以下では、寮のメリットを2つ紹介します。
社員の生活上のコストや手間を軽減できる
寮は社宅に比べて、社員の生活コストや手間が軽減できます。
家具や家電が備え付けられていたり、食堂が完備されていたりするケースが多く、入居時の初期費用や手間を抑えられるのがメリットです。
生活に必要な設備が整っていると、社員が仕事に集中しやすい環境を提供できるでしょう。
とくに、新卒社員や若手社員の定着率向上につながる可能性があり、企業にとっても労働力の確保や安定した雇用管理に役立ちます。
社員間のコミュニケーションが生まれやすい
寮は同じ会社のさまざまな部署や世代の社員が生活するため、社員間の自然なコミュニケーションが生まれやすいです。
キッチンや洗濯場などの共用エリアで日常的に顔を合わせる機会が増えるため、業務上の相談だけでなく、プライベートの悩みも気軽に話せます。新卒社員や若手社員にとっては、心強いサポートとなるでしょう。
また、社員同士のつながりが強まると、会社全体のチームワーク向上にも寄与します。仕事のしやすさや帰属意識の向上にもつながるため、企業にとっても組織の一体感を作り出す有効な手段といえるでしょう。
社宅のデメリット2つ
社宅は多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。
以下では、社宅のデメリットを2つ紹介します。
必ずしも希望する物件に住めるわけではない
社宅は寮に比べて自由度が高いものの、必ずしも従業員が希望する物件に住めるわけではありません。企業の規定や予算の範囲内で物件を選定するため、間取りや設備、立地条件などに制約を設ける必要があります。
社員の希望する設備や立地条件が予算の範囲を超えてしまうと、別の選択肢を検討しなければなりません。
企業は社宅希望者に立地や周辺環境について説明し、納得したうえで入居を決定するのが大切です。
また、社員の希望とのギャップを最小限に抑えるため、柔軟な物件選定や複数の選択肢を提示するのも効果的です。
解約時に違約金が発生する場合がある
借り上げ社宅の場合、企業がオーナーと直接契約するため、契約期間の満了前に解約すると違約金の発生リスクがあります。
たとえば、従業員の退職や転勤によって空室になった場合、企業は家賃負担を避けるために契約解除をしたいと考えたとします。しかし、賃貸契約で途中解約をすると、違約金が発生し、企業が費用を負担しなければならないケースが多いです。
リスクを回避するには、契約締結前に違約金や解約条項を丁寧に交渉し、短期解約や途中解約でも柔軟に対応できる物件を選ぶとよいでしょう。
寮のデメリット3つ
寮はメリットがある一方で、デメリットも多く存在します。以下では、寮のデメリットを3つ紹介します。
住む場所が自由に選べない
寮は企業が所有・管理する物件のため、社員は住む場所を自由に選べません。企業の敷地内や近隣にある場合が多く、希望するエリアに住めない可能性があります。
商業施設や病院などが近くにない場合、不満を感じる社員もいるでしょう。また、築年数が古い建物や狭い間取りは、住み心地に影響を及ぼします。
不満が積み重なると社員の満足度が低下し、離職を考える要因になりかねないため、導入時には立地や設備を慎重に検討するのが重要です。
自由度の低さにより社員がストレスを抱える
寮は同じ会社の社員だけが住み、交流が活発になりやすい一方、勤務時間外や休日も会社の人と関わるのが負担になる社員もいます。
食堂や共用スペースなどで顔を合わせる機会が多く、プライベートと仕事の切り替えがしづらいと感じる場合も少なくありません。
新卒社員や若手社員にとっては寮生活の上下関係や社内ルールが影響を及ぼし、心理的な負担がかかる可能性があるため、慎重に運用する必要があるでしょう。
維持管理にコストがかかる
寮は自社所有のため、企業にとっては維持管理にコストがかかります。
たとえば、建物や設備の老朽化が進むと、維持管理に多額のコストが必要です。とくに築年数の古い寮では、水回りや空調設備の修繕が頻繁に必要となり、適切なメンテナンスが行われないと社員の不満につながります。
寮の修繕やリノベーションにはまとまった費用がかかるため、企業は長期的に見てどの程度の予算を充てられるかを考える必要があります。
予算を削減しすぎると、住環境が悪化し、社員の定着率に悪影響を及ぼすため注意しましょう。
導入時には、長期的な運用を見据え、設備更新やメンテナンスの計画を立てるのが重要です。
社宅と寮どちらがいいのか?選択する際のポイント
社宅と寮どちらがいいのか選択する際に考えるべきポイントを解説します。
社員の家族構成を考えて選ぶ
社員の家族構成を考えて選びましょう。
社員が独身中心なのか、ファミリー層が多いのかによって、適した住居形態が変わります。ファミリー層が多い場合は、2LDKや3LDKなどの広い住居を確保できる社宅がよいでしょう。家族向けの住環境を提供すると、社員の長期的な雇用の安定化が期待できます。
また、新卒社員や若手社員が多い場合は生活コストを抑えつつ、孤立しない環境を提供できる寮がオススメです。社員同士の交流が生まれやすく、新生活への不安も軽減できます。
費用対効果を考えて選ぶ
導入や維持にかかるコストと社員の満足度のバランスを考慮し、長期的な視点で判断するのが重要です。
社宅は、敷金や礼金など初期費用が発生する場合があります。しかし、家族向けの広い物件が確保できるため、社員の長期的な定着率の向上につながる可能性が高いです。
寮は1棟まとめて運営でき、ひとりあたりの賃料が抑えやすいため、短期的な費用対効果は高いです。しかし、ライフステージの変化に対応しにくく、共同生活のストレスが課題となります。
管理・運用のしやすさで選ぶ
管理や運用のしやすさで選びましょう。管理の負担が大きすぎると、企業の人的リソースが圧迫される可能性があります。
社宅は社員のライフスタイルに応じた住環境は提供できるものの、契約更新や入退去手続き、修繕対応などの管理作業が必要です。
寮は1棟や同一敷地内での一括管理がしやすいため、点検や修繕、入退去手続きを効率的に行えます。しかし、共同生活ならではのトラブル対応が発生するリスクがあります。
福利厚生の方針に合致する方を選ぶ
企業の福利厚生制度の方針に合致する方を選びましょう。社員の働きやすさを支援するために、どのような住環境を提供すべきかを明確にする必要があります。
社宅は家族向けの住居が提供できるため、社員のライフスタイルを重視し、家族支援に力を入れたい企業向きです。
寮は社員同士の結束を高める役割が期待できるため、新卒社員や若手社員の生活支援、社内交流を重視する企業に向いています。
新卒採用が多い企業では、社員同士のつながりを強化し、早期の離職防止につなげる効果が期待できるでしょう。
長期的な展望とリスクで選ぶ
社員数の変動や事業拡大・縮小に対応できるかを考慮し、長期的な視点で選びましょう。導入後の運用リスクを避けるため、柔軟な管理が可能かを見極める必要があります。
社宅は途中解約による違約金や空室時の家賃負担が課題となります。社員数の変動が大きい企業では、契約前に途中解約の条件を交渉しておくとよいでしょう。
寮の場合は、建物の老朽化や共用設備の維持管理コストが負担となります。築年数が古い寮は、大規模修繕の費用を見越した計画的な運用が求められます。
社宅と寮の違いを理解して自社に適した福利厚生を整備する
社宅と寮のメリット・デメリットを解説し、選ぶポイントを説明しました。
社宅と寮は混在しやすいため、違いを理解しておくのは重要です。
自社の方針と選ぶポイントを踏まえて、自社に適した福利厚生を整備しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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