• 作成日 : 2022年1月19日

給料の減額は違法?関連する法律や減給の手続きについて解説!

給料の減額は違法?関連する法律や減給の手続きについて解説!

さまざまな理由により、給料を減額しなければならないケースがあります。会社側が従業員の給与の引き下げを行う場合、考慮するべきことは何があるでしょうか。従業員にとって、賃金の引き下げは重大な問題です。ここでは、減額措置の際の正当性や経るべき手続きについて解説します。

給料の減額は違法なのか?

給与の減額は、従業員にとって大きな不利益になるものです。給与は生活するために必要であり、会社側の一方的な決定による給与の減額は、労働条件の不利益変更として労働契約法上認められていません。

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。(労働契約法第9条)

引用:労働契約法|e-Gov法令検索

しかし、いかなる場合も給料の減額が認められないわけではありません。労働者と個別の同意があったり、就業規則の変更を周知し合理性が認められたりするケースでは、給与の減額のような労働条件の不利益変更も可能になります。

【給与の減額が認められる方法】

  • 従業員の同意による変更
  • 労働契約法第8条では、労使の合意による労働契約の変更が認められています。給与の減額は不利益変更となるため、個別の同意が必要です。

  • 就業規則の変更
  • 労働基準法第10条では、変更後の就業規則を周知し、その変更の内容が不利益の程度や変更の必要性、その就業規則の内容の相当性が認められ、合理性のあるものであれば、就業規則の変更により労働条件を変更することができます。

  • 労働協約の締結
  • 労働組合がある企業では、一定の条件の下で適切に労働組合との間に労働協約を締結することにより、労働条件の変更が認められます。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

ただし、上記の方法を経たとしても、すべての減給が認められるわけではありません。たとえば同意を得て就業規則を変更したとしても、単純な合意ではなく、企業からの十分な説明と、従業員の自由意思によって労働条件の変更を受け入れたと判断できるような同意が求められ、その要件は厳しいものになっています。賃金の引き下げは従業員にとって、既得の権利を奪う最も不利益が大きい変更にあたることから、裁判で争われた場合に下される判断も慎重なものです。

給料の減額にあたっては、なぜそれがされるものなのか、回避する案はないかなど、会社側が十分検討し、従業員がその変更の必要性と合理性に納得が得られる説明をした上で合意する必要があるでしょう。

減給が可能なケースについて

個別の同意や就業規則の変更が伴う減給のほか、さまざまな理由で発生する給与の減額について、以下でケース別にその有効性を見てみましょう。

  • 懲戒処分に基づく減給
  • 人事評価での降格に基づく減給
  • 就業規則の給与規定改定に基づく減給
  • 合意に基づく減給
  • 調整給の減額
  • 業績給の減額
  • 賞与の減額

懲戒処分に基づく減給

懲戒処分とは、従業員の起こした問題行動に対して企業が行う制裁措置をいいます。戒告、出勤停止、降格などがあり、減給も懲戒処分の一つです。

減給では、本来であれば支給されるべき給与の一部が差し引かれます。懲戒処分の減給措置を進める際、就業規則に懲戒事由および減給措置についての規定が必要です。事前に就業規則に定めがなく、懲戒処分として給与を減額した場合は、その処分が無効となります。また、就業規則に定めがあっても、就業規則に定めた手続きに則った手続を経て処分を行わなければなりません。減給理由となった問題が処分の合理性や相当性を欠いていると認められれば、処分の正当性が認められません。

懲戒処分の減給では、労働基準法91条で限度額が定められており、その点にも注意しましょう。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

人事評価での降格に基づく減給

人事評価の結果、降格し給与が下がるケースがあります。人事評価システムの構築は、使用者の裁量によって決められるものです。そのため、性別・年齢といった差別的な仕組みがない限りは、人事評価による減給は法的には問題がないとされます。

ただし実務上、職務内容と等級、および給与を連動させた「職務等級制度」の運用がされていることが重要です。職務等級制度とは、等級が下がったことで給与が減額される仕組みとなっておあり、労働契約法での労働条件の不利益変更にはあたらないとされます。

一方、技能や経験により等級が決まる「職能資格制度」は、一度身に着けた技能が下がることは想定されていません。そのため、降格に伴う賃金引下げの正当性は厳格に判断されます。就業規則への明確な根拠の規定や、従業員の個別同意が求められます。

また、会社側の人事権があるといっても、「降格させる必要がない」「降格の処分が重すぎる」「不当な目的や動機がある」といった場合には、人事権の濫用として降格が無効になる場合があります。人事評価での降格に基づく減給で、人事権の濫用が指摘されないためには、以下の点に注意しましょう。

  • 人事評価が公正に行われたと説明できる、評価内容や手順を残すこと
  • 決定を下す前に、従業員に人事評価の結果を伝える面談を設けること
  • 人事評価による給与の減額が、あらかじめ就業規則や雇用契約書に規定されていること

就業規則の給与規定改定に基づく減給

給与規定を改定するにあたり、給与の減額が発生するケースがあります。こうした給与規定変更は、労働条件の不利益変更にあたるため、原則従業員全員の個別の同意が必要です。

ただし、例外的に就業規則の給与規定の改定をもって減給を行うことも可能です。その場合は、先に説明した労働契約法10条の内容に従って手続きを行う必要があります。変更後の給与規程を周知した上で、給与規程の変更に合理性があることが前提になり、就業規則を変更する手続きの適性さも求められます。

合理性についての定義は法律にはありませんが、過去の判例を参考にすることができます。たとえば、年功序列型賃金制度から成果主義型賃金制度を導入し、就業規則の賃金規定の改定で従業員の減給を行った観光バス会社の判例では、その合理性は認められませんでした。

判決では、以下の点がポイントとなっています。

  • 新しい賃金体系を導入しなければいけないほどの差し迫った経営悪化が認められない
  • 従業員の減額幅が最大30%になるなど、与える不利益が大きい
  • 有効な代替措置や経過措置が取られずに賃金改定がなされている

参考:クリスタル観光バス事件

新たな評価制度を導入したり、給与体系を見直しをしたりすることは経営戦略上必要なことです。しかし、その措置が従業員に多大な不利益を与えるものでないのかどうか、適切な判断と対応が必要です。

合意に基づく減給

従業員との合意がある場合、給与の減額が認められます。例えば、ある一定以上の年齢の従業員に対する給与一律カットや、企業の業績不振による減額といったケースなど、個別の合意があれば減給が可能です。

ただし、その合意は、従業員の自由意思に基づいて行われたものでなければなりません。賃金や退職金の変更は労働者へ与える不利益が大きいことから、会社側が変更による不利益の内容や程度をきちんと従業員に説明していない場合には、減給が無効と判断されるケースもあります。

調整給の減額

一時的な性質を持つ調整給を減額する場合は、原則として法的に問題はないとされます。
調整給とは、さまざまな理由で会社の賃金体系とのバランスをとるために支払われる給与のことをいいます。たとえば中途採用で入社した社員が、あてはまる等級よりも高度な技術を有している場合、上回る分の評価額を「調整給(調整手当)」として支給します。

こうした性質の調整給は、時間とともに基本給の昇格と合わせて減額するのが一般的です。しかし、減額にあたっては、就業規則や雇用契約書にあらかじめ調整給の取り扱いについて、明記されていることが重要です。

就業規則等に調整給の減額について基準がなければ、減額する根拠がないためできません。また、従業員の問題行為を理由とすることは、調整給の支給とは関係なく、別問題です。不当な目的で不利益な取扱いをすれば、労働条件の不利益変更として、減額の取り扱いが無効と判断される恐れがあります。

業績給の減額

業績給とは、売上や生産高といった仕事の成果に対して支払われる給与のことをいいます。歩合給やインセンティブと同じ性質をもっており、原則として基本給+業績給という形で支払われるケースが多くあります。

仕事の成果に連動するため、受注金額が目標に達しないなど、個人の業績が振るわなければ業績給は減額となります。ただし従業員が納得できる明確な評価基準が求められます。

賞与の減額

賞与は賃金の一種にあたりますが、毎月支払われる基本給とは性質が異なります。企業の業績不振を理由とした賞与カットは、一般的なニュースでも耳にするところです。賞与の減額に問題がないかどうかは、就業規則での明記の仕方によって異なります。

賞与の支給条件を明記しつつ、企業の業績によっては支給しないなど例外を記しているケースでは、経営状況によっては賞与カットが可能です。ただし、業績不振といった減額の理由が明確に認められなければ、賃金の未払いの問題が生じる恐れがあります。

「夏季と冬季に〇か月分を支給する」というように賞与の額が決められている場合、減額や賞与カットは賃金未払いとして、労働基準法違反となります。賞与の支払い条件を変更するのであれば、不利益変更に該当し、個別の同意や労働協約の締結が必要です。

賞与は基本給の賃金引下げよりは、合理性が認められやすいと考えられています。ただし、合理性は個別のケースごとに判断されるため、減額の状況や理由、就業規則を確認することが望ましいでしょう。

従業員に対して減給を行う際の手続き

減給を行う際は、根拠となる事実の確認や、減給の基準や取り扱いについて就業規則等に明記されているかを確認する必要があります。また、個別の同意が必要なケースや、就業規則の変更により賃金引き下げが発生するケースでは、会社側から対象となる従業員へ十分な説明がなければいけません。以下に、減給を行う際のポイントについて説明します。

①就業規則等の確認

就業規則や労働契約書に、減給に関連する定めが明記されているかを確認しましょう。懲戒処分による減給、人事評価による減給、調整給や業績給の減給など、あらかじめ就業規則等に定めがあり、それに沿った適切な手続きが行われる必要があります。

②減給の根拠となる事実の確認

減給の根拠となる事実を確認します。懲戒処分による減給では、問題行動の事実確認を行い、本人の弁明の機会を設けます。人事評価での降格に伴う減給では、恣意的であったり差別的であったりする評価が行なわれていないかを、説明できなければなりません。一方的な降格は人事権の濫用にあたると判断される恐れがあります。
業績不振を理由とした減額では、経営状況の悪化について客観的に判断できる会計資料が事実確認の材料となります。なお会社都合での減額が発生する場合、減額以外の対応の模索や、不利益を緩和する経過措置を施したかどうかも、後々減額の合理性が争われた場合で争点となる可能性があります。

③減給の理由、変更内容、与える影響について従業員に説明

従業員の同意に基づき減額を行う際には、事前に変更の内容や与える影響について説明します。この説明の程度が不十分である場合、同意が無効と判断される恐れがあります。また、従業員に無理やり同意させるといった自由意思に基づかない同意は認められません。

従業員に対して減給を行った後の手続き

就業規則を改定した減給では、就業規則の変更届を行う必要があります。また、減給に伴いこれまでの社会保険料とのバランスが釣り合わなくなった際は、標準報酬月額の随時改定を行うことができます。

①就業規則の変更届

就業規則は所轄の労働基準監督署に届けることが定められています。給与改定を行い、既存の就業規則を変更した場合も、同様に届出を行います。就業規則変更届、労働者代表からの意見書、変更した新しい就業規則の3点を、所轄の労働基準監督署に届けます。届出は窓口、郵送の受付のほか、電子申請も可能です。

事業場が複数存在する場合は、それぞれの事業場ごとの届出が必要です。就業規則の内容が同じ事業所であれば、本社で一括して届出を行う一括届出を利用することも可能です。

参考:就業規則作成の手引き|東京労働局
   就業規則の一括届出について|東京労働局

②社会保険料の随時改定

減給を行ったあと、社会保険料の改定が必要になるケースがあります。健康保険や厚生年金などの社会保険料は、通常「標準報酬月額」をもとに決定されます。標準報酬月額は、4月から6月の給与をもとに決定され、9月から翌8月に適用されます。つまり、年度の途中で降格が発生し給与が下がった場合、社会保険料とのバランスがとれないということが起こります。
以下の条件に当てはまる場合は、標準報酬月額の変更が必要です。これを随時改定といいます。

【随時改定の条件】

  • 降格(または昇格)により固定的賃金に変動があった
  • 変動付きから3ヶ月の間に支給された報酬の、平均月額にあたる標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額とのあいだに2等級以上の差が生じている
  • 3ヶ月とも、支払基礎日数が17日以上ある

参考:随時改定(月額変更届)|日本年金機構

給与を減額する際の注意点

懲戒処分による減給では減額できる上限が定められています。また、法律によって減給など不利益な取り扱いが禁止されているケースもあります。

関連する法律について必ず押さえておく

  • 減給の金額上限
  • 労働基準法第91条では、減給の制裁として減給の金額について制限を設けています。

    就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない(労働基準法第91条)

    引用:労働基準法|e-Gov法令検索

    懲戒処分による減給の場合、この減給の上限が適用されます。減給の額は、平均賃金1日分の2分の1以下でなければなりません。また、同一の従業員が複数回の問題行為を起こした場合、1賃金支払い期間における総額の10分の1以下にしなければいけません。

    就業規則に定めがあり人事評価の降格に伴う減額は法的に問題がありませんが、降格を伴わない賃金変更の場合は、労働基準法第91条が適用される可能性があります。

  • 妊娠や出産を理由とする減額
  • 妊娠等を理由とする不利益な取り扱いは、男女雇用機会均等法(第9条3項)で禁止されています。妊娠したことや出産したことを理由に、解雇、降格、減給、不利益な人事評価、不利益な配置変更を行うことはできません。

  • 育児休業や介護休業の取得を理由とする減給
  • 妊娠・出産と同様に、育児・介護休業法において、育児休業や介護休業の取得を理由に、減給や降格等の不利益な取り扱いをすることはできません。
    参考:妊娠等を理由とする不利益取扱いについて|厚生労働省

  • 1回の問題行動で行える懲戒処分は1回のみ
  • 一度懲戒処分の対象となった問題行動に対して、再度処分を行うことはできません。これを二重処分の禁止の原則といいます。ただし、何度も問題行為(非行・違法行為)を繰り返した場合、最初の処罰よりも重い処分を行う場合は、二重処分禁止の原則には反しません。

    従業員が減額を拒否したらどうする?

    従業員が減額を拒否するケースもあります。減給が拒否される場面では、より一層慎重に進めなければいけません。従業員の同意を得ようと早急な対応を迫った場合、それが「一方的」と判断されることもあるのです。

    • 同意書を持ち帰りたいと言われたら
    • 焦らず、従業員に検討する時間を与えましょう。「この場で捺印しなければならない」と迫ることは、自由な意思による同意ではないと後々判断される恐れがあります。

    • 退職等を不利益変更に持ち出さない
    • 減給に同意しなければ辞めてもらう、というように退職や解雇を盾に即答を迫ることはしてはいけません。たとえ企業の業績不振による賃金カットなど、いかなる理由があったとしても、会社側には十分な説明や情報提供を行う必要があります。従業員が納得できるよう、説明を重ねましょう。

    減給を行う際には各種法律や手続きに気を付けよう!

    減給は従業員にとって大きな影響を与えるため、一方的な会社都合の賃金引下げは違法となる可能性があります。減給を行う理由ごとに、就業規則に定めがあるかを確認しましょう。従業員の同意が必要なケースでは、企業が十分な説明責任を果たしたあと、同意を得ることが重要です。業績悪化や給与改定にともなう減給が発生する場合は、その根拠となる理由の合理性が求められます。

    また人事評価に伴う減給は、人事権の裁量が認められつつも大幅な減給であったり、恣意的・差別的な評価による減給は、人事権の濫用とみなされる恐れがあります。減給は従業員の働くモチベーションを大きく左右するため、状況に合わせて適切なフォローを行いましょう。

    よくある質問

    給料の減額は違法ですか?

    会社の一方的な決定による減給は、労働契約基準法に反し無効となる恐れがあります。ただし就業規則に定めがあり、懲戒処分による減給や人事評価の降格に伴う減給など、認められるケースもあります。詳しくはこちらをご覧ください。

    従業員が減額を拒否したらどうすればよいですか?

    従業員が減給に同意しない場合、慎重な対応が求められます。解雇を盾にしたり無理やりに得たりした同意は、無効とみなされる恐れがあります。減給の理由および従業員に与える不利益の内容を丁寧に説明しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。


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