• 更新日 : 2022年1月28日

給与計算代行・アウトソーシングの基本!代行業務の内容・相場やメリット・デメリットを解説

企業の毎月の給与計算、年末調整などの業務の委託を受けて処理するサービスを、給与計算代行・給与計算アウトソーシングといいます。収益に直結しない、こうした間接業務に人員を割く余裕がないという理由で、委託を検討されている方も多いのではないでしょうか。

ここでは、こうしたアウトソーシングサービスを利用する際に知っておきたい、メリットとデメリット、料金の相場などについて解説していきます。

給与計算代行(アウトソーシング)とは?

給与計算代行は、欧米で発展してきたサービスです。もともと専門性の高い法務や会計の業務を外部の弁護士や会計士に委託する文化があったことが背景にあります。

日本では、人材(財)にかかわる業務は社内で行うのが当たり前という考え方が今でも根強く残っていることから、海外に比べてこうした給与計算代行の普及は遅れているといわれています。

しかしながら、1990年代にバブル景気が崩壊し、リストラの嵐が吹き荒れた頃を境に、間接部門の合理化・効率化が進められました。そして2000年代に入ると、給与計算代行サービスもビジネスモデルとして広く認知されるようになり、利用する企業も増加。今では、事業の経営戦略としても、収益に直結するライン部門に人員を集中させ、間接部門はできるだけアウトソーシングするという考え方が浸透しつつあります。

給与計算業務は、一定の専門性が求められるだけでなく、定型的で煩雑な作業が少なくないということもアウトソーシングする大きな理由になっています。

ちなみに「代行」「委託」「外注」「アウトソーシング」は、実務で使用されている用語であり、法律的にはいずれも民法の「請負」(632条)に該当します。

参考:民法|e-GOV検索

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給与計算代行(アウトソーシング)で代行可能な業務

ひとことで給与計算代行といっても、外注できる業務の範囲は広範囲に及びます。給与計算のほかに、記帳、給与の振込・納税、年末調整、住民税の更新、請求書の発行など、1年間を通して企業がやらねばならない、さまざまな業務が代行サービスの対象となっています。

代行可能な業務① 給与計算

給与計算代行は、毎月の給与計算や賞与の支払いに関する計算を外部に委託することです。毎月の給与計算に必要なタイムカードの集計による勤怠管理だけでなく、人事異動があればデータを変更し、給与計算をします。

給与を構成する項目のうち、支給額の項目には、残業代、出張手当など、毎月変動するものもあります。

また、控除項目には、健康保険料、介護保険料厚生年金保険料、雇用保険料といった社会保険料のほか、所得税、住民税があり、支給額からの源泉控除が必要です。

変動するデータに迅速に対応することが不可欠ですが、クラウドシステムと連携している場合、給与計算代行サービス会社と勤怠管理などのデータを共有し、さらに効率化が図れます。

クラウド型システムを活用した代行については、以下の記事も参考にしてください。

代行可能な業務➁ 記帳

記帳代行とは、帳簿作成業務を代行するサービスのことです。ただし、帳簿といっても今の時代は会計ソフトへの入力作業を意味します。

日々の業務では領収書、請求書等のデータを会計ソフトに入力する作業が発生しますが、とても煩雑な作業になります。これらのデータを代行サービス会社に提供することで経理業務を大幅に合理化することができます。

また、記帳代行では、現金出納帳、預金出納帳、売掛残高異一覧表、買掛残高一覧表、試算表総勘定元帳などの毎月の決算に不可欠な帳簿の作成業務も依頼することができます。

代行可能な業務③ 振込・納税

給与計算業務の結果に基づいて、給与振込データの作成や振込、税金の納付を代行するものです。一般的に集計表・給与明細・振込金額一覧を作成し、委託元の経理担当に確認のうえ納付します。

代行可能な業務④ 年末調整

年末調整を済ませることによって、社員の納税が完了することになるため、非常に重要な業務といえるでしょう。

しかし、年末調整申告書のチェック、年税額の計算、源泉徴収票の作成など、作業に手間がかかるうえ、年末の繁忙期に処理しなければならないことから、経理担当にとっては頭の痛い業務になっています。

こうしたことから、給与計算代行サービスのなかでも、特に利用価値が高い業務であり、毎月の給与や賞与の計算代行を頼まなくても、年末調整の代行だけ依頼する事業主も少なくありません。

代行可能な業務⑤ 住民税の更新

地方税の住民税を給与から源泉徴収する「特別徴収」を実施している事業所では、毎月5月から6月に所得額に応じて社員の住民税の更新をすることになります。

社員一人ひとりが住民票を置く自治体から送付された特別徴収額通知書などの紙媒体を開封した後、仕分けを行い、データ作成をしなければなりません。

社員が多ければ、限られた期間に大量に処理することになり、年末調整に次いで大きな負荷がかかるため、こちらもスポットで依頼する事業所が多いようです。

代行可能な業務⑥ 請求書発行

請求書発行の代行とは、事業所に代わって取引先に請求書を発行するサービスのことです。多忙だからといって請求書を発行するのを忘れてしまったり、記載ミスがあったりすると、会社としては大きな損害になりかねません。

請求書発行代行では、代行サービス会社に商品・サービスの売上データを提出し、請求できるタイミングで請求書を発送してもらいます。要望すれば、依頼元の指定封筒で取引先に請求書を送付してくれる代行サービス会社などもあります。

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給与計算代行(アウトソーシング)のメリット

給与計算代行の多様なサービス内容(給与計算、記帳、振込・納税、年末調整、住民税の更新、請求書発行)について紹介してきましたが、改めて依頼するメリットについて整理していきます。

メリット① 業務の負担を軽減できる

給与計算代行を利用する最大のメリットとして、業務の負担を軽減できることが挙げられます。事業の収益を上げるには、それに直結する本業に注力することが大切です。経理・労務の担当者も煩雑な業務から解放され、付加価値の高い非代替的な社内業務に専念できることになります。

社内的にも、自社でやるべき非代替的業務と、アウトソーシングでも支障のない代替的業務の線引きをすることで、業務の効率が上がることが期待できるでしょう。

メリット➁ コストの削減につながる

社員には、付加価値の高い非代替的な業務をしてもらうことを徹底すれば、結果的に人員の適正化、採用・教育コストの削減などを図ることができます。

自社で給与計算を行っている場合、担当者の人件費だけでなく、コンピュータシステムの購入、運用・保守のための費用がかかりますが、これらも削減されることになります。

メリット③ 急な法制度の改変に対応できる

税制、労働・社会保険関連法令は毎年のように改正されます。役所に提出する書類に関しては不備は許されません。業務の担当者は、常に法改正情報にアンテナを張り、勉強して常にアップデートし続ける必要があります。

専門知識のある代行サービスにアウトソーシングすることで、法改正にも迅速に対応でき、法令違反やトラブルの発生を防ぐことができます。

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給与計算代行(アウトソーシング)のデメリット

ここまで給与計算代行を利用するメリットについて説明してきましたが、“良いこと尽くめ”という印象を持たれた人が多いかもしれません。しかし、メリットと同時にデメリットもあることを認識しておく必要があります。ここからは、知っておくべき給与計算代行のデメリットについて触れておきましょう。

デメリット① セキュリティ上の懸念がある

まずは、セキュリティの問題です。自社の売上、顧客情報などはビジネス上の重要な情報であり、特に社員の給与関係情報は個人情報に該当します。

代行サービス会社で実際の作業を行っているのが、アルバイトや契約社員、あるいは下請の事業者に任せている可能性もあります。こうした場合は、情報が漏洩するリスクが生じることは否めません。

デメリット➁ 社内にノウハウが蓄積しない

給与計算代行の業務が多岐にわたり、一定の専門性があるものも少なくないことは前述しました。たしかに丸投げすれば、本業に専念することが可能ですが、そのぶん、この業務に関連する知識やノウハウ、スキルなどが蓄積されないことになります。

この場合、もしも委託している代行サービス会社に何かがあった場合、社内で対応することができない状況に陥ります。他の代行サービス会社を見つけて契約するまでに支障が生じることになるでしょう。

そのため給与計算代行を利用する場合、実際の作業は委託しても、業務に関しての知識・情報は一定程度、関心を持って把握しておくことが大切です。

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給与計算代行(アウトソーシング)の選び方

代行サービス会社に委託するメリット、デメリットを理解したうえで導入を検討する場合、複数の会社を比較することをおすすめします。給与計算代行サービスを提供する会社は、現在、数多く存在しますので、ここでは選ぶ際のポイントをご紹介します。

専門性が担保できる有資格者が担当してくれるかどうか

給与計算は、対役所の作業でもあり、正確性が非常に重要になります。委託する代行サービス会社に専門性があるのは大前提です。

税務であれば税理士などの有資格者、労働・社会保険業務であれば社会保険労務士の有資格者が担当しているかが、指標となります。

また、実績としてどの程度の規模の会社の代行業務を行ってきたかもポイントとなります。

連絡の返信が早いかどうか

給与計算業務では、スピードが求められるものがほとんどです。業務が正確であることは当然ですが、業務のスピードが速い代行サービス会社を選ぶことが大切です。

また、自社の経理・労務の担当者が、代行サービス会社に提供するデータについて問い合わせをすることもあるでしょう。こうした問い合わせに対し、迅速に対応してもらえるか、レスポンスの早さも重要な選ぶポイントです。検討の段階でやりとりするなかで連絡の返信が早いかどうかチェックをすれば、業務に対する姿勢もうかがえます。

個人情報の取り扱ううえでの安全性を担保できるか

代行サービス会社が守秘義務を徹底し、セキュリティ対策をしっかり講じていることは不可欠です。例えば、情報保護に関する第三者認証であるPマーク(プライバシーマーク)やISO27001(ISMS認証)を取得しているかは、ひとつの目安となるでしょう。

こうしたライセンスがない場合は、セキュリティ対策、個人情報の取り扱いに関する研修が社内で定期的に実施されているかどうか確認しておくことが大切です。

契約の際にも機密保持については、特約条項として明確にしておく必要があります。データアクセスの権限が誰にあるかも含めて確認しておきましょう。

価格が自社に合っているか

料金体系は、サービスの内容だけでなく、業者によって異なります。自社が何を必要としているかを十分検証し、価格に見合うサービスかどうか考える必要があります。

代行サービス会社がトライアルプランを設けている場合は、積極的に活用すべきです。実際に利用して納得がいけば、契約ということで進めていけばよいでしょう。

給与計算代行(アウトソーシング)を使用した場合の相場

給与計算代行サービスの種類・内容、そしてメリット、デメリットはわかったけれど、実際に料金はどれくらいかかるのか、気になるは多いと思います。

ここでは、料金を公開している業者を調べてみました。相場感は把握するために、ぜひ参考にしてみてください。

専門家ではない方に給与計算代行(アウトソーシング)を依頼した場合

一般的に料金体系は、給与計算を基本とし、その他の業務代行はオプションと位置付けられているようです。また、料金は原則、委託事業所の従業員数によっても異なります。基本となる給与計算のみの料金相場表は以下のとおりです。
専門家ではない方に給与計算代行(アウトソーシング)を依頼した場合

専門家に給与計算代行(アウトソーシング)を依頼した場合

給与計算代行の専門家としては、税理士、社会保険労務士が考えられます。ともに顧問制での契約スタイルが基本となっているため、顧問契約を結んでいる場合はディスカウントするのが一般的です。

また、50名以上の場合は、「別途相談」とするケースも少なくありません。こちらも給与計算のみの社会保険労務士に依頼した場合の料金相場表を示します。

専門家に給与計算代行(アウトソーシング)を依頼した場合

クラウド型給与計算ソフトを使用した場合

給与計算代行ではありませんが、その利便性から最近、クラウド型の給与計算ソフトを導入する事業所が増えています。

クラウド型給与計算ソフトとは、給与計算ソフトをクラウド化するもので、インターネットを利用してサーバーにデータを保存し、給与計算処理を行います。手作業で行ってきた作業の多くが効率化できるだけでなく、インターネット環境のある場所であれば、テレワークやリモートワークなど、どこからでも利用できます。

従業員規模は、すべての規模に対応しているものが一般的です。料金体系は、商品によってさまざまで、一律に料金のみで比較するのは難しいですが、相場感としては、初期費用が無料から数万円、月換算の維持費が数百円から8,000円程度といったところでしょうか。

自社に合った仕方で給与計算代行(アウトソーシング)を活用しよう!

給与計算代行サービスの種類、メリット・デメリット、代行サービス会社を選ぶポイントなどを紹介してきました。業務の効率化、生産性の向上を考えれば、デメリットよりもメリットのほうがより大きいといえるのではないでしょうか。

場合によっては、クラウド型の給与計算ソフトを活用することで十分なケースもあります。自社の現状を把握したうえで導入するかどうかを検討していただければと思います。

給与計算についてはこちらも参考にしてください。

よくある質問

給与計算代行で依頼できる業務はなんですか?

給与計算のほか、記帳、振込・納税、年末調整、住民税の更新、請求書発行など、さまざまな業務があります。詳しくはこちらをご覧ください。

給与計算代行の相場はいくらですか?

専門家(社労士、税理士)以外の場合で、10名の場合は月額15,000円程度、50名の場合は月額50,000程度です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:坪 義生(社会保険労務士)

じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)、労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、㈱矢野経済研究所、等を経て、91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。

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