• 更新日 : 2022年5月16日

介護保険で医療費控除の対象になるものとは?

介護保険制度では、訪問介護や訪問入浴介護など、さまざまなサービスを受けることができます。利用できるサービスのなかには、自己負担分を医療費控除として申告できるものがあり、医療費控除を申告することによって、所得税の節税もしくは還付につながります。
ここでは、医療費控除の基本と、対象となる介護保険サービスについて解説します。

医療費控除とは?

医療費控除とは、所得控除のひとつです。確定申告をすることで、1年間に支払った医療費に基づき算出した額の一部を、その年の所得額から差し引きます。これにより、会社員の場合はすでに支払った所得税の還付を受けることが可能です。個人事業主なども確定申告で医療費控除を申告すれば、節税につながります。

医療費控除は、原則として10万円以上の医療費を支払った際に申請できます。自分に関する医療費のほか、配偶者や家族、または生計を共にしていれば親族の医療費を含めることもできます。

医療費控除の計算式は、年間の所得が200万円以上と200万円未満とで分かれます。いずれにせよ、支払った金額から生命保険などの入院給付金や高額医療費、出産一時金などの保険で支給された金額を差し引くことには変わりありません。

所得が200万円以上の場合の計算式

(支払った医療費の合計 ー 保険で支給された額等) ー 10万円 ※上限200万円

所得が200万円未満の場合
(支払った医療費の合計 ー 保険で支給された額等) ー 所得金額×5%

参考:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁

医療費控除の対象になるもの

医療費控除の対象となる医療費とは、病院での診察費、治療に必要な医薬品、病院への通院費等が含まれます。

医療費控除の対象となるものの例

  1. 診察費や治療費
  2. 治療や療養に必要な医薬品の購入費
  3. 診察を受けるための通院費(タクシー代は、公共交通機関が利用できないときのみ)
  4. 入院の際の部屋代や食事代
  5. 医師などの診察や治療に必要な義手・義足・松葉づえ・補聴器・眼鏡などの購入費用
  6. 出産費用、助産師による分娩の介助代
  7. 介護保険などの制度に基づき提供された一定の施設・居宅サービスでの自己負担分

参考:No.1122 医療費控除の対象となる医療費|国税庁

医療費控除の対象になるかならないかは、医師の診療や治療のために直接必要となるかどうかで具体的ケースに基づき判断されます。国税庁のウェブサイトでさまざまなケース別の回答が表示されています。たとえば、眼科医に支払う診療費については、レーシックなどの視力回復レーザー手術の費用や、角膜矯正療法の費用などは医療費控除として認められますが、近視・遠視のための眼鏡の購入費用は、日常生活の必要性に基づくものとして医療費控除の対象にはなりません。

参考:No.1122 医療費控除の対象となる医療費(眼科医に支払う治療費等)|国税庁

よって、介護保険サービスで支払った自己負担分についても、一律で医療費控除の対象となるわけではなく、どのサービスや費用が控除の対象に含まれるのか確認が必要です。

医療費控除の対象となる介護保険サービス

医療費控除の対象となる介護保険サービスは、大きく3つに分けられます。

  • 居宅サービス:自宅において受けられる医療系サービス。訪問介護や訪問リハビリステーションなど。
  • 施設サービス:介護施設に入所して受ける介護サービス。介護サービス費、食費、居住費が対象となる。
  • 交通費、おむつ代:介護サービスを受けるための電車・バスなどの公共交通機関の費用。おむつ代は「6カ月以上寝たきり」の場合に適用。

また、訪問入浴介護のように、いわゆる「福祉系サービス」に該当するものは、単体では医療費控除の対象となりませんが、1の医療系サービスである居宅サービスと併用することで、医療費控除の対象となるサービスもあります。

居宅サービスに対する医療費控除

以下が、医療費控除の対象となる居宅サービスの一覧です。

居宅サービスの種類医療費としての控除対象額
1. 医療費控除の対象となる
居宅サービス
訪問看護、介護予防訪問看護利用限度額を超えた部分を含め、支払った額の全て
訪問リハビリテーション、介護予防訪問リハビリテーション
居宅療養管理指導、介護予防居宅療養管理指導
通所リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーション
短期入所療養介護、介護予防短期入所療養介護
定期巡回・随時対応型訪問介護看護(一体型事業所で訪問看護を利用する場合に限る)
看護・小規模多機能型居宅介護(上記の居宅サービスを組み合わせたもので、生活援助を中心とする訪問介護の部分を除く)
2. 上記 1 と併せて利用した場合のみ医療費控除の対象となる居宅サービス訪問介護(生活中心型を除く)利用限度額の範囲内で支払った額のみ
夜間対応型訪問介護
訪問入浴介護、介護予防訪問入浴介護
通所介護、地域密着型通所介護
認知症対応型通所介護、介護予防認知症対応型通所介護
小規模多機能型居宅介護、介護予防小規模多機能型居宅介護
短期入所生活介護、介護予防短期入所生活介護
定期巡回・随時対応型訪問介護看護(一体型事業所で訪問看護を利用しない場合および連携型事業所に限る)
看護・小規模多機能型居宅介護( 1 を含まない組み合わせによるものに限り、生活援助を中心とする訪問介護の部分を除く)

参考:No.1127 医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価|国税庁
 
※被保険者が高額介護サービス費の払戻しを受けた場合、その部分は控除対象外です。
なお、医療費控除の対象とならない居宅サービスで、介護福祉士等による「たんの吸引」や「経管栄養」などの処置が行われた場合は、自己負担額の10分の1にあたる金額が医療費控除の対象となります。(2の居宅サービスを、1の居宅サービスと併用した場合は該当しません)

施設サービスに対する医療費控除

施設サービスの利用では、介護費・食費・居住費にかかる自己負担額分が医療費控除の対象となります。日常生活費や、理髪代など特別なサービス費用は対象となりません。

施設名医療費控除の対象となるもの
指定介護老人福祉施設
【特別養護老人ホーム】
指定地域密着型介護老人福祉施設
介護費、食費、居住費の施設サービスの対価のなかで、自己負担分として支払った金額の2分の1
介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設【療養型病床群等】、介護医療院介護費、食費、居住費の施設サービスの対価のなかで、自己負担分として支払った金額(個室などの使用料は治療でやむを得ず支払う場合のみ控除対象)

参考:No.1125 医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価|国税庁

高額介護サービス費の払い戻しを受けた場合、その金額分は医療費控除の対象外となります。なお、指定介護老人福祉施設および指定地域密着型介護老人福祉施設の施設サービス費で高額介護サービス費の払い戻しがあった場合は、その2分の1にあたる金額のみ控除の対象外となります。

交通費およびおむつ代

交通費やおむつ代など一見医療費控除の対象にならないように思えるものでも、医療に必要なものは医療費控除の対象になります。交通費やおむつ代についてもしっかりと押さえておきましょう。

交通費

医療費控除の対象にふくまれる施設サービスを利用する場合、通所にかかる交通費も医療費控除の対象となります。
ただし、通常対象となる交通手段は、電車やバスなどの公共交通機関のみとなります。タクシーの利用は、上述の公共交通機関が使えない場合に限ります。さらに自家用車の駐車場代やガソリン代などは、医療費控除の対象にはなりません。

おむつ代

おむつ代は、寝たきりの期間が6カ月以上で、おむつを使わなければいけない状況であると医師が診断すれば医療費控除の対象となります。
この場合、医師に「おむつ使用証明書」を発行してもらわなければいけません。
まずは、医師に医療費控除の対象となるか確認することが必要です。

確定申告時のポイント

介護保険サービスでの支払いにおいて医療費控除を受けるためには、以下の書類を確定申告書に添付することが必要です。

  1. 領収書など医療費の支払いを証明できる書類(タクシーを利用した場合、タクシーの領収書も必須。公共交通機関は領収書がないので不要ですが、施設に通った履歴と照合できるよう交通費を表にまとめておくことが必要)

※平成29年度の改正により、医療費の領収書の添付は不要となり、代わりに医療費控除の明細書または医療保険者等の医療通知書を、確定申告書に添付する形が認められるようになりました。なお、医療費控除の明細書や医療費の領収書は、5年間の自宅での保管が必要となっています。

  1. 給与所得がある場合、給与所得の源泉徴収票の原本
  2. おむつ使用証明書(おむつ代の医療費控除を受けるため)

ただし、前年もおむつ代の医療費控除を受けた方が、その年の「主治医意見書」により寝たきり状態であること、および尿失禁する可能性があることが明確な場合、「市町村が主治医意見書の内容・詳細を確認した書類」または「主治医意見書の複写」で代用できます。また、証明年月日、証明の名称、医療機関名などを医療費控除の明細書の欄外の余白部分に記載すれば、確定申告書へおむつ使用証明書を添付することを省略することが可能です。
なお、介護事業者に発行してもらう領収書には「医療費控除対象額」が記載されています。

医療費控除の対象となる介護保険サービスを確認しよう

介護保険サービスは、さまざまな種類があり、利用者やその家族の助けとなる一方で、制度の複雑さを理解するのに苦労することもあるでしょう。

「医療費控除」や「確定申告」は、専門用語にはじめは戸惑う人もいるかもしれませんが、結果として支払った所得税の還付(もしくは節税)につながる、納税者にメリットのある制度です。自分や家族が利用する介護保険サービスの医療費控除額を確認し、対象となるものがあれば確定申告を行いましょう。

よくある質問

医療費控除とはなんですか?

1年間に支払った医療費のうち、一定以上の額に対して適用される所得控除のひとつです。具体的には原則として10万円以上の支払がある場合、医療費控除が申請でき、算出した一定額が所得額から差し引かれます。詳しくはこちらをご覧ください。

介護保険で医療費控除の対象になるものを教えてください

医療系の居宅サービス、施設サービス、通所の交通費(公共交通機関)、6カ月以上寝たきりの場合のおむつ代などが通常対象となります。施設サービスでは食費・居住費・介護費が対象です。詳しくはこちらをご覧ください。


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