• 更新日 : 2024年1月30日

2024年版 – 社会保険における106万円の壁とは?適用拡大の変更点も解説!

2024年版 – 社会保険における106万円の壁とは?適用拡大の変更点も解説!

社会保険の扶養から外れる130万円の壁のほかにも、106万円の壁を気にして週20時間未満で働く方が増えています。

2022年10月から適用拡大の対象企業の範囲が広がり、パート従業員の労務管理は益々重要となるでしょう。106万円の壁はいつから適用され、収入が106万円を超えたらいくら払うことになるのかについて解説します。

社会保険における106万円の壁とは?

従来から、パート従業員の間で配偶者の扶養の範囲で働くために所得税が非課税となる「103万円の壁」という言葉がよく使われてきましたが、最近は新たな金額として「106万の壁」という言葉もよく耳にします。社会保険の106万円の壁とはいったいどのようなものなのでしょうか。社会保険の扶養から外れる130万円の壁との違いから解説します。

社会保険とは?

社会保険とは、病気やケガ、出産、死亡、業務災害、失業、老後の生活保障などのリスクに備える公的な保険制度のことです。公的保険制度も保険の仕組みからできていて、原則として保険料を支払い、要件を満たすことで、保険給付を受けることができるようになっています。

社会保険のなかでも企業になじみがある制度には、健康保険、厚生年金保険雇用保険、労災保険の4種類があります。このうち、雇用保険と労災保険を「労働保険」、健康保険と厚生年金保険を「社会保険」と区別して呼ぶことが一般的です。この記事では、狭義の意味で、健康保険と厚生年金保険のことを「社会保険」と呼んで解説していきます。

社会保険について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

社会保険130万円の壁との違い

社会保険の130万円の壁は、「社会保険の被扶養者となる要件」が判断基準のポイントです。このほかにも社会保険に関するものとして、パート先が社会保険の適用拡大の対象になるかどうかで、あらたに社会保険の106万円の壁が加わりました。社会保険の106万円の壁は、「社会保険の適用拡大により被保険者となる要件」が判断基準のポイントです。この2つの違いについて詳しく見ていきましょう。

①130万の壁を超えると被扶養者から外れて、給与の手取りが減少する

健康保険の制度では、被保険者の扶養家族も次の3つのすべての要件に該当すれば、被扶養者として健康保険の給付を受けることが可能です。

【社会保険の被扶養者となる要件】

  1. 主に被保険者の収入により、主に生計維持されている(75歳未満の家族が対象)
  2. 対象となる家族に該当する
    • 被保険者と同居・別居どちらでも可能な方
      配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母・祖父母など(直系尊属)
    • 被保険者と同居が必要な方
      配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母・祖父母など(直系尊属)を除く3親等内の親族
    • 配偶者(内縁関係も含む)の父母や子

  3. 収入条件を満たす
    年間収入130万円未満(60歳以上や障害者の場合は180万円未満)であり、次の要件を満たす

    • 同居の場合(収入が被保険者の2分の1未満)
    • 別居の場合(収入が被保険者から仕送りされる金額未満)

また、65歳未満で厚生年金保険に加入している方(第2号被保険者)の被扶養配偶者が20歳以上60歳未満の場合には、国民年金の第3号被保険者になることができます。

配偶者がパートで勤務していたとしても、被扶養者の要件に該当すれば、健康保険や国民年金(第3号被保険者)の保険料の支払いは不要です。しかし、扶養家族に130万円以上の収入があると被扶養者の対象から外れ、国民健康保険や国民年金(第1号被保険者)に加入しなければなりません。また、扶養家族が自身の勤務先で社会保険に加入すれば、給与から社会保険料が天引きされることになります。

被扶養者からはずれるほど働くと、国民健康保険や国民年金、または社会保険の保険料が発生します。その結果、保険料の支払いにより、130万円未満で働いていたときよりも手取り額が減少することがあり、これがいわゆる130万円の壁です。

参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構

②106万の壁を超えると社会保険の適用拡大により、給与の手取りが減少する

2022年10月以降は社会保険の適用拡大の範囲が広がり、パートやアルバイトのような労働時間の短い従業員であっても、次の要件に該当する場合には社会保険の被保険者となることが義務付けられました。

【社会保険の適用拡大により被保険者となる要件】

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上
  2. 雇用期間が継続して2ヵ月を超えて見込まれる
  3. 賃金の月額が8.8万円以上
  4. 学生ではない(夜間の学生などは対象)
  5. 被保険者の総数が企業規模で常時101人以上の特定適用事業所に勤務(または任意特定適用事業所に勤務)

被保険者数が101人以上の規模の企業であれば、中小企業で働く場合でも社会保険の適用拡大の対象です。1週間に20時間以上働き、毎月の給与が8.8万円以上(8.8万円×12ヵ月=105.6万円)になると、企業は健康保険と厚生年金保険の被保険者としなければなりません。社会保険の被保険者となれば、労使ともに健康保険と厚生年金保険の保険料負担が発生し、パート従業員も給与から保険料が天引きされます。その結果、社会保険料の控除により、給与が106万円未満の従業員よりも手取りが減少することがあり、これがいわゆる106万円の壁です。

参考:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

社会保険の壁は適用拡大によってどう変わる?

2022年10月から段階的に対象となる企業が広がることで、社会保険の壁にどのような影響を与えるでしょうか。社会保険の適用拡大が社会保険の壁に与える影響について解説します。適用範囲が広がることによって変わることを確認し、しっかりと準備しておきましょう。

社会保険の適用拡大とは?

2016年10月から、企業規模で被保険者の総数が501人以上となる企業に対して社会保険の適用拡大がはじまりました。厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上となる企業は特定適用事業所と呼ばれます。適用拡大の要件に該当する短時間労働者がいる場合、企業は社会保険の被保険者となる手続きをしなければなりません。なお、被保険者数が条件に満たない場合であっても、労使の合意により申出をすることで、特定適用事業所となることができます(任意特定適用事業所)。

これまでは中小企業で適用拡大の対象となる企業は少ない状況でしたが、2022年10月からは段階的に対象企業の範囲が広がり、中小企業であっても対象となるケースが増えています。さらに2024年10月からは「被保険者総数が常時51人以上」に変更されるため、2022年10月に適用拡大の対象とならなくても、2024年10月から対象となる企業も多いでしょう。

中小企業で働く労働時間の短いパートやアルバイトでも、労働時間や給与の金額によっては健康保険と厚生年金保険に加入手続きが必要となるため、企業へ与える影響は大きなものとなります。適用拡大の今後のスケジュールをまとめましたので、適用拡大の要件や自社がいつ対象となるかなどを確認し、しっかりとした準備をしましょう。

【被用者保険の適用拡大のスケジュール】

対象/要件2022年9月まで2022年10月以降2024年10月以降
事業所規模被保険者総数が
常時501人以上※
被保険者総数が
常時101人以上※
被保険者総数が
常時51人以上※
短時間労働者の労働時間1週間の所定労働時間数が20時間以上
短時間労働者の賃金賃金の月額が8.8万円以上
短時間労働者の勤務期間継続して1年以上使用される見込みがある2ヵ月を超えて継続して雇用される見込みがある(通常の労働者と同じ)
短時間労働者の条件学生ではない(夜間の学生などは対象)

※被保険者総数は厚生年金保険の被保険者数でカウントします。

参考:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

106万円の壁・130万円の壁への影響

これまでは中小企業で適用拡大の対象となる企業は少ない状況でした。2022年10月からは対象企業の範囲が「被保険者の総数常時101人以上」へと広がっており、中小企業であっても対象となるケースが増えています。さらに2024年10月からは、「被保険者の総数常時51人以上」に変更される予定です。そのため、106万円の壁を意識して働くパート従業員は、今後益々増えていくでしょう。

これまで130万円の壁を意識して働くパート従業員が多い状況でしたが、今後は106万円の収入要件に該当すると社会保険の加入義務が発生します。したがって、特定適用事業所に該当する企業の場合には、130万円の壁への対応は少なくなり、106万円の壁への対応がメインになります。

「賃金の月額が8.8万円以上」とは、週給・日給・時間給を月額に換算した賃金で計算しますが、臨時の賃金や残業代など一定の手当を除き、各種諸手当も含めてカウントしなければなりません。社会保険の加入を希望しないパート従業員に対しては、労働条件の変更を必要とすることもあるでしょう。

細かな労務管理の必要性から人事労務担当者の業務負担の増加などが予想されます。社会保険への加入を希望しない従業員がいれば、労働時間や月額給与の管理などをしっかりと行わなければなりません。また、これまで社会保険に加入していなかったパート従業員が新たに社会保険に加入することで、企業が負担する社会保険料の増加による企業収益への影響も懸念されます。企業としては人件費の管理や業務効率化も重要となりますので、社会保険の適用拡大に対応した給与計算ソフトや労務管理ソフトの導入も検討しましょう。

社会保険の適用拡大についての詳細は、以下の記事に詳しい説明がありますので参照にしてください。

106万円の壁・130万円の壁を超えるといくら払う?

社会保険の106万円の壁や130万円を超えてしまった場合には、社会保険料をいくら払うことになるでしょうか。パート従業員のそれぞれの金額について見ていきましょう。

【106万円の壁を超えた場合】
パート従業員の年齢45歳(介護保険あり)賞与なし
※2022年度の東京都の協会けんぽの標準報酬月額から計算

  • 給与月額:88,000円
  • 標準報酬月額:88,000円(83,000円~93,000円)
  • 健康保険料:10,076円(折半額5,038円)
  • 厚生年金保険料:16,104円(折半額8,052円)
  • 社会保険料合計:26,180円(折半額13,090円)

【130万円の壁を超えた場合】
パート従業員の年齢45歳(介護保険あり)
※2022年度の東京都の協会けんぽの標準報酬月額から計算

  • 給与月額:109,000円
  • 標準報酬月額:110,000円(107,000円~114,000円)
  • 健康保険料:12,595円(折半額6,297.5円)
  • 厚生年金保険料:20,130円(折半額10,065円)
  • 社会保険料合計:32,725円(折半額16,362.5円)

※特定適用事業所に該当せず、社会保険に加入しない場合には、企業の社会保険料負担はなく、従業員自身が国民健康保険及び国民年金などに加入することになります。

106万円の壁を超えることによってパート従業員が社会保険に加入すると、月額約1.3万円、年間約15.7万円の企業の社会保険料の負担が増えることになります。130万円の壁を超えた場合の企業の社会保険料負担額は、月額約1.6万円、年間約19.6万円です。パート従業員が多い企業の場合には、企業が負担する社会保険料の金額が大きくなるため、人件費の増加による企業収益への影響にも留意しなければなりません。

社会保険の適用拡大による106万円の壁への対応には労務管理と職場環境の整備が大切

これまで中小企業では、社会保険の適用拡大の対象となる企業は少なく、大きな影響を受けることはありませんでした。しかし、2022年10月以降は対象企業の範囲が段階的に広がり、中小企業であっても対象となるケースが増えています。

パート従業員が106万円の壁を超えると、1人当たり年間約15.7万円。パート従業員が20人いれば、年間約314万円もの企業の社会保険料の負担が増加します。また、パート従業員が106万円の壁を気にして週20時間未満でしか働けなくなれば、企業は不足する人員の確保が必要となります。企業としては、パート従業員の時間管理や適用拡大の条件に合わせた月額給与の計算など、より細やかな労務管理が求められることになるでしょう。

企業が社会保険の適用拡大の対象となれば、条件に該当する従業員の社会保険加入によって、人件費が増加します。社会保険料の負担や人員確保に伴う人件費増加による資金調達の準備も怠らないように準備をしておく必要があります。

パート従業員は企業にとって今や貴重な戦力です。106万円の壁が企業に与える影響は大きなものとなります。業務の効率化を図るとともに、パート従業員にとって多様な働き方ができる労務管理と職場環境の整備に取り組みましょう。

よくある質問

社会保険における106万円の壁とはなんですか?

これまでの扶養から外れる130万円の壁のほかに、社会保険の適用拡大の要件の1つである「賃金の月額が8.8万円以上」によって新たに加わったのが、社会保険における106万円の壁という考え方です。詳しくはこちらをご覧ください。

社会保険の適用拡大は、社会保険の壁にどういった影響を与えますか?

社会保険の適用拡大によって、130万円の壁のほかに106万円の壁が加わりました。適用拡大の対象となる企業は、社会保険の加入を希望しない従業員への対応、社会保険料負担の増加などへの対応が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事