• 更新日 : 2026年7月3日

裁量労働制とは?条件や2024年法改正の変更点をわかりやすく解説

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Point裁量労働制を導入するには、どのような条件や手続きが必要でしょうか?

裁量労働制は、みなし労働時間を働いたものとして扱う制度で、対象業務や労使協定などの要件が定められています。

  • 専門業務型は20種類の対象業務に限定される
  • 企画業務型は労使委員会の決議と届出を必要とする
  • 2024年4月から労働者本人の同意が必須になった

深夜労働や休日労働には割増賃金が発生する点にも注意しましょう。

裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた「みなし労働時間」を働いたものとして賃金を支払う制度です。

働く時間や業務の進め方に一定の裁量を与えられる一方で、適用対象となる業務や導入条件、手続きが法律で定められています。

本記事では、裁量労働制の仕組みや種類、適用条件、2024年の法改正の内容、導入時の注意点やメリット・デメリットについて詳しく解説します。

目次

裁量労働制とは?

裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ定めた「みなし労働時間」を勤務したものとして扱う制度です。

業務の進め方や時間配分を、労働者の判断にゆだねる点が特徴です。

専門性の高い業務において個人の裁量を活かした柔軟な働き方を実現し、従業員が能力や状況に応じて業務を進めることで、生産性の向上につなげることを目的としています。

裁量労働制とよく似た制度について、それぞれの特徴・違いは下記の表のとおりです。

制度 裁量労働制との違い
変形労働時間制 業務の繁閑に応じて会社が労働時間を調整する
フレックスタイム制 始業・終業の時刻を労働者にゆだねる
事業場外みなし労働時間制 事業場外での労働時間をあらかじめ定めた時間とする
高度プロフェッショナル制度 職務の専門性・年収額に応じて、労働時間などの法規制が対象外となる

裁量労働制について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

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裁量労働制の条件・種類

裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があります。共に業務の遂行方法を労働者の裁量にゆだねる制度ですが、適用される職種や重要事項の決定方法等に違いがあります。

専門業務型裁量労働制の適用条件

専門業務型裁量労働制は、一定の専門性の高い職種に適用されるみなし労働時間制度です。

専門業務型裁量労働制の適用が可能な職種は、次の20種類に限定されています。

  1. 新商品や新技術の研究開発、人文科学・自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システムの分析または設計の業務
  3. 新聞や出版、放送番組制作のための取材・編集の業務
  4. デザイナーの業務
  5. 放送番組等のプロデューサー・ディレクターの業務
  6. コピーライターの業務
  7. システムコンサルタントの業務
  8. インテリアコーディネーターの業務
  9. ゲームソフトの開発の業務
  10. 証券アナリストの業務
  11. 金融工学等の知識を用いる金融商品開発の業務
  12. 大学での教授研究の業務
  13. M&Aアドバイザーの業務
  14. 公認会計士の業務
  15. 弁護士の業務
  16. 建築の業務
  17. 不動産鑑定士の業務
  18. 弁理士の業務
  19. 税理士の業務
  20. 中小企業診断士の業務

なお、M&Aアドバイザーの業務は、2024年から追加されたものです。

専門業務型裁量労働制の適用条件として、過半数労働組合または過半数代表者で、必要事項について労使協定を締結し、所轄労働基準監督署へ届け出る必要があります。

また2024年4月からは、制度が適用される労働者の同意も必要となりました。

参考:専門業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

企画業務型裁量労働制の適用条件

企画業務型裁量労働制は、専門業務型裁量労働制のように、適用できる職種が限定されていません。

企画業務型裁量労働制が適用できる業務は、次のすべての条件に該当するものです。

  • 事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務
  • 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があることが客観的に認められる業務
  • 仕事の進め方や時間配分について、会社が具体的な指示をしないとする業務

具体的にいえば、本社や本店等の経営企画、営業、財務、人事、広報などの部署における企画・立案・調査・分析の業務で、事業の運営に影響を及ぼすものが該当します。

たとえば、人事部の業務でも「人事制度の調査分析を行い、新たな人事制度を策定する業務」は企画業務型裁量労働制の適用が可能ですが、社会保険事務や給与計算の業務には適用できません。

同様に、営業部の業務でも「営業活動上の問題点等について調査・分析を行い、企業全体の営業方針や商品ごとの営業計画を策定する業務」は企画業務型裁量労働制が適用できますが、個別の営業活動の業務への適用はできません。

なお、企画業務型裁量労働制を適用するには、労使委員会の決議と所轄労働基準監督署への決議の届出が必要です。また、対象労働者の個別同意も取らなければなりません。

2024年4月以降における裁量労働制の変更点・見直しについて

2024年4月1日から、裁量労働制のルールが変わりました。ここでは、裁量労働制の見直しが行われた背景や専門業務型・企画業務型それぞれの変更点について解説します。

裁量労働時間制が改正された背景

裁量労働制は「実際に働いた時間ではなく、労使で取り決めた時間を働いた時間とみなす」制度で、適切に運用されれば、会社・労働者双方にメリットをもたらすはずのものです。

しかし実際は「裁量労働制を使うと、かえって長時間労働になりやすい」といった状況が指摘されていました。

また、時間外手当を削減する目的で、本来は裁量労働制が適用できない職種にも裁量労働制を使うなど、不適切な運用をする会社があることも問題視されている背景があります。

このような状況を改善するため、2024年4月から裁量労働制のルールが改正されました。

専門業務型裁量労働制の改正点

2024年4月から改正された点のひとつは、専門業務型裁量労働制の対象となる職種に「M&Aアドバイザーの業務」が加えられたことです。

「M&Aアドバイザーの業務」の範囲は広いのですが、制度の対象となるのは「調査・分析およびこれにもとづく考案・助言」のすべてをひとりで行い、かつ業務の遂行方法や時間配分について裁量がある場合に限られます。

また、大きな改正点として、制度の適用時に労働者の同意が必要になったことが挙げられます。なお、一度同意をした場合でも撤回可能です。

労働者の同意が必要になったことに伴い、労使協定の項目にも、次の事項が加えられました。

  • 制度を適用する際は労働者の同意が必要なこと
  • 同意をしなかった労働者に、不利益な取り扱いをしないこと
  • 同意の撤回の手続きについて
  • 同意・撤回に関する記録を保存すること など

参考:専門業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

企画業務型裁量労働制の改定点

企画業務型裁量労働制では、2024年4月から、労使委員会の運営規程に定める事項や労使委員会での決議事項が追加されました。

労使委員会の運営規程に定める事項として、次が加えられました。

  • 対象労働者に適用する賃金や評価制度の内容について、事前に労使委員会に説明すること
  • 制度の実施状況の把握の頻度・方法など、制度を適正に運営するために必要な事項
  • 労使委員会を開催する頻度

なお、労使委員会の決議事項にも、以下が追加されています。

  • 労働者の同意の撤回の手続きについて(申出先・申出方法等)
  • 賃金や評価制度の変更時には労使委員会に内容を説明すること
  • 各労働者について同意の撤回等に関する記録を一定期間保存すること

企画業務型裁量労働制を採用している会社は、労使委員会を開催しなければなりませんが、頻度についての定めはありませんでした。しかし、改正によって開催頻度が「6か月以内ごとに1回」へと変更されています。また、定期報告は決議の有効期間の始期から起算して、「初回は6か月以内ごとに1回、その後は1年以内ごとに1回」の実施が必要です。

参考:企画業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

専門業務型・企画業務型共通の改正点

裁量労働制で労働者を働かせる場合は、健康・福祉措置を講じる必要があります。今回の改正で「健康・福祉措置として実施することが望ましい」とされる事項が追加されました。

対象労働者全員への措置として追加されたものは「勤務間インターバルの確保」「深夜労働の回数制限」「労働時間の上限措置」です。

対象労働者の状況に応じて講じる措置としては「一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導」が追加されました。

詳細については、下の図をご参照ください。

引用:裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です|厚生労働省

法改正に関する対応のポイント

裁量労働制のルールが変更されたことに伴い、会社にはさまざまな対応が求められています。ここでは、主な対応事項について紹介します。

専門型・企画型に共通の対応

専門業務型裁量労働制も企画業務型裁量労働制も、制度を適用するときは、対象労働者の個別同意を取る必要があります。

同意を取る際には、労働者が制度についてよく理解・納得したうえで判断できるように、書面等で内容を明示して説明することが適切とされています。

明示・説明をする内容は、次の事項です。

  • 対象業務の内容など労使協定または労使委員会決議の内容
  • 適用する裁量労働制の概要
  • 同意した場合に適用される賃金制度や評価制度
  • 同意しなかった場合の配置や処遇

また、次の事項についても、労使で取り決めたうえ、労働者に説明する必要があります。

  • 同意の撤回について(申出先や撤回の方法等)
  • 健康・福祉措置について
  • 苦情処理窓口について

参考:専門業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

企画型に固有の対応

2024年4月の裁量労働制ルールの改正に伴い、企画業務型裁量労働制を採用している会社は、労使委員会の運営規程を変更する必要があります。

新しく運営規程に盛り込む事項は、次のとおりです。

対象労働者に適用する賃金や評価制度の内容について、事前に労使委員会に説明すること

制度の実施状況の把握の頻度や把握方法など、制度を適正に運営するうえで必要なこと など

また、労使委員会で「同意撤回の方法・申出先等」「賃金や評価制度を変更する場合の労使委員会への説明」「同意や撤回の記録の保存」などについて決議を行う必要があります。

なお、労使委員会の開催頻度が「6か月以内ごとに1回」に改正されました。

定期報告の頻度も「決議の有効期間から起算して、初回は6か月以内ごとに1回、その後は1年以内ごとに1回」に変更されたため、注意が必要です。

参考:企画業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

【企業】裁量労働制のメリット

裁量労働制を導入することで、会社の労務管理の負担軽減や従業員の満足度向上といった効果が期待できます。

労務管理の負担削減・各種計算/管理が楽に

裁量労働制を導入することで、労務管理の負担が軽減されることがあります。

裁量労働制では、みなし労働時間が法定労働時間内に収まっていれば、時間外手当が発生しません。そのため、給与計算の負担が抑えられます。

また、みなし労働時間を「9時間」にするなど法定労働時間を超える場合でも、超過時間は毎月変わらないため、時間外手当の予測ができ、人件費管理がしやすくなります。

こうしたことから、裁量労働制の適用は、労務管理のしやすさにもつながるでしょう。

従業員の満足度向上

裁量労働制の導入により、従業員の満足度向上が期待できるのもメリットです。

通常の労働時間制では、労働時間の長さに対して賃金が支払われます。そのため、仕事の遅い従業員に多くの割増賃金が支払われるといった不当な状況が多々見られます。

しかし裁量労働制では実労働時間ではなく、みなし労働時間に対して賃金が支払われるため、能率良く働いて早く仕事を終わらせても、通常と同じ賃金です。

このような働き方ができることは、労働生産性の高い従業員の満足度向上につながります。そのため、離職率の低下や優秀な人材の確保が期待できます。

また、従業員の満足度向上には福利厚生の充実も大切です。とくに、借り上げ社宅制度は従業員の住居費負担を軽減し、実質的な手取り向上につながる制度です。

マネーフォワード クラウド福利厚生賃貸は、現在の賃貸住宅を活用した社宅制度の導入・運用を支援し、従業員の手取り向上につながる福利厚生の整備をサポートします。社宅制度に伴う規程整備や、契約手続きなどの負担を軽減しながら、福利厚生の強化を進めたい企業は、導入をご検討ください。

【企業】裁量労働制のデメリット

裁量労働制には、大きなメリットがある一方、制度の導入や運営に手間がかかるといったデメリットもあります。

制度導入までの負担が大きい・各種環境整備が必要

専門業務型裁量労働制を導入するには、労使協定の締結や届出が必要です。また、企画業務型裁量労働制の導入には、まず労使委員会を設置したうえで、決議・届出をしなければなりません。

さらに、労働者に制度を説明したり同意を取得したりするにも、時間や労力がかかります。裁量労働制の制度は複雑なため、説明する担当者には、それなりの知識も求められるでしょう。

そして制度を導入した後も、健康・福祉措置を講じたり、同意の撤回に対応したりする必要があります。

このように考えると、裁量労働制の導入や運用に伴う負担は、小さくないといえるでしょう。

従業員のメンタルヘルス不調のリスク

裁量労働制では、成果や業務遂行を重視するあまり、従業員が「成果を出さなければならない」というプレッシャーを強く感じる場合があります。

これにより、精神的な負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。

燃え尽き症候群(バーンアウト)やメンタルヘルス不調につながり、休職や退職に至るケースもあります。

また、成果を求める従業員が自主的に長時間労働を続けることで、企業側の労働時間管理や安全配慮義務が十分に機能しなくなるリスクもあります。企業が「適切に管理しているつもり」になることで、従業員のメンタルヘルス不調を見逃してしまうかもしれません。

成果主義について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

従業員の負担増大による生産性低下のリスク

裁量労働制の運用が適切でない場合、従業員に過度な負担がかかり、生産性の低下につながるリスクがあります。

成果責任のプレッシャーから無理を重ね、長時間労働が常態化すると、集中力・判断力が低下して生産性がダウンしやすくなります。短期的な作業量は確保できても、質や効率は落ちてしまうでしょう。

とくに、企画・マーケティング職のような成果指標が曖昧な職種では、効率化への動機が働きにくく「とりあえず時間をかけて丁寧にやる」方向に流れやすくなるのも原因です。

また、企業側が「裁量だから管理不要」と時間管理を疎かにしてしまうと、過重労働の早期発見が遅れるリスクもあります。問題が深刻化してから発覚すると、結果的に休職・離職など、より大きな生産性損失につながるかもしれません。

適切な業務量の設定や、裁量を尊重した運用が求められます。

【従業員】裁量労働制のメリット

裁量労働制は、従業員にもメリットのある働き方です。会社に時間を管理されないため、柔軟な働き方が可能になるためです。

労働時間の柔軟性・ワークライフバランスの充実

通常の労働時間制では「9時から18時まで」を拘束されますが、裁量労働制では自分で労働時間を調整できます。自分の都合に合わせ、働く時間帯をずらしたり、増減したりできます。

そのため、仕事とプライベートの両立がしやすくなり、よりよいワークライフバランスの実現も期待できるでしょう。

場合によっては労働時間を短縮可能

裁量労働制で働くことで、労働時間を短縮できることがあります。

普通の働き方で「8時間」かかる仕事でも、効率良く働けば「7時間」で終わることもあるでしょう。そうした場合でも、裁量労働制では賃金が減額されることはありません。

本人の集中力や工夫次第で労働時間を短縮できることも、裁量労働制のメリットです。

【従業員】裁量労働制のデメリット

裁量労働制で働くデメリットは、労働時間管理が難しいことです。

労働時間について自己管理を行う必要がある

裁量労働制では、働く時間を自分で管理するため、ある程度の自己管理能力が求められます。

自己管理能力が高い人は、裁量労働制下で効率良く働き、よい結果を出せるでしょう。

しかし慣れないうちなどは、仕事を切り上げるタイミングがつかめず、つい長く働いてしまいがちです。また、成果を上げようとして仕事を続けた結果、長時間労働になることもあるでしょう。

そして、裁量労働制で長時間働いても、賃金には反映されません。そのことがモチベーション低下につながることもあります。

適切な残業代が支払われないことがある

実際の労働時間に応じて残業代が支払われる仕組みではないため、長時間働いても、労働時間に見合った賃金を受け取れないと感じるケースがあります。

ただし、裁量労働制が適用されていても、深夜労働や休日労働を行った場合は、割増賃金の支払い対象です。

みなし労働時間が法定労働時間を超えて設定されている場合も、一定条件を満たすと追加の賃金が発生します。

一方で、企業側の制度理解が不足していたり、割増賃金の対象となる労働時間の管理が適切に行われていなかったりすると、本来受け取れるはずの手当が支給されないリスクがあります。

そのため、制度の対象範囲や賃金の扱いを確認しておくことが大切です。

裁量労働制で柔軟な働き方を実現するとともに、生活面での安心も整えることで、従業員の満足度と定着率をさらに高められます。

裁量労働制における残業代の計算方法

裁量労働制の場合は、みなし労働時間を使って賃金を計算します。ここでは、裁量労働制を適用した場合の賃金の計算方法、時間外・休日・深夜労働の割増賃金の計算方法について説明します。

みなし労働時間による一定の賃金支払

裁量労働制で、1日のみなし労働時間を「8時間」と定めているときは、実際の労働時間が6時間であっても、また10時間であっても、8時間労働したものとして賃金を計算します。

なお、裁量労働制を導入しても、休日手当や深夜手当は支払わなければなりません。また一定の場合には、時間外手当の支払いも必要です。

時間外手当の計算(法定労働時間を超えるケース)

労働基準法は、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて労働させた場合は、通常の25%以上の割増賃金(時間外手当)を支払うよう義務づけています。

裁量労働制でも、みなし労働時間自体が法定労働時間を超えている場合は、超えた分は時間外手当の対象です。たとえば、みなし労働時間を「1日9時間」と定めた場合、法定労働時間を超えている1時間分の時間外手当が必要になります。

深夜残業の手当

労働基準法により、深夜(22時から翌日5時まで)に労働させた場合は、深夜手当として、通常の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。

裁量労働制の下でも、22時から翌日5時までの時間帯に働かせたら、深夜手当の支払いが必要です。

休日労働の手当

労働基準法では、法定休日に労働させた場合は、休日手当として、通常の35%以上の割増賃金を支払うこととされています。

なお、法定休日とは「週1日、または4週に4日の休日」です。

裁量労働制が適用されていても、法定休日に働いた場合には、休日手当が発生します。

裁量労働制の導入手続き・やり方

裁量労働制を導入するには、どのような順序で何をすればよいのでしょうか。専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制に分けて説明します。

専門業務型裁量労働制の導入手続き

専門業務型裁量労働制を導入するには、以下を行う必要があります。

  1. 専門業務型裁量労働制について、過半数組合または過半数代表者と労使協定を締結し、届出を行う
  2. 就業規則や個別の労働契約書に制度について記載する
  3. 労働者の同意を取得する
  4. 制度を実施する

なお、労使協定の有効期間が満了したら、再度、労使協定を締結する必要があります。

上記のうち、労使協定について、補足します。労使協定で定める事項は、次のとおりです。

  • 対象とする業務
  • 1日のみなし労働時間
  • 健康・福祉確保措置
  • 苦情処理のための措置
  • 適用するときは労働者本人の同意を得なければならないこと
  • 同意しなかった場合に不利益な取り扱いをしないこと
  • 同意の撤回の手続き など

締結した労使協定は、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

参考:専門業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

企画業務型裁量労働制の導入手続き

企画業務型裁量労働制を導入するときに必要な事項を、紹介します。

  1. 労使委員会を設置する(労使委員会がない場合)
  2. 専門業務型裁量労働制について、労使委員会で決議し、届出を行う
  3. 就業規則や個別の労働契約書に、制度について記載しておく
  4. 労働者の同意を取る
  5. 制度を実施する

上記のうち、労使委員会の決議事項について補足します。

労使委員会の決議事項は、次のとおりです。

  • 対象とする業務
  • 対象労働者の範囲
  • 1日のみなし労働時間
  • 健康・福祉確保措置の内容
  • 苦情処理のための措置の内容
  • 制度の適用に当たり労働者の同意を得なければならないこと
  • 同意しなかった場合に不利益な取り扱いをしないこと
  • 同意の撤回の手続き 等

なお、決議書は、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

参考:企画業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

裁量労働制を導入するうえでの注意点

裁量労働制はメリットのある制度ですが、適切に運用しないと長時間労働につながる懸念があります。

適切な管理を行わない場合、長時間労働になりやすい

裁量労働制の問題のひとつに、長時間労働を助長しやすいことがあります。長時間労働になる原因のひとつは、労働者に過剰な量の仕事が課されることかもしれません。

裁量労働制では、長時間働いても賃金が増額されないことから、みなし労働時間内では終わらない量の仕事を、労働者に課す会社もあるようです。

しかしその結果、長時間労働が続けば、労働者の健康面に支障が出ることもあり、会社の責任が問われます。

そうした結果にならないよう、裁量労働制を運用するときは、みなし労働時間と業務量が釣り合うように労働者の能力も勘案し、適切に管理することが大切です。

厚生労働省の不適切データ問題

以前、裁量労働制の労働時間をめぐる不適切データが問題になりました。

2018年、当時の安倍首相が、国会答弁で「一般労働者より裁量労働制の労働者の方が、労働時間が短いというデータがある」旨を発言しました。

しかし、その厚生労働省のデータは、一般労働者に「1か月に最も残業時間が多い日の残業時間」を、裁量労働制の労働者に「1日の通常の労働時間」をそれぞれ質問し、集計した不適切なものでした。

そしてその後、別の調査で「一般労働者の方が裁量労働制の労働者より労働時間が短い」結果が出ていることが判明しました。

こうした騒動の結果、働き方改革関連法案に盛り込まれる予定だった裁量労働制に関する法案は、見送られることになりました。

ブラック企業体質を助長するおそれがある

裁量労働制を導入する際は、制度を悪用した長時間労働の常態化に注意が必要です。

不適切な運用は、従業員への過度な負担を招き、ブラック企業体質を助長する可能性があります。裁量労働制の不適切な運用例としては、以下のようなパターンが挙げられます。

  • 会社側が出社時間や退社時間を指定している
  • みなし労働時間を超える業務量を常態的に割り当てる
  • 業務の進め方や時間配分に関する裁量を認めていない
  • 対象外の業務に裁量労働制を適用する
  • 長時間労働の実態を把握・管理していない
  • 成果のみを求め、必要な業務量や期限を考慮しない

対策として、就業規則に裁量の範囲や対象業務を明確に記載するほか、定期的に業務量や労働状況を確認する機会を設けるなどがあります。

健康管理の重要性が高い

裁量労働制では、長時間労働の実態が見えにくくなりやすいため、従業員の身体的・精神的な健康管理がより重視されます。

実態が見えにくくなる原因として、主に下記2つが挙げられます。

  • みなし労働時間制のため、実際の労働時間が長くても賃金計算上は表面化せず過重労働が発見されにくい
  • 従業員本人も「裁量で働いている」という認識から、負荷を過小評価しやすい

企業には従業員の健康を維持するため、労働時間の状況を把握する義務があります。

業務量や労働時間を把握せず健康管理を怠ると、過重労働による健康被害につながりかねません。その場合、企業が責任を問われるリスクがあり、社会的信用を損なう要因になり得ます。

適切な制度運用には、定期的な状況確認や健康面への配慮が欠かせません。

裁量労働制が違法となるケース

裁量労働制は、対象の業務や手続き、労働時間管理などに不備がある場合、違法と判断される可能性があります。

ここでは、裁量労働制が違法となるケースについて解説します。

対象外従業員への誤った制度適用がされている

裁量労働制は、すべての職種や従業員に適用できる制度ではなく、制度ごとに対象となる業務・条件が定められています。

そのため、対象要件を満たしていない従業員に裁量労働制を適用した場合、制度の適用自体が認められません。労働基準法の第38条の3(専門業務型裁量労働制)第38条の4(企画業務型裁量労働制)にもとづき、違法と判断される可能性があります。

また、形式上は対象業務であっても、業務の進め方や時間配分について従業員自身が判断できず、会社から細かく管理されている場合は、制度の趣旨に沿わない運用となります。

導入する際には、裁量労働制が当てはまる職種・業務内容なのか、法的な観点で精査することが大切です。

参考:労働基準法|e-Gov

健康福祉確保義務への対応が不足している

裁量労働制を導入する企業には、従業員の健康を守るため、「健康・福祉確保措置」を実施する義務があります。

具体的には、下記のような裁量労働制による長時間労働・過重な負担を防ぐための措置が必要です。

  • 勤務間インターバルの確保
  • 労働時間の上限設定
  • 有給休暇の取得促進
  • 医師による面接指導 など

必要な対応を十分に行わず、従業員の健康管理を怠った場合は、制度の適切な運用ができていないと判断されるリスクがあります。

労働基準法違反となるおそれがあるため、企業には適切な管理体制の整備が求められます。

参考:労働基準法|e-Gov

裁量が与えられていない

会社側が業務手順を細かく指定したり、勤務時間を細かく指示したりしている場合、従業員に裁量が与えられているとは認められない可能性があります。

裁量労働制を適用するには、従業員が業務の進め方や時間配分などを自ら判断できる、十分な裁量を持っていることが前提です。裁量がないと、制度の適用要件を満たしていないと判断される可能性があります。

適用不可とみなされた場合、実際の労働時間に応じて残業代の支払いが必要になるため、注意が必要です。

また、ただ制度を導入するだけではなく、従業員が主体的に業務を進められる環境を整備することも大切です。

具体的には、上司が日々の作業手順や勤務時間を細かく管理し過ぎないことがポイント。達成すべき目標や成果物を明確にしたうえで、業務の進め方や働く時間帯を従業員自身が判断できる体制を整えましょう。

労働時間が実態からかけ離れている

実際の労働時間とみなし労働時間の差が、著しく大きい場合は適切な運用とはいえません。

とくに、長時間労働が常態化しているにもかかわらず、実際の業務量や負担に見合わない短いみなし労働時間を設定しているケースは、問題となる可能性があります。

裁量労働制であっても、労働基準法第36条・37条にもとづき、法定労働時間を超える労働には36協定の締結や割増賃金の支払いが必要です。

実態に合わない時間設定は、長時間労働の見逃しや割増賃金の未払いにつながるおそれがあります。

みなし労働時間を適切に設定するには、業務内容や過去の労働時間データを確認し、対象業務を通常遂行するために必要な時間を算出しましょう。具体的には、以下のとおりです。

  • 労使協定や労使委員会の決議により、あらかじめ「働いたものとみなす時間」を定める
  • 対象業務を通常遂行するために、必要となる時間を基準に設定する
  • 会社が定める所定労働時間を、みなし労働時間として扱う

制度導入後も、従業員の働き方や業務状況に合わせて継続的に改善することが大切です。

参考:労働基準法|e-Gov

裁量労働制に関するよくある質問

ここでは、導入を検討する企業や働く従業員が、疑問に感じやすいポイントについて解説します。

遅刻・早退する場合はどうなる?

裁量労働制では、一般的な勤務制度のように、出勤時刻や退勤時刻の遅れを「遅刻」や「早退」として扱う考え方は基本的にありません。

そのため、業務に支障がない範囲で出勤時間を遅らせたり、予定に合わせて早めに退勤したりすることが可能です。その際、原則として半休や時間休を取得する必要はありません。

ただし、裁量労働制であっても、企業には労働時間の把握や健康管理を行うことが求められます。

実際の勤務時間がそのまま時間外労働になるわけではありませんが、長時間労働の防止や割増賃金の取り扱いなど、制度上のルールに沿った運用が必要です。

36協定とは?労使協定との違いは?

36協定とは、労働基準法第36条にもとづいて締結される「時間外・休日労働に関する協定」のことです。

使用者と労働者側の合意のもとに、企業が従業員に対して法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を行わせる場合には、あらかじめ36協定を締結し、所定の手続きを行う必要があります。主に、時間外労働の上限や対象となる業務などを定めるものです。

一方、労使協定とは、労働条件や職場環境に関して、使用者と労働者の間で取り交わす協定全般を指します。36協定は労使協定のひとつであり、時間外労働や休日労働に関する事項を定める協定です。

参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働 について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省
参考:労使協定とは|労働基準監督署

裁量労働制と36協定の関係について、詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

1日何時間まで働ける?

裁量労働制固有のルールとして、「1日何時間まで働ける」といった一律の上限は定められていません。

ただし、労働基準法などの法令による労働時間の規制が適用されます。時間外労働については、原則として月45時間・年360時間の上限が設けられています。

また、1日のみなし労働時間を法定労働時間を超えて設定する場合には、時間外労働の扱いや上限規制を踏まえた適切な管理が必要です。

企業は、従業員に過度な負担がかからないよう、業務量の調整や健康管理を行いましょう。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省

中抜けはできる?

裁量労働制では、業務の進め方や時間配分を本人の裁量で決められるため、業務に支障がない範囲で中抜けが可能です。

たとえば、通院や役所での手続き、私用の予定などで一時的に業務を離れる場合でも、一般的な勤務制度と比べて柔軟に対応しやすい点が特徴です。

ただし、企業によっては就業規則や運用ルールにより、事前申請や上司への報告が必要な場合があります。

中抜けによって業務に影響が出る場合は、社内で定められたルールに沿った対応が必要です。

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