• 更新日 : 2024年12月25日

給与天引きには同意書が必要?書き方や注意点も解説

給与天引きの同意書は、給与からの天引きを適法に行う書類の一部です。給与は原則として全額支払が労働基準法で定められていますが、法定控除や労使協定による項目は天引きできます。また、法定控除以外の場合には、書面による労使協定と個別の同意書が必要です。本記事では、給与天引きに必要な同意書の書き方や注意点について解説します。

給与天引きには同意書や労使協定が必要?

給与は、原則として全額支払でなければならないと労働基準法で定められています。ただし、源泉徴収社会保険料など法令で定められた控除項目と、労使協定を締結した項目については天引きが可能です(労働基準法第24条1項)。

つまり、法令で定められているもの以外の天引きをする場合は、労働組合または従業員の過半数代表者との書面による労使協定が必要となります。また、労使協定に加えて、就業規則への明記も必要です。個別の同意書だけでは不十分であり、労使協定が必須となります。

ただし、労使協定が締結されていた場合でも控除が認められるのは、購買代金・社宅費・寮費・労働組合費など内容が明確で適切と判断されるものに限られます。

さらに、損害賠償金や貸付金の返済を給与から差し引く行為は、たとえ労使協定が存在していても違法とみなされる可能性が高いため、避けるべきです。

そもそも給与天引きとは?

給与天引きとは、給与や報酬からあらかじめ一定の金額を差し引く手続きのことを指します。主に所得税や社会保険料などの法定控除を行う際に用いられ、労働者が個別に税金や保険料を支払う手間が省けるという利点があります。

ただし、過剰な控除や法律で認められていない項目の天引きが行われた場合、労働基準法に違反するおそれもあるため注意が必要です。

また、給与天引きに似た概念として「給与の相殺」や「給与の前借り」などがあります。以下で、これらの違いについて見ていきましょう。

賃金控除との違い

賃金控除は、「労働者の賃金から一部を支払わないこと」を指しますが、必ずしも法令によるものだけを含むわけではありません。

例えば、労使協定にもとづく社員旅行費用や組合費なども賃金控除に該当します。その場合、控除の実施には労使協定の締結や就業規則、雇用契約書などへの定めが必要です。

給与天引きと賃金控除は同義語として使用されることが多く、どちらも法令による控除と労使協定にもとづく控除を含みます。

これらの控除を実施するには、法令にもとづくもの以外は労使協定の締結や就業規則、雇用契約書などへの定めが必要です。いずれの場合も、労働基準法の趣旨に反しないよう適正な手続きが求められます。

給与の相殺との違い

給与天引きと相殺は、いずれも労働者の賃金から金銭を差し引く行為ですが、目的や適用条件が異なります。天引きは、源泉徴収税や社会保険料など法令で認められた控除、または労使協定にもとづく特定の費用について行われます。

一方、相殺は会社が労働者に対する債権を賃金から差し引く行為であり、原則として全額払いの規定に反する行為です。ただし、過払い賃金の精算や従業員の自由な意思による同意がある場合に限り、例外として認められます。これには、妥当な調整時期であることや予告、生活への影響が最小限であることなどの要件が求められます。

給与の前借りとの違い

「給与天引き」と「給与の前借り」は、目的や法的な扱いにおいて大きな違いがあります。

まず、給与天引きは、社会保険料や所得税など、法令や労使協定にもとづいて給与から一定額を差し引く手続きです。これは正当な方法で行われるため、認められています。

一方、給与の前借りは、「将来の給与を担保に金銭を受け取る行為」です。この場合、まだ働いていない分の給与を受け取るため、労働基準法に違反します。

前借りは、「給与の前払い」と混同されることもありますが、両者は明確に異なります。前払いは、すでに働いた分の給与を事前に受け取るものであり、返済義務が生じません。

また、労働基準法第25条では、出産・結婚・病気・災害など急を要する事情がある場合には、従業員はすでに働いた分の給与について前払いを請求できると定められています。

この規定は、従業員の生活を守るためのものです。これらの違いを理解し、それぞれの目的に応じた対応を行うことが重要です。

従業員貸付制度との違い

従業員貸付制度は、会社が従業員に対して資金融資を行う福利厚生の一環として導入されることがあります。この制度は、優秀な人材を確保する手段として活用されます。従業員貸付制度を実施する際は、「貸し倒れ」のリスクに注意が必要です。

天引きを行う際は、以下の厳格な条件が求められます。

  • 労使協定の締結
  • 就業規則への明記
  • 労働者の厳格かつ慎重な自由意思による合意
  • 天引き額は賃金の4分の1以内

また、合意内容は労働者の生活に配慮し、過度な負担とならないよう慎重に判断する必要があります。安全な運用のためには、24協定(労使協定)の締結、就業規則への明記、個別の合意を丁寧に行うことが重要です。

給与天引きのルールは?

給与天引きのルールについて、従業員の同意なしに行える場合と必要な場合があります。ここでは、それぞれについて解説します。

従業員の同意がなくても給与から天引きできるもの

従業員の同意がなくても給与から天引きが認められるものには、法令で義務付けられた所得税や住民税の源泉徴収、社会保険料、雇用保険料の控除があります。これらの天引きは、所得税法や健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法などの規定にもとづいて行われます。

法令にもとづく控除は、事前に従業員の同意を得る必要はありません。この仕組みにより、税金や社会保険料を迅速かつ確実に納付できる点が特徴です。

所得税や住民税は、雇用主が給与から差し引いた後に税務署や自治体に納付し、健康保険料や厚生年金保険料は、従業員の負担分を給与から差し引いたうえで会社負担分と一緒に納付します。

これらの控除は、法令で定められた義務であり、会社側が正しく管理することで、従業員が納付の手間を省けます。

従業員の同意がなければ給与から天引きできないもの

給与天引きは、法令にもとづいて実施されるべきであり、そうでない場合には労使協定を結ぶ必要があります。労使協定が存在しない場合、天引きできる範囲は厳格に制限されます。

購買代金・社宅費・労務用物資の代金・労働組合費などの費用は、労使協定が締結され就業規則に規定されている場合に限り天引きが可能です。

給与の過払い分を翌月の給与から調整する場合、相殺の時期や方法は労働者の生活を損なわないよう、客観的に合理的な配慮が求められます。

労働者との合意による天引きは、労働者の自由な意思にもとづいていると客観的に認められる合理的理由が必要です。無理やり同意を得た場合や手続きが不十分な場合は無効となるリスクがあります。

企業が給与天引きを行う際は、労使協定や就業規則の整備に加え、適法な手続きと労働者との十分な意思疎通が重要です。

給与天引きできる金額は賃金の4分の1が上限

民法および民事執行法にもとづき、支払期の賃金の一部は差押えが禁止されています。ここでの賃金とは、基本給と諸手当から通勤手当を除き、さらに所得税・住民税・社会保険料を差し引いた額です。

この賃金の4分の3に相当する部分(33万円を超える場合は33万円まで)は、使用者が一方的に控除することはできません。そのため、控除が認められる上限は、原則として賃金の4分の1までとなります。

給与天引きを実施する際には、対象となる金額が法令で定められた上限を超えないよう十分に注意する必要があります。

給与天引きの同意書の書き方・記入例

給与天引きの同意書を作成する際は、法的根拠にもとづき内容を明確に記載することが重要です。控除される項目や金額、実施日を具体的に示し、従業員が誤解なく理解できるよう配慮しましょう。

同意書には、労働基準法にもとづく賃金控除協定が締結されている旨を明記し、従業員の自発的な同意であることを示す文言も盛り込みます。これらの内容について、従業員の署名と押印を得ることで、正式な同意の意思表示として記録に残します。

賃金控除に関する同意書_例

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給与天引きの同意書を作成するときの注意点

給与天引きの同意書を作成する際には、法的リスクを避けるとともに、従業員との信頼関係を築くために重要なポイントを押さえる必要があります。

    1. 労使協定の締結
      給与天引きを行うには、労働基準法第24条にもとづき、労使間で書面による合意(労使協定)の締結が必要です。この協定には、控除項目や内容、控除日などを具体的に記載します。税金や社会保険料などの法定控除以外の項目で天引きを行う場合には、この労使協定が必須です。
    2. 自由意思による同意の取得
      給与天引きは、従業員が自由意思にもとづき同意したことが前提です。同意が強制や圧力によるものであった場合、無効となる可能性があります。適切な説明を行い、従業員の理解と同意を得ることが重要です。
    3. 具体的な内容の明記
      同意書には、天引きの対象となる金額や目的を明確に記載します。例えば、備品購入代金や福利厚生費用などの詳細を記すことで、従業員が何に同意しているのかを正確に把握できるようにします。

給与天引きのルールと注意点を押さえ、適切な給与管理を心がけよう

給与天引きには法令や労使協定にもとづく厳格なルールがあり、適切な手続きを踏まない場合には、労働基準法違反となる可能性があります。

従業員の同意が必要な場合には、自由意思にもとづいた同意を取得し、控除が4分の1以内であることを確認することが重要です。

また、同意書を作成する際にも詳細を明記して誤解を避けるようにし、適切な給与管理を心がけましょう。


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