- 更新日 : 2024年12月13日
適応障害の休職期間の平均は?給料はどうなる?
適応障害とは、ストレスなどが原因となり気持ちの落ち込み、不安、心配、不眠など心身の不調が現れる精神疾患です。目安として1カ月から6カ月くらいの間に軽快すると言われていますが、状況によって休職に至る場合もあります。
本記事では、会社側が適応障害の休職期間を設ける場合に知っておきたいことを解説します。
目次
適応障害の休職期間の平均は?どれくらいが望ましい?
適応障害は早ければ1カ月長くても6カ月程度で軽快するといわれています。しかし、症状が重い場合には治療が1年以上に及ぶこともあります。こうした点を踏まえて、休職期間を設定することが求められます。
適応障害とは?
適応障害は、ストレス障害の一種です。失業や対人関係のトラブルなど日常生活でのストレスが原因となって抑うつ気分、不安、不眠、めまいといった心身の不調が現れ、社会生活に支障をきたす状態のことを指します。
適応障害はうつ病と似ていますが、うつ病はストレスがない状態でも症状が継続するのに対し、適応障害は休日などでストレスから解放されると体調が回復するのが特徴です。
治癒の過程で気を付けるべきことは?
適応障害は、ストレスから離れることで症状が改善するので、治療の第一歩はストレスから離れて休むことです。十分な睡眠を取り、バランスの良い食事と適度な活動を心がけ、生活リズムを守ることが大切です。
やがて回復の兆候が見えてきたら、いよいよ仕事への復帰準備を始めます。ストレスを乗り越える力を身につけるため、周囲の状況に対する感情や行動をコントロールする感覚を養うことが大切です。
現実の問題と自分自身の価値観とのバランスを柔軟に考えられるようにするには、周囲の人との適切なコミュニケーション形成にも配慮する必要があります。
適応障害に望ましい休職期間は?
適応障害の治癒に要する期間は、1カ月~6カ月、3カ月~1年など、Web上でさまざまな情報がありますが、アメリカ心理学会やWHOではストレス要因が消えてから6カ月で軽快するとしています。
一方、医師の診断書では「1カ月の休職を要す」といった期間を記載しておき、症状に応じて更新される場合が多く見られます。こうした観点からみると、6カ月を休職期間の基準としたうえで、主治医や産業医の意見を参考にして復帰の時期(休職の終了時期)を設定することが考えられます。
精神経誌(2018)120巻6号 平島奈津子(3ページ左段)
適応障害で休職期間が1年の場合、退職しないといけない?
多くの会社の就業規則が、休職期間が満了になった時点で職場復帰の見込みが立たない場合は自動退職とする旨を定めています。
しかし、判例では、会社側は自動退職の規定が安易な解雇権の行使につながらないよう慎重に運用しなくてはなりません。例えば、満了の時点で休職前の業務に就けるのは困難であっても、配置転換や業務変更によって勤務が可能であれば、会社側は適切な措置をしなくてはなりません。
休職願(ワード)のテンプレート(無料)
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適応障害で休職中、給料はどうなる?
休職は法律上の制度ではなく、会社側の判断で導入する制度です。したがって、休職時の給料の支給も、就業規則で決定します。
一般的な原則として、仕事をしないときは賃金の支給はない(ノーワーク・ノーペイ)というルールがあるので、多くの事業所が就業規則において給与を支給していません。なお、こうした場合の労働者の生活困窮を防ぐため給付金の制度が設けられています。
適応障害での休職は労災認定される?
適応障害は、人間関係の軋轢(あつれき)や過重な負担などがストレス原因となって発症することがあります。発症の原因がこのようなケースという場合、職場の責任が重大とみなされ、労災認定の可能性があるでしょう。
精神障害の労災認定の要件とは?
精神障害の労災認定要件について厚生労働省は次のように定めています。(*)
- 精神および行動の障害に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く精神障害(対象疾病)を発病している
- 発病前6カ月の間に業務による強い心理的負荷があった
- 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
なお、認定の対象となる精神障害の分類(**)中には「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」があり、適応障害はこれに含まれます。
(*) 心理的負荷による精神障害の認定基準(2011年12月制定・2023年9月改定)
(**)疾病及び関連保健問題の国際統計分類第 10 回改訂版(ICD-10)第Ⅴ章「精神及び行動の障害」
厚生労働省令和5年9月1日基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」
適応障害は労災認定されるか?
厚生労働省の「精神障害の労災認定(令和5年9月)」では、新規プロジェクトを担当し、4カ月にわたる長時間労働の結果適応障害を発症した事例について、まず、適応障害は労災の対象となる疾病であると認めています。
そのうえで、発病前6カ月間の業務による強い心理的負荷を認め、労災を認定しました。他にも同僚が結束して行ういじめや上司のパワハラなども業務上の原因となりえます。
適応障害で休職中にもらえる可能性がある手当
休職が発令されると、多くの会社ではノーワーク・ノーペイの原則によって賃金の支給がなくなります。こうした場合における生活支援のために使える給付金制度を知っておきましょう。
傷病手当金
傷病手当金は、業務以外の原因による病気やケガの療養のために仕事を一定期間休むことになった場合に、通算して1年6カ月にわたり支給されます。
支給の対象者は、健康保険の被保険者本人です。傷病手当金の支給要件は次の通りです。
- 業務以外の原因による病気やケガによる療養で休職していること
入院か自宅療養かは問いません。 - 仕事に就けないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事を休んでいること
「連続する3日間」は、有給休暇や土日祝日などの休日も含まれ、給与支払いの有無は関係ありません。 - 休職中の給与の支給がないこと
給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は差額が支給されます。
自立支援医療制度
自立支援医療制度とは、心身の障害をなくしたり軽減したりするための治療を受けている人に対し、医療費の一部を公費で負担する制度です。適応障害で通院による治療を継続的に必要とする人は、精神通院医療の対象者として支援が受けられます。
厚生労働省「自立支援医療制度(精神通院医療)の概要 5 対象となる精神疾患」
障害年金は受給できない
障害年金とは、病気やケガによって、日常生活や仕事などが制限されるようになった場合に、生活を保障するために支給される年金です。障害年金の対象になるかどうかは、基本的に傷病名ではなく、日常生活や仕事にどの程度の支障があるかで判定されます。ただし、神経症や人格障害は認定の対象外とされています。適応障害は神経症に分類されているため、障害年金の対象にはなりません。
精神障害者保健福祉手帳は取得できない可能性が高い
精神障害者保健福祉手帳の交付は、以下の2点から判定されます。
①精神疾患の状態がどのようなものか
②その疾患によって日常生活や社会生活にどの程度の支障が出ているか
このうち①の精神疾患については「その他の精神疾患」として「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」が挙げられているで、適応障害も対象です。
ちなみに、精神障害者保健福祉手帳は長期にわたって日常生活に支障を抱えている人のための制度です。適応障害は、一般的には6カ月程度、長くても1年で治癒するとされていますので、適応障害を理由に、こちらの手帳の交付を受ける可能性は低いでしょう。もし、交付を受けるのであれば、別の障害が理由となります。
厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」
適応障害で休職する際の過ごし方
休職は、病気やケガなどで労働が困難な場合に、一定期間労働の義務を免除することによりその回復に専念させるものです。この点を踏まえて、休職中の行動をコントロールする必要があります。休職中は会社と定期的に連絡を取り合うことにより、会社、労働者双方の状況を共有することが重要です。
休職中の人に行動制限はある?
一般的に考えて、適応障害で休職中の人は治療に専念し、少しでも早く職場に復帰できるよう努める必要があります。ただし、治療以外の行動を制限するのは、精神的な負担が増えるでしょう。回復の過程で遠出をしたり、友人と食事をしたりすることは、治療の面でも有効な場合があります。
常識の範囲を超えた頻度で旅行や飲食を繰り返し、その様子をSNSに投稿するといった行動は職場や取引先に誤解を与えるので、控えましょう。あくまでも休職中ということをわきまえて行動することが大切です。
通院中の回復プロセスを知っておく
適応障害からの回復は、まずは疲弊した心身を休ませることから始めます。心身のバランスが安定してきたところで、軽いストレッチや散歩などを開始し、十分な睡眠、規則正しい食事、適度な活動により生活のリズムを取り戻していきます。
心身の調子が整ってきたら復職に向けた準備を始めます。ストレスとの向き合い方などの課題に取り組み、生活や仕事に復帰したときに必要な力をつけていきます。
治療期間中に気をつけることは?
治療中に気をつけたい点を考えてみましょう。
- 急いで治そうとしない
急いで治そうといった気持ちがストレスになることがあります。医師の指示に従って心も身体もノンビリさせ、少しずつ生活のリズムを整えていきましょう。 - 自分の好きなことや気分転換をする
音楽を聴いたり、本を読んだりなど、リラックスできる時間をたくさんつくりましょう。家族や友人など気の許せる相手との会話も心の支えになります。 - 適度に活動し、休養する
ウォーキングや軽いジョギングなど屋外の活動もおすすめです。ただし、旅行は普段とは環境が異なるので、思いの外エネルギーを使うので注意しましょう。
従業員が適応障害と診断された際に企業がすべきこと
メンタルの疾患は治療に時間がかかり、治癒までの期間が見通せない場合が多くあります。休職の発令の必要性を的確に判断するためには、主治医の診断、産業医の意見、本人の考え、家族の気持ちを正確に把握しておくことが重要です。
まずは産業医との面談をセットする
従業員が適応障害の診断を受けた場合、従業員の主治医による診断と併せて会社の産業医の意見をうかがうことが大切です。主治医の診断と産業医の意見を踏まえることによって病状を客観的に確認することができ、休職の必要性の判断、休職期間の設定、本人及び家族との連絡方法など会社としてとるべき措置を適切に講じることができます。
医療機関での受診をすすめる
適応障害は一般的に1カ月から6カ月程度で軽快することの多い疾患といわれています。まずは、主治医や産業医の意見を聞いたうえで本人と話し合い、病気休暇などの制度を活用して治療に専念することを検討しましょう。休職の発令といった事態を回避することが期待できます。
休職の発令を検討する
病気休暇によって治療に専念しても経過が思わしくなく、発症前に従事していたレベルの業務に対応することが困難な場合には、就業規則などに定める手続きに基づいて休職を発令します。
休職を発令した場合には、休職中の連絡方法、定期面談の方法などを確認しておきます。また、傷病手当金などの給付制度、相談窓口の設置、外部の職場復帰支援サービスの紹介など、活用できる支援制度の情報を提供します。
職場復帰に向けてのポイントは?
治療・療養が順調に進み復職の可能性が見えてきたら、職場復帰の可否を判断するために「試し出勤」を行い、経過が順調であれば「リハビリ勤務」を開始します。
どちらも主治医が、疾病状態が回復または安定していると診断し、職場復帰に有益であると認めた場合に行います。その際には、休職者の希望、家族の同意も必要です。試し出勤は、2週間程度の期間で実施し、通勤や職場にいることに慣れることが目的です。リハビリ出勤は、1カ月から2カ月の期間に会社が命じる軽易な業務に従事することにより復職の準備をするものです。
復帰後のケア
いよいよ復職となった場合には、社員の状況に応じて業務の軽減、責任の軽減、業務の変更などの措置を取ります。休職の原因が職場の人間関係などであった場合には、慎重な措置を講じる必要があります。
また、職場復帰支援プランを設けておき、復帰後の一定期間は就業上の配慮を行うことも有効です。復職する職場の上司や同僚に対しても、休業者の個人情報などに配慮しながら受け入れに当たっての注意事項などを説明するのも良いでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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