- 更新日 : 2025年1月20日
診断書はパワハラの証拠になる?診断書が必要になる手続きやもらい方を解説
職場で発生したパワハラ行為は、加害者から受けた身体的な攻撃や精神的な攻撃により被害を受けたことを証明する必要があります。パワハラ被害の証明として、医療機関が作成した診断書は、行為による被害の重大性を示す要素になるでしょう。
本記事では、診断書がパワハラの証拠として役立つ部分や、診断書を必要とする手続きについて解説します。
目次
診断書はパワハラの証拠になる?
職場のパワハラ行為は、精神障害やケガなどを負った場合は証拠となる可能性があります。以下の①~③までの要素を全て満たしているのが、職場におけるパワーハラスメントと定義されています。
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
出典元:あかるい職場応援団|ハラスメントの定義|ハラスメント基本情報
これらの要素は、厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」の資料で詳しく説明されています。
パワハラによって生じた損害の程度を示す証拠になる
医療機関で作成する診断書は、パワハラの行為そのものの証拠になるとは限りません。行為を立証する証拠ではなく、パワハラ行為によって受けた損害の程度を判断する際に役立ちます。
例えば、職場の上司が大勢の前で特定の部下だけに長期的な暴言を吐いていたとしましょう。繰り返される暴言によって、部下は精神疾患を患い、仕事に従事できなくなりました。医師の診断により、うつ病と判明し、被害者である部下は3カ月の自宅療養を要すると記載された診断書が発行されました。この診断書には、部下の病名や治療に要する療養期間が記されているため、パワハラ行為で生じた損害(部下の就業不能状態)の程度を示す証拠になるでしょう。
パワハラを受けた場合、診断書が必要になる手続きは?
パワハラ被害を受けた従業員がケガや病気になった場合は、担当の医師から診断結果を言い渡されます。前項の例によれば、「うつ病による治療と3カ月の自宅療養が必要」という診断結果を証明するものです。
診断書は、パワハラを受けた従業員にとって、次の各種手続きや給付を利用する際に必要となります。
休職の手続き
パワハラ被害を受けた従業員がうつ病を発症した場合は、勤務不可能な状況も考えられます。その場合、うつ病を発症した従業員は会社を休まなければなりません。
会社を休む際は、勤め先の会社に休職の許可を得る手続きが必要になります。診断書は、病気やケガが理由で会社を休む際に提出する症状を証明する書類です。精神疾患などの外見から判断できない心の病気の場合は、客観的に病状を証明する証拠となります。
休職の手続きは、会社によって診断書が必要な場合や、他に証明できるもの(療養証明書や医療費を支払ったレシートなど)でも休職を許可される場合があります。
慰謝料請求の手続き
パワハラの被害を受けた従業員は、パワハラ加害者に対して慰謝料を請求できる可能性があります。民法第709条の「不法行為による損害賠償」に該当した場合は、慰謝料の請求が可能です。
パワハラ加害者が故意に行った従業員の権利を侵害する行為に該当した場合は、損害賠償請求の対象です。損害賠償を請求する際は、診断書で示す療養期間を休業補償として請求することも考えられます。診断書は、慰謝料請求の手続きにおいて、被害の程度と休業補償の査定に必要な判断基準となるでしょう。
労災認定の手続き
パワハラを受けた従業員が精神疾患になった場合は、労災の手続きで診断書が必要になります。精神障害の労災認定では、次の要件に該当しなければなりません。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
出典元:厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」 をもとに作成
これらの要件を全て満たした場合は、労災認定の手続きを進められます。労災認定の手続きでは、精神障害の発病を証明する医師の診断書が必要です。
パワハラの診断書のもらい方
パワハラ行為による被害が身体的なケガや精神的な病気の場合は、その症状を証明するための診断書が必要になるでしょう。ここでは、具体的な診断書の受け取り方(申請方法)について解説します。
受診する科を選ぶ
パワハラの診断書を申請する場合、受診する医療機関や科を選ぶ必要があります。精神障害の場合は、精神科や心療内科のある医療機関を選びましょう。最初の受診では、症状に至るまでのいきさつを説明しなければなりません。精神障害で苦しんでいる状況では、全てを医師に伝え切れないことも考えられるでしょう。
精神科や心療内科の医師は、そのようなパワハラ被害により精神疾患を発症した人の治療に携わる専門家です。医師が「今の健康状態では勤務が困難」と判断した場合は、休職や労災などの手続きに必要な診断書の作成を依頼しましょう。
記載される内容の効力を知る
パワハラの診断書を申請する際は、記載される内容の効力を知る必要があります。診断書は、次の内容を証明できる医師にしか書けない書類です。
- 医師による診察治療を行った事実
- 医師が行った診察診療による結果
- 症状に対しての病名
- 治療にかかる期間
これらの内容が記載された診断書には、法的な効力があります。休職中の生活費を保証する傷病手当金の申請や労災認定の治療や休業期間の証明として必要です。
診断書の費用の目安を知る
パワハラの診断書を申請する際は、診断書の費用について目安を知っておくべきでしょう。診断書は保険適用ではなく、自費で支払わなければなりません。簡単な証明書から慰謝料を請求する裁判用の証明書まで、さまざまな種類があります。中でも、パワハラ被害に関連する診断書の費用は、次の通りです。
- 病院所定様式の入院・通院証明書(診断書):5,500円
- 精神障害者通院医療費公費負担申請書:5,500円
- 裁判用診断書および回答書:11,000円
- 休業証明書(公務災害):11,000円
- 特殊な診断書(複雑):11,000円
- その他の簡単な証明書:3,300円
出典元:国立研究開発法人国立国際医療研究センター「診断書等料金表」 をもとに作成
これらは、あくまでも特定の医療機関が公表する目安です。診断書の費用は、医療機関によって様式や金額が異なる場合があるので、依頼する前に直接確認することをおすすめします。
診断されることが多い病名を知る
パワハラ被害を受けた被害者は、次の病名で診断されることが考えられます。
診断されることが多い病名 | 症状の特徴 |
---|---|
うつ病 |
|
適応障害 |
|
統合失調症 |
|
自律神経失調症 |
|
不眠症 | 以下の睡眠障害が特徴となる
|
参考:
パワハラの診断書をもらう際のポイント
パワハラで心身の不調を感じている人は、前述の通り、医療機関に診断書の申請ができます。診断書をもらうときは、いくつか意識しておくべきポイントがあります。
パワハラの発生日から診断書をもらうまでの期間を長くしない
パワハラの診断書をもらうときは、パワハラ行為が発生した日から診断書をもらうまでの期間を長くしないことが重要です。もし、パワハラによる被害を労災として認めさせる場合は、診断書の提出が必要になります。
提出する診断書には、精神障害の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることが要件となります。パワハラ発生日から診断書をもらうまでの期間が開く場合は、受けたパワハラ行為と症状の因果関係が認められない場合もあるでしょう。そのため、診断書の作成までの期間は長くしないことが必要です。
診断書が証拠になるとは限らない
受けたパワハラ行為が精神障害と関係ない場合は、診断書が証拠になるとは限りません。診断書は、書かれた病状が明らかにパワハラ行為が原因で発症している場合に効力を発揮します。
診断書の扱いにおいて、病気の発症時期が近いと言っても、発症原因がパワハラ以外の要因であると診断された場合、パワハラ行為の証拠として認められません。
診断書なしではパワハラ被害は認められない?
診断書がない場合は、パワハラ被害を判断することは難しくなります。事案によっては、診断書がなくてもパワハラの証拠として録音した音声データ、メールやSNSのメッセージ、目撃者の証言などで、パワハラが認められることもあります。例えば、医療機関に通院した証明となる領収書や、薬局で調剤を記録した書類などです。また、パワハラの証拠として録音した音声データ、メールやSNSのメッセージ、目撃者の証言なども重要な証拠になります。
ただし、労災認定や損害賠償請求などで第三者の判断が求められるため、診断書の有無は重要なポイントになるでしょう。パワハラ被害の診断書は、提出したほうが有利になると考えられます。
パワハラ被害と診断書の効力について理解しよう
パワハラ被害は、診断書の効力によって被害者の立場を有利にする役割があります。診断書は、医師がその患者の病名や治療に要する期間などを証明する判断材料になるでしょう。
パワハラ行為により精神障害となって休職を余儀なくされた場合は、被害者の積み上げてきたキャリアにも影響を及ぼします。精神疾患を発症したあとの将来を考えた場合は、パワハラ被害に対して責任を追及したくなるでしょう。
パワハラ被害に対して被害者が起こす行動は、損害賠償や、労災認定による補償などの請求です。これらの請求は、民事裁判や労働基準監督署の調査など、会社以外の第三者による判断で決定します。そのため、医師の見解による診断書は、第三者の判断を促すうえで重要な役割があると言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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