- 作成日 : 2023年1月27日
士業の方は注意!社会保険における常時5人以上とは?対応方法を解説
個人の事業所は、従業員が常時5人以上となった場合、一部の業種を除き社会保険の強制適用事業所となります。加入条件を満たす従業員がいる場合には、社会保険の加入手続きが必要です。
2022年10月に適用業種の範囲変更があり、これまで対象外であった士業の個人事業所も、この「常時5人以上」の条件が適用されるようになりました。
目次
社会保険における常時5人以上とは?適用拡大について
現行、社会保険の適用対象は「業種にかかわらず常時1人以上の従業員を雇用する株式会社等の法人の事業所」もしくは「適用業種を営む常時5人以上の従業員を雇用する個人の事業所」となっています。社会保険の適用事業所の適用業種に2022年(令和4年)10月から士業が追加されました。とりわけ、弁護士や会計事務所などの士業を営んでいる個人の事業所は注意が必要です。
社会保険における個人事業所の加入について
健康保険および厚生年金保険(社会保険)は、個人事業所の場合、「適用業種を営む常時5人以上の従業員を雇用する事業所」が強制適用事業所の条件となっています。強制適用事業所になると、被保険者となる条件を満たす従業員を社会保険に加入させる義務を負います。
「常時5人以上の従業員」には、正社員のほか、パート・アルバイトの中でも週および月の所定労働時間・日数が、同事業所で同様の業務に従事する正社員のようなフルタイムで勤務している常用雇用の労働者の3/4以上となる従業員など、労働時間が短い従業員も含まれます。
令和4年10月の変更点
弁護士や公認会計士といったいわゆる「士業」と呼ばれる個人事業所は、常時5人以上の従業員を雇用していても、これまでは社会保険の強制適用事務所の対象外とされてきました。しかし、2022年(令和4年)10月1日より、これら士業の個人事業所も常時5人以上の従業員を雇用する場合には強制適用事業所の対象となります。
対象となる士業は?
対象となる士業は、会計・法律に関わる士業です。具体的には、以下のものが該当します。
- 弁護士
- 沖縄弁護士
- 外国法事務弁護士
- 公認会計士
- 公証人
- 司法書士
- 土地家屋調査士
- 行政書士
- 海事代理士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 弁理士
被保険者となる方は?
上記の個人事業所が適用事業所となった場合、「正社員」や「週または月の所定労働時間・日数が通常の労働者の3/4以上である従業員」が社会保険の被保険者となります。
なお、社会保険の適用拡大の対象となる厚生年金保険の被保険者数が101人以上となる「特定適用事業所」や、100人以下でも労使の合意により適用拡大の対象となることを申し出た「任意特定適用事業所」に該当する場合には、従業員の被保険者となる条件が異なります。
「特定適用事業所」や「任意特定適用事業所」では、所定労働時間や所定労働日数が正社員の3/4未満の従業員であっても、以下の条件を満たすと社会保険の加入対象者となります。
- 週20時間以上勤務している
- 賃金月額が8.8万円以上
- 2カ月以上継続して雇用される見込み
- 学生でないこと
事業の事務所であっても、被保険者の条件を満たすパート・アルバイトを採用したときには、健康保険・厚生年金保険の加入手続きを速やかに行いましょう。
常時5人以上で社会保険の適用対象となった場合の手続き
では、従業員が増えるなどし「常時5人以上」の従業員を雇用するようになって社会保険の適用対象となった場合の会社として行う手続きについて見てみましょう。
「新規適用届」および「被保険者資格取得届」を日本年金機構に提出する
「新規適用届」は事業所が社会保険の適用事業所となる条件を満たしたときに提出する書類です。従業員の社会保険加入の手続きは「被保険者資格取得届」の提出によって行います。
法人の場合は社長や役員も被保険者となりますが、個人の事業所の場合は、事業主自身や家族は社会保険の被保険者となることができません。ただし、事業主の家族の場合、就業規則や出勤簿、賃金台帳などによって、労働条件・労働時間・賃金などが他の従業員同様に管理されているなど、一定の条件を満たす場合には、被保険者となることが認められるケースがあります。
「新規適用届」は、事業主が日本年金機構に提出します。詳細は以下の通りです。
提出期限:適用事業所の条件を満たした日から5日以内
提出先:事業所を管轄する年金事務所、または事務センター
提出方法:窓口(年金事務所のみ)、郵送、電子届
様式:日本年金機構のウェブサイトからダウン―ドできます。
また、「被保険者資格取得届」についても、新規適用届と同様に、社会保険に加入するべき事由が発生した日から5日以内に管轄の年金事務所、または事務センターに提出します。
本来であれば、社会保険に加入するべき従業員の資格取得届の提出がされていなかった場合、事実が判明した段階で届出を行うとともに、過去にさかのぼって保険料を納付する必要があります。
「被扶養者異動届」が必要になるケースも
新たに健康保険、厚生年金保険に加入する従業員に、「被扶養者」に該当する家族・親族がいる場合、「被扶養者異動届」の提出が必要になります。被扶養者異動届とは、被扶養者の追加・削除のほか、名前の変更や年収など被扶養者の情報を変更する必要がある場合に、事業主経由で提出する書類です。
事業主は、対象となる事由が発生した日から5日以内に、管轄の年金事務所または事務センターに書類を提出します。被扶養者になる対象者によっては、続柄を確認する戸籍謄本や、収入要件を確認する書類の提出が必要です。
参考:家族を被扶養者にするとき、被扶養者となっている家族に異動があったとき、被扶養者の届出事項に変更があったとき|日本年金機構
常時5人以上における社会保険適用の注意点
常時5人以上の従業員を有する場合、以下のようなケースでは、社会保険の手続きをする上で注意する必要があります。
共同代表の場合の社会保険手続き
事業所が共同代表で運営されている場合、通常は従業員と雇用契約を結んでいる代表者が、社会保険の手続きを行います。代表者が連名で従業員との雇用契約を結んでいる場合には、代表間で調整を行い、いずれかの代表者が事業主として手続きを行います。
従業員が他事務所と兼業していた場合
従業員が他の事業所と兼業している場合には、それぞれの事業所において、被保険者になるかどうかの適用資格を判断します。
適用資格については、通常の被保険者となる条件と同様です。その従業員が働いている複数の事業所の双方で常用雇用されている場合や、同様の業務に従事する正社員など常用雇用の労働者の週の所定労働日数・月の所定労働日数の3/4以上勤務している場合には、それぞれの事業所において社会保険の適用資格を得ることになります。
このようにダブルワークで勤務する従業員は、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を管轄の年金事務所に提出し、主たる事業所を選択します。
参考:複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構
従業員が増えるタイミングで社会保険の加入手続きを確認しよう
これまで社会保険の適用事業所となっていなかった場合でも、適用事業所の条件を満たすようになった場合には、対象となる従業員の社会保険手続きを行う必要があります。
また、2022年10月の変更により、従来であれば社会保険の適用外だった士業を営む個人事業所も、「常時5人以上の従業員」を雇用する場合には社会保険の強制加入の対象となる点に注意が必要です。
従業員がパート・アルバイトでも所定労働時間によっては社会保険の加入対象となります。従業員が増えたタイミングで、社会保険の適用条件を確認し、遅れることのないように手続きを行いましょう。
よくある質問
社会保険の加入が義務となる常時5人以上とは何ですか
個人事業所については、雇用する従業員が5人以上となった場合、一部の業種を除き社会保険の適用事業所となり、被保険者となる要件を満たす従業員の社会保険の加入手続きを行う必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
常時5人以上で適用事業所となった場合の手続き方法について教えてください
該当事由が発生した日から5日以内に、管轄の年金事務所又は事務センターに「新規適用届」を提出します。同時に、加入対象となる従業員の「被保険者資格取得届」を提出し、社会保険の加入手続きを行います。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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