- 更新日 : 2024年9月4日
休業手当とは?休業補償との違いや計算方法も解説!
新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期、感染症拡大を回避するため、多くの企業で従業員を休業させました。
労務が提供されない場合、使用者は対価となる賃金を支払わなくてよいというのが「ノーワーク・ノーペイの原則」です。
にわかに注目されるようになったのが休業手当です。
今回は、「ノーワーク・ノーペイの原則」の例外である休業手当について意義、対象者、要件などについて詳しく解説していきます。
目次
休業手当とは?
労働契約法では、
「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」(法6条)
としており、労務の提供と賃金の支払いが対価関係にあるとしています。
法的には、これが「ノーワーク・ノーペイの原則」の根拠になると言えるでしょう。
一方、労働基準法では、
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」(法26条)
と規定しています。
休業手当とは、この労働基準法26条が定める使用者に帰責事由がある休業において支払いが義務づけられている手当のことです。
休業手当と休業補償の違い
休業手当と紛らわしいものに休業補償があります。こちらも労働基準法に規定があり、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかつた場合においては
「療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償をおこなわなければならない」(法76条)
としています。
労働基準法では、業務上の負傷・疾病などの災害補償責任は使用者の無過失責任としており、休業補償だけでなく、治療代である療養補償、障害が残った場合の障害補償、死亡した場合の遺族補償などについて支払義務を課しています(法75条~88条)。
休業手当は使用者に帰責事由がある場合に支払義務がありますが、休業補償は使用者に過失がなくても労災事故が生じた場合に支払義務があるという違いがあります。
そして、労災事故による休業補償をはじめとする災害補償については、被災労働者や遺族を迅速かつ確実に救済するため、使用者に保険加入を義務づけています。これが労災保険(労働者災害補償保険)であり、労災事故が発生した場合、使用者が補償するのではなく、労災保険から休業補償給付などの保険給付がなされることになっています。
※休業補償・休業補償給付についてはこちらの記事をご覧ください。
休業手当と有給休暇の違い
休業手当と同様に「ノーワーク・ノーペイの原則」の例外となるものに年次有給休暇があります。
休暇は本来、労働義務がある日(労働日)の労働義務を使用者が免除している休みであり、労務が提供されていないため、賃金の支払義務はありません。
しかし、労働基準法では、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために有給で休むことができる年次有給休暇の付与義務を定めています。
「使用者は、その雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、または分割した10労働日の有給休暇を与えられなければならない」
としています(法39条)。
休業手当の対象となる期間とならない期間
労働基準法の休業手当の支給対象となるのは、使用者に帰責事由がある休業期間です。
したがって、台風や地震など、天災事変による不可抗力で休業を余儀なくされた場合は、使用者に支払義務はありません。
ここで言う不可抗力とは、
- その原因が事業の外部より発生した事故であること
- 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
の2つの要件を満たすことが必要とされています。
一方、使用者の帰責事由については、広く解釈されており、機械の検査、原材料の欠乏、監督官庁の勧告による操業停止、親会社の経営難のための資金・資材の獲得困難など、使用者側に起因する経営上の障害で休業した場合なども含まれると解釈されています。
これらの事由による休業期間は休業手当の支払対象となります。
なお、新型コロナウイルスに感染し、都道府県知事がおこなう就業制限によって罹患した労働者が休業する場合は、使用者の帰責事由による休業に該当しません。しかし、職場に感染が拡大することを避けるため、罹患していない労働者に休業を指示する場合は、使用者の帰責事由があることになり、休業手当の支払義務が生じます。
休業手当の対象者
休業手当は、正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など、雇用形態に関係なく全ての労働者が支給対象となります。
では、大学生などの内定者に経営上の事情によって入社予定日から自宅待機を命じる場合はどうでしょうか。
内定であっても法的には労働契約は成立しています(始期付解約権留保付労働契約)。したがって、休業手当の支払義務があります。
休業手当支給額の計算方法
休業手当の支給額は、平均賃金の100分の60以上とされています。
労働基準法では、平均賃金は、算定すべき事由の発生した日以前の3カ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額としています(法12条)。
平均賃金の計算式は、次のようになります。
ただし、賃金締切日がある場合は、休業日の前日ではなく、直前の賃金締切日から直近3カ月で計算します。
なお、次のような期間における日数と賃金は除外します。
- 業務上の負傷・疾病の療養のための休業期間
- 産前産後の休業期間
- 使用者の責に帰すべき事由による休業期間
- 育児・介護休業期間
- 試みの使用期間
※休業手当の詳しい計算方法については、こちらの記事をご覧ください。
休業手当の計算に役立つ無料テンプレート・ひな形
以下より、休業手当の計算に役立つテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
休業の種類と要件
ここでは、あらためて休業手当が支払われるケースか否か、また、それに代わる何らかの給付があるかについて整理しておきます。
労働災害による療養
業務災害については、休業手当の対象ではなく、前述のように使用者が加入する労災保険から保険給付されます。療養中は、治療代に当たる療養補償給付及び休業期間中の生活の補償として休業補償給付が支給されます。労災保険は被保険者の概念がなく、全ての労働者が対象となります。
産前産後休業
労働基準法では、母性保護の観点から産前産後の女性労働者には産前6週間産後8週間の休業について定めています(法65条)。
産前については女性労働者が請求した場合に就業させてはならず、産後は、6週間は必ず休業させなければなりません。6週間経過後は本人が労働することを請求し、医師が支障がないと認めた業務に就かせることは可能です。
この間は休業手当の支給対象とはなりません。使用者に賃金の支払義務はありませんが、健康保険の被保険者であれば、出産手当金が支給されます。
育児休業
育児・介護休業法では、原則として子が1歳になるまで労働者は男女ともに育児休業を請求できるとしています。
育児休業期間も休業手当の支給対象ではなく、使用者に賃金支払義務もありません。
ただし、労働者が雇用保険の被保険者である場合は、育児休業給付を受給することができます。
介護休業
育児休業と同様、育児・介護休業法において、要介護状態の一定の家族がいる労働者は対象家族1人について、通算93日まで3回まで分割して介護休業を取得することができます。
こちらも休業手当の支給対象ではなく、使用者に賃金支払義務もありません。
労働者が雇用保険の被保険者である場合は、介護休業給付を受給することができます。
会社都合
会社都合の場合は、使用者に帰責事由がある休業であり、すでにみてきたように休業手当の支給対象となります。
自然災害など
台風などの自然災害は不可抗力であり、使用者に帰責事由がないため、休業手当の支給対象とはなりません。
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金について
2020年、新型コロナウイルス感染症の影響に対応するため、雇用保険臨時特例法が制定されました。
新型コロナウイルスの感染が職場に広がることを回避するため、使用者の指示で罹患していない労働者を休業させた場合、休業手当の支払義務が生じます。
新型コロナウイルスの影響によって業績が悪化している事業者にとっては負担が大きいことから、政府は、雇用保険臨時特例法を制定し、休業手当を支払った事業主には雇用保険の雇用調整助成金から助成することにしました。
また、休業手当の支給をする余裕がない事業主も想定し、休業手当を受け取っていない労働者には、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金を支給することにしました。
ただし、いずれも特例措置であり、2023年5月31日までが申請期限となっており、その後、制度は終了します。
休業手当について知っておこう!
「ノーワーク・ノーペイの原則」の例外である休業手当について意義、対象者、要件などについて解説してきました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、メディアでも報じられ、休業手当の認知度は上がったのではないでしょうか。
雇用される労働者としては、どのような場合に支給されるのか、その要件や計算方法などは知っておくことが大切です。
よくある質問
休業手当とは何ですか?
使用者に帰責事由がある休業の場合、使用者に支払義務がある手当のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
休業手当の対象者について教えてください
正社員だけでなく、パート、アルバイトなど全て労働者が対象となります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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