• 更新日 : 2024年10月30日

クラッシャー上司とは?対策方法と企業ができる対応を紹介

クラッシャー上司とは、高圧的な言動や自己中心的な言動などで部下を追い込んでつぶしてしまう上司のことをいいます。パワハラに該当する可能性もあり、人材育成や組織作りに悪影響を及ぼします。

ここでは、クラッシャー上司の特徴や、クラッシャー上司が周囲に及ぼす影響を解説するとともに、企業としての対策について紹介します。

クラッシャー上司とは?

クラッシャー上司とは、本人は出世しているかもしれませんが、その名の通り部下を追い込んでつぶしてしまう人たちを指します。2017年に刊行された『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書・松崎 一葉著)で提唱された概念です。

クラッシャー上司は、叱責や恫喝などで部下に多大なストレスを与え、人材育成だけではなく、組織作りにも深刻な影響を与える可能性があります。

参考:クラッシャー上司|PHP研究所

クラッシャー上司とパワハラ上司の違い

クラッシャー上司は、職場で優位にある立場を利用して精神的・肉体的苦痛を与えるという意味では、パワハラに該当する可能性がある行動を取ります。他人の前で執拗に叱責する、成績が振るわない部下に暴力を振るう、人格否定をする、プレッシャーの大きい仕事を与え面倒を見ない、このような言動はパワハラ上司と一致するものであり、クラッシャー上司の言動はパワハラの一種ともいえるでしょう。

クラッシャー上司とパワハラ上司の違いは、行動の目的にあります。パワハラ上司は、自身の鬱憤や怒りの矛先としてパワハラを行います。クラッシャー上司は、自身の行動が正しいものだと思い込んでいます。部下のためになるからと、指導の方法を変えようとも思いません。他者への共感性が欠如しており、「なんでこんなこともできないのか」とできない従業員を叱責します。

一人ひとりの特性に合わせた指導や育成を行うことができず、自分本位で仕事を進めようとします。そのため、クラッシャー上司は周囲の人間をつぶしてしまうのです。

クラッシャー上司はなぜ出てきた?

クラッシャー上司は、これまでの日本の企業の習慣が産んだものといえるかもしれません。新卒一括採用、終身雇用という言葉に代表されるように、日本では一つの会社に勤めたら定年まで働くという考え方が珍しくありません。そのため、従業員は年功序列で昇進していきます。仕事さえできれば少しコミュニケーションに難があったとしても、管理職に昇進できてしまうというのがひと昔前の組織です。

さらに、昨今の組織が導入している、公平性・透明性を保てる人事評価制度があったとも限りません。学歴や年齢など、属人的な基準で評価され昇進した管理職もいたでしょう。上司の顔色ばかり見ている人が出世すると揶揄されるように、部下との個別の付き合い方が表に出ることも少なく、パワハラ・セクハラといった言葉の浸透率も今より低いものでした。

こうした組織の背景が、クラッシャー上司を野放しにし、「成果が上がれば良い」「熱心なくらいが良い」というような、部下を潰してしまう存在を生み出してしまったともいえます。

クラッシャー上司の特徴

クラッシャー上司の特徴を以下に解説します。

仕事で成果をあげている

クラッシャー上司は、もともと高い業務遂行能力を持っていた人に多い傾向があります。そのため、「部下もこれくらいできて当たり前」という考えが根底にあります。部下を熱心に指導する一方で、それぞれの特性などを考慮しないため、結果として部下を精神的に追い詰めてしまいます。

高圧的・一方的なコミュニケーションを取る

クラッシャー上司は、自分の言動がどのような影響を及ぼすかを想像できない傾向があります。自分の考えが正しいと信じているため、他人への共感性が欠如しており、高圧的なコミュニケーションを取ることが少なくありません。パワハラとも捉えられるような接し方を部下にすることもあります。

自己中心的

クラッシャー上司は、自分の言動や行動をすべて正しいと考えます。部下が何か失敗した際も、自分の指導が原因でそうなったとは考えません。また、自分自身の基準で物事を進めるため、価値観の違いや異なる意見を否定的に捉える傾向があります。

自分の失敗を他人の責任にする

クラッシャー上司は、自己防衛が強い傾向にあります。自分が正しいと考えているため、自分のミスを素直に認められません。部下がミスしたときは、些細なミスまで取り立てて責め立てます。自分の責任でトラブルが発生した際は、責任を認めず、他者に転嫁してしまうのも特徴です。

部下への要求が過剰

自分ならできる・昔は自分はできたという基準が唯一のため、部下に対する要求も過剰になりがちです。要求を達成できない部下に対しては、「なんでこれぐらいできないんだ」と責め立てます。自分自身が仕事に熱心に打ち込むのが当たり前という感覚のため、成果を出さない人を認められません。また、部下が成果を出したとしても、「それくらいできて当然」と、部下の成長を言葉にして誉めることをしません。

承認欲求が強い

クラッシャー上司は、自分の成果を認められたいという承認欲求を強く持っています。部下に対して仕事ができることを当たり前に求める一方で、部下が自分よりも大きな成果を出すことを嫌います。そのため、仕事のできる部下が自分の立場を脅かすと考え、良い提案を却下することや、成果を横取りするといったこともあるでしょう。

クラッシャー上司が周りに及ぼす影響

クラッシャー上司は、さまざまな悪影響を周囲に及ぼします。

部下の生産性が落ちる

クラッシャー上司は、部下のやり方を否定的に捉えます。提案や改善を却下することも少なくありません。部下は、クラッシャー上司の顔色をうかがうようになり、本来成果を出すためにするべきことを見失います。そのため、結果として部下の生産性が低下します。

部下の成長・人材育成が進まない

クラッシャー上司は、部下の強みを伸ばすといった育成を行いません。仕事ができて当たり前、仕事ができなければ叱責するというスタンスのため、いつまでたっても部下は仕事のやり方を身につけられません。そのため、人材育成が進まず、チームや組織としての生産性も低下します。

クラッシャー上司のいるチームの士気が低くなる

クラッシャー上司は、他者の前でも部下を叱責します。そのため、特定の部下だけではなく、チーム全体の士気が下がる傾向があります。チーム全体で目標を達成するというようなチームビルディングを行えないため、チームはモチベーションを保つことができなくなってしまいます。

クラッシャー上司のいるチームの退職者が増える

部下に必要以上に精神的な負荷をかける上司の元では、誰も働きたいとは思わないでしょう。そのため、退職者が増える可能性があります。クラッシャー上司に仕事の相談をすることは、部下にとって大きな負担です。クラッシャー上司の言動は、しばしば部下との信頼関係を壊します。

クラッシャー上司を放置するリスク

クラッシャー上司を放置していると、中長期的に見てもネガティブな影響が発生します。

優秀な人材を雇用できない

クラッシャー上司を放置していると、職場の環境悪化が外部にも影響を及ぼす可能性があります昨今では、SNSで個人が外部に情報を発信することは珍しくありません。口コミというような形で、「ブラック企業」といったイメージが企業につくこともあるでしょう。また、部下とクラッシャー上司のトラブルが民事裁判に発展した場合、さらなるネガティブなイメージが企業につきます。そのような悪循環が続くと人材育成が進まないばかりか、優秀な人材を採用できず、採用難にもつながるのです。

イノベーションの減少・創発性の低下

クラッシャー上司は、自分の考えが絶対正しいと思っているため、異なる意見や価値観を否定します。そのような環境では、部下はクラッシャー上司の意見に従うだけとなり、新たな視点やアイディアが生まれにくくなるでしょう。

企業としての競争性の低下

イノベーションが起こりにくい職場風土では、企業としての競争性が低下する可能性があります。変化の激しい昨今では、市場のニーズに応えるため、企業も新しいサービスや商品を生み出すことが必要になるでしょう。しかし、クラッシャー上司のような存在が組織内に多くいると、新しい事業や商品が生まれにくくなり、結果として企業の競争性が低下します。

クラッシャー上司について企業ができる対策

労働施策総合推進法では、パワハラがないように企業の方針を明確化し、相談窓口の設置やハラスメントが起きたときの迅速・適切な対応、再発防止の措置などを、「措置義務」として企業に義務付けています。クラッシャー上司が原因で従業員から対応を求められるようなことがあれば、企業として適切に対応しなければなりません。

クラッシャー上司の存在に気付いたら、組織としてどのような対策ができるでしょうか。また、クラッシャー上司を作らないために企業ができる対策も検討する必要があります。

コンプライアンス研修を実施する

コンプライアンス研修などで、上司として望ましい部下とのかかわり方を身につける機会を提供します。指導の仕方一つ取っても、昔と今では異なります。ケース別に部下とのかかわり方を学ぶことができれば、上司がマネジメントに求められるスキルを伸ばせるようになるでしょう。研修を通じてコーチングやヒアリング能力などを身につけ、部下の指導や育成に活かしてもらいます。

クラッシャー上司がいる場合の相談窓口を設置する

クラッシャー上司と周囲の問題が深刻化する前に手を打てるよう、相談窓口を設置します。社員が何かあった際、気軽に相談ができるようなものが最適です。プライバシー遵守の形で相談内容には第三者が適切に対応するとともに、相談窓口の存在を日頃から従業員に周知することが重要です。

評価制度・昇進制度の改善を行う

クラッシャー上司は、もともと仕事で成果を出す人に多い傾向があります。プレイヤーとして目標を達成する分には、問題ないというケースもあるでしょう。しかし、クラッシャー上司が部下をマネジメントする場合、さまざまな悪影響を及ぼすというのが大きな問題です。

管理職の評価ポイントを明確にし、部下の成果やチームの成績が上司の評価につながる形に制度を改善することも検討しましょう。クラッシャー上司が、自分の指導方法や言動が評価とつながっていると気付くことができれば、言動を改めるきっかけとなります。

場合によってはクラッシャー上司の降格を検討する

クラッシャー上司の周囲に及ぼす影響が深刻な場合、上司の降格を検討します。ただし、降格は本人にとって不利益となる処分のため、就業規則などの社内ルールに基づき、公正に進めなければなりません。

万が一、クラッシャー上司で問題が起きたら-対応手続き

もし、クラッシャー上司が原因で問題が起きた場合の対応策について記載します。

① 被害・事実関係をヒアリング、明確にする

まずは、事実関係の調査を行います。被害者・被害の状況などを関係者からヒアリングします。その際、関係者のプライバシーを遵守することが重要です。ヒアリングは、利害関係のない第三者が行います。一方からの意見を鵜呑みにするのではなく、客観的な事実を集めましょう。

② 安全配慮義務違反について考慮する

安全配慮義務違反とは、企業が従業員に対して、「安全と健康を確保しつつ働くために必要な配慮をする義務」をいいます。労働契約法第5条や、労働安全衛生法第3条1項で定められているものです。

たとえば、クラッシャー上司のパワハラ行為に対して、会社が何も措置しなかった場合、安全配慮義務違反として訴えられる可能性があります。パワハラ、過重労働、労災の可能性がある事案については、会社は適切な対応を取らなければなりません。

クラッシャー上司のもとで働いている部下が会社に相談してきた場合、真摯に対応します。被害者が心身に不調をきたしているケースもあるでしょう。ヒアリングのなかで被害者に様子のおかしい点が見られたら、産業医につなげるなど、専門家の適切な支援を得られるようにします。

③ クラッシャー上司に指導を行う

クラッシャー上司に対して指導を行います。指導の内容は、被害の程度によって客観的な事実確認の調査をもとに決定します。口頭での指導で済む場合もあれば、反省文の提出などを促すケースもあるでしょう。被害の程度や行為の内容によっては、懲戒免職などの処分に相当するほど深刻なケースもあります。その際は、就業規則に基づき、適切に処分を決定します。

労働組合の種類

クラッシャー上司のような存在に対応する際、労働組合の存在が助けになることもあります。ここでは、基本的な労働組合の種類について紹介します。

オープンショップ

オープンショップ制とは、従業員が個人の意思で労働組合への加入を決めることができる制度です。公務員については、原則としてオープンショップ制での労働組合運営となっています。

ユニオンショップ

ユニオンショップ制とは、従業員に対して労働組合への加入が義務付けられているものを指します。自動車関連や電機関連など、業界によってはユニオンショップ制を採用している企業もあります。

クラッシャー上司を放置せず企業として対策を

クラッシャー上司は、部下だけではなく組織全体にネガティブな影響を与えます。「仕事ができる人だから」「あの人のやり方だから」という感覚で放置していると、離職率の増加や従業員のモチベーションなど、組織のリスクが高まります。

クラッシャー上司に対しては、企業が研修を行い上司のマネジメントスキルを高めることが有効です。相談窓口を設置し、もしものときに備えましょう。


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