• 更新日 : 2024年8月29日

追い出し部屋とは?実態や過去の訴訟事例、他の退職勧奨の方法を紹介!

追い出し部屋とは、企業が不必要と考える従業員を退職に追い込むための特別な部署等の呼び名です。実際にはもっともらしい部署名が付けられています。追い出し部屋に従業員を配置転換する形での退職勧奨を行うと、違法と判断される可能性があるため注意が必要です。この記事の内容を参考にして、違法な退職勧奨を行わないようにしましょう。

追い出し部屋とは?

追い出し部屋とは、企業が不必要と考える従業員を退職に追い込むために設けられた部署などのことです。他部署や他の従業員等と関わりのない部署、重要ではない単純作業に従事させる部署などのことを指すことが多いと言われています。実際には追い出し部屋という名称ではなく「キャリアデザイン室」「事業・人材強化センター」など、社外からは分からないもっともらしい名称が付けられていることが多いようです。

過去には大手企業における設置の実態が明るみに出たことがあり、追い出し部屋が原因となる裁判例も見られます。

追い出し部屋の実態は?

追い出し部屋は実際にどのような形で設けられているのでしょうか。本章では追い出し部屋の実態について、3つの事例から解説します。

単純作業のみに従事させられる

追い出し部屋として、アルバイトが担当するような単純作業に延々と従事させられる部署が設けられる場合があります。業務は単純作業のみで、仕事の重要性ややりがいはなく、給料が上がることもないため、不安感を高め、働く意欲を失うことになります。

達成不可能なノルマが課される

追い出し部屋として、到底達成することができないようなノルマを与えられる部署が設けられる場合があります。ノルマ未達を厳しく責められるため精神的にもダメージが大きく、働く意欲を失ってしまいます。

転職活動を勧められる

退職させたい社員を配置し、転職活動を促すための追い出し部屋が設けられる場合があります。スキルアップ研修として適性診断を受けさせて、どのような回答をしようと転職を促す結果になるような事例もあるようです。

この追い出し部屋では、キャリアアップにつながるスキルアップであれば何をしてもよいとされます。無事に転職先が見つかればよいのですが、転職先が見つからないと評価も下がり、ますます会社に居づらい雰囲気になります。

追い出し部屋で退職に追い込む理由は?

労働契約法の定めにより、会社による一方的な解雇は無効とされています。合理的な理由があり社会通念上相当とみなされる場合に限り解雇が認められる規定になっていますが、かなりハードルが高いのが実情です。この労働契約法の規定にも関わらず、企業が不当に解雇した場合は違法になるだけでなく、訴訟に発展する場合も多いです。訴訟に発展することでその事実が世間に大きく広まる可能性があり、企業イメージを大きく毀損することになりかねません。

このように企業として不必要な従業員を退職させたいと考えた場合、容易に解雇することができないため、追い出し部屋に配置転換して自ら退職に追い込む形を取る場合があるようです。

追い出し部屋は違法?訴えられる可能性は?

従業員の配置転換自体は、会社に配転命令権が認められているため違法ではありません。ただし追い出し部屋への配置転換はその目的に退職を促すことがあると考えられるため、それが客観的に明らかになる場合には配置転換は違法と判断されます。

また、退職勧奨を行うこと自体も違法ではありませんが、追い出し部屋とされる部署に配置転換した上で、パワハラなどが伴う過度な退職勧奨を行えば違法とされます。

したがって、従業員を追い出し部屋に配置転換し、過度な退職勧奨を行った場合には従業員に訴えられて、違法と判断される可能性があります。

追い出し部屋に関連する過去の訴訟事例は?

以下では、追い出し部屋に関連する過去の訴訟事例を2例紹介します。

大和証券

概要

大和証券の子会社に出向し、追い出し部屋で働かされていた従業員が会社側に対して200万円の損害賠償と未払い給与の支払いを求めていた訴訟の上告審(最高裁)です。

原告は大和証券の子会社の日の出証券に出向し、研修を受講後に大阪本店営業部に配属されましたが、営業部内には席は用意されず、廃止されて空室となった第2営業部の部屋に案内されました。業務は1日100件のノルマの外回り営業のみでした。部屋には長机、パイプ椅子、パソコン1台、電話のみが置かれていて、社内行事や会議、社内のファイルサーバーへのアクセスを禁じられるという典型的な追い出し部屋と言える過酷な環境でした。

結果(平成28年最高裁での上告棄却で大阪高裁判決が確定)

大阪地裁では原告を隔離したことについての会社側の主張を疑問視しました。配置転換に必要性と合理性が認められず、自主退職に追い込むための嫌がらせと判断し、控訴審である大阪高裁、最高裁もその内容を支持する判断を行いました。結果、150万円の損害賠償の支払が命じられました。

参考:最高裁が大和証券に賠償命令、追い出し部屋訴訟について|企業法務ナビ

新和産業

概要

営業課長であった原告が会社から倉庫への配置転換命令と、課長からの降格、給与の減額(半額)を受け、配置転換命令の無効確認と損害賠償を請求した訴訟です。

原告は、配置転換前に会社からの退職勧奨を受けたものの、それを拒否していました。配置転換された倉庫での仕事はもともと従業員1人で担当していたもので、原告を配置転換した後も業務量が増えるわけではなく、原告の仕事はほとんどない状況でした。

結果(平成25年大阪高裁判決)

裁判所は会社の配置転換命令を退職勧奨拒否の報復として退職に追い込むために行ったものと判断し、権利の濫用と判断して無効と判断しました。また、原告に対して50万円の慰謝料の支払いを命じました。

参考:【第31回】 「配置転換及び降格についてその無効とそれに伴い減額された賃金の支払いを求めた事案」 ― 新和産業事件|あかるい職場応援団 

追い出し部屋以外で退職勧奨を実施する方法は?

退職勧奨を行うこと自体は、直ちに違法と判断されるわけではありません。したがって、問題行動等により退職をしてほしいと考える従業員がいる場合に、追い出し部屋への配置転換等の強引な手法によらない退職勧奨を行うことは可能です。

退職勧奨を行う際は従業員と面談を行います。その際には退職勧奨の理由を具体的に説明します。また、退職勧奨に応じた場合に、退職金の割増や転職活動の支援など従業員が得られる優遇措置を提示することも重要です。これは従業員が退職を強要されたのではなく、合意した事実を示すことにもなります。また、合意に至った場合には合意書を作成し、会社と従業員が署名押印のうえ、保管しておきます。

追い出し部屋を含む退職勧奨を実施する際の注意点は?

退職を強要すると違法と判断される可能性があります。退職勧奨を行う場合は、従業員の自由意思に基づき退職を決断してもらえる形で進めることが重要です。

退職勧奨を実施する際の注意点として、退職強要と考えられるケースを念頭に置き、以下で4点紹介します。

面談の回数や時間

面談の回数が多すぎたり、時間が長すぎたりすると退職強要として違法と判断される可能性があるので注意が必要です。裁判例では1時間を超える面談を5回実施したケースで違法と判断されています。

また、時間帯も就業時間内に設定しましょう。回答を求める際は即日回答を求めてはなりません。十分に検討する時間を与えられず、退職以外に選択肢がないと考えてしまった上での退職の意思表示の場合は、無効と判断される可能性があります。

面談時の人数

会社側の出席者数が多すぎると対象従業員を威圧したとみなされ、違法と判断される可能性があります。一方、1対1の面談の場合も感情的に対応してしまうリスクが否めません。したがって、会社側は2~3名程度で対応するのがよいでしょう。

発言内容

退職を強要していると受け取られるような発言は、絶対に避けなければなりません。従業員の名誉感情を害する発言や、退職届を提出しない場合に解雇すること、降格や減給などを示唆することもしてはなりません。つまり、パワハラにあたるような発言は避けなければならないということです。

また、従業員が拒否する意思を示した場合には退職勧奨を中止する必要があります。

配置転換や業務内容変更の方法

合理的とは言えない配置転換や業務内容の変更を行ってはなりません。配置転換や業務変更の理由について、従業員に合理的な説明ができなければならないことは言うまでもありません。

また、配置転換や業務内容変更後の業務内容が、本人が本来なすべき業務とはかけ離れた、簡単あるいは異常にハードな業務、1人だけ個室に隔離して精神的に苦痛を覚えるような形で業務を行わせるものであってはなりません。

このような配置転換等を行うと、退職を促すことを目的としたものと判断される可能性があります。

違法な退職勧奨は企業にマイナスの影響を与える

労働契約法の定めにより、企業が従業員を解雇するハードルは高いのが実情です。問題行動等により退職を求めたい従業員に対しては退職勧奨を行えますが、追い出し部屋への配置転換などの形で、違法と判断される退職勧奨を行うことは企業に明らかにマイナスの影響を与えます。

違法な退職勧奨を行うと訴訟リスクがあることはもちろんですが、それが従業員の間に広がると、本来戦力として残ってほしい従業員のモラールも低下し、離職等を招くなどの悪影響を与えるでしょう。この記事の内容を参考にして、自社で違法な退職勧奨が行われないよう細心の注意を払ってください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事