• 更新日 : 2025年3月11日

給与計算はAIで自動化できる?RPAとの違いや仕事がなくなるのかも解説

近年、AIを活用した給与計算が注目されています。AIは、勤怠データの取り込みや給与計算、社会保険料の算出、給与明細の作成までを自動化し、業務の効率化と正確性の向上に貢献します。しかし、AIとよく比較されるRPAとの違いは何か、どのようなメリット・デメリットがあるのか、導入する際の注意点は何かを理解することが重要です。本記事では、給与計算におけるAIの役割やRPAとの違い、AIを導入することで得られる効果と課題、さらに今後AIが給与計算担当者の業務にどのような影響を与えるのかについて詳しく解説します。

給与計算におけるAIの役割

AI(人工知能)を活用すると、給与計算の複雑な作業を自動化し、業務の効率を大幅に向上させることができます。AIを搭載した給与計算システムは、過去のデータを学習しながら、大量の給与情報を処理し、計算ミスを防ぐ機能も備えています。

具体的には、勤怠データの自動取り込み、基本給・残業代・手当の計算、社会保険料や税金の算出、さらには給与明細の自動作成まで一連の流れをAIが担います。従来人手に頼っていた部分をAIがカバーすることで、担当者は確認や例外対応といった付加価値の高い業務に注力できるようになります。

給与計算におけるAIとRPAの違い

給与計算を自動化する方法として、AIとRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)がよく比較されます。

RPAは、あらかじめ設定された手順に従って、パソコン上の作業を人間の代わりに自動で実行するソフトウェアです。例えば、勤怠データを転記したり、システムに情報を入力したりするような単純で繰り返しの多い業務に適しています。RPAはプログラムされた通りに正確に作業を繰り返しますが、例外的な対応や状況に応じた判断はできません。

一方AIは、データを学習し、自ら判断してタスクを実行できるシステムです。例えば、給与計算において異常な勤怠データを検出したり、将来の人件費を予測したりすることができます。AIはパターンを認識し、状況に応じた柔軟な対応が可能ですが、RPAのように単体で決められた作業を繰り返すのは得意ではなく、通常は何らかのアプリケーションと連携して動作します。

まとめると、RPAは決められたルール通りに作業をこなすのが得意で、AIはデータをもとに学習し状況に応じて判断するのが得意です。

給与計算にAIを活用するメリット

給与計算にAIを活用するメリットについて、より詳しく見ていきましょう。

給与計算業務を効率化できる

AIを導入することで、給与計算の作業を大幅に効率化でき、コスト削減にもつながります。これまで担当者が手作業で行っていたデータ入力や計算業務をAIが自動化するため、作業時間を短縮することが可能です。例えば、数日かかっていた給与計算処理が数時間で完了するケースもあります。

業務の効率化により、残業代を抑えて人件費を削減できるようになり、浮いたリソースを他の業務へ振り分けることもできます。また、従業員に給与を支給するまでの時間を短縮することができます。さらに、AIは業務の繁忙期にも柔軟に対応できるため、追加の人員を確保する必要がなく、アウトソーシング費用の削減などのメリットも期待できます。

給与計算のミスを削減できる

従来の給与計算では、手入力ミスや計算間違いが発生しやすく、それが給与の支払いミスにつながることがあります。AIを導入することで、以下のようなミスを防ぐことができます。

  • データ入力ミスの防止
    AIは勤怠管理システムや人事データと連携し、自動でデータを取り込むため、手入力による間違いを防ぎます。
  • 計算ミスの防止
    基本給、残業代、手当、税金、社会保険料などの計算をAIが正確に処理するため、計算ミスがなくなります。
  • ルール違反の防止
    給与計算に関する法改正や就業規則の変更があった場合でも、AIが自動で最新のルールを適用するため、手動で設定変更を行う際のミスを防げます。

また、給与計算は担当者によって作業方法が異なる場合がありますが、AIを導入することで業務の標準化が可能になります。これにより、担当者のスキルレベルに関係なく、一定の品質で給与計算ができるようになります。

法改正に柔軟に対応できる

給与計算には、税制や社会保険料の改正が頻繁に発生します。AIを活用すれば、こうした変更にもスムーズに対応できます。AIが最新の法改正情報を自動で取り込み、計算ルールに反映するため、担当者が手動で修正する手間がかかりません。

例えば、残業代の計算ルールが変更された場合でも、AIによって自動でアップデートできれば、新しい法律に従った計算がすぐに適用されます。これにより、法令違反や給与計算ミスによる未払い・過払いなどのリスクを防ぎ、企業の信頼性を守ることができます。また、社内の給与テーブル変更にも対応しやすくなります。

給与計算にAIを活用するデメリット・注意点

給与計算にAIを活用するメリットがある一方、デメリットや注意点も存在します。

情報漏えいのリスクを考慮する必要がある

AIを導入する際に最も注意すべき点のひとつが、データセキュリティです。給与には個人の賃金やマイナンバーなど機密性の高い情報が含まれるため、情報漏えいのリスクを十分に考慮する必要があります。

そのため、暗号化の有無、バックアップの方法、アクセス権の設定などのデータ管理体制を十分に確認し、自社の情報セキュリティ基準に適合しているかを慎重に判断することが重要です。また、運用開始後も定期的にセキュリティ監査やシステムのアップデートを行い、安全性を維持する必要があります。

コストや運用負荷がかかる

AIを搭載した給与計算システムを導入するには、初期費用がかかる点もデメリットです。高機能なシステムほど高額になる場合が多く、中小企業にとっては大きな負担となります。

また、既存の人事・勤怠管理システムと連携させるために、データの移行や設定の調整が必要になります。この作業には多くの時間と労力がかかり、導入そのものが担当者の大きな負担になることもあります。

さらに、システムを適切に運用するためには、従業員への教育が欠かせません。AIを活用するといっても、完全に自動化されるわけではなく、最終的な確認やイレギュラーな対応は人間が行う必要があります。そのため、新しい操作方法や運用ルールを学ぶための時間が必要です。

AIを搭載した給与計算システムを導入した後も、定期的なメンテナンスやシステムアップデートが必要になるため、長期的な視点でコストや投資対効果を判断する必要があります。

給与計算にAIとRPAのどちらを導入すべき?

給与計算にAIとRPAのどちらを導入すべきかは、自社の業務内容や目的によって異なります。

例えば、給与計算の中でも、データの入力やシステムへの転記作業など、単純でルールが明確な作業がボトルネックになっている場合は、RPAの導入が効果的です。RPAは比較的導入が容易で、すぐに業務に組み込めるメリットがあります。

一方で、就業規則の適用判断や、予測的な人件費の分析など、高度な処理が求められる業務にはAIの活用が向いています。AIは複雑なデータをもとに分析や判断ができるため、単純な作業の自動化を超えた効率化や最適化を実現できます。

また、AIとRPAを組み合わせて活用する方法もあります。例えば、RPAが勤怠データを収集し、AIがそのデータを分析して給与計算を行うという流れにすれば、それぞれの強みを活かして効率を最大限に高めることが可能です。RPAは決められた作業を正確にこなし、AIはそのデータを活用してより高度な処理を行うため、両者を組み合わせることで給与計算業務の自動化をより効果的に進められます。

そのため、どちらか一方を選ぶのではなく、業務内容に応じて最適な組み合わせを検討することが重要です。「定型作業の自動化にはRPA」「データをもとに判断が必要な業務にはAI」といった形で、適切に使い分けることで、給与計算業務の効率を最大限に高めることができます。

給与計算をAIで自動化すると仕事がなくなる?

AIが給与計算を自動化すると、「給与計算担当者の仕事がなくなってしまうのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、多くの専門家は「給与計算担当者の役割がすぐになくなるわけではない」と考えています。確かに、AIによって単純なルーチン作業は自動化されますが、給与計算には人間の判断や確認が必要な場面が残ります。

例えば、毎月の給与確定前には、経営者や他部署との調整が発生したり、イレギュラーな勤怠データや特別手当など、AIだけでは対応が難しいケースが出てきます。こうした場合、担当者が適切に判断し、対応することが求められます。また、給与計算は企業ごとにルールが異なり、細かい調整が必要な業務でもあります。

このように、AIが導入されても、給与計算担当者の仕事がすぐに不要になるわけではなく、業務の内容が変化すると考えられます。AIによって単純作業が減れば、その分担当者は、戦略的な人事業務や従業員対応といった、人にしかできない業務にシフトすることができます。AIは、あくまでも「優秀なアシスタント」として位置づけ、人間と協力しながら業務の生産性を高めるために活用されていくでしょう。

給与計算担当者がAI時代に求められるスキル

AIが給与計算に普及することで、担当者には新たなスキルが求められます。

データリテラシー

まず重要なのがデータリテラシーです。AIが出力したデータや分析結果を正しく読み取り、適切に活用できる力が必要です。例えば、AIが作成した人件費のレポートを理解し、経営層への報告や今後の施策立案に役立てるといったスキルが求められます。

コミュニケーション力

また、コミュニケーション力も欠かせません。給与計算は、従業員とのやり取りが発生する業務であり、給与に関する質問対応や組織内の調整など、AIにはできない対話力が必要です。社員が納得できるように説明したり、柔軟な対応をしたりする力は、今後も重要なスキルとなります。

柔軟な対応力

さらに、テクノロジーの進化に柔軟に対応する力も求められます。新しいAIツールやソフトウェアの操作方法を学び、業務フローが変化しても前向きに適応できることが大切です。また、AIの計算結果をそのまま鵜呑みにするのではなく、正しく検証する問題解決力や批判的思考も必要になります。

つまり、AI時代に求められるのは、AIをうまく活用しながらも、人間ならではの強みを発揮できる人材です。AIの力を借りて業務を効率化しつつも、最終的なチェックや意思決定、関係者との調整などを適切に行えるスキルを身につけることが理想的でしょう。

AIを活用しながらスキルアップを目指しましょう

AIを活用した給与計算は、業務の効率化、計算ミスの削減、法改正への迅速な対応といった多くのメリットをもたらします。一方で、データセキュリティの確保や導入コストなどの課題もあります。また、RPAとの違いを理解し、業務内容に応じて最適な自動化手法を選択することが重要です。AIの導入により、単純作業は自動化されますが、担当者の役割が完全になくなるわけではありません。今後は、AIを活用しながら、データ分析や戦略的な人事業務、コミュニケーション力を活かした対応が求められます。AIを「アシスタント」として上手に活用し、業務の精度と生産性を向上させることが、これからの給与計算担当者にとって重要なスキルとなるでしょう。


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