- 更新日 : 2021年11月29日
社会保険の出産育児一時金とは
出産は病気ではありません。そのため、健康保険は使えず、原則的には全ての費用が自己負担となります。しかし、産院での入院費など出産にかかる費用は高額で、どうしてもまとまった金額が必要になるのが現実です。こうした出産時の経済的負担を軽くしようという考えもと、社会保険から支給されるのが「出産育児一時金」です。
目次
社会保険の出産育児一時金の詳細
健康保険法における出産とは、妊娠85日(4ヶ月)以後の分娩を指します。この場合には、28日を1ヶ月と換算するため、4ヶ月は(28日×4)85日ということになります。妊娠85日以降の出産は正式に出産したと認められ、社会保険における出産育児一時金の支給対象となります。
なお、妊娠85日(4ヶ月)以降であれば、正常分娩で無事に赤ちゃんが生まれたケースだけでなく、早産で難しい事態に陥ったケース、さらには、死産や流産(中絶も含まれる)といったケースにも適用されます。
出産において、健康保険が適用されるケース
出産費用は基本的に健康保険を使うことができません。しかし、なかには例外があります。
・帝王切開による分娩
・つわり
・流産・早産
など
このような場合は、健康保険が適用されて高額療養費の給付対象になります。
出産育児一時金の金額
社会保険の出産育児一時金は被保険者およびその被扶養者が出産したとき1児につき40.4万円が支給されます。ただし、以下の要件に該当する場合は42万円が支給されます。
・出産時に利用した医療機関が産科医療保障制度に加入している場合
この産科医療補償制度は、財団法人日本医療機能評価機構によって運営されています。これは、分娩時に何らかの理由で重度の脳性麻痺になってしまった場合、胎児と家族の経済的負担を軽くするための補償です。さらには、出産に起因する脳性麻痺に関する事例を集め、分析することによって、産科医療の向上に役立つ情報を発信しています。
なお、妊娠22週以降(85日目以上)の出産であるこの条件は、死産であっても出産育児一時金を受け取ることができます。
また、双子など多胎分娩の場合には、その胎児の数にあわせて一時金の額も増えます。産科医療補償制度の加入分娩期間で予定日通りに双子が産まれた場合、42万円が二人分、42×2の合計84万円が支給されます。
出産育児一時金支給申請書の提出までの流れ
社会保険の出産育児一時金を受け取るためには、まず給付を希望する被保険者自身が「出産育児一時金支給申請書」を提出しなければなりません。
提出期限
2年以内(起算日は出産の翌日)
提出先
所轄の協会けんぽ、または健康保険組合
添付書類
以下のいずれかの添付を求められる場合があります。
・母子手帳
・医師の意見書
・市区町村の証明
・戸籍抄本
・住民票
出産育児一時金の支給方法
社会保険における出産育児一時金の給付を受ける際には、以下に挙げる2つの支給方法から選択することができます。
直接支払制度
協会けんぽ・健康保険組合から医療機関へ、直接出産育児一時金を支払う制度です。こ保険機関と医療機関でやりとりが行われるため、被保険者が医療機関等へまとめて支払う出産費用の負担の軽減を図ることができるというメリットがあります。
なお直接支払制度に対応していない医療機関等などで出産予定の場合などは、「出産育児一時金支給申請書」の提出し被保険者ご自身で出産育児一時金を請求することも可能です。詳しくはご加入の医療保険者(協会けんぽ・健康保険組合)にご確認ください。
受取代理制度
直接支払制度と同様、医療機関が出産育児一時金の請求・受取を行う制度です。この場合、直接支払い制度では医療機関がやってくれる事前申請手続きを、被保険者本人が行なわなければなりません。
こちらを選択すると、医療機関へ手数料を支払う必要がなくなり、直接支払制度よりもお値打ちに済ませることができます。
ただし、受取代理制度は導入していない医療機関もあるので、事前に確認しておく必要があります。
資格喪失後の申請
退職などの理由で、出産時にはすでに健康保険の被保険者ではなくなっている場合であっても、次の条件にいずれも当てはまれば、社会保険の出産育児一時金を受け取れます。
1. 中断のない1年間の健康保険加入の後、被保険者ではなくなった場合
2. 出産からさかのぼって6カ月目以内のある時点まで被保険者であった場合
上の条件に当てはまらない場合でも、扶養家族になっているのであれば「家族出産育児一時金」を申請できます。受け取り金額は社会保険被保険者の「出産育児一時金」と同じですが、要件が少し違いますので、確認が必要です。また、この場合、必ずしも夫の扶養に入る必要はなく、夫の死後に親の扶養に入った子供が出産した場合も受給の対象になります。
まとめ
出産時は何かと物入りです。経済的負担を出来る限り軽減するためにも、社会保険の出産育児一時金を受け取れるよう受給手続きは忘れずに行いましょう。万が一、提出を忘れたという場合でも、出産した子どもが2歳になるまでの期間内ならば申請が可能です。また、退院後の落ち着いた時期に手続きを行うこともできます。
さらに、直接支払制度や受取代理制度については、事前に産院からどういった支給方法をとるか聞かれる場合があるため、どちらを選ぶかを事前に決めておく必要があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
厚生年金における加給年金とは?もらえる条件や振替加算についても解説!
厚生年金保険加入者が年金を受給できることになったときに、条件により年金額が加算されることを知っていますか?年金に加算される額のことを「加給年金」「振替加算」といいます。これらは家族の構成や家族の年齢によって受給できる条件が決まっています。こ…
詳しくみる2024年度 – 社会保険の改定のタイミングを解説!適用拡大の振り返りも
社会保険が適用される条件は改定が繰り返し行われています。パートやアルバイトといった短時間労働者の方の加入を拡大させるために見直しが実施されているのです。そこでこの記事では社会保険の種類や対象者、改定のタイミングについて詳しく解説します。適用…
詳しくみる特定疾病とは?介護保険の観点から解説!
介護保険の制度は65歳以上の高齢者を対象としたものですが、16の特定疾病に罹患した場合には40歳以上65歳未満でも公的介護保険サービスを受けられます。また、上記に該当しない場合でも「厚生労働大臣が定める疾病等」の場合、医療保険により訪問看護…
詳しくみる一日で辞めた社員も社会保険料が発生する?退職日と保険料の関係を解説!
健康保険や厚生年金保険などの社会保険料は月単位で計算されます。また、月の途中で従業員が退職した場合には、原則として資格喪失月の保険料は発生しません。では、入社してすぐに従業員が退職するようなケースでは、社会保険料は徴収されるのでしょうか。 …
詳しくみる厚生年金の受給額はいくら?計算方法も解説
企業などに雇われている方のほとんどは、給与から社会保険料として年金や健康保険、雇用保険などを天引きされていることでしょう。このうち年金については、実際にはどのような仕組みで将来いくらもらえるのかなど、気になる方も多いのではないでしょうか。 …
詳しくみる社会保険料について本人は何割負担?負担割合を解説!
社会保険の保険料は毎月給与から天引きで徴収されるため、本人は何割負担か意識したことがないかもしれません。健康保険と厚生年金保険の保険料は労使折半となっています。医療費の自己負担割合は、昔は1割負担や2割負担でしたが、現在は3割負担です。この…
詳しくみる