• 更新日 : 2024年12月24日

賃金台帳を従業員に渡す義務はある?テンプレートつきで解説

賃金台帳は従業員に渡してもよいですが、その際は原本ではなく写しを渡しましょう。

賃金台帳には個人情報が掲載されているため、事業場として個人情報は慎重に扱わなければなりません。また、事業場にとって賃金台帳の開示義務はないため、従業員からの要求に正当性がなければ、合理的な説明とあわせて拒否できます。

従業員から賃金台帳の情報開示を要求された場合に、応じるべきかどうか、対応の仕方について解説します。

賃金台帳とは

賃金台帳とは、企業が従業員に支払った給与や労働時間を記録するための帳簿で、労働基準法に基づき、作成と保管が義務付けられています。

賃金台帳には、従業員の氏名をはじめ、賃金計算期間や労働日数などが掲載されており、法的必須項目の記載が必要です。

また、賃金台帳は労務管理の法定三帳簿のひとつであるため、臨検監督や雇用保険の手続き申請時などで、必要になる場合があります。

法定三帳簿のひとつ

賃金台帳は、事業場として作成・保管が義務付けられている法定三帳簿のひとつで、ほかには労働者名簿・出勤簿があります。

労働基準法により、事業場の労務を把握するため、事業場ごとの作成・保管が義務付けられています。

とくに賃金台帳は、事業場が労働者に適切な労働時間の元賃金が支払われているか、透明性を確保するために必要な書類です。

賃金台帳を含む法定三帳簿は、臨検監督が行われるときや雇用保険の申請手続きなどで、開示や写しの提出が求められることがあります。

違反すると罰則の対象となるため、作成・保管とともに、都度、最新の情報へ更新する必要があります。

賃金台帳の記載事項

賃金台帳には、労働基準法施行規則第54条で定められた、以下の10項目のすべてが記載されていることが条件です。

1.労働者の氏名従業員のフルネーム
2.性別従業員の性別
3.賃金計画期間給与が適用される期間
4.労働日数従業員が実際に労働した日数
5.労働時間数通常の労働時間に加え、時間外労働や休日労働もふくめた日数
6.時間外労働の労働時間数時間外労働があった場合の労働時間数
7.休日労働の労働時間数休日労働があった場合の労働時間数
8.深夜労働の労働時間数深夜労働があった場合の労働時間数
9.基本給や手当の種類と額給与の内訳
10.賃金控除の項目と額税金や保険料など、給与から控除される項目

上記のうち、ひとつでも欠けていた場合は、賃金台帳として法的要件を満たしたことにはなりません。

必要になる場面

賃金台帳は、主に以下のような場面で必要なことがあります。

臨検監督が行われるとき
  • 労働基準監督署による調査時に提出が求められることがある
  • 企業や職場が、適切に労務管理を行っているかどうかが確認される
雇用保険や助成金申請の手続きを行うとき
  • 従業員が入社してから翌月10日までに、雇用保険の入社手続きが大幅に遅れた場合手続きを行う際に必要
  • 退職者に離職票を発行する際に必要
  • 事業に関する助成金申請時に、賃金台帳の添付が必要なものが多い
是正勧告に対応するとき
  • 臨検監督が行われ、賃金台帳への不備が指摘された際は、再提出が必要

上記以外でも、従業員から賃金台帳の情報開示が求められることがありますが、義務ではありません。ただし、無用なトラブルを避けるためにも、日ごろから開示を求められたときに速やかに開示できる不備のない賃金台帳を備えておくのが理想的です。

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賃金台帳は従業員に渡す義務がある?

従業員が、賃金台帳の情報開示を求めてくることがあります。

しかし、賃金台帳には個人情報が掲載されているため、事業場として開示する義務はありません。

とはいえ、従業員側にも自身に支払われた賃金について知る権利があります。一方的に拒否するのではなく、情報を開示すべきかどうか、方針を定めて対応する必要があるでしょう。

従業員が賃金台帳を開示要求するケース

従業員が賃金台帳を開示要求するケースには以下が考えられます。

  • 給与に対して不明瞭な点や疑問を持ったとき
  • 労働条件を確認したいとき
  • 未払い賃金を訴訟により請求するとき

未払い残業代や控除額に関するトラブルが発生した際には、賃金台帳が重要な証拠となります。

とくに、従業員が残業代や賃金の未払いに対して、弁護士を通じて請求する場合、タイムカードや賃金台帳が証拠として提示を求められることがあります。

労働者が自身の労働条件や待遇について、単に確認したいのみの場合にも、賃金台帳の開示が求められることがあるでしょう。

従業員に賃金台帳を開示要求された場合の対応

従業員から賃金台帳の開示要求があった場合、事業場としては、開示する義務はありません。

しかし、従業員には過去の賃金について知る権利があると考えられています。事業場としても社会的信頼性を維持するため、一方的に拒否するのではなく、適切に対応しましょう。

まず、従業員の開示要求の正当性を確認します。

従業員が自身の給与や労働時間を確認したいとの理由であれば、源泉徴収票や給与明細で代替ができないかたずねます。

要求に応じる場合は、個人情報保護に配慮し、ほかの従業員の情報が含まれないよう注意が必要です。必要に応じて、他の従業員の情報を伏せるか、集計データとして提供する方法もあるでしょう。

後々のトラブルや誤解の防止につながるよう、開示要求への対応は文書化し、記録として残すことをおすすめします。

賃金台帳の原本を従業員に渡してもよい?

従業員には、賃金台帳の原本ではなく写しを渡しましょう。

賃金台帳は、労働基準法に基づき、事業場が作成・保管する義務がある重要な書類であり、原則として最後に記載した賃金の支払日から5年間(当分の間3年間)の保管が必要です。

従業員へ原本を渡した際に、紛失したり悪用されたりする可能性があるため、開示する際は写しを提供すべきでしょう。

賃金台帳には従業員の勤務時間や賃金の詳細が記載されており、労働基準監督署からの臨検監督や是正勧告に対応する際に必要です。

個人情報が含まれているため、個人情報保護法に基づく適切な管理が求められます。そのため事業場は、個人情報の取扱いに細心の注意を払わなければなりません。

従業員への情報開示は事業場としての透明性を高める一方で、情報漏洩のリスクも考慮する必要があります。

賃金台帳の原本は渡さず、開示を求めた従業員のみにかかわる情報の写しを提供しましょう。

従業員が賃金台帳の写しを保険会社に提出するケース

従業員が、賃金台帳の写しを保険会社に提出するケースがあり、おもに労災や交通事故などの保険請求です。

具体的には、従業員が事故や病気で休業した場合、休業損害証明書を保険会社に提出します。保険会社は従業員の収入を確認するために、賃金台帳の写しを要求することがあります。賃金台帳の情報をもとに、休業補償や傷害保険の支払い可否について判断するのです。

ほとんどの場合は、事業場が休業損害証明書を作成し、源泉徴収票を添付することで申請できます。しかし、従業員が雇用されたタイミングによっては、源泉徴収票が作成されていないこともあるでしょう。その際に、賃金台帳の写しが求められるのです。

そもそも休業損害証明書は、多くのケースにおいて事業場が保険会社へ提出します。従業員みずからが休業損害証明書を作成して保険会社へ提出するケースは少なく、賃金台帳の開示義務もありません。

従業員に対しては、休業損害証明書は事業場側が作成する旨を伝え、無理に開示はしなくてよいでしょう。

賃金台帳を従業員へ渡すときは写しを渡すこと

従業員から、賃金台帳の開示を求められることがあります。

事業場にとっては開示義務がないため、拒否できます。しかし、事業場としての社会的な信頼性や給与に対する不透明さが損なわれたり、従業員にとって不利益な内容が記載されていると思われたりする可能性があるでしょう。

そのため、従業員に対しては開示理由を聞いたうえで、問題がないと判断したら、拒否せず要求に応じてもよいでしょう。

ただし、賃金台帳には個人情報が掲載されているため、開示する際は、情報の取捨選択が大切です。


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