• 更新日 : 2024年8月26日

働き方改革とは?概要や関連法案を分かりやすく解説

日本は現在、生産年齢人口の減少、長時間労働、正規・非正規雇用の格差など、多くの問題を抱えています。働き方改革とは、これらの問題を解決するとともに、働く人々が多様で柔軟な働き方を選択し、能力を十分に発揮できる社会をつくることです。

働き方改革が生まれた背景、働き方改革関連法の変更点、推進している企業事例について紹介します。

働き方改革とは?

「働き方改革」では、日本で働く人々がより良い将来の展望が持てるように、安心して働くことができる社会の実現を目指しています。現在の日本は、働き方への意識・考え方も変化し、働く人々のニーズは多様化しています。このような時代の中で、既存の労働条件管理や労務管理を行っていては、事業を円滑に運営することはできません。企業としては、時代に合った労働条件や就業環境で従業員が働くことができるように整備することが必要です。

「働き方改革」の目的は、働く人々がそれぞれの事情に応じて自分に合った働き方を選択することで能力を十分に発揮できる社会を実現し、生産性の向上により「成長と分配の好循環」を構築することにあります。

働き方改革が必要となった背景

日本は現在、解決しなければならない多くの課題を抱えています。日本経済を再生するためには、投資やイノベーションによる生産性の向上と労働参加率の向上を図ることが必要です。そのためには、以下の6つの課題を解決しなければなりません。

労働人材の減少

少子高齢化が進み、日本の生産年齢人口(15〜64歳)は、2050年には5,275万人にまで減少する見込みになっています。生産年齢人口が減少することは労働人材の減少につながり、ますます人手不足は深刻化するでしょう。また、国内需要の減少により国内の経済規模が縮小すれば、日本の企業は大きなダメージを受けることになります。

参考:「1 高齢化の現状と将来像」令和4年版高齢社会白書(全体版)| 内閣府

生活スタイルと労働の両立

生活スタイルの変化に伴い、働く人々の働き方のニーズは多様化しています。出産や育児、介護と仕事の両立が難しく、家庭の事情で退職を余儀なくされる人は少なくありません。働き続けたいと思っていても働くことができない人は多く、企業としても人材を確保して生産性を上げるためには、生活と仕事の両立ができる職場環境への対応が求められます。

働き方のニーズが多様化する現在、労働人口を確保するために、ワーク・ライフ・バランスの推進を目的とした施策を政府は多く打ち出しています。

ウェルビーイングの考え方の浸透

「成長と分配の好循環」を構築するためには、働く人々が心身ともに健康で社会的に満たされている状態であることが必要です。働く人々がより良い将来の展望を持てるように、安心して働くことができる社会とならなければ、「成長と分配の好循環」を持続することは難しいでしょう。

厚生労働省でも、ウェルビーイングを「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と定義しており、就業面からのウェルビーイングの向上を課題としてあげています。

引用:雇用政策研究会報告書「人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて」|厚生労働省

長時間労働の慢性化

以前の日本の働き方は、長時間労働が慢性化し、年次有給休暇も取りづらくサービス残業も当たり前のように行われていました。このような就業環境は、生産性の向上どころか、過労死といった社会問題に発展しかねません。ワーク・ライフ・バランスの実現には、長時間労働を是正し、労働者の健康を守ることが不可欠です。

正規・非正規雇用の格差

労働者の能力が正当に評価されれば、納得感が生まれ、モチベーションが向上します。正当な待遇が得られなければ、働く意欲はなくなってしまうでしょう。正規雇用の労働者と非正規雇用の労働者との間の格差の問題は深刻です。同一労働同一賃金で取り上げられているように、不合理な待遇差をなくすことができれば、労働者はどのような雇用形態を選択しても、納得して働くことができるようになります。

高齢者の就労が必要に

少子高齢化により日本の生産年齢人口の減少が進めば、高齢者の就労が必要になります。日本の長寿化に対応し、年齢に関わることなく働くことができる、高齢者の雇用環境・就業環境の整備が必要です。

働き方改革関連法とは?

働き方改革関連法(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)は、2018年7月6日に公布された法律です。働き方改革関連法による改正のポイントには、以下の3つがあります。

  • 長時間労働の是正
  • 多様で柔軟な働き方の実現
  • 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

働き方改革関連法の成立に伴い、労働基準法をはじめとした多くの労働関係法令の改正が行われ、2019年4月1日から順次施行されています。

働き方改革関連法の10の変更点

働き方改革関連法により改正が行われた法令の中から、特に企業で対応が必要となる法改正の内容について確認していきます。

時間外労働の上限規制

労働時間の上限は、原則として1ヵ月45時間・1年360時間と法律に明記されました。臨時的な事情がある場合には、労使の合意により特別条項を締結することで、以下の時間内とすることが可能です。

  • 時間外労働の上限は年720時間以内
  • 時間外労働・休日労働の合計が1ヵ月で100時間未満
  • 時間外労働・休日労働の合計が2~6ヵ月のすべての平均で80時間以内
  • 時間外労働が1ヵ月45時間を超えられるのは年6ヵ月まで

※建設業・自動車運転業務・医師・鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造業には5年間の猶予期間あり

改正法令:労働基準法(大企業は2019年4月1日施行・中小企業は2020年4月1日施行)

勤務間インターバル制度

従業員が睡眠時間や生活時間を十分に確保できるように、企業には、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間以上の休息を確保する(インターバルを設ける)努力義務があります。

改正法令:労働時間等設定改善法(2019年4月1日施行)

有給休暇の取得義務

10日以上の年次有給休暇が付与される従業員には、付与された日から1年以内に年5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。従業員が年5日取得しない場合には、企業は従業員の希望を踏まえたうえで、取得時季を指定して取得させる義務があります。

改正法令:労働基準法(2019年4月1日施行)

月60時間超の残業について割増賃金引き上げ

月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)の適用は、中小企業では猶予されていました。この猶予措置が廃止され、中小企業においても50%以上に引き上げられています。

改正法令:労働基準法(2023年4月1日施行)

フレックスタイム制の清算期間延長

従来のフレックスタイム制の清算期間は1ヵ月以内とする必要がありました。現在は、従業員がより生活に合わせた労働時間の調整ができるように、清算期間の上限が「3ヵ月」に延長されています。

改正法令:労働基準法(2019年4月1日施行)

高度プロフェッショナル制度

高度の専門的な知識等を有する者を対象とした「高度プロフェッショナル制度」が創設されました。職務の範囲が明確に規定され、年収が1,075万円以上の従業員が、高度の専門的な知識等を要する業務に就く場合が対象です。

その他、労使委員会の決議と本人の同意、年間104日以上の休日の確保、健康・福祉確保措置を講ずることなどの要件がありますが、労働時間・休日・休憩・深夜の割増賃金に関する労働基準法の規定が適用されなくなります。

改正法令:労働基準法(2019年4月1日施行)

産業医・産業保健機能の整備

産業医・産業保健機能が強化されました。強化された主な内容は以下の2つです。

  1. 産業医が実施した従業員の健康管理に関する勧告の内容などを、衛生委員会に報告する義務
  2. 産業保健業務を適切に行うために必要な情報を、産業医に提供する義務

※ともに労働者数が50人以上の企業が対象

改正法令:労働安全衛生法(2019年4月1日施行)

不合理な待遇差の禁止

1.パートタイム・有期雇用労働者の同一労働同一賃金

いわゆる「同一労働同一賃金」と呼ばれるもので、同一企業内のパートタイムや有期雇用の従業員と正規雇用の従業員との間の「不合理な待遇差」を設けることが禁止されています。待遇には基本給や賞与、福利厚生施設の利用など、あらゆる待遇が含まれます。

「均等待遇」では、①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合には、パートや有期雇用であることを理由とした差別的な取扱いが禁止されています。

「均衡待遇」では、①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情から、待遇の性質や目的に照らしてその内容を考慮し、不合理と認められる待遇差を設けることが禁止されています。

改正法令:パートタイム・有期雇用労働法(2020年4月1日施行・中小企業は2021年4月1日から適用)

2.派遣労働者の同一労働同一賃金

派遣労働者の場合、原則として派遣先の通常の労働者と派遣労働者と比較して、「不合理な待遇差」を設けることが禁止されています(派遣先均等・均衡方式)。

派遣先の労働者と比較して賃金を決定すると、職務の難易度が適正に賃金に反映されないことや、派遣先が変わると賃金が変動するなど、実務上の問題が発生するケースがあります。そのため、一定の基準を満たした労使協定を締結することによって、同種の業務に従事する労働者の平均的な賃金と同等以上にするなどといった方法で待遇を決定することも可能です(労使協定方式)。

改正法令:労働者派遣法(2020年4月1日施行)

労働者の待遇への説明義務

パートタイムや有期雇用労働者、派遣労働者に対しては、正規雇用の労働者との待遇差の内容や理由についての説明義務が強化されました。

パートタイム労働法に定められていた説明義務は、パートタイム・有期雇用労働法に改正されたことに伴い、有期雇用の従業員も対象となります。これによって、非正規社員は、通常の労働者との待遇差の内容やその理由について説明を求めることが可能になりました。また、説明を求めたことによって、解雇や雇止めなどといった不利益な取扱いをすることも禁止されています。

改正法令:パートタイム・有期雇用労働法(2020年4月1日施行・中小企業は2021年4月1日から適用)、労働者派遣法(2020年4月1日施行)

行政による助言・指導等の整備

「不合理な待遇差の禁止」や「労働者の待遇への説明義務」に関する行政による助言・指導・報告徴収などの「履行確保措置」、労働局長による「援助・調停制度」が整備されました。パートタイムや有期雇用労働者、派遣労働者が、不合理な待遇差の是正や救済をより求めやすくなっています。

※「履行確保措置」と「援助・調停制度」のことを、裁判をせずに解決するための手続きとして、行政による裁判外紛争解決手続き(行政ADR)と呼びます。

日本企業における働き方改革の現状

厚生労働省が2022年8月30日に公表した労働条件分科会の資料によると、年間の総実労働時間に減少がみられます。総実労働時間が短いパートタイム労働者の総実労働時間が減少したこともありますが、一般労働者の総実労働時間も2018年以降は減少傾向にあります。

2018年は年間2,010時間でしたが、2019年は1,978時間、2020年は年間1,925時間、2021年は1,945時間と、2,000時間を切るようになりました。新型コロナウイルス感染症の影響もあると思われますが、働き方改革が労働時間の抑制に貢献していると考えてもよいでしょう。

同じく厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査の概況」にある労働者1人平均の年次有給休暇取得率でも、2018年以降大きな増加が見られます。2022年の1年間の年次有給休暇の取得率は62.1%と過去最高を記録し、5年前の51.1%から10%以上増加しています。

年次有給休暇取得率の向上は時間外労働の減少にもつながるため、「働き方改革」が労働時間の減少の1つの要因になっていることは、確かといえるでしょう。

参考:「労働時間制度の現状等について」16ページ|厚生労働省
「令和5年就労条件総合調査の概況」6ページ|厚生労働省

働き方改革を促進している企業事例

働き方改革を推進している企業の事例を紹介します。

新雪運輸株式会社

同社では、10年以上前にはドライバーの時間外労働が100時間を超えるケースもあり、長時間労働に代表者は危機感を抱いていました。ドライバー自身が働けば働くほど収入が増えるため長時間労働をいとわない現状がありましたが、会社にも長時間労働を見過ごしていた責任があると考え、業務の可視化に取り組みました。

2008年にドライブレコーダー機能とデジタルタコグラフの機能一体のセーフティーレコーダーを全車導入し、その記録を分析することで課題を洗い出し、荷待ち時間短縮を顧客に依頼することや配送ルートの見直しの実施などによって、労働時間の削減を実現しています。

ドライバーや顧客の納得を得るのに3年掛けて根気よく説明し、その後も、「ロボット点呼」「日報の自動化」「リモート会議の推進」など、さまざまな方法で、作業時間の短縮・効率化に取り組んでいます。

参考:新雪運輸株式会社   働き方改革特設サイト|厚生労働省 

日本生命保険相互会社

同社は、働き方改革関連法成立前から、従業員が意欲的にかつ前向きに働くことができる職場環境の整備を推進しています。仕事だけではなく生活の充実が、高い「使命感」と「誇り」を持つための大前提であるという企業のトップの考えから、年2回の金曜日に年次有給休暇取得を推進する「プラスワン・フライデー」、年次有給休暇と特別休暇の連続取得を促す「ほっとウィーク特別休暇」など設け、長期休暇が取得しやすい環境を整備しています。

そのほか、20時以降残業の原則禁止(毎日20時にオフィスを消灯)や、ノー残業デーを導入するなど、労働時間の削減を図り、年次有給休暇の平均取得日数の増加、時間外労働の削減の成果を上げています。

参考:日本生命保険相互会社 働き方・休み方改善取組事例|働き方・休み方改善ポータルサイト(厚生労働省)

働き方改革にも関連する「2024年問題」

工期が定められている建設業、産業や生活の必要な物資を運送する物流業、人の命を預かる医療の分野においては、時間外労働の上限規制の適用が困難な事情があります。そのため、建設業、自動車運転業務、医師については、準備期間として5年間の猶予措置が設けられていました。しかし、一般の企業とは一部異なる水準で適用されるものの、2024年3月でこの猶予措置は終了します。これが、2024年問題です。

2024年4月以降は、建設業、自動車運転業務、医師についても、時間外労働や休日労働を抑制し、労働時間を短縮することが求められます。

建設の事業は、災害の復旧・復興の事業を除き、2024年4月以降はすべての上限規制が適用されるため、一般の企業と同じく上限規制への対応が必要です。自動車運転の業務(ドライバーの業務)では、特別条項付きの36協定を締結しても、時間外労働を年間960時間以内としなければなりません。

診療や診察に従事する医師は、特別条項付きの36協定を締結しても、診療所や病院などの医師の指定の種類によって、時間外労働・休日労働の合計を年間960時間や1860時間までに抑える必要があります。

労働者は労働時間の短縮によって働きやすくなるものの、残業代の減少によって収入が減少することが懸念されています。また、企業としても、労働時間短縮による収益減少、人材確保や業務の効率化のためのコスト増加への対策が必要です。

個々の労働者の労働時間を短縮するためには、それを補うだけの人材や収入を確保しなければなりません。それには、人員不足・業務の効率化・労働時間の管理方法・賃金の設定など、これまでの労務管理の方法を大きく見直す必要があります。

働き方改革は企業の利益増加に結びつく

現在の日本は、少子高齢化、労働人口の減少、長時間労働の抑制など多くの問題を抱えています。日本の企業は、働く人々の意識の変化に対応して人材を確保するとともに、業務の効率化を図らなければ、生き残ることができません。そのためには、自社の労働時間の管理方法や賃金の設定など、これまでの労務管理の方法を大きく見直す必要があります。

「働き方改革」は労働者が安心して働くことができる社会の実現を目指すものですが、生産性の向上により企業の収益増加に結び付くものでもあるのです。働きやすい職場づくりに取り組むことは人材確保につながります。労働者が能力を十分に発揮できる職場環境をつくることができれば、結果として企業の利益増加をもたらすでしょう。


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