• 作成日 : 2022年11月11日

社会保険は強制加入?入りたくない社員への対応はどうする?

通常、会社員など事業所に雇われて働く人は社会保険に加入し、給与から保険料を天引きされています。では、社会保険は強制加入なのでしょうか。また、パートやアルバイトなどの短時間労働者はどうなのでしょうか。この記事では事業所に加入義務が発生する社会保険加入条件や、従業員の加入要件について説明します。

社会保険は強制加入?

社会保険の加入については、加入の義務がある「強制適用事業所」とそうでない事業所があります。この「強制適用事業所」に該当する事業所は、被保険者となる従業員を必ず社会保険に加入させなければなりません。強制適用事業所に該当する事業所とは、被保険者1人以上の法人事業所、または常時5人以上を雇用している個人事業所です。

ただし、サービス業の一部や農林水産業、畜産業などは強制適用事業所には含まれません。また、学校法人事業所の場合は、社会保険ではなく私立学校教職員共済制度に加入します。

上記のように強制適用事業所に当てはまらない事業所でも「任意適用事業所」として社会保険に加入する方法があります。従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣に認可されることです。

社会保険の適用を除外されるのは、日雇い、2ヶ月以内の期間を定めて雇用される人、所在地が一定しない勤務先に勤める人、季節的業務(4ヶ月以内)に雇用される人、臨時的事業(6ヶ月以内)に雇用される人などです。ただし、日雇いや2ヶ月以内の契約、季節的業務、臨時的事業に就いている人でも、継続して雇用される見込みがある場合には被保険者となります。

このように、一部の業種と短時間労働者を除き、継続的に事業所に雇われている人のほとんどは社会保険に強制加入だと言っても良いでしょう。

参考:適用事業所と被保険者|日本年金機構
参考:厚生年金保険・健康保険制度のご案内|日本年金機構

社会保険の加入条件

前述しましたが、強制適用事業所の場合、被保険者となる従業員は社会保険に加入しなければなりません。では、被保険者となる要件、すなわち加入要件にはどのようなものがあるのでしょうか。

まず、常勤で働く70歳未満の人や役員、法人の代表者などは被保険者です。常勤とは、雇用契約の有無などは関係なく、労務を提供し賃金を受け取るという関係が常的である状態をいいます。試用期間であっても、勤務形態が同じで賃金が支払われるのであれば被保険者となります。

また、パートタイムやアルバイトなどで働く人も、1週間および1ヶ月間の労働時間が、常勤で同様の業務を行う人の4分の3以上であれば被保険者です。
なお、上記の条件に当てはまらない場合でも、以下の5つの条件を満たせば被保険者となります。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
  2. 雇用期間が1年以上見込まれること(2022年9月まで)
  3. 賃金が月額8.8万円以上であること
  4. 学生でないこと
  5. 従業員501人以上の事業所に勤めていること(2022年9月まで)

参考:適用事業所と被保険者|日本年金機構
参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

2022年10月から適用拡大される点に注意

社会保険とは、被保険者が支払う保険金でお互いを支え合う制度です。ただ、短時間労働者に関しては、その勤務実態は社会保険加入にふさわしいのにもかかわらず、条件に合わないために被保険者になれないという事象が多くみられました。加入要件を理由に働き方を変えたり、希望を歪めたりする必要があったのです。そのため国は、平成24(2012)年の改正にはじまり、所定労働時間や雇用期間、事業所の規模など、短時間労働者への社会保険の適用拡大を図ってきました。

令和2(2020)年10月には、前章で述べた条件のうち、雇用期間が1年以上見込まれること、という条件が撤廃され、常勤者と同様、2ヶ月以上となりました。

また、企業規模については、令和4(2022)年10月には従業員501人以上という条件から101人以上に引き下げられ、さらに令和6(2024)年10月には51人以上に引き下げられます。

適用拡大の目的の一つは、中小企業で働くパートやアルバイトなどの短時間労働者にも社会保障が与えられ、不公平感がなくなることです。また、職業選択がより自由になり事業所の労働力確保がしやすくなることや、被保険者が増えることで社会保障の財源が増え、より手厚い保障を被保険者が受けられることを目指しています。

参考:被用者保険の適用拡大|厚生労働省
参考:~あなたの年金が変わる~大切なお知らせ|厚生労働省

社会保険に社員が入りたくない場合はどう対処する?

パートやアルバイトで働く人のなかには、社会保険で配偶者の扶養に入ることのできる年収130万円未満を意識して働いている人も多いでしょう。月に10万円の賃金で働いても、年に130万円以上になることはありません。しかし、週20時間以上働いて月に8.8万円以上の賃金をもらっている人は結構いるのではないでしょうか。

令和4(2022)年10月の改正では、適用条件が従業員501人以下から、101人以下に変わります。この条件に該当する事業所では、年収130万円未満でも社会保険に加入しなければならない人が出てくるのです。

これまで配偶者の扶養に入っていた人や、社会保険加入の対象とならず国民年金や国民健康保険に加入していた人の中には、社会保険料を支払うことで収入が減ってしまうと感じる人もいるでしょう。

では、社会保険に入りたくない、という従業員が出てきた場合には、どのように対処したらよいのでしょうか。

結論から言えば、強制、任意にかかわらず、適用事業所に勤めている限り社会保険は強制加入です。入らないという選択肢はありません。事業所は、対象となるすべての従業員を加入させる義務があります。社会保険に加入したくないという従業員には、入った場合のメリットを説明し、説得しましょう。

社会保険に加入すると、以下のようなメリットがあります。

  • 年金受給の際に、国民年金に加えて厚生年金も受け取れるため、受給額が増える
  • 障害のある状態になった場合、障害基礎年金に加えて障害厚生年金を受け取れる
  • 健康保険に加入するため、傷病手当金や出産手当金などの手当が充実する
  • 保険料の半額は事業所が負担するため、実際に支払った保険料の2倍の保険料を支払っていることになり、保障が充実する

加入対象者の中に未加入の従業員がいると判明した場合、ペナルティもあります。
まず、従業員を正しく社会保険に加入させていない場合、刑事罰があります。事業主に対する罰則で、健康保険法や厚生年金保険法により「6ヶ月以下の懲役または50万円以内の罰金」と定められています。

また、未加入の従業員については最大2年間さかのぼって加入させることになります。すなわち、最大2年分の未払いの保険料を請求されるということで、膨大な金額を支払わなければなりません。支払った後に従業員本人に請求することもできますが、既に退職していて連絡がとれないなど、回収できない場合もあります。金額によっては刑事罰よりも事業所へのダメージが大きい場合もあるでしょう。

参考:健康保険法 第二百八条|e-Gov法令検索
参考:厚生年金保険法 第百二条|e-Gov法令検索

社会保険制度は助け合いの制度

社会保険に加入する事業所は、その適用が義務となる強制適用事業所と、任意で適用を申請する任意適用事業所に分かれます。強制適用事業所は、要件を満たす従業員の全員を社会保険に加入させなければなりません。また、任意適用事業所は、従業員の半数以上の合意を得て申請し認可されれば社会保険に加入することができますが、その場合も、任意適用事業所に同意した従業員だけではなく、要件を満たす従業員全員を加入させなければなりません。

社会保険制度はこれまでも改正を重ねてきましたが、令和4(2022)年10月からは短時間労働者の要件が501人以上の事業所から101人以上の事業所へ、令和6(2024)年10月には51人以上の事業所へと、どんどん適用が拡大されています。

社会保険とは、被保険者が支払う保険料によって相互に助け合うための制度です。しかし、いま、私たちの社会は少子高齢化を迎え、支え合いのバランスが崩れつつあります。

社会保障制度を支える裾野を広げ、より充実した保障を皆が受けられるようにすることが喫緊の課題です。これまで加入の対象でなかった人は保険料が上がってしまうなどのデメリットもありますが、多くの保障の対象となるメリットもあります。もし、入りたくないという従業員がいたら、メリットを充分に説明し、加入させましょう。

よくある質問

社会保険は強制加入ですか?

強制適用事業所・任意適用事業所で働いていて、一定の要件を満たしている人はすべて強制加入です。詳しくはこちらをご覧ください。

社会保険に入りたがらない社員にはどう対処すればよいですか?

要件に当てはまる以上、社会保険に入らないということはできません。社会保険に入った場合のメリットを説明し、説得しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。


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