- 更新日 : 2025年1月17日
振替休日の月またぎとは?期限や給与計算方法、先に取得する場合を解説
月をまたいでの振替休日は、法的に問題ありませんが、労働基準法の遵守や給与計算に注意が必要です。
本記事では、月をまたいで振替休日を取得する際の、基本的な概要から給与計算方法、取得させる際の注意点などについて解説します。
目次
振替休日の月またぎとは?
振替休日の月またぎとは、本来休みの日に出勤をして別の労働日を休みとする際に、休日が給与の締め日をまたぐケースを指します。
たとえば給与の締め日が毎月15日の会社で、本来休日であった6月10日に出勤し、同月6月30日を振替休日としたケースが、振替休日の月またぎに該当します。
なお、あらかじめ振り替える休日が決まっていれば、休日の振替によって労働日となるより先に休むことも可能です。
振替休日はどこまで月またぎできるか
振替休日の明確な取得期限は、法律で定められていません。
ただし労働基準法第115条に記載されている、「賃金の請求権を除く、その他の請求権」によって、2年間で振替休日の取得は時効を迎えると考えられています。
振替休日を月またぎする際の問題点
月をまたいだ振替休日の取得は、明確な規定がないため法的に問題はありませんが、実際は給与計算が煩雑になる点や従業員の健康に配慮する必要があります。
振替休日は、あとから休日を取らせることになるので、振替出勤をした分の賃金を支払う必要はないと思う方もいるでしょう。しかし、まだ取得していない休日と、既に労働した日の賃金を相殺するのは違法です。
さらに労働基準法では、週に40時間以上の労働をさせてはいけないと定められています。
振替休日が月をまたぐことで、週の労働時間が40時間を超えた場合は、割増賃金の計算も必要になってきます。
それだけでなく、連勤による過労のリスクも考えられるため、月をまたいでの振替休日取得は、あまり望ましいとはいえないでしょう。
振替休日と代休の違い
振替休日と代休はいずれも休日に労働した際に、別の日を休日とする制度ですが、2つには明確な違いがあります。
主な相違点は次のとおりです。
振替休日 |
|
---|---|
代休 |
|
もっとも大きな違いは、「あらかじめ振替休日を定めているかどうか」です。
月またぎの振替休日を給与計算する手順
振替休日が月をまたぐ場合は、同一の給与計算期間内の振替休日とは異なった給与計算が必要になります。
基本的な考え方としては、一旦振替出勤分の賃金を支払い、振替休日を取得した月に控除処理をするのが一般的な流れです。
詳しい内容は、次項で解説します。
①振替出勤日の給与を支払う
休日の振替により労働日数が増えた月は、通常の給与とは別に振替出勤日の給与を一旦支払います。振替出勤日に8時間を超え、もしくは深夜に及んで労働した場合の割増賃金はもちろん、休日の振替により週40時間を超過して労働したのであれば、その分の割増賃金も必要です。
労働基準法第24条の「賃金の全額払いの原則」によって、企業は労働者に労働した分の賃金を毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないという義務があります。
そのため翌月以降に振替休日を取得する予定であっても、その月の労働に対する賃金は、その月に必ず支払わなければいけないのです。
給与計算の手間はかかりますが、振替出勤をした月はその分の給与計算を正確におこない、全額を労働者に支払います。
②振替休日を取得したら控除をおこなう
振替休日を取得できた月は、その月の給与から休んだ分の給与を控除します。ただし控除できるのは振替出勤日の所定労働時間に対応する部分のみです。振替出勤日の労働時間が8時間を超えた場合や深夜に及んだ場合、休日の振替により週40時間を超過したことによる割増賃金は控除対象外です。
振替出勤したときに割増賃金が生じていた場合、そのままの金額を控除するのではなく、振替出勤日の所定労働時間に対応する部分のみ控除するように、注意しましょう。
月またぎの振替休日を給与計算する具体例
月またぎの振替休日について、2つの事例を解説します。
一般的な月またぎの振替休日のケース
法定労働時間を超えない振替休日の具体例は、以下のとおりです。
振替出勤分の賃金は1時間当たりの賃金額に労働時間をかけて算出します。
- 1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12=1ヶ月の平均所定労働時間
- 月給÷1ヶ月の平均所定労働時間=1時間あたりの賃金額
- 1時間あたりの賃金額×労働時間=振替出勤日について支払う賃金額
年間休日が125日で1日の所定労働時間が8時間、月給30万であった場合、実際には次のように計算します。
- (365-125)×8÷12=160
- 300,000÷160=1,875
- 1,875×8=15,000
振替出勤をした月は、15,000円を給与に上乗せして支払い、振替休日を取得した月は、15,000円を控除して給与を支払いましょう。
割増賃金が必要なケース
振替出勤によって法定労働時間を超える場合は、超過した分の割増賃金も含めて支払う必要があります。
たとえば1日8時間、週に40時間労働が就業規則で定められている企業で、振替休日の制度を活用した場合は、次のような計算をします。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|
8時間労働 | 8時間労働 | 8時間労働 | 8時間労働 | 8時間労働 | 休日出勤 | 休日 |
前述の例を参考に1時間あたりの割増賃金を計算して、実際の労働時間をかけて1日の給与を算出しましょう。
振替出勤をした月は、18,750円を給与に上乗せして支払いますが、振替休日を取得した月は、振替出勤日の所定労働時間に対応する15,000円しか控除できない点に留意が必要です。
月またぎの振替休日の注意点
振替休日の月またぎは、注意すべき点を覚えていないと、労働基準法違反になったり、労働者とのトラブルになったりしかねません。
次章では、特に注意したい4つのポイントを解説します。
振替休日を付与できない場合は休日出勤となる
振替休日の制度を利用することで労働日と休日を入れ替えることが可能になり、本来休日であった日に出勤しても、通常の労働日にできます。これにより振替出勤日は通常の賃金を支払えば足りることとなります。ただし、振替休日を付与できない場合は結果的に休日出勤したのと同じことになり休日割増賃金の支払が必要です。
そもそも振替休日は、就業規則に定めている場合に限り利用できる制度のため、企業は就業規則に振替休日の概要を記載のうえ、労働監督署に提出する義務があります。加えて雇用契約を結ぶ際の雇用契約書、労働条件通知書にも休日を振り替えることがある旨を記載します。
このように、振替休日の制度を利用するには就業規則、労働条件通知書などへ記載が必要です。そのうえで振替休日を付与できない場合は休日出勤として割増賃金の支払が必要となる点に留意しましょう。
法定休日を下回らないようにする
振替休日が月をまたぐ場合は、労働基準法で定められている法定休日の要件を満たしている必要があります。
法定休日とは、労働基準法にもとづいて労働者に必ず与えなければいけない休日のことです。使用者には「少なくとも1週間に1回の休日、もしくは就業規則に定めたうえで4週間に4回以上」の休日付与が義務付けられています。
法定休日を下回る休日の取り扱いは認められていないため、休日を振り替えることにより週に1回以上の休日が取得できない状況では休日の振替を断念せざるを得ません。それでもやむを得ない理由で出勤してもらう必要がある場合は、休日出勤として割増賃金の支払が必要です。
ただし、振替休日と銘打った休日出勤が常態化している労働環境では、コンプライアンス違反などによる責任問題を問われかねないので、休日の振替は法定休日の要件を守れる範囲内で行いましょう。
休日労働には36協定の締結が必要
月またぎで振替休日を取得するとなると、労働基準法で定められている「1日8時間以内かつ1週間に40時間以内」の法定労働時間を超過してしまう可能性があります。
法定労働時間を超過して勤務させるには、通称36(さぶろく)協定と呼ばれる労使協定を締結し、「時間外・休日労働に関する協定届」を労働基準監督署に提出しておく必要があります。
振替休日を翌月以降に取得したとしても、当月の法定労働時間を超える可能性があるので、36協定の締結・労働基準監督署への届出を忘れないようにしましょう。
割増賃金の計算を正確におこなう
振替休日を月またぎで取得する際は、下記の場合において割増賃金の支払いが必要です。
- 週の労働時間が40時間を超える
- 1日8時間を超える労働
- 深夜労働が発生
賃金の割増率は、次のように計算します。
- 法定休日に労働した場合(休日労働):35%
- 1日8時間、法定休日の労働を除いて週に40時間を超えて労働する場合(時間外労働):25%
- 深夜労働の場合:25%
割増賃金の計算に過不足があると、労働者との間でトラブルになる可能性があるので、正確に計算して支払うように注意しましょう。
月またぎの振替休日が先に来ても問題はない?
振替休日は、「働く日と休みを入れ替える行為」であるため、振替休日が休日出勤より先に来ても問題ありません。
振替休日が翌月以降になる場合の給与計算は、振替出勤した分を当月に支払い、振替休日を取得した月は、振替出勤日の所定労働時間分の賃金を控除します。
一方で、振替休日が前月以前に来る場合、休日に休んだだけなので、給与計算で特段必要な処理はありません。同様に、月をまたいで振替出勤をした月は、既に振替休日を取得した日数分所定労働日数が増えるだけなので、追加の賃金は発生しません。
なお、振替休日を取得したあとに予定していた労働日が休みになった場合は、欠勤扱いとなり給与から振替出勤をしなかった日数分の欠勤控除をします。
振替休日は正確な賃金計算が大切
振替休日の月またぎは法的に問題はないものの、同一週に振替休日を取得するのとは違い、給与計算が複雑になります。
正確な賃金計算がされていないと、労働者とのトラブルになりかねないため、企業は振替休日について正しい知識をもつことが大切です。
ヒューマンエラーや給与計算の手間を軽減するためにも、マネーフォワードクラウド給与を導入して、振替休日に関する賃金トラブルを回避しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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