- 作成日 : 2022年8月19日
アルバイトをする学生は社会保険に加入するべき?条件を解説
事業者に雇用されて働いている人は社会保険に加入していますが、同じように雇用されていても学生のアルバイトはあまり加入していません。アルバイトとして働く学生は基本的に社会保険への加入義務がありませんが、場合によっては加入しなくてはならないこともあります。加入できればさまざまなメリットも発生するため、積極的に社会保険への加入を考えましょう。この記事ではアルバイトの学生における社会保険加入の必要性や加入条件、手続きや加入により受けられるメリットなどを解説します。
目次
アルバイトの学生は社会保険に加入するべき?
学生をアルバイトとして雇用している場合、アルバイトの学生は基本的に社会保険への加入義務がありません。学生の本分は学業であり、アルバイトによる労働は学業の合間に行っていることのため本業ではないという理由です。
しかし、条件を満たすとアルバイトの学生でも社会保険への加入が必要になり得ます。主な例として以下の例が挙げられます。
- 通信教育を受けている
- 大学・高校の夜間学生として学んでいる
- 定時制課程で学んでいる
- 休学している
- 卒業見込みであり卒業前から就職していて、卒業後も同じ会社で働く予定がある
- 会社の命令・承認により大学院などに通っている
- 出席日数が修了要件に含まれない学校に通っていて、社内でほかの従業員と同様に働ける
- 正社員が労働する時間の4分の3以上働いている
なお、上記の例は一般的に「社会保険」と呼ばれる健康保険・厚生年金への加入を対象にしています。雇用保険の場合は条件が異なるため確認しましょう。
また、アルバイトで得ている収入額にも注意が必要です。多くの学生は親の扶養に入って健康保険を利用していますが、アルバイトで年間130万円以上の収入を得ると扶養に入れなくなります。扶養による社会保険が使えなくなるため、会社の社会保険に加入しなくてはなりません。
社会保険とは
社会保険とは、日本国民が原則として全員加入する強制保険制度のことです。社会生活で発生し得る各種リスクに対して、一定の給付によって困窮した生活からの救済を図ってくれます。広く使われる「社会保険」という言葉には2種類の保険が含まれており、さらに2種類の保険が合計5種類の保険を含有しています。「社会保険」に含まれる5種類の各保険は以下のものです。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 労災保険
- 雇用保険
これら5種類のうち、特に健康保険・介護保険・厚生年金保険の3種類は「(狭義の)社会保険」と呼ばれます。一方、残りの労災保険・雇用保険は「労働保険」と呼ばれています。
社会保険5種の保険料は半分以上の割合を会社が負担しなければなりません。狭義の社会保険に含まれる3種は会社・従業員で折半して、雇用保険は会社が従業員より多くの割合を負担しています。そして労災保険は全額が会社側の負担です。
社会保険に関する詳しい内容は、こちらの記事をご参照ください。
学生が社会保険に加入する条件
アルバイトしている学生が社会保険に加入するためには条件を満たす必要があり、条件の内容は社会保険に含まれる各種保険によって異なります。基本的に、学生は親の扶養に入って保険を利用しているため、社会保険に加入する機会は多くありません。一方で学生アルバイトでも必ず加入すべきものもあり、社会保険に対する理解が求められます。社会保険の種類と加入条件を把握しておきましょう。
労災保険
学生のアルバイトが労災保険に加入する条件は特にありません。労災保険はすべての労働者が必ず加入する保険のため、アルバイトであっても関係なく強制的に適用されます。労働基準法・労働者災害補償保険法により、職業の種類を問わず該当する「労働者」が1人でも雇用されていれば労災保険の適用対象に含まれます。勤務日数や時間が短くとも、事業者・労働者間での雇用契約があれば労災保険への加入義務が生じます。
労災保険はアルバイトならば必ず加入しますが、場合によっては加入対象に含まれない場合もあります。会社と雇用関係にない役員や個人事業主、別の制度が設けられている公務員は労災保険への加入義務が設けられません。しかし、いずれも学生が合致している可能性は低いため、「アルバイトとして働く学生には労災保険が必須」と認識しておきましょう。
雇用保険
雇用保険の適用を受けるためには複数の条件を満たす必要があり、学生のアルバイトでは条件を満たしていないケースも少なくありません。
雇用保険適用の条件は雇用保険法で定められていて「週に20時間以上働いている」「31日以上の勤務が見込まれる」「昼間学生ではない」の3つをすべて満たしていないと、雇用保険が適用されません。逆に条件をすべて満たしていれば加入が必須になるため、アルバイトとして働く学生・学生を雇う事業者ともに注意が必要です。
なかでも雇用保険適用条件のうち、「昼間学生ではない」という点に関しては特に注意しなくてはなりません。昼間学生であっても「休学している」「定時制課程に通っている」「事業者の指示で大学院などに通っている」などの条件を満たすと雇用保険が適用されます。特に休学や定時制は見落としやすいため、忘れずに確認しましょう。
医療保険
健康保険は「医療保険」とも呼ばれ、一定程度以上の頻度で勤務していないと加入が認められません。1週間の労働時間や1ヶ月の労働日数が正規雇用者の4分の3以上あれば、医療保険への加入が可能になります。労働時間・日数が足りない場合でも、以下の4条件を満たせば短時間労働者として医療保険が適用されます。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月給が8万8千円以上
- 2ヶ月以上雇用される見込みがある
- 学生ではない
学生は医療保険が適用されない条件に含まれていますが、労働時間・日数の条件を満たしていれば保険が適用されます。保険料は半額を事業者が負担します。
年金保険
厚生年金保険の加入条件には「昼間学生でないこと」が含まれており、基本的に学生のアルバイトは年金保険に加入できません。一方で雇用保険などと同様に、休学中・定時制のような条件に該当すれば年金保険への加入が可能になります。
年金保険の基本的な加入条件は「1週間の労働時間および1ヶ月の労働日数が一般社員の4分の3以上」であることです。「昼間学生でないこと」という条件は、この条件を満たしていない場合に考慮されます。その他にも「週に20時間以上働いている」「年収が106万円以上ある」などの条件が設けられており、2022年10月と2024年10月には条件が改正されます。2022年10月以前は職場の従業員数が500人を超えている必要がありましたが、10月以降は100人を超えていれば条件を満たすようになります。さらに、2024年10月以降は50人超えまで緩和されます。自分たちが条件を満たしているか、適宜確認しておきましょう。
介護保険
基本的に、学生は介護保険に加入しません。介護保険は40歳以上かつ健康保険に加入している従業員が自動的に加入するものであり、加入後は年齢を問わず保険料の支払いが続きます。65歳になって以降に要支援・要介護状態になると、必要な給付を受けられるようになります。学生の大半は40歳未満のため、介護保険に加入する学生はほぼいないと考えられるでしょう。
介護保険料の支払い方法は年齢によって変化します。40~64歳は健康保険料と同様に給与から天引きされて、支払額の半分を事業主が負担します。65歳以上になると受給される年金から天引きされるようになります。学生のうちはあまり縁がない保険ですが、早くから知識を持っておくと将来的に役立つでしょう。
学生が社会保険に加入する際の手続き
アルバイトをしている学生が社会保険に加入する場合、保険ごとに手続きが求められます。各保険の手続きは以下の方法です。
健康保険・厚生年金保険
被保険者資格取得届を年金事務所に提出します。郵送や窓口への持参に加えて電子申請も可能です。期限は加入義務事実の発生から5日以内と短いため注意しましょう。
アルバイト本人は、採用された時点で年金手帳を職場の事務担当者に提出します。マイナンバーカードがある場合はカードの提示でも構いません。
労災保険・雇用保険
労災保険は保険関係成立届と概算保険料申告書を労働基準監督署に提出します。期限は保険関係成立から10日以内です。
雇用保険の手続きはハローワークで行います。雇用保険被保険者資格取得届を、資格取得事実発生から翌月の10日までに提出します。
介護保険
対象の年齢になると自動的に加入されるため、学生や事業者からの手続きは不要です。
学生が社会保険に加入するメリット
扶養に入っている人が多い学生でも、社会保険に加入するとさまざまなメリットを享受できます。学生が受けられる主なメリットとして、以下のものが挙げられます。
保険料の負担を抑えられる
社会保険を利用すると支払うべき保険料の多くを会社が負担してくれるため、学生自身の負担額を少なくできます。保険料の支払額が減れば手元により多くのお金が残ります。
受け取れる年金の金額が増える
学生時代から厚生年金保険を支払っていると、老後により多くの年金を受け取れる可能性が高まります。基礎となる国民年金に、支払った厚生年金がプラスされます。
手厚い保証を受けられる
社会保険による各種の保証を学生アルバイトでも受けられます。ケガ・病気で欠勤が続く際に傷病手当金を受け取ることも可能です。保証があると安心して働けるでしょう。
社会保険への加入で生じるメリットについて、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
学生の社会保険の適用除外とは
学生は原則として、社会保険の適用除外対象に含まれています。適用除外とは保険への加入が認められない状態のことを指します。
学生が社会保険に加入するためには、「4分の3要件」と呼ばれる条件を満たさなければなりません。アルバイトではない通常労働者の労働時間と比べて、4分の3以上の時間勤務していれば条件を満たします。4分の3要件を満たしていればアルバイトでも社会保険への加入が可能になりますが、満たしていない場合は追加の条件を用いて判断されます。「週に20時間以上働く」「月給が8万8千円以上」などの条件をすべて満たせば、社会保険への加入が可能です。
追加条件のなかには「学生でない」というものもあります。そのため、休学中・定時制課程に通学中などでない一般的な昼間学生は社会保険加入の条件を満たしません。
学生は基本的に社会保険の加入義務はない
アルバイトの学生における社会保険加入の必要性や加入条件、手続きや加入により受けられるメリットなどを解説しました。学生は基本的に社会保険への加入義務がありませんが、勤務状況や収入額などによっては加入が必要になることもあります。加入できれば学生でも長期的にさまざまなメリットを享受できるため、利用可能な保険を見つけて積極的に加入してみましょう。
社会保険は学校を卒業して社会人になると理解・利用が必須になる制度です。学生時代から少しずつでも利用していければ、社会人になってからもスムーズに対応できるようになるでしょう。
よくある質問
学生アルバイトに社会保険は必要?
基本的に加入する義務はありませんが、アルバイトでの勤務状況や収入額などによっては加入が必須になることもあります。詳しくはこちらをご覧ください。
学生の社会保険加入によるメリットは?
保険料による負担を減らしたり万一の際に手厚い保証を受けたりできて、将来的にも多くの年金をもらえる可能性が上がります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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