- 更新日 : 2024年5月23日
役員報酬とは?給与との違いや相場・決め方などを解説
役員報酬とは、取締役や監査役といった役員に支払う報酬を指します。役員報酬は従業員に支払う給与とは異なり、一定のルールを厳守しなければ損金に計上することはできません。この記事では、役員報酬と給与の違い、相場や決め方などをわかりやすく解説していきます。
目次
役員報酬とは?給与との違い
役員報酬とは、取締役や監査役などの役員に支払う報酬です。つまり、役員の給与のこと。役員報酬は株主総会で決定され、毎月給与のように一定額が支給されます。
給与は、雇用契約を結んでいることが前提です。そのため、雇用契約のない役員に対する給与は報酬と呼ばれ、雇用契約を結んでいる従業員には給与という科目で支払われます。
従業員の給与は全額損金として算入できますが、役員報酬については、節税につながる不正を防ぐために会社法や法人税法で厳しいルールが定められています。
役員とは
役員には、法人の取締役、執行役、監査役、会計参与などが該当します。それぞれの役目を見てきましょう。
取締役
取締役とは、会社の業務執行における意思決定を行う人のことを指し、株主総会の決議で選任されます。さらに取締役会の一員から、会社の業務に関する最終的な決断をする代表取締役を選任します。
執行役
執行役は、指名委員会等設置会社において、株主総会や取締役会で決定された方針に従って業務を実行する役割を担っています。よく似た役職名に執行役員がありますが、執行役員は、会社法上、役員とつく他の役員とは異なり、法律上は従業員の位置づけです。
監査役
監査役は、取締役や会計参与が健全に経営活動をしているか、適正な実地棚卸や計算書類の作成が行われているかをチェックする役目を担っています。また、著しい不正行為や違法な事実を発見したときは、取締役や株主総会へ報告するなどの行動をとります。
会計参与
会計参与は、取締役と共に企業の財務諸表などを作成する業務を担っています。会計参与になれるのは、税理士、税理士法人、公認会計士、監査法人のいずれかのみです。
会計参与は、株主総会での報告のほか、取締役の違法行為の是正などの権限があります。ただし、監査役とは異なり監査権限はありません。
役員報酬の決め方
役員報酬を決める流れや、役員報酬を決める際のポイントについて解説します。
役員報酬を決める流れ
役員報酬は、会社法や法人税法などで規定されており、「定款または株主総会の決議によって定める」とされています。
まず、株主総会で役員報酬の総額(枠)を決定します。株主総会は決算日から3ヵ月以内に実施されます。株主総会で過半数の賛成票が得られると可決されます。
次に、取締役会にて、株主総会で決められた枠内で役員の個別報酬を決定します。こちらも株主総会同様、過半数の賛成票が得られると可決となります。
なお、株主総会、取締役会いずれも議事録を作成する必要があります。
役員報酬の勘定科目
役員報酬の勘定科目は、販売費及び一般管理費の「役員報酬」です。計上時期は役員報酬を支給したときです。
役員報酬額を決める際のポイント
続いて、役員報酬を決める際のポイントについてみていきましょう。年間収益や社会保険との兼ね合いなど、バランスを考えることがポイントとなります。
- 会社の年間収益との兼ね合い
- 税金、社会保険料との兼ね合い
- 同業種、同規模の他社との兼ね合い
役員報酬は、売上予測をもとにして粗利や固定費などから利益を算出した上で、役員報酬を決定します。役員報酬が自社の利益を逼迫することのないよう、慎重な判断が不可欠です。
会社に利益を残したいなら役員報酬は抑えるべきですし、ひとり社長など、個人と企業との区別がなく報酬を増やしたい場合は、高めに設定するとよいでしょう。
役員報酬を決定するには、税金や社会保険料とのバランスも重要です。役員報酬は、当然ながら会社の利益から出ています。役員報酬が増えると会社の利益が減るため、法人税や会社の健康保険料などが少なくなります。一方で役員報酬が増えると役員個人が負担する税金や社会保険料が高くなります。
役員報酬の総額と、会社としての支出金額などを比較して、もっとも支出が抑えられる金額を把握しておきましょう。
役員報酬を決定する際には、同業種や同規模の他者と比較して、高すぎないよう注意が必要です。役員報酬が同業種や同規模の他者と比べて高すぎると、税務署から損金への計上を否認される恐れがあるためです。
反対に、低すぎる役員報酬は役員のやる気を削ぐ可能性があります。役員報酬を決定する際には、他社とのバランスを考慮しましょう。
役員報酬の相場は?
前述したとおり、役員報酬は高すぎると税務署から損金として認められない恐れがあります。そうならないためにも、役員報酬の相場を知っておくことが重要です。
資本金 | 男性 | 女性 | 合計 |
---|---|---|---|
2,000万未満 | 674万円 | 372万円 | 582万円 |
2,000万円以上 | 921万円 | 571万円 | 832万円 |
5,000万円以上 | 1,158万円 | 490万円 | 1,086万円 |
1億円以上 | 1,326万円 | 760万円 | 1,279万円 |
10億円以上 | 1,799万円 | 521万円 | 1,598万円 |
上記の表は、国税庁が公表した「令和元年民間給与実態統計調査」から役員報酬を抜粋したものです。
この表を見ると、資本金ごとに役員報酬が増えていることがわかります。女性の役員報酬が男性より少ないのは、社長の妻が役員報酬を受け取っているケースが多いことが考察されます。
いずれにしても、役員報酬を決める際には役員報酬の相場を知ると共に、同業種や同規模他社と比べて乖離した金額にならないようにしましょう。
損金にできる役員報酬の種類
税務上、損金に算入できる役員報酬には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3つがあります。
定期同額給与
「定期同額給与」は、年度中は同じ額が毎月支払われる報酬のことを指します。税務署への特別な届け出は必要ありません。あくまでも毎月一定金額を支払うことを条件として損金として認められます。
会社設立時には、役員報酬を設立後3ヵ月以内に決めておかなければ、損金として算入できません。また、会社の経営が著しく悪化し、株主や取引先に多大な影響があるなどの特別な事情がない限り金額を変更することはできません。
事前確定届出給与
役員の賞与は、原則的に損金として認められません。ただし、あらかじめ税務署に届けておくことで役員の賞与として支払い、損金として計上できます。これが「事前確定届出給与」です。
事前確定届出給与を損金として参入するには、届出書に記載した対象者、支給金額、支給日の内容通りに支給する必要があります。
税務署への届出書の提出期限は、株主総会などの決議した日から1ヵ月以内もしくは、会計期間開始日(事業年度開始日)から4ヵ月以内のうち、いずれか早い日と決まっています。
業績連動給与
「業績連動給与」は、平成29年度の税制改正以前は「利益連動給与」と呼ばれ、会社が得た利益に連動して決める役員報酬を指します。
業績連動給与は、有価証券報告書に記載されている指標をもとに算定されますが、同族会社では認められていません。非同族会社かもしくは、非同族会社の完全子会社となっている同族会社のみに認められた役員報酬です。日本の中小企業のうち約9割は同族会社のため、業績連動給与が使用できるのはほんの一部の中小企業のみです。
役員報酬を損金として算入するために
役員報酬を損金として算入するためには次の3点に注意する必要があります。
- 報酬額を期限内に決める
- 決定した金額は変更しない
- 不相当に高額にしない
これら3つのルールをすべて厳守しなければ、役員報酬を損金として算入できなくなります。
1.報酬額を期限内に決める
役員報酬を損金に算入するために、原則として期限内に役員報酬の金額を決定する必要があります。毎月の役員報酬の決定は、会社設立日、もしくは事業年度開始日から3ヵ月以内と決められています。決められた役員報酬は、年度内は変更できません。役員報酬の金額の変更ができるのは、決算後3ヵ月以内です。この3ヵ月の間に変更しなければ、役員報酬は前年と同額ということになります。
2.決定した金額は変更しない
定期同額給与でご説明したように、役員報酬の金額は毎月一定であることが損金算入への条件です。決定した金額は、増額も減額もできません。ただし、会社の業績が著しく悪化し、株主や関係者に多大な影響がある場合や、社長が亡くなるなど組織の再編成が必要になるといった事情がある場合は、定期同額給与の変更が例外的に認められています。
3.不相当に高額にしない
役員報酬の相場でもご説明したように、同業種や同規模他社より不相当に高額な場合は、損金として認められないことがあります。役員となっている親族への報酬も含まれますので、役員報酬は慎重に決定しましょう。
役員報酬を決める際の注意点
では、どのような点に注意して役員報酬を決めればよいのか、役員報酬を決める際の注意点について見てきましょう。
役員報酬額と法人税
役員報酬を決めるときは、税負担のバランスにも注意しましょう。会社の利益に課せられる税金には、法人税、法人事業税、法人住民税などがあります。一方、個人に課せられる税金には、所得税、住民税があります。
役員報酬を増やせば、会社の利益は減りますので法人として納める税金は少なくなりますが、個人で納める所得税は累進課税のため、所得が増えれば増えるほど税の負担が大きくなります。会社として税を負担するのか、個人が負担するのかといったバランスを考慮しつつ役員報酬を決定し、節税につなげましょう。
役員報酬額と社会保険料額
税金・社会保険料との兼ね合いでご説明したように、役員報酬が多いほど、社会保険料の負担は大きくなります。また、社会保険は労使折半のため、役員報酬を増やすと個人での負担が増えるだけでなく法人の負担も増えます。法人税同様、社会保険料も法人としての支出金額、個人としての支出金額を比較し、最も支出を抑えられる金額を把握する必要があります。
会社の損益計画の調整による予想外の納税
期首には、会社にどの程度利益が残るのか経営計画を立てる必要があります。安定的なビジネスモデルでは、売上も経費もそれほど変動なく推移するため、納税額も平年通りとなることが多いようです。しかし、さまざまな突発的な要因で急激に売上が伸びることがあります。急激な売上の増加は喜ばしいことですが、予想外の納税に頭を悩ませる事態になりかねません。
役員の報酬を決定できるのは、事業年度開始日から3ヵ月以内です。一度決めた役員報酬は期中に変更できないので、税金の負担が大きくなると会社に資金が残らなくなります。こうした事態を避けるためにも、より正確にそして早い段階での資金計画を立てることが重要です。
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よくある質問
役員報酬とは?
役員報酬とは、取締役や監査役、会計参与といった役員に支払う報酬のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
損金にできる役員報酬の種類は?
損金にできる役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の3つです。詳しくはこちらをご覧ください。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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