- 更新日 : 2024年12月3日
うつ病の休職期間の目安は?過ごし方や退職・復職のポイントも解説!
うつ病による休職は、企業の人事担当者にとって慎重な対応が求められる課題です。労働者の健康と職場の生産性のバランスを取りながら、適切な休職期間の設定や復職支援を行うことが重要となります。
本記事では、うつ病の休職に関する基本的な知識から、休職中の対応、復職時のポイントまで、人事担当者および本人が知っておくべき情報を解説します。
目次
うつ病の休職期間の目安・平均は?
「うつ病」とは、どのような疾患なのでしょうか。厚生労働省は「精神活動が低下し、抑うつ気分、興味や関心の欠如、不安・焦燥、精神運動の制止あるいは激越、食欲低下、不眠などが生じ、生活上の著しい苦痛や機能障害を引き起こす精神疾患」としています。
※参照:厚生労働省委託事業:働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの耳』
うつ病の症状や程度は個人差があるため、休職期間も個人によって異なります。軽度のうつ病であれば2~3ヵ月程度で復職できるケースもありますが、重度の場合は1年以上の休職が必要になることもあります。
うつ病で休職するときに必要な手続きは?
うつ病と診断されて休職が必要となった場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
うつ病で休職する際には、労働者本人が医師の診察を受け、診断書(病気休業診断書)を取得後、通常は所属部門の上司に提出します。
上司は、診断書が提出されたことを人事労務の担当部門に連絡し、担当部門から本人に必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明することになります。
会社は労働者の健康状態を考慮し、本人が休業期間中に安心して療養に専念できるよう、以下のような項目について情報提供や支援を行うことが大切です。
うつ病の休職期間中の過ごし方は?
うつ病による休職期間は、症状のケアを最優先に過ごすことが重要です。具体的には、以下の4つが挙げられます。
十分な休養と睡眠の確保
うつ病からの回復には、十分な休養と質のよい睡眠が欠かせません。休職期間中は、規則正しい生活リズムを維持することが重要です。就寝時間と起床時間を一定に保ち、昼夜逆転の生活にならないよう注意しましょう。日中は適度に活動し、夜はリラックスできる環境を整えることで、自然な睡眠リズムを取り戻すことができます。
睡眠の質を向上させるために、寝室の環境を整えることも大切です。適度な温度と湿度を保ち、騒音や光を遮断するなどの工夫をしましょう。また、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用は控え、代わりに読書やストレッチなど、リラックスできる活動を行うことをおすすめします。
適度な運動と外出
適度な運動は、うつ病の症状改善に効果があるとされています。ただし、無理をせず、自分のペースで行うことが大切です。散歩やストレッチなど、軽い運動から始めるとよいでしょう。外出することで、日光を浴びたり、気分転換を図ったりすることができます。
運動の効果を最大限に引き出すために、定期的に行うことを心がけましょう。例えば、毎日15分の散歩を習慣にするなど、無理のない範囲で継続的に運動を行うことが重要です。自然の中での運動は特に効果的とされているので、公園や緑地での散歩を取り入れるのもよいでしょう。
ただし、混雑した場所や長時間の外出は避け、徐々に活動範囲を広げていくことが望ましいです。自分の体調と相談しながら、無理のない範囲で外出や運動を行いましょう。
治療の継続と服薬管理
うつ病の治療において、医師の指示に従った服薬管理は非常に重要です。休職中であっても定期的に通院し、症状の変化や副作用について医師に相談することが大切になります。処方された薬は医師の指示どおりに服用し、勝手に中断したり量を変更したりしないようにしましょう。
服薬管理を確実に行うために服薬スケジュールを作成したり、アラームを設定したりするなどの工夫も有効です。副作用や気になる症状があれば、必ず医師に相談しましょう。自己判断で服薬を中止したり、量を変更したりすると、症状の悪化につながる可能性があります。
加えて心理療法やカウンセリングなど、薬物療法以外の治療法についても、医師と相談しながら積極的に取り入れることを検討しましょう。
ストレス管理とリラックス法の実践
ストレス管理は、うつ病からの回復に重要な役割を果たします。休職期間中は、瞑想やヨガ、深呼吸法などのリラックス法を実践するなどして、ストレスの軽減に努めましょう。これらの技法は心身のリラックスを促し、不安やストレスを軽減する効果があります。
また、趣味や好きな活動を通じて、気分転換を図ることも効果的です。読書や音楽鑑賞、絵画、ガーデニングなど自分が楽しめる活動を見つけ、無理のない範囲で取り組みましょう。過度な刺激は避け、自分のペースでゆっくりと取り組むことが大切です。
さらに、ストレス日記をつけることで、自分のストレス要因や気分の変化を客観的に把握することができます。これにより、効果的なストレス管理の方法を見つけやすくなります。
うつ病の休職期間中の給与や傷病手当金は?
通常、うつ病の休職期間中の給与は会社から支給されず、発症原因によって社会保険の保険給付を受けることになります。社会保険による保険給付は、発症原因が業務上か、業務外か、によって異なります。
原因が業務上の場合
業務上でうつ病を発症するケースとしては、上司のパワーハラスメントや顧客によるカスタマーハラスメントなどが考えられます。うつ病の原因が業務上と認められた場合、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく補償を受けられる可能性があります。ただし、労災として認定されるためには、業務遂行性および業務起因性が認定されることが必要です。詳細な認定基準として、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を設けています。
※参照:心理的負荷による精神障害の認定基準について|厚生労働省
認定された場合、労災保険から療養補償給付(医療費の全額)や休業補償給付(給与の80%相当額)などを受けられます。労災保険は、本来事業主が業務災害について労働者に補償責任を負うものを保険加入によって代替するものであるため、療養補償給付に自己負担はなく、休業補償給付にも打ち切りはありません。会社を退職した後も、治癒していなければ支給が継続されます。
労災申請の手続きは事業主を通じて行うのが一般的ですが、労働者本人が直接行うこともできます。申請には、医師の診断書や勤務状況を証明する資料などが必要です。通常の業務災害のケースよりも認定基準が細部に及ぶため、労災認定の可能性がある場合は社会保険労務士や弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
原因が業務外の場合
うつ病の原因が業務外(私傷病)と認められた場合、健康保険法に基づく療養の給付および生活保障としての傷病手当金を受給できます。健康保険では、受益者負担として原則として療養の給付には3割の自己負担があり、傷病手当金は1年6ヵ月で打ち切られます。
傷病手当金の支給額は、直近12ヵ月の平均標準報酬日額の3分の2相当額です。ただし、休職中に会社から給与が支払われ、その額が傷病手当金を上回る場合には、傷病手当金は支給されません。給与が傷病手当金を下回る場合は、その差額が支給されます。
また、休職中の社会保険料の支払いについても確認が必要です。多くの場合、会社負担分は会社が継続して支払い、従業員負担分は従業員が支払うことになります。
うつ病の休職期間は延長できる?
うつ病による休職期間の生活保障となる休業補償給付と傷病手当金について見てきましたが、休職制度そのものについては、労働基準法などの法律に直接的な規定がありません。
しかし、労働契約法第3条第4項では「使用者は、労働者と協議し、その意思を確認しつつ、できる限り労働者の希望を尊重するよう努めなければならない」と定められています。
この規定に基づき、企業は従業員の状況を考慮し、休職制度を設けることが望ましいとされています。
通常、休職期間は企業の就業規則や労働協約に基づいて設定されます。一般的には、以下のような基準で設定されるケースが多いです。
- 勤続年数に応じた期間設定の具体例
- 勤続1年未満:30日
- 勤続1年以上3年未満:90日
- 勤続3年以上:180日
- 休職事由による期間設定の具体例
- 私傷病による休職:最長1年
- 業務上の傷病による休職:療養期間満了まで
- その他の事由による休職:会社が認めた期間
休職期間の延長については、一般的に就業規則に規定が設けられます。延長を希望する場合は、主治医の診断書を添えて会社に申請し、会社側の判断を仰ぐことになります。
うつ病の休職期間に退職はできる?
非正規労働者のような有期雇用でも、正社員のような無期でも、休職期間中に労働者から退職を申し出ることができます。ただし、使用者に不利益を与えないよう、就業規則に定められた退職手続きを遵守する必要があります。また、以下のメリット・デメリットを十分に考慮し、慎重に判断することが重要です。
うつ病の休職期間に退職するメリット
以下のようなメリットが挙げられます。
- 心理的負担が軽減する
復職への不安や職場環境に対するストレスから解放されることで、心理的負担が軽減される可能性があります。 - 治療に専念できる
退職後は仕事の制約から解放されるため、治療に専念しやすくなります。 - 新たなキャリアを模索できる
回復後、自分の適性や希望に合った新たな職場を探す機会を得られます。
うつ病の休職期間に退職するデメリット
一方、以下のようなデメリットもあります。
- 社会保険資格を喪失する
退職により、健康保険や厚生年金保険の被保険者資格を失います。健康保険については、任意継続被保険者の手続きをしない場合、国民健康保険や国民年金への加入手続きが必要になり、保険料の自己負担が増加する可能性があります。 - 再就職が困難になる
うつ病の治療中や回復途中での再就職は、困難な場合があります。雇用対策法第10条では、事業主に対して労働者の募集・採用において均等な機会を与えるよう努力義務を課していますが、実際の採用では健康状態が考慮される可能性があります。 - 復職機会を喪失する
休職期間中に退職すると、現在の職場への復職機会を失います。労働契約法第3条第4項では、使用者は労働者の希望を尊重するよう努めなければならないとされていますが、一度退職すると、この保護を受けられなくなります。
うつ病の休職から復職するときのポイントは?
最後に、うつ病の休職から復職するときのポイントを4つ紹介します。
主治医との相談と診断書の取得
復職を検討する際は、まず主治医と相談し、復職が可能かどうかの判断を仰ぐことが重要です。主治医は患者の症状や回復状況を把握しているため、適切な助言を得られます。復職可能と判断された場合は、復職に関する診断書を発行してもらいます。この診断書には、現在の症状、就労可能な程度、必要な配慮事項などが記載されます。
診断書は会社に提出する重要な書類であるため、記載内容を十分に確認し、必要に応じて主治医に詳細な説明を求めることも大切です。また、産業医がいる職場の場合は、産業医に主治医の診断書を見せて意見も聞くとよいでしょう。
段階的な復職プログラムの活用
多くの企業では、うつ病からの復職にあたって段階的な復職プログラムを用意しています。これは、いきなりフルタイム勤務に戻るのではなく、短時間勤務から始めて徐々に勤務時間を延ばしていく方法です。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、この方法が推奨されています。
典型的なプログラムでは、まず半日勤務から始め、1~2週間ごとに勤務時間を延ばしていきます。この間に産業医や人事部門と定期的に面談を行い、体調や業務遂行能力を確認しながら進めていきます。段階的な復職は、心身への負担を軽減しつつ、徐々に職場環境に慣れることができるため、再発のリスクを低減する効果があります。
職場との密なコミュニケーション
復職にあたっては、上司や人事部門との密なコミュニケーションが欠かせません。復職前に面談を行い、現在の体調や復職後の業務内容、必要な配慮事項などについて話し合うことが重要です。復職後も定期的に面談を行い、業務の遂行状況や体調の変化などを確認することをおすすめします。
コミュニケーションを取る際は、自分の状態を正直に伝えることが大切です。無理をして体調を崩すことのないよう、困ったことがあればすぐに相談できる関係性を築いておくことが重要です。職場の理解と協力を得るためにも、自分の状況や必要な配慮について、可能な範囲で同僚にも説明することを検討しましょう。
ストレスマネジメントと再発予防
うつ病からの復職後は、再発予防のためのストレスマネジメントが重要です。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、セルフケアの重要性が強調されています。具体的には、ストレス解消法を身につける、十分な睡眠と休養を取る、規則正しい生活リズムを維持するなどが挙げられます。
業務のペース配分にも注意が必要です。まず軽めの業務から始め、徐々に負荷を上げていくとよいでしょう。残業や休日出勤は極力避け、定時で帰宅することを心がけてください。また、定期的に主治医の診察を受け、体調の変化をモニタリングすることも大切です。些細な変化でも気になることがあれば、早めに相談することが再発防止につながります。
うつ病休職者への適切な対応で健康的な職場づくりを!
うつ病による休職は、労働者の回復と職場環境の整備の両面からアプローチすることが重要です。適切な休職期間の設定、休職中のサポート、段階的な復職プログラムの実施など、きめ細かい対応が求められます。
また、労働関連法規を遵守しつつ、労働者の個別の状況に応じた柔軟な対応を心がけることで、円滑な職場復帰と再発防止につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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